動脈ラベル標識法(ASL)を用いた精神疾患の脳画像解析法の確立

文献情報

文献番号
201317102A
報告書区分
総括
研究課題名
動脈ラベル標識法(ASL)を用いた精神疾患の脳画像解析法の確立
課題番号
H23-精神-若手-013
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
太田 深秀(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第三部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
1,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の研究により、統合失調症における局所脳変化が明らかとなってきている。また形態学的変化のみならず、これまでSPECTやPETを用いた脳血流検査を対象とした疾患研究でも統合失調症患者における特異な変化が認められている。しかしながら、現状では疾患診断は医師の診察によってのみ行われており、重症度の判定や予測も現症などからのみ判断されてきた。このたび我々はmultimodal euroimagingを用いて大うつ病性障害における変化について注目した。
研究方法
当センターで大うつ病性障害と診断を受けた方27人と年齢、性別を適合させた健常被験者43人および統合失調症患者42人を対象に3TのMRIスキャナにより3D-T1weighted imageとDTI、pCASLによるASLを撮影し、健常群と疾患群における差異を検討した。また、今回のASLの検証にはBPMを用い各ボクセルの皮質容量を共変量に入れることで、局所容積効果による影響を除外した。

(倫理面への配慮)
対象者には検査に関する説明を行い、文書にて同意を得た。
結果と考察
大うつ病性障害患者では帯状回膝下部などにおける脳血流低下を確認しており、PETやSPECTを用いた先行論文で指摘されている障害部位と合致した。この結果は大うつ病性障害患者と統合失調症患者を比較した時も有意であった。

MRIを用いた形態学的な判別分析においても同領域は大うつ病性障害に特徴的な障害領域とされており、帯状回膝下部の血流低下はtraitとして指標に利用できる可能性が示唆された。
結論
大うつ病性障害患者では健常者や統合失調症患者群と比較して帯状回膝下部などにおける脳血流低下を確認しており、PETやSPECTを用いた先行論文で指摘されている障害部位と合致した。帯状回膝下部の血
流低下はtraitとして指標に利用できる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201317102B
報告書区分
総合
研究課題名
動脈ラベル標識法(ASL)を用いた精神疾患の脳画像解析法の確立
課題番号
H23-精神-若手-013
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
太田 深秀(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第三部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の研究により、精神疾患における局所脳変化が明らかになってきている。また形態学的変化のみならず、これまでSPECTやPETを用いた脳血流検査を対象とした疾患研究でも精神疾患患者における特異な変化が確認されている。我々はpseudo-continuous arterial spin labelingを用いた非侵襲的な手法によって精神疾患患者の脳血流変化を検証した。
研究方法
当センターでそれぞれ大うつ病性障害、統合失調症、双極性障害および健常と診断された方を対象に被験者を対象に3TのMRIによりT1強調画像、pCASLによる脳血流画像を撮影した。

 (倫理面への配慮)
対象者には検査に関する説明を行い、文書にて同意を得た。
結果と考察
大うつ病性障害患者では帯状回膝下部などにおける脳血流低下を確認しており、PETやSPECTを用いた先行論文で指摘されている障害部位と合致した。この結果は大うつ病性障害患者と統合失調症患者を比較した時も有意であった。一方統合失調症患者群では左下前頭前野の血流低下が認められており、先行の核医学的手法にて明らかとなった統合失調症における局所脳血流変化と合致した結果であった。

これらの結果はPETやSPECTを用いた先行論文で指摘されている障害部位と合致しており、pCASLによる脳血流検査が従来の核医学検査と同程度の有用性を持つことが示唆された。
結論
平成23年度から始まった当研究では、pCASLの定量解析方法の確立から始まり平成24年度には多発性硬化症や統合失調症の脳血流変化を明らかとした。平成25年度には大うつ病性障害における血流変化を明らかにした。これまでに300名程度の撮像を終了しており、サンプル数の確保としては当初の目的は達成できた。今後は各疾患における重症度判定などの方法論の確立を行いつつ、データーベースの構築などを行う。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201317102C

