プロウイルスゲノム破壊による革新的HTLV-1関連疾患発症遅延法の開発

文献情報

文献番号
201318021A
報告書区分
総括
研究課題名
プロウイルスゲノム破壊による革新的HTLV-1関連疾患発症遅延法の開発
課題番号
H23-新興-一般-028
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
駒野 淳(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部ウイルス課)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 誠治(熊本大学 エイズ学研究センター  )
  • 星野 忠次(千葉大学 大学院薬学研究院  )
  • 竹腰 正隆(東海大学 医学部)
  • 武田 哲(国立感染症研究所 エイズ研究センター )
  • 田中 淳(大阪大学 微生物病研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
7,567,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HTLV-1感染症対策には感染者におけるHTLV-1関連疾患の発症遅延法の開発が必要である。治療より発症防止の方が感染者の身体的負担は小さいうえ、社会経済的観点からもメリットがある。ウイルスゲノムを不可逆的に不活化する方法があれば確実に発症遅延が達成できると期待できる。我々はZinc Finger Nuclease(ZFN)技術を応用してウイルスを不可逆的に不活化する方法を開発する。
研究方法
治療分子機能評価に関しては、LTR機能を測定する評価系、プロウイルス除去能の評価系、HTLV-1感染細胞の細胞増殖阻害評価系にてZFNの生物活性を検証した。また、免疫不全マウスにZFNを導入したATL細胞株EDをxenograftingし、腫瘍細胞の生着と増殖を測定することによりZFNの持つATL治療活性をin vivoで評価した。治療分子送達法の開発においては、HTLV-1感染標的であるCD4陽性細胞に特異的分子送達するベクター構築に向けて、ベクター被覆に供する健常人由来のCD4反応性抗体FabクローンHO538-213を抗体工学的にscFvに改変し、抗原反応特異性とエピトープの同定、細胞膜表面発現型誘導体の作出を行った。
結果と考察
世界で始めてHTLV-1プロウイルスを物理的に傷害する機能を有するHTLV-1関連疾患の治療分子開発に成功した。これはZFNを基盤とする分子で、HTLV-1のLTRを特異的に認識してDSBを導入する。治療分子がHTLV-1感染細胞を殺傷する活性とプロウイルスを除去する活性を併せ持つ事を証明した。さらにマウスにおけるATL腫瘍モデルにおいてin vivo治療効果を有する事も明らかにした。治療分子を実用化するためには安全な治療分子デリバリー法の構築に関して、健常人に由来するCD4反応性モノクローナル抗体HO538-213を基盤にレトロ・レンチウイルスベクターで治療分子をHTLV-1の感染標的であるCD4陽性T細胞に効率よく送達する系の構築を試みた。抗体の認識エピトープを明らかにし、抗体が極めて安全性の高い分子である確証を得た。抗体工学によりHO538-213 FabをscFv化し、さらにGPIアンカー型scFvを作出し、これが細胞膜表面にあることを確認した。さらにCD4認識抗体の抗原親和性を向上することにも成功した。
結論
ZFN技術は既に臨床応用で一定の成果を挙げており、安全性に関するハードルが低く、迅速な実用化が期待できる。プロウイルス除去やLTR不可逆的破壊が可能であることが証明され、HTLV-1感染者へ次世代医療の提供を前提とした新たな厚生研究の方向性を示す事ができた。また、根治療法の実用化を念頭においたHTLV-1病理学的基礎研究の方向性の提示にも貢献できた。本研究によって長期間にわたる医療機関への受診や薬剤の長期投与を感染者に要求せずに発症を食い止める「感染者にやさしい発症予防法」の確立が期待される。波及効果として、治療分子送達技術や抗体工学は、HTLV-1感染症領域を超えて遺伝子治療や抗体医薬の領域にも多大な貢献が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201318021B
報告書区分
総合
研究課題名
プロウイルスゲノム破壊による革新的HTLV-1関連疾患発症遅延法の開発
課題番号
H23-新興-一般-028
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
