異常タンパク伝播仮説に基づく神経疾患の画期的治療法の開発

文献情報

文献番号
201317087A
報告書区分
総括
研究課題名
異常タンパク伝播仮説に基づく神経疾患の画期的治療法の開発
課題番号
H25-神経-筋-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 成人(公益財団法人東京都医学総合研究所 認知症・高次脳機能研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 野中 隆(公益財団法人東京都医学総合研究所 認知症・高次脳機能研究分野 )
  • 亀谷 富由樹(公益財団法人東京都医学総合研究所 認知症・高次脳機能研究分野 )
  • 秋山 治彦(公益財団法人東京都医学総合研究所 認知症・高次脳機能研究分野 )
  • 細川 雅人(公益財団法人東京都医学総合研究所 認知症・高次脳機能研究分野 )
  • 新井 哲明(筑波大学医学医療系 臨床医学域 精神医学)
  • 高橋 均(新潟大学脳研究所 病態神経科学部門 病理学分野)
  • 藤田 行雄(群馬大学 大学院医学系研究科)
  • 村山 繁雄(東京都健康長寿医療センター研究所 老年病理学研究チーム 神経病理学(ブレインバンク))
  • 吉田 眞理(愛知医科大学加齢医学研究所)
  • 久永 眞市(首都大学東京 理工学研究科 生命科学専攻)
  • 横田 隆徳(東京医科歯科大学 脳神経病態学分野)
  • 小野寺 理(新潟大学脳研究所 生命科学リソース研究センター 分子神経疾患資源解析学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
22,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多くの神経変性疾患には疾患に特徴的な異常蛋白質の病変が認められ、病変の広がりと臨床症状、病状の進行が密接に関係することが示されている。アルツハイマー病(AD)におけるタウ、パーキンソン病(PD)やレビー小体型認知症(DLB)におけるαシヌクレイン(αSyn)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭葉変性症(FTLD)におけるTDP-43などでの病変である。我々は、このような細胞内に生じた異常タンパク質が、正常分子を異常に変換し、細胞から細胞へと伝播することで、脳内に広がり、病気が進行すると考えると神経疾患の病態の主要なメカニズムが説明できると考えている。本研究班は、神経変性疾患の細胞内異常タンパク質がプリオン様の特性をもち、細胞から細胞へ伝播するのか、どのように伝わるのか、制御することはできるかなどの問題について、神経病理学、細胞生物学、神経化学、薬学などを専門とする研究者が集まり、動物モデルの構築、病変進展メカニズムの解明を行い、治療薬、治療法の開発に役立てることを目的とする。
研究方法
患者脳の病理組織標本については,種々の抗体で免疫組織化学染色を行い,神経病理学的解析を行った。また一部は凍結組織からサルコシル不溶性画分を調製し、イムノブロット解析、さらには陽性バンドを切り出してLC/MS/MS解析を行った。全長あるいは部分欠損変異TDP-43を挿入したプラスミドをトランスフェクションし、SH-SY5Y細胞に一過性に発現し、局在や凝集を観察した。凝集核シードを添加する実験では、一過性に全長あるいは欠損TDP-43を発現した細胞に,様々な患者脳より調製した不溶性画分、合成ペプチド等を導入し培養したのち細胞を回収し,免疫組織化学的解析やイムノブロット解析を行った。線維化αSyn、可溶性αSyn、DLB患者脳不溶性画分を野生型マウス脳の黒質に接種し、一定期間の後、半球は固定し、免疫組織染色を、半球はサルコシル可溶、不溶性画分を調製し、イムノブットによる生化学的検討を行った。
結果と考察
TDP-43を発現させた細胞に患者脳由来の異常TDP-43を導入すると、正常TDP-43がリン酸化を受けて細胞内に蓄積すること、また異なる病型のTDP-43を導入すると、導入した異常TDP-43と類似のバンドパターンをとって蓄積することを明らかにした。患者脳由来異常TDP-43のプリオン様の性質は熱やプロテアーゼ消化に対して高度な耐性を示し細胞間を伝播する可能性が示された。ヒトαSyn、マウスαSynを発現、精製、線維化した後、野生型マウスの黒質に接種し、免疫組織染色、生化学的解析を行った結果、接種からわずか90日で異常αSynの病変が観察され、マウスの内在性のαSynが異常に変換されたことが判明した。DLB患者脳不溶性画分をマウスの脳に接種する実験でも、頻度は低いが、同様の病変が認められた。AD脳剖検脳から調製した不溶性タウを解析したところ、RD4のエピトープ内N279に脱アミド化が起こっていること、そのため、RD4の反応性が著しく低いこと、PSPやCBDなどの4Rタウだけが蓄積する疾患においては、N279の脱アミド化の程度は低いことを明らかにした。ヒトαSynとマウスαSyn線維の接種実験の比較を行った結果、マウスαSynの方がヒトαSynよりも効率よく病理を起こさせることも示された。以上の結果は線維化したヒトαSynが種の壁を超えてマウスαSynを異常に変換することを個体レベルで示したものといえる。
結論
患者脳に蓄積する異常TDP-43はプリオン様の性質を有し、細胞内に発現したTDP-43を自身と同じ異常な構造に変換すること、またその責任領域はプリオンと相同性の高い領域の276-414であることが示唆された。TDP-43の発現は制御されており、減少時には2段階の細胞質内TDP-43 mRNAを増加させる量的制御機構がある。FUS異常を伴うALS/FTLDは、国内と欧米では状況が異なるが、TDP-43異常を伴うALS/FTLDとは、病態形成機序やが臨床像に違いがある可能性が示唆された。C9ORF72変異例は国内では少ないが、TDP-43が蓄積するALSと同じ神経病理を示し、翻訳産物であるDPRの蓄積病変が認められた。αSynの蓄積は、PD/DLBで延髄呼吸中枢にも認められ、脊髄は末梢自律神経系・脳幹進展系の下流、一次感覚神経系では逆行性に進行する傾向がある。野生型マウスに線維化αSyn、あるいは患者脳由来のαSynを接種すると内在性のαシヌクレインが異常となり、病変が広がる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201317087Z