Syndrome X(耐糖能異常、高血圧、高脂血症)の成因と予後に関するコーホート研究

文献情報

文献番号
199800267A
報告書区分
総括
研究課題名
Syndrome X(耐糖能異常、高血圧、高脂血症)の成因と予後に関するコーホート研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小泉 昭夫(秋田大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昨年に引き続き生活習慣病の根幹をなすSyndrome X について疫学的・実験的手法を用い、生活習慣等の要因、遺伝的要因、社会的要因を総合的に解析した。特に今年度は、遺伝要因のうち、糖尿病モデル動物を用いた疾病発生メカニズム解明の研究と、劣性疾患ヘテロ保因者の加齢にともなう健康リスクを明らかにするための研究に重点を置いた。
研究方法
1. 動物モデルを用いた糖尿病の新たなメカニズムの解明: 我々が開発したAkita mouseを用い、その糖尿病の臨床的特徴、膵のインスリン含有量および分泌能、膵ラ氏島細胞の病理学的所見、合併症を明らかにした。連鎖解析により明らかとなった責任遺伝子座付近の候補遺伝子の検索を行った。その結果明らかとなった遺伝子の変異と形態学的、機能的知見から、糖尿病発症の分子レベルのメカニズムを考察した。
2. 全身性カルニチン欠乏症の責任遺伝子OCTN2の発見とへテロキャリアの遺伝疫学: 全身性カルニチン欠乏症の家系から得たDNAを用い、連鎖解析により責任遺伝子座を決めた。それを元に責任遺伝子OCTN2をクローニングした。そしてその遺伝子の機能解析を行った。さらにへテロ保因者の疫学調査をA市、N市で行った。
3. Lysinurin protein intolerance(LPI) のへテロキャリアについての遺伝疫学: 本疾患多発地域内のへテロ個体の検出を行った。すなわち末梢血からDNAを抽出し、Finland の家系で連鎖が報告されている14番染色体長腕の8つのmicrosatellite markers を用いてタイピングを行った。これを元に連鎖解析および、Haplotype analysisを行った。岩手、秋田両県の患者2名とその家系の計54名を対象とした。発端者の年齢は2歳から27歳である。
4. Wolfram Syndrome へテロ保因者の健康リスク: N市における大家系の疫学調査を行い、さらに地域の一般住民におけるヘテロ保因者の頻度をもとめるため、住民健診の場で血液を提供してもらい、最近発見されたWFS1遺伝子の変異を検出した。
5. 障害高齢者の膝関節屈曲拘縮予防のための自己ストレッチング法の効果:膝関節屈曲拘縮予防のための2種類の自己ストレッチング法、すなわちハムストリングストレッチング群12名と膝関節伸展ストレッチング群12名に分け、その効果について検討した。
結果と考察
1. 動物モデルを用いた糖尿病の新たなメカニズムの発見: 我々が開発したAkita mouseを用い、その遺伝的機構を解明した。そのメカニズムは、insulinの構造異常を契機としinsulinのpost translational な障害のため、Endoplasmic reticulum の機能異常を来すものであった。その結果、多くのpost translational modification を受ける蛋白群のプロセッシングがうまく行かなくなるため、β細胞の機能低下をおこすものであった。このメカニズムは、蛋白のFolding 異常による疾病の発生という新しいメカニズムを証明したものであり、加齢による糖尿病の増加を一部説明しうる可能性を持っている。
2. 全身性カルニチン欠乏症の責任遺伝子OCTN2の発見とへテロキャリアの遺伝疫学: 責任遺伝子OCTN2をクローニングし、その遺伝子の機能解析を行った結果、このカルニチンの輸送担体が血中および標的臓器内部の濃度を決定しており、その遺伝子異常がホモ状態で全身性カルニチン欠乏症をおこす事を見い出した。さらにへテロ保因者の疫学調査をA市、N市で行ないつつある。
3. Lysinurin protein intolerance(LPI) のへテロキャリアについての遺伝疫学: LPIは2塩基アミノ酸輸送の異常であり、劣性遺伝形式をとり発症する。へテロ個体においても加齢と相乗的に健康リスクを増加する可能性が考えられる。我々は、へテロ個体の検出方法を確立し、本疾患多発地域内の存在頻度を推定した。その結果、患児は7287出生に1名、ヘテロ保因者は43名に1名の頻度と推定された。今後の、ヘテロ保因者に関する健康リスク評価への足掛りを築くことが出来た。
4. Wolfram Syndrome へテロ保因者の健康リスク: Wolfram Syndrome は、常染色体劣性遺伝疾患であり、ホモ個体では、糖尿病、難聴、尿崩症、視神経萎縮を若年から発症する。N市における大家系の疫学調査を行い、へテロ保因者では加齢により糖尿病、難聴を発生するリスクが高くなることを見い出した。現在、地域におけるヘテロ保因者の頻度を検討中である。
5. 障害高齢者の膝関節屈曲拘縮予防のための自己ストレッチング法の効果の検証: 2種類の自己ストレッチング法の効果を検討した結果、ハムストリングストレッチングに比して膝関節伸展ストレッチングの方がより優れていることが明らかとなった。
結論
我々は、動物及びヒトの疫学調査から以下の2点を明らかにした。
1)劣性疾患のへテロ保因者は、加齢により健康リスクを有すること。
2)Gain-of-Function mutationでは、蛋白の高次構造の異常により細胞機能不全を来す事の証明。
通常、常染色体劣性遺伝疾患は、何らかの責任遺伝子の突然変異を伴う。これら突然変異の異常は、生理的予備能の低下を引き起こすものと我々は考えていえる。そのため、加齢という生理的予備能の低下した場合、標的臓器の機能不全を生じ、疾病へと結び付き、Wolfram syndrome で認められた加齢により難聴、糖尿病が増加したものと考えられる。また、生理的予備能の低下の分子的機序として、我々のモデルマウスで証明されたように、突然変異による蛋白の高次構造の変化による細胞へのストレス、 Endoplasmic reticulum stress (ER stress ) を与えると考えている。
さらにSyndrome Xの結果である障害高齢者の社会復帰のため、老人保健施設等でも膝関節伸展ストレッチングを通常の訓練プログラムに加えることが重要であることを明らかにした。

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