パイエル板指向性分子を利用した経口ワクチンの開発

文献情報

文献番号
201318065A
報告書区分
総括
研究課題名
パイエル板指向性分子を利用した経口ワクチンの開発
課題番号
H23-新興-若手-024
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
渡利 彰浩(国立大学法人大阪大学 大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 亮(帝京大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,790,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
  昨今の新型インフルエンザの世界的流行でも明らかなように、依然として感染症は人類に立ちはだかる大きな脅威であり、感染症によって毎年2000万人の命が失われている。患者の生活の質・有効性・安全性を考慮すると、非侵襲性投与が可能であること、多くの感染性病原体の侵入門戸(粘膜面)における防御網を構築できること、生体内に侵入した病原体の排除活性をも有することから、『経口ワクチン』が理想的な感染予防法であると言える。しかしながら、消化酵素による分解を回避しつつ腸管粘膜免疫組織に抗原を効率良く送達しなければならず、ここに経口ワクチン開発の難しさがある。以上の背景を踏まえ本研究では、腸管粘膜免疫組織パイエル板にclaudin-4(CL-4)が高発現していることに着目し、独自のCL-4 指向性分子を有効活用することで、初めてのパイエル板指向性経口ワクチンを開発することを目的とする。
研究方法
  前年度までに取得した従来のC-CPEに比してCL-4結合性に優れたCL-4高結合性C-CPE変異体を用い、エタノールインジェクション法によりCL-4高結合性C-CPE変異体修飾リポソームを調整した。本リポソームのCL-4発現細胞への結合性はFACSにより解析した。また、作製したリポソームの体内動態を調べるため、マウス腸管内に蛍光標識したCL-4高結合性C-CPE変異体修飾リポソームを導入し、腸管組織のどの部位に移行するかを観察した。
結果と考察
  平成23-24年度に作製したCL-4高結合性C-CPE変異体を修飾したリポソームを調整し、CL-4発現L細胞(L/CL-4)への結合性をFACSにより解析した結果、C-CPE未修飾リポソームおよびC-CPE306A/L315A(CL-4への結合性が欠失したC-CPE)修飾リポソーム処理群と比較し、CL-4高結合性C-CPE変異体修飾リポソーム処理群において、高い蛍光強度が認められた。続いて、CL-4高結合性C-CPE変異体修飾リポソームのCL-4との特異的な結合を評価するため、L細胞、CL-1発現L細胞(L/CL-1)およびL/CL-4細胞においてリポソームの結合性をFACSにより検討した。その結果、L/CL-4細胞ではC-CPE未修飾リポソームおよびC-CPE306A/L315A修飾リポソーム処理群と比較し、CL-4高結合性C-CPE修飾リポソーム処理群において、高い蛍光強度が認められた。一方、L細胞およびL/CL-1細胞では、いずれのリポソーム処理群においても顕著な蛍光強度の増大は認められなかった。これらの結果から、CL-4高結合性C-CPE修飾リポソームはCL-4発現細胞と特異的に結合することが明らかとなった。最後に、C-CPE修飾リポソームによりパイエル板へ抗原を効率的にデリバリー可能か評価するにあたり、CL-4高結合性C-CPE修飾リポソームのパイエル板への移行性を評価した。その結果、Rhodamine標識したCL-4高結合性C-CPE修飾リポソームの蛍光がパイエル板で認められた。また、M細胞とCL-4高結合性C-CPE修飾リポソームの局在が一部重なっていることを確認した。以上の結果から、CL-4高結合性C-CPE修飾リポソームはパイエル板へ抗原送達可能であることが示唆された。
結論
  平成25年度は、取得したCL-4高結合性C-CPE変異体を修飾したリポソームを作製し、本リポソームがCL-4発現細胞に特異的な結合性を示すことを確認した。さらに本リポソームのin vivo動態を観察したところ、パイエル板へ移行性を示すことが明らかとなった。さらに、一部は腸管において抗原の取り込みを担うM細胞上にも移行することを確認した。以上の結果より、CL-4高結合性C-CPE修飾リポソームは経口ワクチン開発に資する可能性を有していることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201318065B
報告書区分
総合
研究課題名
パイエル板指向性分子を利用した経口ワクチンの開発
課題番号
H23-新興-若手-024
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
