わが国のHIV感染者における慢性腎臓病の有病率と予後に関する研究

文献情報

文献番号
201319030A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国のHIV感染者における慢性腎臓病の有病率と予後に関する研究
課題番号
H24-エイズ-若手-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
柳澤 如樹(東京都立駒込病院 感染症科)
研究分担者(所属機関)
  • 村松 崇(東京医科大学 臨床検査医学科)
  • 山元 泰之(東京医科大学 臨床検査医学科)
  • 味澤 篤(東京都立駒込病院 感染症科)
  • 安藤 稔(東京都立駒込病院 腎臓内科)
  • 新田 孝作(東京女子医科大学 腎臓内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,612,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗HIV療法によってHIV感染者の生命予後は改善したが、それに伴い慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の有病率が増加している。欧米諸国と異なり、本邦ではHIV感染者のCKDに関する臨床研究は少なく、その有病率や関連因子については不明な点が多い。本研究の目的は、①HIV感染者におけるCKD有病率を、複数のHIV診療施設のデータを用いて調査すること、②維持透析患者におけるHIV陽性者数の把握と臨床病像を把握すること、③HIV感染者のCKDが予後に与える影響を検討することである。
研究方法
本邦におけるHIV感染者のCKD有病率を算出するために、複数の医療機関からデータを収集した。CKD有病率は従来のステージ分類に加えて、2012年に本邦で新たに発表されたCGA分類を用いて検証した。HIV陽性透析患者の実態を調査するため、日本透析学会に協力を依頼し、全国の一般透析クリニック3845カ所に対してアンケート調査を実施した。HIV陽性維持透析患者の臨床病像を把握するために、東京都立駒込病院の診療録を用いて後方視的に調査した。CKDのステージ分類とCGA分類を用いて、それぞれの群に属する患者の複合アウトカム(総死亡、心血管障害の発生、腎機能低下)を前向きに統計解析した。本研究に先だって、東京都立駒込病院および当該施設(東京医科大学病院、東京大学医科学研究所附属病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院、東京女子医科大学病院)において、倫理委員会の承認を受けた。
結果と考察
① HIV感染者2135例を対象とした調査で、CKD全ステージおよび3以上の有病率はそれぞれ15.8%と9.6%であった。CGA分類では緑、黄、橙、赤の各ステージの有病率が、それぞれ84.2%、12.4%、1.8%、1.6%であった。CGA分類では、重症度の増加に伴い、高血圧、糖尿病、C型肝炎、脂質異常症など、腎臓障害のリスク因子である疾患の合併率が高くなり、CD4陽性リンパ球数、ヘモグロビン値、テノホビル使用率は減少することが示された。蛋白尿(>1+)およびアルブミン尿(≥30mg/gCr)の有病率はそれぞれ8.9%と14.5%であった。CGA分類を適応する際に、蛋白尿ではなくアルブミン尿を用いると、ハイリスク群(橙 + 赤)の有病率は上昇することが判明した。
② アンケート調査の結果、HIV陽性透析患者を受け入れ経験があると回答した96施設中、55施設(約60%)は関東地域に存在しており、そのうち28施設(約30%)が東京都であった。一方、近畿地域を除けば、HIV陽性維持透析患者を受け入れたことがある施設は10に満たなかった。このような地域差は、HIV陽性患者が維持透析に至った場合、患者住居(職場)およびHIV診療拠点病院と維持透析施設の地理的利便性などが関係し、受け入れ施設にこうした地域差がでた可能性が示唆された。維持透析に至ったHIV感染者では、導入後もHIV感染コントロールは問題なく行われ、5年累積生存率は対照群と有意差はなく、生命予後は良好であった。針刺し事故、他者へのHIV感染事例はなく、風評などもなかった。合併症として心血管障害の発症例が多く認められたが、QOLを保ちながら通常の血液透析患者とほぼ同等な外来通院透析を行えていた。
③ CGA分類を用いた場合、従来のステージ分類と比較して、ハイリスク群(CGA分類、橙 + 赤; ステージ分類、3以上)の有病率は大幅に減少した(9.6% versus 3.4%)。CGA分類をHIV感染者に適応することで、真にハイリスクと考えられるHIV-CKD患者を絞り込める可能性があることを示した。また、血清シスタチンCを用いて計算した推定糸球体濾過値を用いることで、予後予測の精度を更に高められることが示唆された。
結論
今年度は、HIV感染者2135例を対象とした多施設調査で、わが国のHIV感染者におけるCKDの現状を明らかすることができた。従来のCKDステージ分類ではなく、CGA分類を適応することで、真にハイリスクと考えられるHIV-CKD患者を絞り込める可能性があることを示した。全国の維持透析施設を対象としたアンケート調査により、HIV陽性透析者の受け入れに関する地域差について把握することができた。診療録を用いた後方視的検討で、HIV陽性維持透析患者の臨床病像を明らかにすることができた。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

