文献情報
文献番号
201324051A
報告書区分
総括
研究課題名
原発性免疫不全症に対する造血幹細胞移植法の確立
課題番号
H24-難治等(難)-一般-013
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
野々山 恵章(防衛医科大学校 小児科学講座)
研究分担者(所属機関)
- 川口 裕之(防衛医科大学校 小児科学講座)
- 有賀 正(北海道大学 小児科学分野)
- 中畑 龍俊(京都大学iPS細胞研究所 臨床応用研究部門疾患再現研究分野)
- 小原 收(公益財団法人かずさDNA研究所 ヒトゲノム研究部)
- 小島 勢二(名古屋大学 小児科)
- 原 寿郎(九州大学 成長発達医学分野小児科)
- 小林 正夫(広島大学 小児科)
- 今井 耕輔(東京医科歯科大学 小児・周産期地域医療学講座)
- 森尾 友宏(東京医科歯科大学 発達病態学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
65,520,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
原発性免疫不全症の至適造血幹細胞移植法を確立し、根治を目指すことを目的とした。
研究方法
1.これまでの移植データ収集と解析、2.原発性免疫不全症の造血幹細胞移植の問題点の解明と暫定推奨案の作成、3.免疫系再構築およびキメリズム解析、4.データ解析、5.iPS細胞および遺伝子治療を活用した新規移植法の基盤整備
結果と考察
結果
1.移植データ収集と問題点の解析
これまでに行われた原発性免疫不全症に対する移植データを原発性免疫不全症班会議による全数調査、日本造血細胞移植学会登録事業であるTRUMP、原発性免疫不全症の中央診断登録システムPIDJの3つのデータベースを用いて収集した。また、移植後経過をより的確に解析するため、PIDJについて、患者情報がPIDJに統一的に入力されるようバージョンアップした。
2.各疾患ごとの移植データ収集と解析
a) 重症複合免疫不全症(SCID)140例153回の造血幹細胞移植に関するデータを収集した。骨髄非破壊的前処置で生着し、免疫系の再構築が起きる事、本邦では非血縁臍帯血移植の成績が、感染を起こす前の早期に移植した場合91.3%の無病生存と良好である事が判明した。また移植時の感染症の有無で生存率が異なり、感染症がないと91.3%と良いが、感染症があると生存率が50%と有意に低下することが示された。
b) CD40L遺伝子異常を伴う伴性劣性高IgM症候群の国内症例56例49家系を解析した。
27例が移植しておらず、10歳までの生存率は68%であるが、40歳での生存率は28%と不良であり、造血幹細胞移植の適応であると考えられた。一方、移植を行った例29例では30年生存率は65.9%と良好であった。5歳未満の移植例13例では移植後10年の無病生存率78.6%と5歳以上での移植例16例の移植10年の無病生存率40%と比べ良好であり、早期移植が望ましいと考えられた。
c) Wiskott-Aldrich症候群(WAS)に対する日本の全造血細胞移植について、日本造血細胞移植学会のTRUMPデータ全データを取得した。Wiskott-Aldrich症候群では移植後自己免疫疾患を発症する例が多く、特に前処置に骨髄非破壊的処置を用いた場合に多いことが判明した。また、移植後にドナーとレシピエントの混合キメラになる事が他疾患に比較して多いこと、拒絶される症例も多いことが判明した。
d) 慢性肉芽腫症 (CGD)では拒絶およびアスペルギルス感染が大きな問題であることが明らかになった。至適移植方法、時期、移植までの管理法などについての指針概要を作製した。
e) 慢性好中球減少症46症例のデータを全国から収集した。76%がELANE変異、12%がHAX1変異であった。16例で造血幹細胞移植が行われ、15例が無病生存している。骨髄異形成症候群(MDS)/急性骨髄性白血病(AML) に移行した4例では、1例がGVHDで死亡したが、3例は無病生存している。早期移植が、欧米と比較して低いMDS/AML発症率につながっている可能性が示された。
f) X連鎖リンパ増殖症候群 (XLP) では、XLP1については12例中11例が生存していること、XLP2 については19例中7例が生存していることが明らかになった。早期診断によるEBウイルスの管理が重要であり、治療による毒性の少ない骨髄非破壊的前処置 (RIC) を行なうのが望ましいと考えられた。
3.暫定造血幹細胞移植推奨案作成
重症複合型免疫不全症、X連鎖高IgM症候群、Wiskott-Aldrich症候群、X連鎖血小板減少症、重症先天性好中球減少症、X連鎖リンパ増殖症、慢性肉芽腫症に対する暫定造血幹細胞移植推奨案を疾患ごとに作成した。多施設共同前方視野的研究に展開する。
4. iPS細胞からの分化系を用いた移植方法改善の試み
