肝硬変に対する細胞治療法の臨床的確立とそのメカニズムの解明

文献情報

文献番号
201320010A
報告書区分
総括
研究課題名
肝硬変に対する細胞治療法の臨床的確立とそのメカニズムの解明
課題番号
H24-肝炎-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
坂井田 功(国立大学法人山口大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 柳瀬 幹雄(独立行政法人国立国際医療研究センター 消化器内科学)
  • 上野 義之(山形大学 医学部)
  • 宮島 篤(東京大学 分子細胞生物学研究所)
  • 仁科 博史(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
  • 小川 佳宏(東京医科歯科大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 稲垣 豊(東海大学 医学部)
  • 大河内 仁志(独立行政法人国立国際医療研究センター 細胞組織再生医学研究部)
  • 寺井 崇二(山口大学 大学院医学系研究科)
  • 酒井 佳夫(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
  • 梅村 武司(信州大学 医学部)
  • 高見 太郎(山口大学 大学院医学系研究)
  • 疋田 隼人(大阪大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
申請者らは「自己骨髄細胞投与療法(ABMi療法)」を世界に先駆けて開発し、その臨床的安全性・有効性を報告、技術移転を行った山形大学及び韓国延世大学でも同様の安全性・有効性が改めて確認、報告された。また国立国際医療研究センターでは、HIV合併C型肝硬変症に対するABMi療法を「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針(以下、ヒト幹指針)」の承認後に開始した。このようにABMi療法は臨床的に安全性が確認され有効性が証明されつつあるが、保険適応されるにはより質の高いエビデンスが必要である。そこで「C型肝炎ウイルスに起因する肝硬変患者に対するABMi療法のランダム化比較試験(以下、本試験)」を計画している。
また基礎研究では、肝線維化・非アルコール性脂肪肝炎(NASH)モデルマウスの解析から骨髄または脂肪組織由来細胞の抗線維化メカニズムやNASH病態を解明しABMi療法の治療効果を検討することで、B型肝炎ウイルスやNASHに起因する肝硬変症への適応拡大を目指す。さらに間葉系だけでなく骨髄球系(マクロファージ系)細胞の肝硬変に対する治療効果がマウス基礎研究から示唆され、培養マクロファージ系細胞投与による新規肝臓再生修復療法の開発のための検討も行う。
研究方法
臨床研究では、本試験の先進医療Bでの実施準備と多施設での実施体制整備を行う。
基礎研究では、骨髄由来細胞による肝線維化改善メカニズムを解明するため、骨髄中で存在比率の高い骨髄球系細胞の遺伝子発現解析や、四塩化炭素を頻回投与して肝線維化を誘導したマウスでの線維化の改善効果を解析するなど、様々な肝線維化モデル系の解析評価を行う。また、骨髄から分離された直後と継代培養を経た間葉系幹細胞分画におけるコラーゲンとMMP産生を定量解析する。
さらにABMi療法のNASHに起因する肝硬変症での検討のために、「高脂肪食負荷メラノコルチン4型受容体(MC4R)欠損マウスモデル系」において経時的な解析を行う。またヒト肝臓病理検体を用いた解析も行う。
結果と考察
臨床研究について山口大学は2013年6月1日付けで「先進医療B」の承認を得、同年10月22日よりリクルートを開始し、現在、多施設(国立国際医療研究センター、山形大学)で実施できる体制の構築を進めている。
基礎研究では、MMP9プロモーター下に標識蛋白LacZ/DeRedを発現する遺伝子改変マウスを作出し、骨髄間葉系幹細胞の酸化ストレス抑制作用を確認した。また骨髄球系細胞の遺伝子発現解析の結果、炎症抑制性サイトカインであるIL-10の発現量は好中球より単球で高く、四塩化炭素を頻回投与して肝線維化を誘導したマウスへ、単球及び好中球をそれぞれ投与した結果、肝臓全体における線維の元となるコラーゲン産生が単球投与群で有意に低下した。一方で好中球投与群では大きな変化はなく、骨髄投与療法による治療効果には単球が寄与している可能性が示された。また、造血幹細胞由来細胞でもMMPを産生し肝線維化改善に寄与することを確認した。さらに、CTGF発現上昇が抑制されるpolyI:C誘導性肝細胞及び非実質細胞CTGF欠損マウスでは肝線維化刺激時の肝線維化の改善が確認された。さらに細胞ソースとして脂肪由来間葉系細胞を評価し、NASHマウスモデル系で血清アルブミン値の改善や門脈投与の有用性が示唆された。NASHモデルマウス早期段階で肝Crown-like structureを認め、NASH病態形成にマクロファージ機能異常が関与する可能性が示唆され、Hoppoシグナルの肝発癌への関与も確認された。
結論
臨床研究実施準備が着々と進み、本臨床研究の遂行が現行の内科的な治療法では改善が見込めない肝硬変症患者を救命するためのABMi療法の開発に寄与すると考えられる。また、基礎研究により、肝線維化抑制効果のメカニズム解明に資する解析結果が蓄積されつつある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201320010Z