希少疾患への治療応用を目指した臍帯および臍帯血由来細胞の系統的資源化とその応用に関する研究

文献情報

文献番号
201324054A
報告書区分
総括
研究課題名
希少疾患への治療応用を目指した臍帯および臍帯血由来細胞の系統的資源化とその応用に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-016
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
長村 登紀子(井上 登紀子)(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 角田 肇(NTT東日本関東病院)
  • 幸道 秀樹(昭和大学医学部)
  • 東條 有伸(東京大学医科学研究所)
  • 森尾 友宏(東京医科歯科大学)
  • 松本 太郎(日本大学医学部)
  • 森田 育男(東京医科歯科大学)
  • 縣 秀樹(長崎大学大学院)
  • 海老原康博(東京大学医科学研究所)
  • 竹谷 健(島根大学医学部)
  • 長村 文孝(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
36,585,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、国内でドナーに負担のない方法で採取できる臍帯由来間葉系幹細胞(MSCs)を、骨髄に替わる国内初の系統的資源化(バンキング)・細胞製品化に向けて必要な技術基盤を確立するとともに、それを用いた希少・難治性疾患への臨床応用を目的として、基礎的研究を行った。
研究方法
(1) 系統的資源化:研究分担者 角田らはNTT東日本関東病院 帝王切開での分娩時に取り出した胎盤・臍帯から臍帯血及び臍帯を安全で効率的に採取について検討した。代表者長村(登)や研究分担者 幸道らはらは、臍帯血・臍帯由来MSCsのバンキングにおいて、分離培養・凍結方法の検討を行った。臍帯血は、HES静置法およびSEPAXの手順書を確立して、検査および調製を行った。 臍帯からのMSCsの効率的分離方法と臍帯組織の凍結について検討した。また、長村文らはとともに臍帯血・臍帯由来MSCsの製剤化における課題を明らかにする目的で医薬品医療機器総合機構(PMDA)にて薬事戦略相談(事前面談)を受けた。森尾らは原発性免疫不全症の診断と検体の資源化の体制を検討した。
(2) 基礎的研究:対象とする疾患または病態は①難治性疾患への造血幹細胞移植後の重症移植片対宿主病(GVHD)、②希少難治性疾患に対する臍帯血移植時の生着促進、③低フォスファターゼ症を含む骨軟骨形成不全症の治療、④脳性麻痺の原因ともなる脳室周囲白質軟化症である。東條らは臍帯由来MSCsの免疫抑制効果について検討し、松本らは、生着支持能を評価の一環として、臍帯由来MSCsによる造血幹細胞の支持能を検討した。骨・軟骨再生能の検討では、縣、竹谷らが骨分化の検討を行い、海老原らは、軟骨への分化の検討を行った。森田らは、脳室周囲白質軟化症ラットモデルを作成し、臍帯由来MSCsの治療効果を検討した。
結果と考察
(1) 系統的資源化;臍帯由来MSCsの製品化においては、平成25年度は従来のexplant法を改良し、細胞回収率の効率化とプロセス時間と培養期間の短縮を可能とした(特許出願)。また、臍帯組織ごと凍結・保存後に細胞を回収する技術を開発し(特許出願)、追跡調査と初期コスト削減が可能となり、よりバンキング化しやすい体制が整った。また、2次元コードシステムを採取施設から導入・運用した。現在、バンキングに関しては東大医科研病院内の審査委員会に申請中であり、臍帯由来MSCsの製剤化に向けて、PMDAの薬事戦略相談(事前面談)を受けた。今後は、対面助言・査察を受けるべく各課題に対して引き続き検討・準備することとした。特にプロセスにおいて、臍帯から十分なMSCsを我々が改良したexplant法によって比較的容易に分離可能であり、臍帯そのものの凍結保存が可能となったことで、大量製造が可能となる一方で、必要に応じて小限の検査のみでHLAのバラエティを追及することも可能である。また、これにより、自己および同種の臍帯の系統的資源化にも目途ができた。国際的には、研究代表者が事務を担っているAsiaCORDという組織において、アジア諸国と情報交換を行い、その応用を進めていく。
