ダニ媒介性細菌感染症の診断・治療体制構築とその基盤となる技術・情報の体系化に関する研究

文献情報

文献番号
201318030A
報告書区分
総括
研究課題名
ダニ媒介性細菌感染症の診断・治療体制構築とその基盤となる技術・情報の体系化に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
安藤 秀二(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎博道(福井大学 医学部)
  • 大橋典男(静岡県立大学 食品栄養科学部)
  • 川端寛樹(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 岸本壽男(岡山県環境保健センター)
  • 今内 覚(北海道大学大学院獣医学研究科)
  • 高田伸弘(福井大学 医学部)
  • 林 哲也(宮崎大学 フロンティア科学実験総合センター)
  • 藤田博己(藤田保健衛生大学)
  • 高野 愛(山口大学 共同獣医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
26,697,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダニ媒介性細菌感染症は多様で,代表的なつつが虫病でさえ国内で多く見落されている。また,死亡例が毎年報告,多様なリケッチア症も確認されるが,いまだ検査体制や情報が不十分で,原因不明のダニ関連疾患対策も望まれる。さらに,アナプラズマ症の実態はなお不明で,新興回帰熱の潜在患者も指摘される。国内でも対象は多種の病原体に広がり,診断体制は脆弱で,不幸な転機となる症例増加が危惧される。本研究は,臨床,病原体,媒介ダニからなる複雑な感染症群を俯瞰した,総合的なアプローチ,有機的連携で,地域特性把握と拠点機関の検査体制確立,診断法標準化とマニュアル作成,地域ネットワーク構築,応用可能な予防法策定,バイオリソース蓄積等を目的とする。
研究方法
参加研究者が有機的に連携・共同して次の研究を実施した。
ボレリア症:①遡及的にライム病疑い患者検体からBorrelia miyamotoi(Bm)遺伝子検出,組換GlpQ抗原を用いた抗体検出,②Bm感染の前方位的調査の全国展開,③早期診断法標準化試行,④Bm感染マウスモデル検討。
アナプラズマ症:①Anaplasma phagocytophilum(Ap) 組換蛋白作製,②表面抗原発現の異なる細胞,組換P44蛋白を抗原に,不明熱患者から抗体検出,解析。
リケッチア症:地域発信情報の収集,地域特性を表わす情報集積のための調査,検査体制の現状把握を継続し,①血清型間の臨床的比較解析,②学会報告等の症例個々の臨床評価,③新規抗菌薬のin vitro解析等を臨床面から実施,④実験室診断系で,各種血清診断法の比較データ蓄積,Dot-ELISA開発と現場適用,コントロールプラスミド作製。
共通課題:研究基盤となるバイオリソース情報の収集・解析で,①各種病原性,非病原性リケッチアのゲノム配列比較,②各地のR.japonica(Rj)分離株や日本本土分離オリエンチア株のゲノム解析。マダニ刺し口皮膚反応のマウス実験,ダニワクチン候補因子の同定・機能解析,研究共通ツールのRNA由来鋳型遺伝子増幅や日本産マダニ類カラー同定アーカイブ作成。
結果と考察
1)ボレリア症:前方位的疫学調査を継続しつつ,遡及調査から過去のライム病患者にBm感染による回帰熱患者が含まれていたことを確認,全国に情報提供した。同時に,診断系開発導入,モデル動物開発も試みた。
2)アナプラズマ症:国内Apの主要表面抗原が欧米と大きく異なることを抗原解析から明らかにし,日本株に適合した診断系開発から今後多くの患者が見つかる可能性を示した。
3)リケッチア症:地域の感染環特性・多様性を考慮した適切な診断,リスク評価の基礎資料となる疫学情報収集,ラボと臨床の迅速連携の試みを継続,啓発の科学的根拠となる新たな知見を福島,福井,徳島,鹿児島等で得た。また,臨床データ蓄積,解析でつつが虫病4血清型の臨床的比較解析,症例個々の臨床評価等を行い,新規抗菌薬検討や検査系改良・開発も進めた。
4)共通課題:他のダニ媒介感染症と共通予防策になる抗ダニワクチン候補のダニ因子複数の機能を解析,さらに詳細な解析と応用検討を進めた。バイオリソース情報の全ゲノム解析は,各種病原性リケッチア臨床分離株の収集,解析を全国的に進め,Rjの均一性やつつが虫病オリエンチア多様性のMLS情報を蓄積,診断等のマーカー候補の有用性を検証,実用化が期待できる。また,マウス感作実験で,一部マダニ刺咬症はアレルギー反応が感染症類似症状を示す可能性を得た。さらに各対象疾患の研究を進めつつ,マダニ同定写真アーカイブなど調査研究共通ツールの検討を始めた。
本疾患群は,ダニ媒介という感染形態全体を考えての総合的対応が必要であり,病原体のみならず,ベクターのマダニの生態,地域性,季節性,ホットスポット等,患者対応と同時に,その防除対策のための科学的対応が求められる。また,地域に即した体制は迅速な対応が可能だが,自治体間の差は大きい。実験室診断技術とともに,調査研究の経験値,技術習熟度がデータに影響し,感染源対策に重要な科学的データを得る基となる野外調査でも技術継承と人材育成がポイントである。
近年多くの知見が報告され,一見,体制が強化されたようにみえる。しかし,リケッチアでさえ多様性は増し,この分野の国内の診断・調査体制は脆弱である。今後,死亡例のような不幸な転機となる症例の増加がやはり危惧される。
結論
ダニ媒介性感染症対応には,病原体,ベクター,患者,自然宿主など多角的視点のアプローチ,多様な人材ネットワークで総合的に進める必要がある。基礎的な研究と同時に,感染症発生形態の多様性を俯瞰して柔軟に対応できる,診断・治療・予防対策を科学的に支える人材が全国で不足している。現場教育と人材ネットワークの構築,その人材の活用ポストの確保,維持が重要である。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201318030Z