駒野 淳(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部ウイルス課)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 誠治(熊本大学 エイズ学研究センター)
  • 星野 忠次( 千葉大学 大学院薬学研究院  )
  • 竹腰 正隆(東海大学 医学部)
  • 武田 哲(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 田中 淳(大阪大学 微生物病研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HTLV-1感染症対策には感染者におけるHTLV-1関連疾患の発症遅延法の開発が必要である。治療より発症防止の方が感染者の身体的負担は小さいうえ、社会経済的観点からもメリットがある。ウイルスゲノムを不可逆的に不活化する方法があれば確実に発症遅延が達成できると期待できる。我々はZinc Finger Nuclease(ZFN)技術を応用してウイルスを不可逆的に不活化する方法を開発する。
研究方法
治療分子機能評価に関しては、ATL細胞株S1Tに導入した際に得られた耐性細胞におけるHTLV-1 LTRの配列と機能を解析することにより、耐性のメカニズムとその治療効果にあたえる影響に関する研究を行った。また、治療効果の増強と詳細な作用機序を明らかにするためTetOn系を応用したZFNペア同調的発現系の構築を行った。治療分子送達法の開発においては、HTLV-1感染標的であるCD4陽性細胞に特異的分子送達するベクター構築を行うため、ベクター被覆分子として健常人由来のCD4反応性抗体FabクローンHO538-213を抗体工学的に哺乳類細胞の形質膜に発現できるよう遺伝的改変を試みた。
結果と考察
多くの治療分子耐性細胞に由来するLTRクローンはTax依存的転写増大能を維持していたが、転写活性は多くのZFN1/2誘導変異で減弱した。ZFN3/4ではこの長期的治療効果が得られる変異が導入される頻度が低かったうえ、転写活性が著しく増大する変異体も同定された。ZFNの活性をより厳密かつ短期間に評価する実験系の構築を試み、ATL細胞株でTetOn系を利用した同調的ZFNペア発現系の樹立に成功した。膜貫通ドメインまたはGPI anchorドメインを付加することにより、昨年度scFv化した健常人由来CD4反応性モノクローナル抗体HO538-213を哺乳類細胞の形質膜に発現させることに成功した。この誘導体はCD4抗原と反応する活性を維持していることが判明した。
結論
プロウイルスを標的とする治療のメカニズムと治療耐性に関する理解を深める事ができ、今後の治療方法改良にむけた有用なデータを得る事が出来た。世界で初めてヒトモノクローナル抗体をscFvとして細胞膜に発現させる事に成功し、標的細胞特異的な治療分子導入系の構築におおきな成果となった。治療分子とベクター被覆系を統合することにより新たなメカニズムで発症遅延を達成すると同時に、ウイルスを感染者から取り除く技術基盤を提供できるかもしれない。本研究はHTLV-1感染者へ次世代医療の提供を前提とした新たな厚生研究の方向性を示す事ができるほか、根治療法の実用化を念頭においたHTLV-1病理学的基礎研究の方向性の提示という点で厚生行政への貢献が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201318021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
世界で初めてHTLV-1感染症の根治療法の基盤となる技術開発に成功した。治療分子送達技術や抗体工学は、HTLV-1感染症領域を超えて、遺伝子治療や抗体医薬の領域にも多大な貢献が期待できる。
臨床的観点からの成果
発症防止は感染者のQOL維持、医療費軽減の観点から優れたアプローチと思われる。
ガイドライン等の開発
特記すべきことなし。
その他行政的観点からの成果
厚生労働省研究の一環として根治に結びつく研究の推進には大きな意義があると考える。
その他のインパクト
学術論文が世界的権威のあるLeukemia誌において発表された。HTLV-1研究の公開班会議にて成果を報告した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tanaka A, Takeda S, Kariya R, et. al.
A novel therapeutic molecule against HTLV-1 infection targeting provirus.
Leukemia , 27 (8) , 1621-1627  (2013)
10.1038/leu.2013.46

公開日・更新日

公開日
2014-06-10
更新日
2016-06-29

収支報告書

文献番号
201318021Z