文献情報
文献番号
201324017A
報告書区分
総括
研究課題名
運動失調症の病態解明と治療法開発に関する研究
課題番号
H23-難治-一般-014
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 秀直(北海道大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
- 宇川 義一(福島県立医科大学 医学部)
- 岡澤 均(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
- 小野寺 理(新潟大学 脳研究所生命科学リソース研究センター)
- 吉良 潤一(九州大学 大学院医学研究院)
- 佐々木 真理(岩手医科大学 医歯薬総合研究所)
- 祖父江 元(名古屋大学 大学院医学系研究科)
- 高嶋 博(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
- 瀧山 嘉久(山梨大学 医学工学総合研究部)
- 武田 篤(東北大学 大学院医学系研究科)
- 田中 真樹(北海道大学 大学院医学研究科)
- 辻 省次(東京大学 医学部附属病院)
- 永井 義隆(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)
- 中島 健二(鳥取大学 医学部医学科)
- 中村 和裕(群馬大学 大学院医学系研究科)
- 西澤 正豊(新潟大学 脳研究所)
- 貫名 信行(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
- 水澤 英洋(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
- 宮井 一郎(大道会森之宮病院 神経リハビリテーション研究部)
- 吉田 邦広(信州大学 医学部)
- 若林 孝一(弘前大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
44,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
多系統萎縮症(MSA)と脊髄小脳変性症について、病因究明、病態機序解明、創薬候補の探索、重症度・治療評価系の開発を目指す。
研究方法
①病因究明:患者、対照群、罹患家系より生体試料を収集し素因遺伝子や病原性変異を解明する。②病態機序・創薬候補:poly-Q病、SCA31など頻度の高い疾患について分子病態機序、モデル動物作成、治療標的分子の探索、治療法開発の可能性を検討する。③調査研究:SCA6とジョセフ病(MJD)の自然歴調査を継続する。皮質性小脳萎縮症(CCA)と臨床診断されている一群の実態調査を行う。MSAの病理所見と症候を対比検討し、診断基準の妥当性を検証する。特定疾患データをもとにMSAの疫学調査を行う。④重症度・治療評価系:MSAの早期診断と進行度の指標となる画像マーカー、分子マーカー、生理検査マーカーの開発に取り組む。⑤リハビリテーション:入院による短期集中リハビリテーション(リハ)と在宅リハ指導パンフレットの効果を検証する。
結果と考察
1)調査研究:①MSA剖検例には中枢の自律神経系に病変が限局した例の在ることを明らかにした。②北海道における特定疾患MSA申請例の疫学調査により、患者の概容を明らかにした。③MSA患者について既存の運動失調重症度指標の比較では、UMSARS,SARA,Berg Balance Scalesが症状変化を鋭敏に反映することを明らかにした。④ジョセフ病(MJD)とSCA6について、5年間の前向き自然歴調査を終了した。SCA31の前向き自然歴調査を開始した。⑤CCAと臨床診断された一群にはMSA、遺伝性脊髄小脳変性症、免疫介在性小脳萎縮症などが含まれていた。⑥家族性痙性対麻痺(SPG)の診断基準案を作成した。2)遺伝子解析:①MSA素因遺伝子としてCOQ2遺伝子のV343A変異を同定した。②SCA36の起因変異、臨床と病理所見を明らかにした。③性腺機能異常と網脈絡膜変性症を伴う小脳失調症の候補遺伝子を同定した。④JASPAC収集検体において常染色体劣性遺伝が疑われたSPG88症例のエクソーム解析では、劣性遺伝性SPG27例、優性遺伝性SPG5例、残りは起因変異不明であった。3)MSAに特徴的なMRI画像所見に起立性低血圧と神経因性膀胱の評価を組み合わせることで、早期例の鑑別診断精度が向上することを示した。新しいMRI撮像法RESOLVE、拡散尖度画像(DKI)、自動ROI解析法(QSM)は運動失調症の鑑別診断に有効であった。4)リズム形成、上肢運動機能、プリズム眼鏡装着によるプリズム順応、心理物理検査について課題を開発した。いずれも症候学による運動失調重症度スコアと有意な相関を示した。5)MSA-Cでは髄液中炎症性サイトカインレベルが初期に上昇し、進行に伴い低下することを示した。6)分子病態機序と治療シーズ開発:①MSAではユビキチン化蛋白を識別して輸送する小胞内輸送システムのマスターレギュレーターESCRT複合体の異常がαシヌクレイン(SNCA)の蓄積を誘発することを明らかにした。②TPPP/p25αとリン酸化SNCAの局在を免疫染色で検討した。正常オリゴではTPPP/p25αは細胞質、核、ミトコンドリア外膜に局在していた。MSAのGCI陽性オリゴではこの核内局在が消失し、その現象はSNCA蓄積に先行して生じること、GCIにはTPPP/p25αと共にミトコンドリアマーカーも凝集することを明らかにした。③poly-Q核内封入体にはSigma-1 receptor (SIGMAR1)が結合する。同じく封入体結合タンパク質p62ではS403のリン酸化が選択的オートファジーを促進することから、このオートファジー系制御が標的分子候補となることを示した。④poly-Q病における神経機能障害の根底に発達期のシナプス成熟障害が寄与する可能性を示した。⑤SCA1モデル動物を用いて間葉系幹細胞治療を検討した。⑥創薬候補化合物のスクリーニング系としてpoly-Q病モデル線虫を開発した。⑦poly-Q病の共通病態にVCP機能低下とDNA損傷修復病態のあること、SCA1の治療法としてHMGB1が標的分子となることを明らかにした。⑧SCA13では変異Kv3チャネルの機能低下が神経細胞の過剰興奮をきたし、細胞内Ca濃度上昇が細胞死を誘発することを明らかにした。7)入院短期集中リハの反復は運動失調や歩行への効果は小さいがADL維持には有効であること、機能維持には集中リハと在宅リハの有機的連動が有効である。
結論
素因遺伝子、新規病原性変異、分子病態機構、疾患モデルと創薬標的分子の探索、poly-Q病の治療薬候補スクリーニング系の開発、運動失調の定量的評価系いずれにも先駆的成果を上げた。
公開日・更新日
公開日
2014-07-23
更新日
2015-06-30