高リスク層のHIV感染監視と予防啓発及び内外のHIV関連疫学動向のモニタリングに関する研究

文献情報

文献番号
201319016A
報告書区分
総括
研究課題名
高リスク層のHIV感染監視と予防啓発及び内外のHIV関連疫学動向のモニタリングに関する研究
課題番号
H24-エイズ-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
木原 正博(京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻国際保健学講座社会疫学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川創一(神戸大学医学部附属病院感染制御部)
  • 和田 清(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
  • 中村亮介(東京都立松沢病院精神科)
  • 西村由実子(橋本由実子)(関西看護医療大学看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,080,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国内外のHIV関連情報の集約と統合的分析及び高リスク集団のHIV感染率やリスク行動のモニタリングを通じて、わが国の流行の文脈的理解と効果的・効率的なエイズ施策の形成に資する。
研究方法
(1)海外及び国内のHIV/STDの流行とリスク情報の収集分析に関する研究
a)関連地域(中国、台湾、香港、韓国)と主要先進国(米、英、仏、独、加、豪)のHIV/AIDS/性感染症(STD)サーベイランスデータベースを最新化し流行動向を分析した。b)モンゴルを含む東アジア地域のHIV流行に関する網羅的(108文献)かつ系統的なレビューを実施し、流行の現状背景を分析し国際誌に発表した。c)わが国のSTD発生動向調査、母子保健統計、薬事工業生産動態統計のサーベイランスデータベースを最新化するとともに、最新の出入国管理統計を収集分析した。
(2)STD患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究
全国(北海道、宮城、群馬、東京、川崎、岐阜、名古屋、大阪、北九州)の29STD関連医療施設の受診者591人(男322、女109、風俗女性160)に対し、無料HIV/検査とHIV検査ニーズ、HIV関連知識、HIV感染リスク認知に関する質問票調査を行った。
(3)薬物乱用・依存者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究
全国5精神科医療施設の入院薬物中毒者273人と6民間回復施設入所者92人の新規対象者に対し、HIV/STD/肝炎感染に関する検査を行うとともに、注射関連行動、性行動を調査した。1994 年以来の継続調査である。
(4) 外国人薬物使用者等のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究
薬物使用等で入院した18カ国の外国人患者42人(男26、女16)を対象として、ハイリスク行動の聞き取り調査と採血による血清学的検査、及び診療録からの転記調査を実施した。
結果と考察
以下の知見を得た;a)近隣地域(中国、台湾、香港、韓国)において性感染を主とするHIV流行が持続・拡大している、b)モンゴルを含め東アジア地域では同性間感染によるHIV流行が拡大し、感染率は数%-10%と局在流行期にあり、背景にインターネットが指摘されている。c)主要先進国でSTD全般、及び性感染、特に同性間感染によるHIV流行が増加もしくは再燃している、d)近年減少していた我国の主要STD(梅毒以外)が下げ止まり、性器ヘルペスが上昇しつつあり、15-18歳の人工妊娠中絶率が2010年以降増加し始め、若者に高リスク性行動の「新しい波」が生じたことが示唆された。e)我国では男性の梅毒患者報告数が増加しており、欧米と同様、高リスクの同性間性行動が広がっていることが示唆された。f)東北大震災の影響がほぼ終わり、近隣地域との出入国、特に海外長期滞在邦人の数が大きく増加している。g)薬物使用者中に、HIV感染者が、過去最大の8件(それまでの最高は昨年の4件)検出されたが、7件は同性間感染であると推測された。同性愛者における、性行動と薬物使用の複合リスクの高まりが懸念される。⑩HCV感染率、注射使用率、注射共用率が近年増加傾向を示している。⑪STD患者の間で全国的に無料HIV検査に対する高いニーズが存在することが明らかとなり、また、かつ男性STD患者において1%以上のHIV感染率が持続していることを確認した。⑫外国人薬物使用者には、本年度はHIV陽性者を認めなかったが、脱法ハーブの使用者の増加が認められた。
結論
本研究により、わが国のHIV流行の状況・特徴・国際的文脈や社会的脆弱性の状況を明らかにするのに必要な情報収集の枠組みが完成し、それに基づくわが国のHIV流行の現状や展望について、総合的な分析と理解を行うことが可能となった。本研究によれば、先進国のHIV流行は、HAART療法の導入とインターネットによるネットワークの発達により、同性間感染を中心とする、制御の困難な新たな流行期に入ったと考えられ、我国の同性間HIV流行も同じ文脈にあると考えられた。近隣諸国では、薬物静注による流行がほぼ終息して、性感染を主体とする流行期に入り、出入国を通した我が国への流入が懸念されるが、一方我国では、リスクの高い性行動が復活し、減少を続けていたSTD流行と10代の人工妊娠中絶率が増加傾向に転じるなど、HIV流行の動向はなお予断を許さない状況にある。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201319016Z