神経再生性人工細胞外マトリクスを用いた神経疾患治療法の検討

文献情報

文献番号
201317107A
報告書区分
総括
研究課題名
神経再生性人工細胞外マトリクスを用いた神経疾患治療法の検討
課題番号
H24-神経-筋-若手-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
柿木 佐知朗(独立行政法人国立循環器病研究センター 生体医工学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会の急速な進展に伴い、パーキンソン病などの内因性神経疾患や糖尿病・脳卒中による神経変性疾患などの外因性神経疾患は増加傾向にある。これらに対する治療法として、神経幹細胞移植や末梢神経再生などの組織再生医工学が注目されている。
例えば、神経幹細胞の移植によるパーキンソン病の治療が期待されている(Cell 136(2009)964)。胚性幹細胞(ES細胞)は倫理的問題を抱えていたが、近年、成人皮膚の線維芽細胞から直接、効率良く神経幹細胞を作製する方法も報告され、神経幹細胞移植の臨床応用は目前のごとく期待されている(Stem Cells 30(2012)1109)。しかし実際には、分化能に乏しい細胞の混入や、神経細胞以外の細胞への分化による癌化などが懸念されている。幹細胞は、その細胞外環境に応じて分化が誘導されるため、目的の細胞や組織に効率良く分化誘導するためには適切な細胞外環境の構築が重要である。一方、外因性神経疾患においては、神経再生誘導管が自家神経移植に代わる治療法として期待されている。近年、日本での臨床で使用されている神経再生誘導管は、ポリ乳酸-グリコール酸共重合体の織布でできたチューブ内にコラーゲンスポンジを充填したものである。高純度とはいえ動物由来のタンパク質が用いられていることから生物学的危険性が懸念される。すなわち、内・外因性神経疾患の治療には、神経再生に特化した細胞外環境を構築できるマテリアルの開発が求められている。そこで本研究では、神経再生の足場に特化した人工細胞外マトリクスを作製し、その細胞移植ならび末梢神経再生への応用を検証する。
研究方法
神経再生性人工細胞外マトリクスとして、ラミニン-エラスチン複合人工タンパク質(VP-AG)を大腸菌発現系によって生合成した。VP-AGは、ラミニン-I由来神経突起伸長活性配列(AG73)(J. Biol. Chem. 273(1998)32491)とエラスチンの繰返し配列とを組み合わせたHistag-RKRLQVQLSIRTGRL(VPGIG)30VPLEよりなる。AG-VPとポリL-乳酸(Mw:10kDa)との混合ファイバーをエレクトロスピニング法で作製し、その形状を走査型電子顕微鏡で観察した。さらに、AG-VPとポリL-乳酸の混合ファイバーを内層とする、三層構造の神経誘導チューブ(内径3cm、長さ2.2cm; 内層:AG-VP/ポリL-乳酸、中層:ポリL-乳酸、外層: PEG/ポリL-乳酸)を同じくエレクトロスピニング法で作製し、ウサギ脛骨神経欠損モデル(2cm欠損)へ移植した。移植して3カ月後に電気生理学的評価によって脛骨神経の再生を評価した。
結果と考察
VP-AGをコードした発現用ベクーターで形質転換されている大腸菌を使用して発現誘導後、大腸菌ライセートをHisタグ精製用カラムで精製することで、高純度のAG-VPを得た。このAG-VPは、エレクトロスピニグ法によって容易かつ安定にポリL-乳酸のファイバーへ混合することができた。このファイバーを内層とするチューブを作製し、ウサギ(NZW種)の脛骨神経に作製した欠損部へ両端吻合によって移植した。チューブは、8-0プロリン縫合糸を用いて容易に縫合できる強度を有していた。移植3カ月後に移植箇所を露出させたところ、チューブを移植したものは周辺結合組織の癒着が認められず、容易に剥離できた。比較として作製していた自家神経移植群では、神経の移植箇所が判別できないほど結合組織の癒着が強く、露出させることが不可能であった。ポリ乳酸のみ、もしくはAG73ペプチドを当モル量混合させたファイバーを内層として作製したチューブと比較して、AG-VPを混合させたファイバーを内層とするチューブでは、活動電位ピークの時間(0.15msec)は同様であったが、その強度(0.33mV)と1.5倍ほど亢進していた。
結論
本研究では、エラスチンとラミニンを複合した神経再生性人工細胞外マトリクスであるAG-VPを大腸菌発現システムで作製することができた。さらに、そのAG-VPの末梢神経再生誘導管への応用の可能性を検証するため、ポリL-乳酸との混合ファイバーをエレクトロスピニングで作製した。AG-VPは、均一かつ安定にポリL-乳酸のファイバーに混合されていた。AG-VP混合ポリ乳酸ファイバーを内層とするチューブのウサギ脛骨神経への移植実験では、AG-VPを混合することによって末梢神経の再生が促進されることが分かった。しかし、臨床を考えると、その再生速度ならび再生末梢神経の成熟は不充分であったことから、新たな人工細胞外マトリクスの合成や、配向型神経誘導管の作製など、神経再生を一層促進できる技術の開発が必要であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317107Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,870,000円
(2)補助金確定額
4,871,092円
差引額 [(1)-(2)]
-1,092円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,132,282円
人件費・謝金 0円
旅費 473,690円
その他 145,120円
間接経費 1,120,000円
合計 4,871,092円

備考

備考
支出調整時に生じた消費税等による超過

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-