渡利 彰浩(国立大学法人大阪大学 大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 亮(帝京大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
  昨今の新型インフルエンザの世界的流行でも明らかなように、依然として感染症は人類に立ちはだかる大きな脅威であり、感染症によって毎年2000万人の命が失われている。患者の生活の質・有効性・安全性を考慮すると、非侵襲性投与が可能であること、多くの感染性病原体の侵入門戸(粘膜面)における防御網を構築できること、生体内に侵入した病原体の排除活性をも有することから、『経口ワクチン』が理想的な感染予防法であると言える。しかしながら、消化酵素による分解を回避しつつ腸管粘膜免疫組織に抗原を効率良く送達しなければならず、ここに経口ワクチン開発の難しさがある。以上の背景を踏まえ本研究では、腸管粘膜免疫組織パイエル板にclaudin-4(CL-4)が高発現していることに着目し、独自のCL-4 指向性分子を有効活用することで、初めてのパイエル板指向性経口ワクチンを開発することを目的とする。
研究方法
  CL-4 binderのモデル分子であるC-CPEのC末端側のアミノ酸残基をランダムなアミノ酸に置換した、C-CPE 構造変異体ライブラリを準備した。本ライブラリからCL-4への結合性に優れた変異体をスクリーニングした。取得したCL-4高結合性C-CPE変異体とモデル抗原である卵白アルブミン(OVA)との融合蛋白質を用い、経鼻投与による抗原特異的免疫賦活化作用および抗腫瘍活性を指標としたワクチン活性を評価した。また、CL-4高結合性C-CPE変異体を用い、エタノールインジェクション法によりCL-4高結合性C-CPE変異体修飾リポソームを調整した。本リポソームのCL-4発現細胞への結合性はFACSにより解析した。作製したリポソームの体内動態を調べるため、マウス腸管内に蛍光標識したCL-4高結合性C-CPE変異体修飾リポソームを導入し、腸管粘膜免疫組織への移行性を調べた。
結果と考察
  平成23年度は、当グループが独自に開発したCL-4 binderであるC-CPEをprototypeとして用い、C-CPEのC末端側に存在しCL-4への結合性に重要なアミノ酸残基をランダムなアミノ酸に置換したC-CPE 構造変異体ライブラリから、CL-4高結合性C-CPE変異体を取得した。続いて、平成24年度にかけてCL-4高結合性C-CPE変異体の抗原送達能を検証するため、予備検討としてCL-4高結合性C-CPE変異体とモデル抗原である卵白アルブミン(OVA)との融合蛋白質を作製し、経鼻投与を行った結果、既存のC-CPEよりも高い免疫賦活化作用およびワクチン効果を発揮することを確認した。
  平成23-24年度に作製・活性評価を行ったCL-4高結合性C-CPE変異体を修飾したリポソームを調整し、CL-4発現L細胞(L/CL-4)への結合性をFACSにより解析した結果、C-CPE未修飾リポソームおよびC-CPE306A /L315A(CL-4への結合性が欠失したC-CPE)修飾リポソーム処理群と比較し、CL-4高結合性C-CPE変異体修飾リポソーム処理群において、高い蛍光強度が認められた。また、その結合性はCL-4特異的であることが、CL-1発現L細胞(L/CL-1)およびL/CL-4細胞との結合性比較により明らかとなった。そこで、CL-4高結合性C-CPE変異体修飾リポソームによりパイエル板へ抗原が効率的にデリバリー可能か評価するにあたり、CL-4高結合性C-CPE修飾リポソームのパイエル板への移行性を評価した。その結果、Rhodamine標識したCL-4高結合性C-CPE修飾リポソームの蛍光がパイエル板で認められた。また、M細胞とCL-4高結合性C-CPE修飾リポソームの局在が一部重なっていることを確認した。以上の結果から、CL-4高結合性C-CPE修飾リポソームはパイエル板へ抗原送達可能であることが示唆された。
結論
  本研究では、C-CPE構造変異体ライブラリからCL-4高結合性C-CPE変異体の取得に成功し、モデル抗原を融合させた新規CL-4 binderがワクチン活性誘導能に優れていていることを見出した。そこで、取得したCL-4高結合性C-CPE変異体を修飾したリポソームを作製し、本リポソームのin vivo動態を観察したところ、パイエル板へ移行性を示すことが明らかとなった。さらに、一部は腸管において抗原の取り込みを担うM細胞上にも移行することを確認した。以上の結果より、CL-4高結合性C-CPE修飾リポソームは経口ワクチン開発に資する可能性を有していることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201318065C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、腸管粘膜免疫組織パイエル板にCL-4が高発現していることに着目し、消化酵素耐性である独自のCL-4指向性分子を有効活用することでパイエル板指向性経口ワクチンの開発を試みた。本研究において新たに取得したCL-4高結合性C-CPE変異体は、既存のC-CPEよりも高いワクチン活性誘導効果を発揮し、本C-CPE変異体を修飾したリポソームはパイエル板へ移行することを確認した。本リポソームにさらなる改良を施すことで経口ワクチンに資するCL-4 binder修飾リポソーム開発に繋がると考えられる。