文献情報

文献番号
201319030B
報告書区分
総合
研究課題名
わが国のHIV感染者における慢性腎臓病の有病率と予後に関する研究
課題番号
H24-エイズ-若手-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
柳澤 如樹(東京都立駒込病院 感染症科)
研究分担者(所属機関)
  • 村松 崇(東京医科大学 臨床検査医学科)
  • 山元 泰之(東京医科大学 臨床検査医学科)
  • 味澤 篤(東京都立駒込病院 感染症科)
  • 安藤 稔(東京都立駒込病院 腎臓内科)
  • 新田 孝作(東京女子医科大学 腎臓内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗HIV療法によってHIV感染者の生命予後は改善したが、それに伴い慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の有病率が増加している。欧米諸国と異なり、本邦ではHIV感染者のCKDに関する臨床研究は少なく、その有病率や関連因子については不明な点が多い。本研究の目的は、①HIV感染者におけるCKD有病率を、複数のHIV診療施設のデータを用いて調査すること、②維持透析患者におけるHIV陽性者数の把握と臨床病像を把握すること、③HIV感染者のCKDが予後に与える影響を検討することである。
研究方法
本邦におけるHIV感染者のCKD有病率を算出するために、複数の医療機関からデータを収集した。CKD有病率は従来のステージ分類に加えて、2012年に本邦で新たに発表されたCGA分類を用いて検証した。HIV陽性透析患者の実態を調査するため、日本透析学会に協力を依頼し、全国の一般透析クリニック3845カ所に対してアンケート調査を実施した。HIV陽性維持透析患者の臨床病像を把握するために、東京都立駒込病院の診療録を用いて後方視的に調査した。CKDのステージ分類とCGA分類を用いて、それぞれの群に属する患者の複合アウトカム(総死亡、心血管障害の発生、腎機能低下)を前向きに統計解析した。更に、腎臓障害の指標としてアルブミン尿や血清シスタチンCの値が予後に及ぼす影響を検討した。本研究に先だって、東京都立駒込病院および当該施設(東京医科大学病院、東京大学医科学研究所附属病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院、東京女子医科大学病院)において、倫理委員会の承認を受けた。
結果と考察
① HIV感染者2135例を対象とした調査で、CKD全ステージおよび3以上の有病率はそれぞれ15.8%と9.6%であった。CKD有病率は施設間で差異を認めたが、その原因として年齢分布や、合併する高血圧症や糖尿病の有病率の差が示唆された。CGA分類では緑、黄、橙、赤の各ステージの有病率が、それぞれ84.2%、12.4%、1.8%、1.6%であった。また、蛋白尿とアルブミン尿の有病率は、それぞれ8.9%と14.5%であった。蛋白尿の有病率は、より高齢で腎障害を有する割合が高い一般人口と比較して、高いことが特徴的であった(8.9% versus 5.4%)。この原因として、1. HIV感染者は、同世代の非HIV感染者と比較して、糖尿病や高血圧の有病率が高いこと、2. HIV感染そのものが蛋白尿発現のリスクであること、が考えられた。
② アンケート調査の回収率は50.7%であった。維持透析患者176,839例中、透析を実施しているHIV感染者は42例であった(有病率0.024%)。また、96施設(2.9%)がHIV陽性透析患者の受け入れ経験があり、そのうち78.1%が今後も受け入れる意向を示した。一方、これまでHIV陽性者を受け入れたことがない1851施設のうち、55.3%が今後も受け入れることが難しいと回答した。受け入れが難しい理由として、「より具体的なHIV陽性患者に対する透析対応マニュアルが未整備だから」が最も多かった。今後、HIV陽性者が円滑に維持透析医療を受けることができるように、一般透析施設向けのより実践的なマニュアルの作成とともに、受け入れた透析施設へのサポート体制を整備して行く必要があろう。維持透析に至ったHIV感染者では、合併症として心血管障害の発症例が多く認められたが、感染コントロールとQOLは良好に保たれていた。
③ CGA分類を用いた場合、従来のステージ分類と比較して、ハイリスク群(CGA分類、橙 + 赤; ステージ分類、3以上)の有病率は大幅に減少した(9.6% versus 3.4%)。CGA分類をHIV感染者に適応することで、真にハイリスクと考えられるHIV-CKD患者を絞り込める可能性があることを示した。また、血清シスタチンCを用いて計算した推定糸球体濾過値を用いることで、予後予測の精度を更に高められることが示唆された。アルブミン尿や血清シスタチンC値の上昇は、それぞれ心血管障害とがん発生に関連を認めた。
結論
