文献情報
文献番号
201317099A
報告書区分
総括
研究課題名
エピジェネティクス解析に基づいた網膜硝子体疾患に対する病態解明と発症予防および治療法の開発
課題番号
H23-感覚-若手-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
三村 達哉(東京女子医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
1,541,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、眼内組織の老化のメカニズムを明らかにするために、近年DNAの塩基配列に変化なしに遺伝的しかも可逆的に遺伝子機能に変化を及ぼすことが明らかになったエピジェネティクスの観点から、網膜硝子体疾患とエピジェネティクス異常の関係を調べることを目的とする。
研究方法
研究デザインは症例対照研究および前向きコホート研究である。研究の対象は糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、加齢性黄斑変性症を有する患者である。手術時などに、前房水、硝子体液、尿サンプルを採取する。検討項目は以下の6点である。
①術前術後の視力、網膜電位、網膜感度、蛍光眼底造影、黄斑部血流速度、光干渉断層計による評価。
②サンプル中のVEGF、IL-6などのサイトカイン濃度のELISA法による測定。
③次世代シークエンサーによる眼内全遺伝子のエピジェネティクス変化解析。
④抗老化に関与するサーチュイン遺伝子の加齢黄斑変性患者の眼内液(前房水)中の濃度測定。
⑤加齢黄斑変性における解糖系代謝を調べるために、解糖系による糖の酸化で生成する乳酸塩とピルビン酸塩の尿中濃度の測定。
⑥メチル化抑制剤の点眼液の開発と、動物眼における抗加齢効果の評価。
①術前術後の視力、網膜電位、網膜感度、蛍光眼底造影、黄斑部血流速度、光干渉断層計による評価。
②サンプル中のVEGF、IL-6などのサイトカイン濃度のELISA法による測定。
③次世代シークエンサーによる眼内全遺伝子のエピジェネティクス変化解析。
④抗老化に関与するサーチュイン遺伝子の加齢黄斑変性患者の眼内液(前房水)中の濃度測定。
⑤加齢黄斑変性における解糖系代謝を調べるために、解糖系による糖の酸化で生成する乳酸塩とピルビン酸塩の尿中濃度の測定。
⑥メチル化抑制剤の点眼液の開発と、動物眼における抗加齢効果の評価。
結果と考察
研究結果:
(1) 網膜分枝静脈閉塞症の眼内PEDFが黄斑血流量と相関した。
(2) 網膜中心静脈閉塞症の眼内のsICAM-1、IL6、VEGF 1、MCP-1、PTX3と黄斑浮腫程度が相関した。
(3) 網膜中心静脈閉塞症に対するトリアムシノロンの注射によりIL6濃度が低下している症例程、黄斑浮腫が軽減した。
(4)トリアムシノロン硝子体注射により網膜中心静脈閉塞症の網膜感度が上昇した。
(5)黄斑部機能と網膜感度が通常の網膜静脈閉塞よりも黄斑型でより低下した。
(6)硝子体サンプル中のCPG island部位21,693遺伝子とプロモーター部位16,735遺伝子の全遺伝子のメチル化解析を行った結果、メチル化率は網膜症+>>網膜症-であった。
(7)全遺伝子のうち、メチル化率の高い遺伝子上位5種は血管新生/血管内皮増殖の転写因子と低酸素誘導性の転写因子であった。
(8)眼内(前房水)中の抗老化遺伝子であるサーチュイン濃度は加齢黄斑変性のある患者では黄斑変性のない患者よりも低下していた。
(9)加齢黄斑変性患者の尿中乳酸塩濃度は基準値に対し平均872.9%増加し、尿中ピルビン酸塩濃度は基準値に対し平均223.9%増加していた。
(10)加齢黄斑変性症ではミトコンドリア機能を反映する乳酸塩/ピルビン酸塩比は基準値に対して418.3%増加していた。
(11)メチル化抑制剤の動物眼への点眼により老化の指標となる白内障予防効果が得られた。
考察:
(1) 眼内液のサイトカイン濃度の測定は網膜硝子体疾患の予後予測に役立つと考えられる。
(2)メチル化解析により眼内遺伝子のメチル化が網膜症の病態に関与していると考えられる。
(3)血管維持に必要な転写因子のメチル化が、網膜血管障害発症に関与している可能性がある。
(4) 加齢黄斑変性患者で、解糖系とTCAサイクルの中間体であるピルビン酸の増加と、ビルビン酸の還元で産生する乳酸塩が尿中に増加しており、乳酸塩/ピルビン酸塩比が高いことは解糖系におけるATP産生の低下が加齢に影響していると考えられる。
(5)メチル化抑制が眼加齢疾患予防に有用であると考えらえる。
(1) 網膜分枝静脈閉塞症の眼内PEDFが黄斑血流量と相関した。
(2) 網膜中心静脈閉塞症の眼内のsICAM-1、IL6、VEGF 1、MCP-1、PTX3と黄斑浮腫程度が相関した。
(3) 網膜中心静脈閉塞症に対するトリアムシノロンの注射によりIL6濃度が低下している症例程、黄斑浮腫が軽減した。
(4)トリアムシノロン硝子体注射により網膜中心静脈閉塞症の網膜感度が上昇した。
(5)黄斑部機能と網膜感度が通常の網膜静脈閉塞よりも黄斑型でより低下した。
(6)硝子体サンプル中のCPG island部位21,693遺伝子とプロモーター部位16,735遺伝子の全遺伝子のメチル化解析を行った結果、メチル化率は網膜症+>>網膜症-であった。
(7)全遺伝子のうち、メチル化率の高い遺伝子上位5種は血管新生/血管内皮増殖の転写因子と低酸素誘導性の転写因子であった。
(8)眼内(前房水)中の抗老化遺伝子であるサーチュイン濃度は加齢黄斑変性のある患者では黄斑変性のない患者よりも低下していた。
(9)加齢黄斑変性患者の尿中乳酸塩濃度は基準値に対し平均872.9%増加し、尿中ピルビン酸塩濃度は基準値に対し平均223.9%増加していた。
(10)加齢黄斑変性症ではミトコンドリア機能を反映する乳酸塩/ピルビン酸塩比は基準値に対して418.3%増加していた。
(11)メチル化抑制剤の動物眼への点眼により老化の指標となる白内障予防効果が得られた。
考察:
(1) 眼内液のサイトカイン濃度の測定は網膜硝子体疾患の予後予測に役立つと考えられる。
(2)メチル化解析により眼内遺伝子のメチル化が網膜症の病態に関与していると考えられる。
(3)血管維持に必要な転写因子のメチル化が、網膜血管障害発症に関与している可能性がある。
(4) 加齢黄斑変性患者で、解糖系とTCAサイクルの中間体であるピルビン酸の増加と、ビルビン酸の還元で産生する乳酸塩が尿中に増加しており、乳酸塩/ピルビン酸塩比が高いことは解糖系におけるATP産生の低下が加齢に影響していると考えられる。
(5)メチル化抑制が眼加齢疾患予防に有用であると考えらえる。
結論
網膜血管閉塞性疾患において、抗炎症薬物投与により眼内炎症性サイトカインや血管新生促進因子を減らすというエビデンスが証明された。眼内の血管維持に必要な転写遺伝子のメチル化が網膜血管障害ならびに眼加齢に関与していると考えらえた。
公開日・更新日
公開日
2015-05-20
更新日
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