統合失調症に対する認知リハビリテーションの開発と効果検証に関する研究

文献情報

文献番号
201317053A
報告書区分
総括
研究課題名
統合失調症に対する認知リハビリテーションの開発と効果検証に関する研究
課題番号
H24-精神-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中込 和幸(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 病院 臨床研究推進部)
研究分担者(所属機関)
  • 花川 隆(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 脳病態統合イメージングセンター 先進脳画像研究部)
  • 菊池 安希子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
  • 池淵 恵美(帝京大学 医学部 精神神経科学教室)
  • 兼子 幸一(鳥取大学 医学部 脳神経医科学講座)
  • 根本 隆洋(東邦大学 医学部 精神神経医学講座)
  • 住吉 太幹(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター)
  • 松元 健二(玉川大学 脳科学研究所)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学 大学院医学系研究科 精神医学・親と子どもの診療学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,800,000円
研究者交替、所属機関変更
職名変更 研究代表者 中込和幸 職名 トランスレーショナル・メディカルセンター 臨床研究支援部長 → 病院 臨床研究推進部長(平成25年10月1日以降) 所属機関異動 研究分担者 住吉太幹 所属機関 富山大学 神経精神医学講座 准教授 → 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 上級専門職(平成25年11月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、第一にわが国における神経認知および社会認知リハビリテーション(以下、リハ)が社会機能、社会的転帰に対する効果の検証を目的とする。第二に、その検証を可能なものとするために生物学的マーカーを含む評価ツールの開発に取り組む。最後に認知リハの効果予測因子として注目されている内発的動機づけの神経基盤を明らかにし、動機づけを向上させる治療戦略を探索する。
研究方法
1.認知リハビリテーションによる介入研究
治療に対する動機づけと関連するメタ認知機能の向上を目指したメタ認知トレーニングについてパイロット無作為化比較試験を実施する。また、神経認知リハ(NEAR)の神経可塑性への影響を検証するため、2-back課題遂行中の近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)で測定した前頭部での脳血液量変化について検証する。
2.評価ツールの開発
総合的な社会認知機能評価尺度(SCSQ)の日本語版を作成し、その基準関連妥当性、生態学的妥当性の検証を行う。また、統合失調症の社会機能的行動の指標として、米国でも注目されているSLOF(Specific Levels of Functioning Scale)の日本語版を作成し、妥当性を検証する。社会機能的能力の評価ツールとして、ロールプレイを用いた対人スキル評価尺度の開発を行う。統合失調症の認知機能評価に汎用されるウィスコンシンカード分類テスト(WCST)、論理記憶に影響を与える因子について検証する。
3.内発的動機づけに関する研究
内発的動機づけに関連する神経活動について、統合失調症患者、健常者を対象に、内発的動機づけを伴うSW/WS課題(Murayamaら、2010)施行中のfMRIを用いて観察し、内発的動機づけに関する神経バイオマーカーを同定し、統合失調症患者における妥当性の検証を行う。また、同じSW/WS課題を用いて、自己決定感が内発的動機づけに関連する神経活動に及ぼす影響について検証する。さらに、内発的動機づけの強弱に寄与する気質の評価として一般的因果律志向性尺度(GCOS)を用いて、統合失調症患者と健常者とで比較を行い、統合失調症における特徴を検証する。
結果と考察
認知リハを用いた介入研究では、NEARが課題負荷による脳血液量変化を増大させることで認知機能が改善する可能性が示唆された。総合的な社会認知の評価ツールとして、日本語版SCSQ-Jの内的一貫性、基準関連・生態学的妥当性を実証した。さらに、統合失調症のエンドフェノタイプの候補として挙げられているWCST、論理記憶検査における交絡因子として、前者については年齢、教育年数、陰性症状、罹病期間、後者については高齢者を対象に検討したところ、年齢が有意な影響を及ぼすことが示された。すなわち、これらの指標を用いるときには、上記交絡因子に対する配慮を要する。社会機能評価尺度であるSLOFについてパイロットデータの段階ではあるが、認知機能、労働時間得点との相関傾向が認められている。内発的動機づけのバイオマーカーとしてSW/WS課題遂行時のfMRI検査で観察される線条体における脳血流変化(SW-WS)が有望な候補である可能性が示唆された。また、自己選択性が失敗に対するネガティブな感情を抑制することで、内発的動機づけや課題成績を向上する可能性が示唆された。一方、統合失調症患者は健常者に比して「外発的動機づけ」や「動機づけられにくさ」に関連する因子得点が高いことから、内発的動機づけより外発的動機づけの影響が強い一方で、なかなか動機づけられないことが示された。
結論
わが国では、統合失調症の社会認知や社会機能を評価するための評価尺度・ツールが不足しているが、本年度の研究成果から、社会認知に関してSCSQについては十分な基準関連妥当性が示され、わが国における統合失調症患者の社会認知を評価するツールとして、今後、研究や臨床場面で活用できるものと思われる。社会機能的行動、社会機能的能力に関する評価ツールであるSLOF、対人スキル評価尺度の作成も進めていく必要がある。一方、従来認知機能評価に汎用されてきた神経心理検査であるWCSTについて、今回明らかとなった交絡因子に配慮する必要性が示された。また、高齢者に論理記憶テストを用いる際には、より高年齢層においても、年齢ごとに層化した群を用いた検討が必要である。さらに、本研究成果から、外発的動機づけに比して内発的動機づけが困難であることが明らかにされた。内発的動機づけを評価する上で主観的報告に加えて、動機づけに関連するバイオマーカーを用いた評価法を確立することは、効果的なリハの開発に寄与するものと思われる。また、認知リハ(NEAR)による前頭部の活性化が可視化されることによって、効果評価に新たな客観的な評価ツールが加わり、多面的な評価が可能となった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201317053Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,440,000円
(2)補助金確定額
11,440,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,999,370円
人件費・謝金 3,662,223円
旅費 1,041,012円
その他 1,097,395円
間接経費 2,640,000円
合計 11,440,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
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