本研究では、多施設で本邦のHIV感染者におけるCKD有病率を調査し、CKDの現状を明らかすることができた。CGA分類を適用すると、CKDの有病率は低下し、予後不良患者の選択が容易になる可能性が示された。腎障害のバイオマーカーであるアルブミン尿の排泄量や血清シスタチンC値は、予後と関連していることを明らかにした。全国の維持透析施設を対象としたアンケート調査により、わが国の維持透析患者におけるHIV感染症の有病率を示し、HIV陽性透析者の受け入れ状況を把握することができた。診療録を用いた後方視的検討で、HIV陽性維持透析患者の臨床病像を明らかにすることができた。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201319030C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究により得られた「本邦の多施設共同研究による正確なCKD有病率」のデータは、厚生労働省疾病対策課が現在必要としている、「今後数年間のHIV感染透析患者の増加動態」を把握するのに有用なデータを提供するものであり、この分野での厚生労働行政の今後の施策設定にも活用できる可能性を持つ。また、本研究結果に基づき、透析従事者のHIVに関する理解を深め、透析施設におけるHIV感染者の受け入れがスムースに行われ、全国どこでも透析医療が確保できることが期待される。
臨床的観点からの成果
本研究は、HIV感染者2135例を対象とした多施設調査であり、わが国のHIV-CKDの現状を明らかにしたことは医学的にも社会的にも意義深い。また、一般人口と比較して、HIV感染者の蛋白尿有病率は高いという疫学的な情報が得られたことは、HIVのCKD診療を担う臨床医にとって有用な知見である。初めて本邦の維持透析患者におけるHIV感染陽性率を明らかにできたことは国際比較を可能にした。本研究結果は、HIV感染者の透析医療における社会問題解決の一助になる可能性がある。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
CKDは早期に発見できれば、寛解または進行抑制可能な疾患である。そのことに鑑み、本研究結果はHIV診療を主に担う感染症科医にHIV感染者におけるCKD合併の重要性を広く認知させ、定期的な蛋白尿と腎機能検査の重要性を理解させることができ、患者の予後改善に寄与できると考えられる。これは、同時に高額なHIV医療に上乗せされてくる透析医療、入院医療などに対する国家医療費支出抑制にもつながることが期待される。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yanagisawa N, Muramatsu T, Yamamoto Y, et al.
Classification of human immunodeficiency virus-infected patients with chronic kidney disease using a combination of proteinuria and estimated glomerular filtration rate
Clin Exp Nephrol.  (2013)
原著論文2
Yanagisawa N, Ando M, Tsuchiya K, et al.
Impact of cystatin C elevation and albuminuria on probability of adverse outcomes in HIV-infected men receiving HAART
Clin Nephrol.  (2013)
原著論文3
Yanagisawa N, Ando M, Tsuchiya K, et al.
HIV-infected men with an elevated level of serum cystatin C have a high likelihood of developing cancers
J Antivir Antiretrovir  (2012)
原著論文4
村松崇、柳澤如樹、近澤悠志、他.
本邦のHIV感染者における慢性腎臓病の有病率 -2施設での調査結果-
感染症学雑誌  (2013)
原著論文5
柳澤如樹、味澤篤、安藤稔.
HIV感染者における慢性腎臓病
日本エイズ学会誌  (2013)
原著論文6
村松崇、山元泰之.
HIV感染者と骨粗鬆症
日本エイズ学会誌  (2013)
原著論文7
原正樹、柳澤如樹、能木場宏彦、他.
慢性血液透析に導入されたHIV陽性患者9症例の臨床経過と生命予後
日本透析医学会雑誌  (2014)
原著論文8
柳澤如樹、味澤篤、今村顕史、他.
本邦における維持透析患者のHIV感染陽性率-維持透析患者受け入れ施設を対象した全国アンケート調査に基づく報告-
日本透析医学会雑誌  (2014)
原著論文9
Yanagisawa N, Sasaki S, Suganuma A, et al.
Comparison of cystatin C and creatinine to determine the incidence of composite adverse outcomes in HIV-infected individuals
J Infect Chemother  (2015)

公開日・更新日

公開日
2014-06-09
更新日
2015-07-03

収支報告書

文献番号
201319030Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,612,000円
(2)補助金確定額
3,620,750円
差引額 [(1)-(2)]
-8,750円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 408,943円
人件費・謝金 44,640円
旅費 479,120円
その他 2,688,047円
間接経費 0円
合計 3,620,750円

備考

備考
研究に必要な物品等購入する際に研究費が不足し、自己負担金にて購入したため、交付額と確定額に差異が生じてしまった。

公開日・更新日

公開日
2014-06-03
更新日
-