臨床的観点からの成果
本研究で開発を試みた経口ワクチンは、粘膜系免疫と全身系体液性・細胞性免疫の活性化能を併せ持つことや非侵襲性の投与法であること、独自のCL-4指向性分子により消化酵素による分解を回避しつつ腸管粘膜免疫誘導組織パイエル板に抗原を効率的に送達するシステムであり、本成果にさらなる改良を施すことで理想的な感染予防・治療法に繋がると考える。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
20件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
38件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takahashi A., Kondoh M., Suzuki H., et al.
Pathological changes in tight junctions and potential applications into therapies.
Drug Discov Today , 3 (14) , 727-732  (2012)
原著論文2
Watari A., Yagi K., Kondoh M.
A simple reporter assay for screening claudin-4 modulators.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 426 (4) , 454-460  (2012)
原著論文3
Yamagishi Y., Watari A., Hayata Y., et al.
Hepatotoxicity of sub-nanosized platinum particles in mice.
Pharmazie , 68 (3) , 178-182  (2013)
原著論文4
Iida M., Yoshida T., Watari A., et al.
A baculoviral display system to assay viral entry.
Biol. Pharm. Bull. , 36 (11) , 1867-1869  (2013)
原著論文5
Li X., Saeki R., Watari A., et al.
Tissue distribution and safety evaluation of a claudin-targeting molecule, the C-terminal fragment of Clostridium perfringens enterotoxin.
Eur. J. Pharm. Sci. , 14 (52) , 132-137  (2014)
原著論文6
Un K, Kawakami S, Higuchi Y, et al.
Involvement of activated transcriptional process in efficient gene transfection using unmodified and mannose-modified bubble lipoplexes with ultrasound exposure.
J Control Release , 156 , 355-363  (2011)
原著論文7
Un K, Kawakami S, Suzuki R, et al.
Suppression of Melanoma Growth and Metastasis by DNA Vaccination Using an Ultrasound-Responsive and Mannose-Modified Gene Carrier.
Mol Pharm. , 8 , 543-554  (2011)
原著論文8
Oda Y, Suzuki R, Otake S, et al.
Prophylactic immunization with Bubble liposomes and ultrasound-treated dendritic cells provided a four-fold decrease in the frequency of melanoma lung metastasis.
J. Control. Release , 160 , 362-366  (2012)

公開日・更新日

公開日
2014-06-17
更新日
2016-06-27

収支報告書

文献番号
201318065Z