文献情報
文献番号
201320013A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎ウイルスの増殖制御機構解明と創薬開発のための分子基盤
課題番号
H24-肝炎-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 哲朗(浜松医科大学 医学部医学科感染症学講座)
研究分担者(所属機関)
- 加藤 宣之(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
- 松浦 善治(大阪大学 微生物病研究所)
- 森石 恆司(山梨大学 大学院医学工学総合研究部医学学域)
- 勝二 郁夫(神戸大学 大学院医学研究科)
- 有海 康雄(熊本大学 エイズ学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
本年度より、研究分担者として、有海康雄博士(熊本大学)が加わり、HCVのライフサイクルの制御、病原性発現に重要なウイルスー宿主相互作用解析の進展に大きく寄与した。
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究グループのこれまでのHCV研究の成果を基盤とし、保有する実験ツール、解析手法を最大限に活用して創薬のための分子基盤の確立に資する研究を推進する。C型肝炎ウイルス(HCV)生活環制御、病態発現の分子機構の解明を進め、得られた知見を基に阻害剤スクリーニング系を構築する。また、肝炎ウイルス研究、阻害剤開発に有用な新たな感染増殖細胞系を作出する。研究成果は、創薬開発、肝がんを含めた慢性肝疾患の治療戦略に資することが期待される。
研究方法
HCV及びその遺伝子として、JFH-1株、0株及びCon1株を用いた。HCV感染、遺伝子発現にはヒト肝がん細胞株Huh-7, Huh7.5, Huh7.5.1またOR6、ORL8を用いた。
結果と考察
本年度は主として以下の成果を得た。
1) 次世代シークエンサーを利用してHCV粒子には、全長または全長に近いHCV遺伝子が選択的にパッケージングされる可能性が示された。また、トランスパッケージングシステムを利用してHCVのパッケージングシグナル同定を試みた。3’UTRの3’X領域に存在する三ヶ所のstem-loop領域のうち3’末端側二ヶ所がHCVゲノムパッケージングに重要であることが示された。
2) 粒子形成に重要なNS5Aリン酸化に関わるプロテインキナーゼを網羅的に探索した。その結果、NS5Aの高リン酸化に働き感染性粒子産生に最も大きく影響するキナーゼとしてCK1alphaを同定した。HCV粒子産生におけるCK1alphaの作用機序の解析を進めるとともにキナーゼ阻害剤によるHCV産生阻害を評価する予定である。
3) 遺伝子型1b HCV株の培養細胞レベルでの増殖系の開発を試みた。ヒト不死化肝細胞などにHCV感染やRNA複製に必要な宿主因子を過剰発現させてHCVの感染実験を行った。低レベルだがHCV複製増殖を観察した。
4) 経口のヒト抗マラリア薬として開発中のN-89とその誘導体N-251に強い抗HCV活性を見出した。両化合物はリバビリンと相乗的抗HCV効果を示し治験準備を開始した。健康補助食品として市販されているサナギタケカプセル剤に抗HCV活性を見出した。その活性の有効成分がCordycepinであることが分かった。
5)脱ユビキチン化酵素のUSP15とUSP20がHCV複製を制御することを見出した。USP15やUSP20のノックダウン細胞では顕著にHCV複製が抑制された。USP15がない肝癌細胞株では脂肪滴が顕著に減少し、過剰発現させると脂肪滴形成が亢進した。NS5A修飾に働くユビキチンリガーゼ、脱ユビキチン化酵素OTUD7Bを見出した。OTUD7Bの脱ユビキチン化酵素活性の促進を介してNFκB経路を抑制する可能性が示された。
6) HCV複製を調節する新規因子としてDDX5、DDX21、INI1/hSNF5、Staufen 1、UPF1を同定した。また、NS5Aに結合するFKBP6の阻害剤DM-CHXは、FKBP6のホモ多量体形成を阻害し、FKBP8とのヘテロ多量体形成も阻害した。
1) 次世代シークエンサーを利用してHCV粒子には、全長または全長に近いHCV遺伝子が選択的にパッケージングされる可能性が示された。また、トランスパッケージングシステムを利用してHCVのパッケージングシグナル同定を試みた。3’UTRの3’X領域に存在する三ヶ所のstem-loop領域のうち3’末端側二ヶ所がHCVゲノムパッケージングに重要であることが示された。
2) 粒子形成に重要なNS5Aリン酸化に関わるプロテインキナーゼを網羅的に探索した。その結果、NS5Aの高リン酸化に働き感染性粒子産生に最も大きく影響するキナーゼとしてCK1alphaを同定した。HCV粒子産生におけるCK1alphaの作用機序の解析を進めるとともにキナーゼ阻害剤によるHCV産生阻害を評価する予定である。
3) 遺伝子型1b HCV株の培養細胞レベルでの増殖系の開発を試みた。ヒト不死化肝細胞などにHCV感染やRNA複製に必要な宿主因子を過剰発現させてHCVの感染実験を行った。低レベルだがHCV複製増殖を観察した。
4) 経口のヒト抗マラリア薬として開発中のN-89とその誘導体N-251に強い抗HCV活性を見出した。両化合物はリバビリンと相乗的抗HCV効果を示し治験準備を開始した。健康補助食品として市販されているサナギタケカプセル剤に抗HCV活性を見出した。その活性の有効成分がCordycepinであることが分かった。
5)脱ユビキチン化酵素のUSP15とUSP20がHCV複製を制御することを見出した。USP15やUSP20のノックダウン細胞では顕著にHCV複製が抑制された。USP15がない肝癌細胞株では脂肪滴が顕著に減少し、過剰発現させると脂肪滴形成が亢進した。NS5A修飾に働くユビキチンリガーゼ、脱ユビキチン化酵素OTUD7Bを見出した。OTUD7Bの脱ユビキチン化酵素活性の促進を介してNFκB経路を抑制する可能性が示された。
6) HCV複製を調節する新規因子としてDDX5、DDX21、INI1/hSNF5、Staufen 1、UPF1を同定した。また、NS5Aに結合するFKBP6の阻害剤DM-CHXは、FKBP6のホモ多量体形成を阻害し、FKBP8とのヘテロ多量体形成も阻害した。
結論
本研究グループが保有する実験ツール、解析手法を最大限に活用して創薬のための分子基盤の確立に資する研究を推進した。N-251は第一相試験に向けた準備に入った。HCVゲノムパッケージングシグナルの同定など粒子形成機構解明に大きな進展があった。また、感染増殖細胞系の開発と阻害剤の探索、HCV複製制御機構の解析などに新たな知見を得た。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
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