文献情報
文献番号
201320012A
報告書区分
総括
研究課題名
B型肝炎ウイルスe抗体陽性無症候性キャリアの長期予後に関する検討
課題番号
H24-肝炎-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
横須賀 收(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
- 白澤 浩(千葉大学 大学院医学研究院)
- 髭 修平(JA北海道厚生連 札幌厚生病院)
- 上野 義之(山形大学 医学部)
- 岡本 宏明(自治医科大学 医学部)
- 田中 榮司(信州大学 医学部)
- 新海 登(名古屋市立大学 大学院医学研究科)
- 柘植 雅貴(広島大学 自然科学研究支援開発センター)
- 吉岡 健太郎(藤田保健衛生大学)
- 八橋 弘(長崎医療センター 臨床研究センター)
- 井戸 章雄(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
- 阿部 雅則(愛媛大学 大学院医学系研究科)
- 佐田 通夫(久留米大学 医学部)
- 中本 安成(福井大学 医学部)
- 西口 修平(兵庫医科大学 )
- 泉 並木(武蔵野赤十字病院)
- 今関 文夫(千葉大学 総合安全衛生管理機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
以前にはHBeAg陽性慢性肝炎患者からHBeAb陽性慢性肝炎に移行し、さらに無症候性キャリアになると考えられていたが、近年、落ち着いたHBeAb 陽性無症候性キャリアの状態から再度活動性を有するHBeAb慢性肝炎に再燃する症例があることが欧米では報告されているが、本邦における実態は明らかでない。臨床データをもとに、HBe抗体陽性、肝機能正常例における肝炎の再燃、発癌のリスクを明らかにする。また、本年度、日本肝臓学会ガイドラインで、HBeAg陰性非活動性キャリアの定義がなされた。この定義に基づいた評価がすすめられているが、提唱されたガイドラインの正当性や有効性を初めて検証する研究となる。
研究方法
本研究の目的達成のために、臨床研究と基礎研究を行う。臨床研究は、HBeAb陽性のHBVキャリアの詳細な検討を行うために、(1)後向き検討と(2)前向き検討を行った。基礎研究を担当する分担研究者には、無症候性キャリア成立に関するウイルス側因子の基礎的検討を依頼した。 (1) 1991年から2011年までに通院歴があり、期間中のいずれかにおいて、HBeAb陽性かつ2年間連続してALT30 IU/L以下の症例であった症例を後向き研究として全国14施設から836症例のエントリーを行った。初年度、二年度の成果として、無症候性キャリアの特徴、患者背景、Genotypeの影響、また連続的測定したALT値、HBV-DNA量、HBsAg量の推移に基づく無症候性キャリアの長期予後の予測を検討した。(2)HBVキャリアを多数診療する施設全国14施設から660例および千葉大学と関連した地域中核病院から441例を対象とした前向き研究を開始した。平成26年度まで調査を継続する予定であり、平均観察期間は1000日以上となる予定である。
結果と考察
2011年の時点で通院中で、10年以上の経過観察が可能であり、かつ発癌例を除いた327例を対象とし、ALTの推移別に分類し、その傾向を検討した。ALTが長期にわたり正常化が維持できた群では、維持できなかった群と比較して、有意にGenotype Bが多くみられた(40% vs 27%)。ALT維持群では、異常群と比べて有意にHBVDNA量は低値で推移した。肝線維化のマーカーの一つである血小板値は、15万以下を示す例が、いずれの群においても20%前後を占めた。
肝臓学会の非活動性キャリアの定義に合致した333症例を対象に後向きコホート研究を行った。非活動性キャリアと判断される前に発癌の既往がある例(27例)は除いた。平均観察期間 4.48±2.42 (1-11)年、平均年齢 54.4±13.8年 (2011年の時点)。経過観察中に、ALT 31 IU/L以上28人(8.4%)、41 IU/L以上13人(3.9%)、HBV DNA量4.0 LC/ml以上48人(14.4%)、5.0 LC/ml以上6人(1.8%)であった。ALTとHBVDNA量が共に上昇(31IU/L以上、4.0ml/LC以上)した例は、10人(3.0%)であった。一方、死亡例、発癌例は、今回の検討では認めなかった。核酸アナログ製剤の新規の投与開始は2例(0.6%)であった。
千葉大学の関連施設の地域の拠点病院でのHBVキャリアの診療との比較を試みた(関連施設71例 横須賀班382例)。HBs抗原量は、有意に千葉大学の関連施設で低値を示しており、HBV Genotypeも、判定可能例に限ると、関連施設では、Genotype Bが半数を占め、有意に多くみられた。いわゆるHigh Volume Centerと比較して、地域の基幹病院に、より経過が良好な症例が多くみられた。
肝臓学会の非活動性キャリアの定義に合致した333症例を対象に後向きコホート研究を行った。非活動性キャリアと判断される前に発癌の既往がある例(27例)は除いた。平均観察期間 4.48±2.42 (1-11)年、平均年齢 54.4±13.8年 (2011年の時点)。経過観察中に、ALT 31 IU/L以上28人(8.4%)、41 IU/L以上13人(3.9%)、HBV DNA量4.0 LC/ml以上48人(14.4%)、5.0 LC/ml以上6人(1.8%)であった。ALTとHBVDNA量が共に上昇(31IU/L以上、4.0ml/LC以上)した例は、10人(3.0%)であった。一方、死亡例、発癌例は、今回の検討では認めなかった。核酸アナログ製剤の新規の投与開始は2例(0.6%)であった。
千葉大学の関連施設の地域の拠点病院でのHBVキャリアの診療との比較を試みた(関連施設71例 横須賀班382例)。HBs抗原量は、有意に千葉大学の関連施設で低値を示しており、HBV Genotypeも、判定可能例に限ると、関連施設では、Genotype Bが半数を占め、有意に多くみられた。いわゆるHigh Volume Centerと比較して、地域の基幹病院に、より経過が良好な症例が多くみられた。
結論
昨年、日本肝臓学会は、HBV診療ガイドラインにおいて、HBeAb陽性で肝機能が正常の症例を、“非活動性キャリア”とし、その診断基準を提唱した。これは、ALT値とHBV DNA量を複数回測定し、一定の基準を満たすものとされている。HBVDNA量については、これまで定まったものはなく、また、検査の回数とその間隔については、明確にされておらず、今後の検討を要する。本研究では、ALTの変動パターンの差異から、その特徴を明らかにし、GenotypeやHBVDNA量は、ALTの変動パターンと関連性が深いことを示した。一方で、ALTの経過の差に関わらず、血小板数が低値である症例が一定の割合で認めたことは、非活動性キャリアの定義に、肝線維化も評価項目として検討すべきであると考えられる。良好な予後が期待できる患者群を同定できることは、医療経済の観点からも重要であり、今後のさらなる検証が必要と思われる。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
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