iPS細胞からの血球分化系として、平面培養で3系統(赤血球・白血球・血小板)を誘導する方法を開発し、原発性免疫不全症の疾患特異的な表現型の解析を開始した。
考察
原発性免疫不全症は、造血幹細胞移植により根治できる。しかし、移植時に感染症を併発している事が多く、解決すべき問題点が多い。今回得られた成果をもとにして、移植法の問題点を解決し至適移植法を確立すれば、他疾患の造血幹細胞移植、さらに移植治療全体に応用できるため意義深い。
1.移植データ収集と問題点の解析
これまでに行われた原発性免疫不全症に対する移植データを原発性免疫不全症班会議による全数調査、日本造血細胞移植学会登録事業であるTRUMP、原発性免疫不全症の中央診断登録システムPIDJの3つのデータベースを用いて収集した。また、移植後経過をより的確に解析するため、PIDJについて、患者情報がPIDJに統一的に入力されるようバージョンアップした。
2.各疾患ごとの移植データ収集と解析
a) 重症複合免疫不全症(SCID)140例153回の造血幹細胞移植に関するデータを収集した。骨髄非破壊的前処置で生着し、免疫系の再構築が起きる事、本邦では非血縁臍帯血移植の成績が、感染を起こす前の早期に移植した場合91.3%の無病生存と良好である事が判明した。また移植時の感染症の有無で生存率が異なり、感染症がないと91.3%と良いが、感染症があると生存率が50%と有意に低下することが示された。
b) CD40L遺伝子異常を伴う伴性劣性高IgM症候群の国内症例56例49家系を解析した。
27例が移植しておらず、10歳までの生存率は68%であるが、40歳での生存率は28%と不良であり、造血幹細胞移植の適応であると考えられた。一方、移植を行った例29例では30年生存率は65.9%と良好であった。5歳未満の移植例13例では移植後10年の無病生存率78.6%と5歳以上での移植例16例の移植10年の無病生存率40%と比べ良好であり、早期移植が望ましいと考えられた。
c) Wiskott-Aldrich症候群(WAS)に対する日本の全造血細胞移植について、日本造血細胞移植学会のTRUMPデータ全データを取得した。Wiskott-Aldrich症候群では移植後自己免疫疾患を発症する例が多く、特に前処置に骨髄非破壊的処置を用いた場合に多いことが判明した。また、移植後にドナーとレシピエントの混合キメラになる事が他疾患に比較して多いこと、拒絶される症例も多いことが判明した。
d) 慢性肉芽腫症 (CGD)では拒絶およびアスペルギルス感染が大きな問題であることが明らかになった。至適移植方法、時期、移植までの管理法などについての指針概要を作製した。
e) 慢性好中球減少症46症例のデータを全国から収集した。76%がELANE変異、12%がHAX1変異であった。16例で造血幹細胞移植が行われ、15例が無病生存している。骨髄異形成症候群(MDS)/急性骨髄性白血病(AML) に移行した4例では、1例がGVHDで死亡したが、3例は無病生存している。早期移植が、欧米と比較して低いMDS/AML発症率につながっている可能性が示された。
f) X連鎖リンパ増殖症候群 (XLP) では、XLP1については12例中11例が生存していること、XLP2 については19例中7例が生存していることが明らかになった。早期診断によるEBウイルスの管理が重要であり、治療による毒性の少ない骨髄非破壊的前処置 (RIC) を行なうのが望ましいと考えられた。
3.暫定造血幹細胞移植推奨案作成
重症複合型免疫不全症、X連鎖高IgM症候群、Wiskott-Aldrich症候群、X連鎖血小板減少症、重症先天性好中球減少症、X連鎖リンパ増殖症、慢性肉芽腫症に対する暫定造血幹細胞移植推奨案を疾患ごとに作成した。多施設共同前方視野的研究に展開する。
4. iPS細胞からの分化系を用いた移植方法改善の試み
iPS細胞からの血球分化系として、平面培養で3系統(赤血球・白血球・血小板)を誘導する方法を開発し、原発性免疫不全症の疾患特異的な表現型の解析を開始した。
考察
原発性免疫不全症は、造血幹細胞移植により根治できる。しかし、移植時に感染症を併発している事が多く、解決すべき問題点が多い。今回得られた成果をもとにして、移植法の問題点を解決し至適移植法を確立すれば、他疾患の造血幹細胞移植、さらに移植治療全体に応用できるため意義深い。
結論
免疫不全症班会議の全数調査、日本造血細胞移植学会登録 (TRUMP)、PIDJの3つのデータベースから原発性免疫不全症に対する移植データを収集し、問題点を明らかにした。移植法の推奨案を作成できた。また、iPS細胞の利用、遺伝子治療の基礎データを得た。新規移植法の開発に応用できると考えられた。
公開日・更新日
公開日
2015-06-30
更新日
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