アンチセンスによる筋強直性ジストロフィーの治療の最適化

文献情報

文献番号
201317076A
報告書区分
総括
研究課題名
アンチセンスによる筋強直性ジストロフィーの治療の最適化
課題番号
H23-神経-筋-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石浦 章一(東京大学 大学院総合文化研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西野 一三(国立精神・神経医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 筋強直性ジストロフィー1型(DM1)の症状は多様で、筋強直、白内障、耐糖能異常、精巣萎縮、など典型的なものである。これらの症状は、スプライシングが異常になって出現すると考えられている。DM1は、我が国の筋ジストロフィーの中では一番多く、QOLの観点から筋力低下やミオトニアなどの治療法開発が望まれている。
 本症の責任遺伝子は第19染色体にあるDMPKであり、その3’非翻訳領域にあるCTGリピートの伸長が病気の直接の原因である。また、筋強直性ジストロフィー2型(DM2)も発見されたが、これは第3染色体にあるZNF9遺伝子中のイントロン1にあるCCTGリピートの伸長である。また海外の研究結果によれば、伸長したリピートだけを発現させたHSA-LRマウスでも同じ症状が見られることもわかった。その結果、現在では、本症が、伸長したRNAに特定のスプライシング因子が結合し、スプライシング因子本来の機能が果たせないことで起こるという「RNA機能獲得説」が唱えられている。これは、私たちの以前の結果「スプライシング因子MBNL1がDM1とDM2の2つの異なる型の塩基リピートに結合することの発見」が証拠の1つとなっている。
 以前より、バブル・リポソームを用いた導入効率の高いアンチセンス法によって疾患モデル動物のミオトニアを軽減することができていたが、最近、低分子化合物を用いてスプライシングを正常化することも可能になった。最終年度の平成25年度は、アンチセンス治療の最適化に的を絞り、モデル動物を用いた究極の治療法を開発することを目的とした。この目的のために、CTGに対するアンチセンスを用いることにした。
研究方法
 マウス塩素チャネルミニ遺伝子とCTG480コンストラクトを発現させたマウス細胞株Neuro2aに、CTGに対するモルフォリノアンチセンスCAGを、長さを変えて発現させた。この場合、アンチセンスの塩基数は、15、20、25とした。
 次に、バブル・リポソームを用いてHSA-LRマウスTA筋にモルフォリノアンチセンス10㎍を筋注し(1週間おきに3回)、最後の筋注後1週間でTA筋を摘出した。
 最後に、vivo-モルフォリノ修飾を施したCAG15を同様に、バブル・リポソームとともにHSA-LRマウスTA筋に10㎍を筋注して効果を調べた。投与回数は3回とした。
結果と考察
 Neuro2a細胞を用いたアンチセンス実験では、アンチセンスの塩基数が短いほど、塩素チャネル遺伝子のスプライシング正常化効果が認められた。また、HSA-LRマウスに投与する実験でも、CAG15に一番良好な効果が認められた。
 そこで、生体内への浸透性が高いと考えられるCAG15 vivo-モルフォリノを3回、バブル・リポソームとともに筋注した結果、塩素チャネル遺伝子のみならず、SERCA1遺伝子エクソン22のスキップを減少させ正常化する効果が認められた。
 本年度は、長く伸びたCTGに対するアンチセンスの効果を調べた。その結果、アンチセンスの長さが短いほど、細胞とマウス組織で塩素チャネル遺伝子のスプライシングを正常化する効果が認められた。
 本症は、全身性に多くの遺伝子のスプライシングが異常になる病気である。正常化することが必要なのは塩素チャネルのみならず、多くの遺伝子である。私たちは、典型的なスプライシング異常が見られるSERCA1を調べたところ、この遺伝子のスプライシングも正常化することが分かった。
 本研究で用いたCTGに対するアンチセンスCAGは、抜本的に本症の症状を改善する可能性がある。また、前年度までに明らかにした低分子化合物マニュマイシンAと併用することにより、スプライシング正常化効果が増進する可能性があることが示唆された。
結論
 筋強直性ジストロフィーのモデルであるCTGリピートを300含むトランスジェニックマウスHSA-LRに対して、CAGアンチセンスvivo-モルフォリノオリゴは、バブル・リポソームと併用することで効果的な治療法になることがわかった。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201317076B
報告書区分
総合
研究課題名
アンチセンスによる筋強直性ジストロフィーの治療の最適化
課題番号