(2)基礎的研究;臍帯由来MSCsは骨髄由来MSCs同様のHLA非拘束性に免疫抑制能を有していることから、希少・難治性疾患に対する造血細胞移植後のGVHDに対する免疫抑制細胞療法として活用可能と考えられた。また、骨分化能の検討では、臍帯由来MSCsは、ロット差があるものの種々のサイトカイン等の添加にてAlp活性の上昇とマウス頭蓋骨への移植において類骨、皮質骨への分化を認め、in vivoでの分化が誘導できたことから骨代謝異常症等への応用も期待された。一方、軟骨は通常の培養法にて分化誘導された。また、臍帯由来MSCsによる造血幹細胞支持能が認められ、臍帯血移植と同時移植による生着促進効果について、マウスでの検証を行う予定である。脳性麻痺の原因ともなる脳室周囲白質軟化症の治療法の開発においては、妊娠ラットにLPS投与することにより、新生仔脳における炎症性サイトカインの上昇を伴うモデルラットの作成に成功し、MSC培養上清の投与により、炎症性サイトカインは減少し、脳室白質量は増加する傾向がみられた。今後はこれら動物疾患モデルを中心に、臍帯由来MSCsを用いた各疾患における非臨床試験を進める。
結論
我々が開発した臍帯由来MSCsはドナーへの肉体的負担もなく、安定供給が可能であることから、骨髄に代わる同種MSCsソースとなりうると考えられた。特に、希少・難治性疾患に対する造血細胞移植後のGVHDに対する免疫抑制細胞療法は早期の臨床応用が可能と思われた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201324054B
報告書区分
総合
研究課題名
希少疾患への治療応用を目指した臍帯および臍帯血由来細胞の系統的資源化とその応用に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-016
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
長村 登紀子(井上 登紀子)(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 角田 肇(NTT東日本関東病院)
  • 幸道 秀樹(献血供給事業団)
  • 東條 有伸(東京大学医科学研究所)
  • 森尾友宏(東京医科歯科大学)
  • 松本 太郎(日本大学医学部)
  • 麦島 秀雄(日本大学医学部)
  • 森田 育男(東京医科歯科大学)
  • 縣 秀樹(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 海老原 康博(東京大学医科学研究所)
  • 辻 浩一郎(東京大学医科学研究所)
  • 竹谷 健(島根大学医学部)
  • 長村 文孝(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では国内でドナーに負担のない方法で採取できる臍帯由来間葉系幹細胞(MSCs)を、骨髄に替わる国内初の新規細胞製品化とOff- the-shelfの供給体制を目指して必要な技術基盤を確立するとともに、それを用いた希少・難治性疾患への臨床応用を目的として、基礎的研究を行った。
研究方法
(1)系統的資源化:研究分担者角田らはNTT東日本関東病院 帝王切開での分娩時に取り出した胎盤・臍帯から臍帯血及び臍帯を安全で効率的に採取できるよう検討した。長村(登)や幸道らは臍帯血・臍帯由来MSCsのバンキングにおいて、分離培養・凍結方法および大量培養系の検討や品質試験項目の検討を行った。臍帯血は、HES静置法およびSEPAX法の調製・検査法を確立し手順書を作成した。また長村(文)らはとともに臍帯血・臍帯由来MSCsの製剤化における課題を明らかにする目的で医薬品医療機器総合機構(PMDA)にて薬事戦略相談(事前面談)を受けた。森尾らは原発性免疫不全症の診断と検体の資源化の体制を検討した。
(2)基礎的研究:対象とする疾患または病態は①難治性疾患への造血幹細胞移植後の重症移植片対宿主病(GVHD)、②希少難治性疾患に対する臍帯血移植時の生着促進、③低フォスファターゼ症を含む骨軟骨形成不全症の治療、④脳性麻痺の原因ともなる脳室周囲白質軟化症である。東條らは臍帯由来MSCsの免疫抑制効果とその機序について検討し、麦島・松本らは、生着支持能を評価の一環として、臍帯由来MSCsによる造血幹細胞の支持能を検討した。縣・竹谷らは、骨分化の検討を行い、辻・海老原らは、軟骨への分化の検討を行った。森田らは、脳室周囲白質軟化症ラットモデルを作成し、臍帯由来MSCsの治療効果を検討した。
結果と考察
(1)系統的資源化;臍帯由来MSCsの製品化においては、産婦人科での臍帯血・臍帯採取から東京大学医科学研究所(東大医科研細胞リソースセンター)での細胞調製・大量培養および凍結保管に至る一連の流れ、2次元コードラベルの導入、品質試験項目の決定を行い、手順書を作成した。なお、臍帯からのMSCsの分離において、従来のexplant法を改良し、細胞回収率の効率化とプロセス時間と培養期間の短縮を可能とした(特許出願)。この初期培養のMSCsをMaster細胞とし、さらに大量増幅したP3細胞をWorking細胞として、実験に供した。一方、臍帯組織ごと凍結・保存後に細胞を回収する技術を開発し(特許出願)、追跡調査と初期コスト削減が可能となり、よりバンキング化しやすい体制が整った。得られた臍帯由来MSCsは骨髄由来MSCs同様、CD73+CD105+ HLA-Class I+, HLA ClassⅡ- CD45-を呈している。現在、バンキングに関しては東大医科研病院内の審査委員会に申請中であり、臍帯由来MSCsの製剤化については、PMDAの薬事戦略相談(事前面談)を受けた。今後は、対面助言・査察を受けるべく各課題に対して引き続き検討・準備することとした。なお、国際的にはAsiaCORDという組織において、アジア諸国の臍帯血・臍帯バンク情報について相互交換し、その応用を加速させる。
