老人・家族の相談援助活動の質の向上と評価に関する研究

文献情報

文献番号
199800243A
報告書区分
総括
研究課題名
老人・家族の相談援助活動の質の向上と評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小西 美智子(広島大学)
研究分担者(所属機関)
  • 鎌田ケイ子(東京都老人総合研究所)
  • 小野ツルコ(愛媛大学)
  • 小西恵美子(長野県看護大学)
  • 橋本祥恵(岡山県立大学短期大学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者と家族の療養生活及び介護生活を支援する相談援助活動のあり方を明らかにするために、在宅高齢者が加齢や疾病によって心身の機能が低下し、日常生活を自立する事ができなくなった際の本人及び家族の看護・介護ニ-ズ、医療・保健・福祉ニ-ズを分析して、そのニ-ズに合った看護・介護ケア及び社会資源の活用方法について提示すること、在宅高齢者自身の疾病や老化の受け止め方及び療養生活への意識、家族・介護者の在宅高齢者への理解度、介護生活及び介護負担感等、高齢者の在宅療養生活及び家族・介護者の介護生活について指導方法を提示することを目的とした。
研究方法
1)広島県H市8保健センタ-の機能訓練教室に通所している在宅療養高齢者の介護者43名及びH市隣接の訪問看護ステ-ションから訪問看護を受けている在宅療養高齢者の介護者61名における在宅療養者の療養状況(社会資源を含む)と介護者の状況(家族構成、続柄、健康、就労、介護内容、生活行動、生活上の問題等)について自記式調査票の回答内容を分析した。
2)愛媛県内4カ所の訪問看護ステ-ション利用者41名の介護者に、被介護者の状況、介護期間、介護時間、介護内容、介護負担、介護を支えている要因、介護上の困難点等について面接調査し許可を得て録音した内容を逐語的に書き起こしその内容を分析した。
3)長野県K市に在住する前期高齢者と同居する実の娘又は義理の娘172名に終末期ケアに関して高齢者と家族との話し合い状況、終末期の治療の決め方、高齢者の終末期治療への希望及び最後の看取りの場所等について自記式調査票の回答内容を分析した。
4)広島県内の訪問看護ステ-ションを利用している在宅療養高齢者27名に、「日常生活の中でどういった楽しみをもっているか」「病気や老いに対してどのように考えているか」等について半構成的に訪問面接を行った。許可を得て録音した内容をグランデット・セオリ-的アプロ-チにより分析した。
5)都内T区保健センタ-窓口において平成10年4月から11月までの8ヶ月間に相談を行った中で、相談記録上痴呆性疾患として記録のあった者135名について、被介護者の基本的属性と痴呆症状、家族構成、相談内容、相談回数、相談対応、利用している保健福祉サ-ビス等を相談記録から分析した。
6)平成8,9年度において検討した結果を基に、高齢者の生活ニ-ズとホ-ムヘルパ-の援助方法を提示したファイスシ-ト、利用者像、個別援助計画、及び介護援助項目票を作成し、岡山県内の8市町村のホ-ムヘルパ-に試用を依頼し、さらに活用への検討を行った。
結果と考察
機能訓練教室及び訪問看護ステ-ション利用者の介護者の生活状況を分析すると、介護者の睡眠時間、食事時間は被介護者の日常生活自立状況による差はないが、同じ年齢の介護していない一般住民に比べると短い。被介護者の自立度が低くなると夜間介護が加わり介護時間及び家事時間が増加し、運動・散歩時間なしの介護者が多くなる。日常生活上の問題として「家を留守に出来ない」「ストレス・精神的負担」が7割と多かった。介護を負担に感じている者は、3世代家族の介護者が夫婦世帯の介護者より負担に感じている割合が高く、また年齢が80歳以上の介護者と息子の妻は全員が介護負担を感じていた。14年以上介護を継続している介護者4例に共通することとしては、被介護者と介護者間及び他の家族との人間関係が良好であり、定期的に他の家族から介護のサポートが得られていた事であった。前期高齢者と同居している娘(実子又は義子)は、高齢者と終末期ケアについて話し合ったことがある者より、話し合ったことがない者が多かった。話し合っている場合でも、終末期の治療の決め方としては、高齢者は家族より医療者への依存割合が多いが、同居娘自身は終末期の治療は本人が決めると医療者が決めるがほぼ同率であり、また高齢者が終末期の治療として高度医療を望んでいる割合は少ないが、同居娘自身は
高度医療を受けさせたいと考えている。高齢者の最後の看取り場所について同居娘は自宅と施設同率であった。訪問看護ステ-ションを利用している在宅療養者の生きがいにはADL維持に関する基本的・生理的な活動、家族、友人・知人、及び保健医療職を含めた社会的な活動、信仰、読書、編み物等自己実現に至る創造的な活動までが含まれていた。そして自己実現につながる生きがいをもっている者の中にも療養生活を肯定的に受け止める者と否定的に受け止める者がいたが、療養生活を肯定的に受け止めている者はいづれも自己実現となる生きがいをもっていた。地域保健センターの相談窓口での痴呆性疾患患者の相談内容を分析すると、相談者としては子供が半数を占め、内容としてはディサ-ビス及びショ-トスティの利用が最も多く、次が福祉機器の利用、ヘルパーの派遣となっていた。これら対応方法としては申請手続きとサービス情報の提供が多かった。市町村のホ-ムヘルパ-が55事例に作成した記録用紙を試用した結果、問題事項として情報シートからサービス計画にまとめることが困難が最も多く、次が長期目標と短期目標が区別できない等であったが、気づかなかった新たにニーズを発見できたと言う様に、ヘルパーの資質の向上に関与出来ることも解った。
在宅高齢者は療養生活について様々な思いをもって日常生活を営んでいる事から、看護職・介護職はこれら高齢者の疾病、老化の状況と共に疾病、老化への思い及び生きがいについても相談指導し支援する事が必要であると思う。支援方法としては家族・知人・友人等を高齢者のサポ-ト者として育成することであると思う。高齢者を介護している介護者の負担感は被介護者の心身の状況と共に介護者自身の心身の状況によって強くなったり、弱くなったりするようである。介護負担感を少なくするためには被介護者と同様に介護者が家族・知人・友人等との良い人間関係に基づくサポ-トが不可欠である。一方同居していても高齢者と家族が高齢者の終末期ケアに関して具体的に話し合っていない状況もあり、そこには親子間での治療に関する価値観の違いもあることが推察される。そして痴呆症状のある者に関する相談者は子供が多く、その問題として物忘れ等高齢者に多い内容であることから、高齢者だけの判断では問題が潜在化してしまう可能性があるので、早期の相談対応が必要である。また対応としては個々の条件にあったサービス情報の提供や福祉制度の利用、専門医療機関への紹介等が窓口での役割になると言える。在宅療養者及び家族のニーズを的確に把握するためにはテェック項目や記録が多くなるが、ヘルパー等専門職としてのレベルをあげるためには必要であるとも言える。
結論
在宅高齢者の療養生活及び介護者の介護生活を質の高い内容にしていくためには、看護職・介護職としては、ニーズを的確に把握すると共に、その対応方法についても相談・指導・支援する事が大切である。つまり、社会資源の情報を高齢者・家族に提供し、個々の生活条件に合わせて選択し利用することが出来る事であり、高齢者と家族との人間関係が良好に保てるように支援することであり、被介護者及び介護者の友人・知人・隣人を療養生活及び介護生活を継続するためのサポートシステムの中に組み入れる様に働きかけることである。

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