H23-神経-筋-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石浦 章一(東京大学 大学院総合文化研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西野 一三(国立精神・神経医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 筋強直性ジストロフィー1型(DM1)は筋強直、耐糖能異常、精神遅滞、精巣萎縮、白内障、などを伴う全身性症状を呈する疾患である。原因は、第19染色体にあるDMPK遺伝子の3’非翻訳領域にあるCTGリピートの伸長で、その結果、数多くの遺伝子のスプライシングが異常になって全身症状が出現すると考えられている。その理由は、スプライシング因子MBNL1がリピートRNAに結合し、本来のスプライシング機能が果たせないためである。また本症は我が国の筋ジストロフィーの中では一番多く、筋力低下やミオトニアなどの治療法の開発が望まれており、QOL改善が最大の目標である。
 平成23-25年度の目標は、ヒトDM1治療を見据えて、アンチセンスの効率の良い取り込み法の開発と、アンチセンス自体の改変、そして併用する低分子化合物の選択である。
研究方法
 細胞でのスプライシングアッセイは以下のように行った。まず、塩素チャネルのミニ遺伝子(エクソン6、7a、7でできている短い遺伝子)を用いて、エクソン7aの有無をPCRとゲル電気泳動で行った。エクソン7aを持たない正常型と、エクソン7aを含む異常型の比率は、正常筋では圧倒的に前者が多く、DM筋では後者が増加している。エクソン7a0~25をコードするモルフォリノアンチセンスオリゴを、塩素チャネルのミニ遺伝子とともにCTG300を持つトランスジェニックマウスHSA-LRのtibialis anterior (TA)筋に1回注射した。最後の注射から2日後に、mRNAを抽出し、スプライシング頻度を測定した。
 このとき、モルフォリノオリゴ(10g)はバブル・リポソームとともに筋注した(全30l)。その後、0-3 Wの出力で超音波を0.5-3分照射し、筋内にアンチセンスを導入した。CTGリピートに対するアンチセンス導入に際しては、アンチセンスをvivo-モルフォリノ化して実験に用いた。
結果と考察
(1)バブル・リポソーム法の検討
 バブル・リポソームを用いるデリバリー法は比較的新しく、条件検討が必要であった。本研究では、出力、時間を変化させ、1Wの出力で超音波を1分間照射させることが最適条件であることが分かった。
(2)塩素チャネル遺伝子のスプライシング正常化に関与するアンチセンス配列
 いくつかの配列を検討した結果、最適なアンチセンス配列は、エクソン7aの0~25に対するものであり、これを用いると細胞系では最もエクソン7aスキッピングが起こりやすくなった。アンチセンスによる内因性の塩素チャネル遺伝子のスプライシング正常化機能をPCR法で定量した結果、異常型塩素チャネルのパーセンテージが18%から11%に低下した。これは対照(正常)マウスの10%に近い値であった。またこの時に、筋強直性ジストロフィーでスプライシング異常が指摘されているSERCA1とPdlim3遺伝子の異常型スプライシングの比率は変化させなかった。以上の事実は、アンチセンスが特異的に塩素チャネル遺伝子に作用したことを示していた。
(3)アンチセンス投与による表現型の改善
 エクソン7aの0~25に対するアンチセンスをHSA-LRに投与したところ、ミオトニアが軽減した。動物実験で、初めて表現型改善効果が得られた。
(4)低分子化合物のスクリーニング
 塩素チャネルミニ遺伝子を用いたスプライシング系を使って、正常スプライシングを起こすとルシフェラーゼが発現するコンストラクトを作成した。この系に、Bioactive compounds400種を添加し、光を指標に化合物を探索したところ、マニュマイシンAがスプライシングを正常化することがわかった。また、H-Rasをノックダウンするとスプライシングが正常化することから、H-Rasがこの系に関わっていることが判明した。
(5)CTGに対するアンチセンスの効果
 まず長さを検討した結果、CAGCAG…と続くアンチセンス15merが最も効果が高かった。そこで、vivoモルフォリノ化した15merアンチセンスを、1週間おきに3回に分けてマウスに投与したところ、塩素チャネルだけでなくSERCA1遺伝子のスプライシングも正常化することが分かった。
結論
 筋強直性ジストロフィーのモデルであるCTGリピートを300含むトランスジェニックマウスHSA-LRに対して、私たちが新しく開発したアンチセンスモルフォリノオリゴ配列+バブル・リポソーム法は劇的な治療効果をもたらした。また、併用可能な低分子化合物も見つかった。今後は、CTGに対するアンチセンスの効きを高める修飾法の開発と、どれだけ低分子化合物併用の効果があるか、を検討したい。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201317076C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アンチセンスのデリバリー法としてバブルリポソームを用いたことは目新しい。加えて、低分子化合物によってもスプライシングを変化せることに成功したのは初めてである。