(2)基礎的研究;臍帯由来MSCsは骨髄由来MSCs同様に、HLA非拘束性に免疫抑制能を有していることがわかり、希少・難治性疾患に対する造血細胞移植後のGVHDに対する免疫抑制細胞療法として活用可能と考えられた。また、骨分化能の検討では、臍帯由来MSCsは、ロット差があるもののサイトカイン等の添加にてAlp活性の上昇とマウス頭蓋骨への移植において類骨、皮質骨への分化を認めた。これらの結果より、臍帯由来MSCsは、in vitroでの骨分化誘導は難しいが、骨周囲に移植すれば自発的に骨分化する可能性が示唆された。一方、軟骨は通常の培養法にて分化誘導された。また、臍帯由来MSCsによる造血幹細胞支持能が認められ、臍帯血移植と同時移植による生着促進効果について、マウスでの検証を行う予定である。脳性麻痺の原因ともなる脳室周囲白質軟化症の治療法の開発においては、妊娠ラットにLPSを投与したモデルラットを用いて検討し、MSC培養上清の投与によって、炎症性サイトカインの減少と、脳室白質量の増加傾向がみられたが、今後さらに効率的投与方法を検討する。今後はこれら動物疾患モデルを中心に、臍帯由来MSCsを用いた各疾患における非臨床試験を進める。
結論
臍帯血・臍帯は、同時に採取でき臍帯由来MSCsは再生医療・免疫細胞療法のソースとして有用と考えられた。基礎研究ではさらなる非臨床試験が必要であるが、希少・難治性疾患に対する造血細胞移植後のGVHDに対する臍帯由来MSCsを用いた免疫抑制細胞療法は早期臨床応用が可能と思われた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201324054C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新しい間葉系幹細胞のソースとして胎児由来付属物である羊膜、胎盤、臍帯が研究されている。本研究対象の臍帯は、採取・分離が比較的容易で全て胎児由来からなる組織であり、臍帯組織自体の凍結も可能であり、解凍後も十分な間葉系幹細胞(MSC)が分離できたことは組織工学・凍結学的にも興味深い。また臍帯由来MSCは、HLA非拘束性に免疫抑制効果があること、軟骨形成能、骨環境における骨形成能および造血細胞支持能があることがわかり、今後さらに疾患モデル動物を利用した非臨床試験に進めることとしている。
臨床的観点からの成果
本研究が対象とする疾患・病態は ①難治性疾患への造血幹細胞移植後の重症移植片対宿主病(GVHD)、②希少難治性疾患に対する臍帯血移植時の生着促進、③低フォスファターゼ症を含む骨軟骨形成不全症の治療、④脳性麻痺の原因ともなる脳室周囲白質軟化症である。このうち、重症GVHDに対する臍帯由来MSCおよび新生児脳性麻痺に対する治療については、臍帯由来MSCを再生医療等製品として、PMDAと薬事戦略相談事前面談の後、2016年度の対面助言にて、規格について概ね合意に至っている。
ガイドライン等の開発
本研究におけるバンキングは、臨床用の臍帯血バンクの指針に準じた体制としている。しかし、血縁者間、自己保存(遺伝子治療用等)、病態解析のための疾患特異的臍帯血・臍帯採取等、幅広くバンキングを展開した場合には、採取に関するガイドラインが必要と考えている。
その他行政的観点からの成果
胎児由来附属物由来のMSC製剤化は、アクセサビリティーがよく、アジアや欧米で急速に進められてきている。本研究班では、臍帯血も含めた臍帯由来MSCの製剤化に向けて医薬品医療機器総合機構(PMDA)にて薬事戦略相談を受けるとともに、公的臍帯血バンク事業との区別について厚労省(臓器対策課)とも相談を進め、臍帯MSCのみでの活用を検討する方向となった。
その他のインパクト
胎児由来附属物由来のMSCの製品化は、アジアや欧米でも急速に進められてきている。また、疾患特異的臍帯由来MSCも集積しつつあり、それらを用いた難治性疾患病態解析や創薬に役立てたいと考える。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
64件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
48件
学会発表(国際学会等)
15件
その他成果(特許の出願)
3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
15件
シンポジウムの開催、講演等での発表や 患者、家族、患者会や一般市民への情報提供

