重症の腸管出血性大腸菌感染症の病原性因子及び診療の標準化に関する研究

文献情報

文献番号
201318034A
報告書区分
総括
研究課題名
重症の腸管出血性大腸菌感染症の病原性因子及び診療の標準化に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-012
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大西 真(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 井口 純(宮崎大学 IR推進機構)
  • 八尋 錦之助(千葉大学 病原細菌制御学)
  • 伊豫田 淳(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 黒田 誠(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 林 哲也(宮崎大学フロンティア科学実験総合センター・ゲノム科学)
  • 桑原 知己(香川大学 分子微生物学)
  • 綿引 正則(富山県衛生研究所)
  • 勢戸 和子(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 甲斐 明美(東京都健康安全研究センター)
  • 五十嵐 隆(国立成育医療研究センター)
  • 齋藤 昭彦(新潟大学大学院)
  • 伊藤 秀一(国立成育医療研究センター)
  • 幡谷 浩史(東京都立小児総合医療センター)
  • 水口 雅(東京大学大学院医学系研究科)
  • 森島 恒雄(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
27,278,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腸管出血性大腸菌 (Enterohemorrhagic Escherichia coli, EHEC)の病原性は、腸管細胞付着と志賀毒素産生との2つで説明される。国内においてEHEC感染症は、血清群O157に属する菌株を原因とする症例が多数を占める。EHEC O157は2つの志賀毒素遺伝子stx1, stx2のいずれか、あるいは両方を有し、細胞接着能力はLEE領域と呼ばれるIII型タンパク質分泌機構に依存している。しかしながら、異なる血清型に属する多様なEHECが存在することが知られていることに加え細胞付着に関する病原因子にも多様性があることが知られている。
 細胞付着因子および血清群の多様性の視点から、いわゆる「O157」感染症とは異なる非典型的なEHEC感染症に関する基盤情報の蓄積と整理が必要である。我が国においてEHEC感染症は年間3000-4000例発生している。重篤な合併症(HUS、脳症)を発症し、さらに死亡例も毎年報告されている。診断に加えて、治療法の体系的な評価と、提言の必要性がある。
 本研究の目的は、(1)エビデンスに基づく診療ガイドラインとして必要な条件を満たしたHUS診断・治療ガイドラインを作成すること、(2)非典型的なEHEC感染症に対応可能な検査系を確立することである。
研究方法
Mindsのガイドライン作成基準に則った、溶血性尿毒症症候群の診断・治療ガイドラインを作成した。日本小児科学会、日本腎臓学会、日本小児腎臓病学会の各ホームページ(HP)に溶血性尿毒症症候群の診断・治療ガイドライン(案)を掲載し、会員からのパブリックコメント(PC)を募集した。戴いた意見について検討し、一部意見を反映し、査読者に再度検討を依頼した。腸管出血性大腸菌分離株に関して、血清群別、stx遺伝子型別、eae, saa, subA, aggR 遺伝子の有無を既存の方法で検討した。O抗原合成遺伝子群特異的PCR法の開発、ゲノム解析、患者血清中の抗大腸菌抗体価の測定、動物モデルの検討、SubAB毒素の機能解析について研究を実施した。
結果と考察
エビデンスに基づく診療ガイドラインとして必要な条件を満たしたHUS診断・治療ガイドラインをわが国で初めて作成した。重症化例において、原因診断に至っていない症例がどの程度あるのか未知な部分があるが。HUSによる死亡患者調査表を作成し、最終年度の活動の準備を行なった.
 大腸菌のO血清群をPCR法にて推測する方法(O-genotyping)を確立した。国内で分離されるEHECの頻度順に上位7血清群遺伝子を検出するマルチプレックスPCR検査系を開発した。また、菌が分離出来ない下痢症に伴うHUS症例の病原体診断の補助となる血清診断と、高感度にEHECを分離する検査フローを考案した。非典型的なEHEC株の解析では、分散性接着型を示すLEE-陰性 EHEC O115:H10を見いだした。また、SubAB の宿主細胞への取込みがリピッドラフト、アクチン 依存性であり、コレステロールを含んだ膜で細胞内を輸送され小胞体に移行していることが明らかとなった。動物モデルの検討では、幼若無菌BALBc/Aマウスへの経口感染の系を利用し、致死、盲腸内生菌数、毒素量を検討した。EHEC O157の中でも高病原性と考えられるclade 8株と、EHEC O111(Toyama)の比較検討から、EHEC O111(Toyama)株はEHEC O157 Clade 8株に比較して毒性が弱い結果が得られた。ゲノム配列の取得に関しては、3種類のnon-O157 EHEC(O121:H19, O145:HUT, O165:H-)の完全長ゲノム配列の決定が終了し、ファージ領域等のアノテーションが終了した。また、各血清型の国内分離株・欧州分離株を収集し、そのドラフトゲノム配列を決定中である。一方、昨年までの解析でヒトでの集団感染を起こしうる腸管病原体であることが明らかとなったE. albertiiに関しても、24株のドラフトゲノム配列を決定した。
結論
エビデンスに基づく診療ガイドラインとして必要な条件を満たしたHUS診断・治療ガイドラインをわが国で初めて作成された。同一血清型のEHECであっても菌株による病原性の強弱が存在することが示唆されてきた。原因株の相違で臨床的な特徴が異なる可能性があり、どのようなツールがリスク評価に有用かを検討する必要がある。加えて、EHEC不分離例においては本研究の成果を利用し、実際の知見を収集し、問題点把握・改善に努める。また、判定が容易な血清診断検査系の確立を目指す。上記のために、さらにゲノム情報の基盤形成、メタゲノム解析の応用、病原性評価系のための動物モデルの検証をさらに進める必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201318034Z