臨床的観点からの成果
塩素チャネル遺伝子のアンチセンスによりミオトニア症状が軽減したことは、将来の臨床応用にとって希望のあるデータであった。
ガイドライン等の開発
本研究は、治療法のなかった難病での初めての治療成功例(動物実験)であり、人体への応用はこれからである。
その他行政的観点からの成果
本研究は、治療法のなかった難病での初めての治療成功例(動物実験)であり、非常に価値が高い。
その他のインパクト
バブルリポソーム法が成功し、サイエンティフィック・リポーツ誌に掲載されたことは、日経新聞に掲載された。また、低分子マニュマイシンによるスプライシング改善についての記者会見の模様はは、ネットで放映された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishiura, S., Kino, Y., Oma, Y.他
MBNL proteins regulate alternative splicing of the skeletal muscle chloride channel CLCN1.
In Fifty years of neuromuscular disorder research after discovery of serum creatine kinase as a diagnostic marker of muscular dystrophy. (Takeda, S. ed.) , 18-25  (2011)
原著論文2
Ohsawa, N., Koebis, M., Suo, S.他
Alternative splicing of PDLIM3/ALP, for <alpha>-actinin-associated LIM protein 3, is aberrant in persons with myotonic dystrophy.
Biochem.Biophys.Res.Commun. , 409 , 64-69  (2011)
原著論文3
Koebis, M., Ohsawa, N., Kino, Y.他
The alternative splicing of myomesin 1 gene is aberrantly regulated in myotonic dystrophy type 1.
Genes to Cells , 16 , 961-972  (2011)
原著論文4
Zhao, Y., Koebis, M., Suo, S.他
Regulation of SERCA1 alternative splicing by PMA through PKC pathway.
Biochem.Biophys.Res.Commun. , 423 , 212-217  (2012)
原著論文5
Oana, K., Oma, Y., Suo, S.他
Manumycin A corrects aberrant splicing of Clcn1 in myotonic dystrophy type 1 (DM1) mice. Scientific Reports
Scientific Reports , 3 , 2142-  (2013)
原著論文6
Koebis, M., Kiyatake, T., Yamaura, H.他
Ultrasound-enhanced delivery of morpholino with bubble liposomes ameliorates the myotonia of myotonic dystrophy model mice.
Scientific Reports , 3 , 2242-  (2013)
原著論文7
Sasagawa, N., Koebis, M., Yonemura, Y.他
A high-salinity solution with calcium chloride enables RNase-free, easy plasmid isolation within 55 minutes.
BioScience Trends , 7 , 270-275  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317076Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,600,000円
(2)補助金確定額
12,600,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 8,239,837円
人件費・謝金 88,800円
旅費 630,740円
その他 733,623円
間接経費 2,907,000円
合計 12,600,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-