小児期の食物アレルギーの新しい診断法・管理法の確立と治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201322021A
報告書区分
総括
研究課題名
小児期の食物アレルギーの新しい診断法・管理法の確立と治療法の開発に関する研究
課題番号
H24-難治等(免)-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
海老澤 元宏(相模原病院 臨床研究センター アレルギー性疾患研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 直実(岐阜大学)
  • 宇理須 厚雄(藤田保健衛生大学 坂文種報徳會病院 小児科)
  • 伊藤 浩明(あいち小児保健医療総合センター 内科)
  • 今井 孝成(昭和大学医学部 小児科)
  • 玉利 真由美(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
  • 松本 健治(国立成育医療研究センター研究所 免疫アレルギー研究部)
  • 丸山 伸之(京都大学大学院 農学研究科)
  • 藤澤 隆夫(国立病院機構三重病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
26,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児の食物アレルギーの約9割は1歳未満に発症し、乳児の有病率は約10%弱、幼児は約5%、学童は約2%に収斂する。小児の食物アレルギーは患者数も成人に比べ圧倒的に多く、保護者の養育不安等の生活の質の悪化を招き、健全な発達や社会生活の障害にもなる。小児の食物アレルギーの発症を抑え、アナフィラキシー(An)への進展等の重症化を防ぎ、自然寛解を加速させる対応が求められている。本研究班では“小児期の食物アレルギーの新しい診断法・管理法の確立と治療法の開発”を行うことを目的とし、3年間で診断と治療に関する多施設共同研究も実施する。
研究方法
小児期の食物アレルギーの新しい診断法・管理法の確立と治療法の開発を目指し、経口免疫療法(Oral Immunotherapy: OIT)の開発研究、遺伝子レベルでの解析、アレルゲンコンポーネントの解析、食物アレルギー症状の誘発症状の評価システム開発、免疫学的改変食品や低アレルゲン化食品による治療法の研究を行った。今年度から多施設での急速経口免疫療法(鶏卵・牛乳)を主導してきたグループにも分担研究者として加わってもらい、経口免疫療法の今後の方向性に関してデータを付き合わせ検証する。
結果と考察
食物アレルギーの管理への新たな試みとして前研究班から継続検討しているOITにより患者の多くは脱感作状態(連日経口摂取していれば無症状)に誘導できるが、その安全性と有効性に関しては長期にわたる検証が必須である。H25年度までに相模原病院単独でアナフィラキシーを呈する327名(急速法:鶏卵87、牛乳119、小麦44、ピーナッツ31、少量導入法:鶏卵13、牛乳15、小麦9、ピーナッツ9)にOITを実施し長期経過をフォロー中である。今年度から鶏卵と牛乳の急速法の国内多施設研究(藤澤分担研究者)も当研究班に加わった。いずれのデータでも摂取出来ていれば脱感作状態に大多数の症例で到達していたが、牛乳では副作用の頻度が高く、1~2年での耐性化率は高いとは言えなかった。OITのメカニズムの検討では2週間摂取を中断しての確認試験やメディエーターの測定結果等よりマスト細胞・好塩基球の脱感作機構と制御性T細胞の誘導に伴う液性因子の変化(IgE抗体の低下とIgG4抗体の上昇)が主と考えられた。重症例(特に牛乳)に対するアナフィラキシー対策として短期間に目標量まで到達させる急速OITは患者に摂取や副作用の負担がかかり将来のOITの選択肢とは考え難いので、相模原病院では急速法の問題点を改良した少量導入法を開始し、藤澤らは経皮免疫療法に関する検討も動物実験からディバイスを開発しヒトにおいて検討予定である。少量導入法(目標量設定を下げ、加熱卵3/128個、牛乳3ml、小麦(うどん換算)2g、ピーナッツ0.5g)の26名(鶏卵6、牛乳12、小麦3、ピーナッツ5)のエントリーを終了し経過観察中であるが、急速法に比較して安全性とコンプライアンスが著しく改善した。中等症以下の症例に対し有効で安全なOIT手技を検証する為に外来で実施する緩徐OIT(対象3歳以上、鶏卵・牛乳・小麦、目標量設定100%・25%の2群)の多施設検討(全国9施設)では、OIT群96名(鶏卵48、牛乳25、小麦23)、無介入群9名(鶏卵6、牛乳2、小麦1)をエントリーした。次年度には結果の概要を報告可能と考えている。OITとの境界を明らかにすることが難しいが、食物経口負荷試験後の食事指導で摂取量を安全に増やせることも示された。免疫学的修飾(乳カゼイン)・アレルゲン性低減食品(鶏卵・乳・魚)を用いたOITも進行中で、遺伝的背景を理研との共同研究にてGWASにより発症リスク、重症化リスクの遺伝子多型(IL13等)を解析中である。アレルゲンコンポーネントを利用した新規診断技術の開発も多施設共同研究でゴマとソバに関して優れたコンポーネントが見つかったので、実用化に向けて分子を大量発現し測定系を確立する予定である。
結論
食物アレルギーの初期対応、管理、診断、治療に関する各分担研究は2年目も予定通り研究成果を得ることができた。多施設共同研究(緩徐OIT・アレルゲンコンポーネントを用いた新規診断法)に関しても症例のエントリーは終了し結果が出始めている。最終年度に研究成果を取り込み“食物アレルギーの診療の手引き2014”として改訂し情報発信することに向けて研究班全体で協力し取り組んでいきたい。

公開日・更新日

公開日
2014-08-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201322021Z