成果

専門的・学術的観点からの成果
今回我々が導入したpCASLという解析法は従来のcasl、paslといったASLの撮影方法の長所を結びつけた撮影法であり、高い定量性と画像精度を得ることに成功した。また各疾患群を対象に行った検討ではそれぞれ先行するSPECT、PETによるデータと合致した結果を得ることができ、pCASLの有効性が明らかとなった。pCASLの利点としては繰り返しの撮影が可能であることが挙げられる。治療経過における縦断的な検査など、核医学検査では行う事の出来なかった繰り返し検証に応用することが期待される。
臨床的観点からの成果
健常者と比較したところ、大うつ病性障害患者では帯状回膝下部などにおける脳血流低下が認められた。一方統合失調症患者群では左下前頭前野の血流低下が認められた。また大うつ病性障害と統合失調症とを比較した際に、大うつ病性障害に特徴的な帯状回膝下部の血流低下がみとめられた。臨床的には統合失調症と大うつ病性障害はしばしば鑑別が困難な症例がみられることから、MRIによる補助的診断が可能となることは診断の精度、適切な治療の導入といった面で非常に有効である。
ガイドライン等の開発
我々が導入したpCASLによる解析は国立精神・神経医療研究センター内にあるMRIでのみ施行したデータである。今後は他機械においても同様の撮影方法でデータを集積し、そのデータ互換性などを検討し、pCASLの汎用化へとつなげていく。また互換性のあるデータを全国で共有し、そのデーターバンクにおけるデータ解析が行われれば、疾患特異的な局所脳血流の変化パターンを臨床へ還元できるものと思われる。
その他行政的観点からの成果
従来用いられてきたPETやSPECTといった高額な費用が発生する核医学検査の代替案として、MRIの原理のみを用い放射線物質や造影剤などを必要としないpCASLが普及できれば被験者の負担軽減のみならず医療費の削減といった意味で非常に有効である。またうつ病などで認められる特徴的な脳血流変化パターンの特定が行われれば、早期発見・治療といったうつ病対策としても効果を発揮することができる。
その他のインパクト
今回対象とした疾患は精神科疾患が中心であったが、今後同手法は神経変性疾患、特に将来的に患者数が増加していくことが予想される認知症疾患へ応用することが可能である。国内では三番目に多いとされているびまん性レビー小体型認知症ではその診断基準に核医学的手法による画像診断が挙げられており、また抗認知症薬の有効性の検証でも脳画像イメージが利用されることが多い。pCASLの汎用がすすめば認知症疾患の診断や治療反応性の検討なども可能となることが期待される。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ota M, Fujii T, Nemoto K et al
A polymorphism of the ABCA1 gene confers susceptibility to schizophrenia and related brain changes
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry  (2011)
原著論文2
Ota M, Sato N, Nakata Y et al
A pseudocontinuous arterial spin labeling MRI study
Magnetic Resonance Imaging  (2013)
原著論文3
Ota M, Sato N, Nakata Y et al
Multimodal image analysis of sensorimotor gating in healthy women.
Brain Res  (2013)
原著論文4
Ota M, Ishikawa M, Sato N et al
Discrimination between schizophrenia and major depressive disorder by magnetic resonance imaging of the female brain.
J Psychiatr Res  (2013)
原著論文5
Ota M, Ishikawa M, Sato N et al
Pseudo-continuous arterial spin labeling MRI study of schizophrenic patients
Schizophrenia Research  (2014)
10.1016/j.schres.2014.01.035.
原著論文6
Ota M, Sato N, Sakai K et al
Altered coupling of regional cerebral blood flow and brain temperature in schizophrenia compared with bipolar disorder and healthy subjects.
J Cereb Blood Flow Metab  (2014)
原著論文7
Ota M, Noda T, Sato N et al
Characteristic distributions of regional cerebral blood flow changes in major depressive disorder patients: A pseudo-continuous arterial spin labeling (pCASL) study.
J Affect Disord  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2018-06-05

収支報告書

文献番号
201317102Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,060,000円
(2)補助金確定額
6,060,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,432,192円
人件費・謝金 1,704,795円
旅費 218,330円
その他 308,683円
間接経費 1,396,000円
合計 6,060,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-