青年期・成人期発達障がいの対応困難ケースへの危機介入と治療・支援に関する研究

文献情報

文献番号
201317068A
報告書区分
総括
研究課題名
青年期・成人期発達障がいの対応困難ケースへの危機介入と治療・支援に関する研究
課題番号
H25-精神-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
内山 登紀夫(福島大学 人間発達文化学類)
研究分担者(所属機関)
  • 小野 善郎(和歌山県精神保健福祉センター)
  • 近藤 直司(東京都立小児総合医療センター)
  • 桝屋 二郎(福島大学子どものメンタルヘルス支援事業推進室)
  • 市川 宏伸(東京都立小児総合医療センター)
  • 黒田 安計(さいたま市こころの健康センター)
  • 安藤 久美子(国立精神・神経医療研究センター)
  • 水藤 昌彦(山口県立大学 社会福祉学部)
  • 堀江 まゆみ(白梅学園大学 子ども学部)
  • 太田 達也(慶應義塾大学 法学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
青年期・成人期発達障害の対応困難ケース、とりわけ引きこもりや触法行為,緊急入院が必要なほどの問題行動、自殺関連行動のような深刻な問題を有する発達障害事例への社会的関心が高まり、専門的な支援による予防可能性の検討が喫緊の課題になっている。本研究では、自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder, 以下ASD)および注意欠如多動性障害(ADHD)の青年・成人を対象にして、精神保健福祉機関や医療機関などで対応困難事例がどの程度存在するのか、換言すれば特別に支援を必要としている事例がどの程度存在するかを把握し、どのような支援があれば困難な事態を予防できるのか、再犯防止のためにはどのようなシステムが必要なのかを検討する。
研究方法
以下の3領域にわけて行う。
1.地域保健・精神保健福祉分野における予防と介入方法の検討と利用者の中にどの程度発達障害の対応困難事例が存在するかの検討。
2.対応困難事例の医療機関・矯正施設における治療方法の検討と支援を必要とする対応困難事例数の把握。さらに適切に支援が必要な事例を把握し、リスクアセスメントを行うために発達障害のスクリーニングツール、診断ツール、リスクアセスメントツールの開発。
3.諸外国での発達障害対応困難ケースへの支援状況や支援システムの調査。
結果と考察
地域保健・精神保健福祉分野において対応困難な発達障害児・者の有病率調査を行い、児童福祉領域では調査対象43.0%が発達障害が疑われるなど注目すべき結果が得られた。
また、各種支援機関において発達障害の対応困難例を把握するためスクリーニングツール、診断ツール、リスクアセスメントツールの開発、発達障害を対象にした支援方法、支援システム、スタッフトレーニングの方法の検討を行った。
スクリーニングツールとしてのSCQとADOS日本語版の標準化を行い、妥当性と信頼性について検討し一定の有用性が確認され、臨床場面での活用、発達障害の支援を必要とする人々を適切に把握するための一助としたい。
リスクアセスメントツールの開発では、@PIP-31-verASDは世界初のASDに特化したツールであり、今後有用性を確認し臨床の現場で活用することが望まれる。
支援プログラムの検討においては、物質依存症の治療方法であるCRAFTをひきこもり事例や発達障害特性のある人に応用するための検討を行い、発達障害に適用するには障害特性を考慮したプログラムを新たに加える必要性が明らかになった。我が国の少年院・少年鑑別所においては、ASDとADHDを対象にした処遇プログラムがあり、さまざまな治療的介入が行なわれていることを確認した。これらのプログラムは非公開であるが、一般施設でも有効であると考えられた。今後は法務省とも協力して矯正施設内での試行と一般の支援機関での試行を行い、一般の支援機関でも参考にできるようにしていきたい。
スタッフトレーニングの方法の検討において、英国の保安病棟では障害特性の理解に最も重点が置かれ、SPELL, TEACCH, ABAなどの基本的な支援理念の理解から始まり、ADOSなどの診断ツールの理解、攻撃性の評価などのリスクアセスメントの方法やリスクアセスメントツールの使用、RAIDなどの特定の支援技法の習得などがスタッフに求められていた。また一般精神科開業医を対象にした調査からは相談窓口の要望、簡易対応マニュアルや対応マニュアル動画の作成などが要望されていた。これらを参考に今後、我が国の実情にあったスタッフトレーニングの方法を開発する。
支援システムの検討の結果、我が国においては徳島県や札幌市において、それぞれの地域の特性を活かした支援機関のネットワーク構築が効率的に機能していたこがわかった。海外については韓国と英国の制度を中心に検討し、韓国では保安処分があるなど日本と法体系は大きくことなり、発達障害の概念が刑事施設では十分に浸透していないなどの違いも大きかったが、性犯罪者に特化した認知行動療法や特別な処遇を要する受刑者を集めて1年間にわたるに対する認知行動療法を行うシステムがあるなど参考になる施策があった。英国も軽度・中度・重度の保安病棟があるなど日本とは大きくシステムが異なるがASDに特化した保安病棟があり、ASDの障害特性に配慮した支援がなされていることが注目された。日本においても、同様の支援を必要としているASDの患者はいるはずであるが、十分な実態調査はなされておらず、今後の調査・検討が必要である。
結論
これらの結果を踏まえて、全国に困難事例がどの程度存在するかの推定値を明らかにし、ガイドラインと人材育成プログラムパッケージを作成する。とくに医療機関、精神保健福祉機関、児童福祉機関、矯正施設、教育機関などの施設・領域横断型のネットワークの構築を目指す。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317068Z