特許

特許の名称
生体組織切断用抑え具
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第6213917号
発明者名: 長村 登紀子、森 有加、大志茂 純、中川栄一、村田 究、小山真太郎
権利者名: 国立大学法人東京大学 椿本チェイン
出願年月日: 20131002
国内外の別: 国内
特許の名称
培養組織剥離防止プレート
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第6202672号
発明者名: 長村 登紀子、森 有加、大志茂 純、中川栄一、村田 究、小山真太郎
権利者名: 国立大学法人東京大学 椿本チェイン
出願年月日: 20131004
国内外の別: 国内
特許の名称
臍帯組織の凍結保存方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2013-273536
発明者名: 長村 登紀子、森 有加、島津 貴久、佐瀬 孝一
権利者名: 国立大学法人東京大学 日本全薬工業
出願年月日: 20131227
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
He H. Nagamura-Inoue T., Tsunoda H., et al
Stage-Specific Embryonic Antigen 4 in Wharton’s Jelly-derived mesenchymal stem cells is not a marker for proliferation and multipotency.
Tissue Eng Part A , 20 , 1314-1324  (2014)
原著論文2
He H, Nagamura-Inoue T, Tsunoda H, Tojo A. et al
Immunosuppressive properties of Wharton's jelly-derived mesenchymal stromal cells in Vitro.
Int J Hematol , 102 , 368-378  (2015)
10.1007/s12185-015-1844-7
原著論文3
Shimazu T, Tsunoda H, Tojo A, Nagamura-Inoue T. et al
Serum- and Xeno-free Cryopreservation of Human umbilical cord tissue as mesenchymal stromal cell source.
Cytotherapy , 17 , 593-600  (2015)
10.1016/j.jcyt.2015.03.604.
原著論文4
Honda1 I, Taki A,hima N, Iseki S, Morio T, Kubota T, Morita I.
Mesenchymal stem cells ameliorate intra-amniotic inflammation-related neonatal complications in rats.
Inflammation and Regeneration , 35 , 261-268  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2018-06-25

収支報告書

文献番号
201324054Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
47,560,000円
(2)補助金確定額
47,560,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 21,394,109円
人件費・謝金 10,198,584円
旅費 2,836,046円
その他 2,156,351円
間接経費 10,975,000円
合計 47,560,090円

備考

備考
利息70円、自己資金20円

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-