精神科救急医療における適切な治療法とその有効性等の評価に関する研究

文献情報

文献番号
201317047A
報告書区分
総括
研究課題名
精神科救急医療における適切な治療法とその有効性等の評価に関する研究
課題番号
H23-精神-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 弘人(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健所 社会精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 八田 耕太郎(順天堂大学医学部附属練馬病院)
  • 杉山 直也(公益財団法人復康会 沼津中央病院)
  • 奥村 泰之(一般財団法人医療経済研究・社会福祉協議会 医療経済研究機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の精神科救急医療における最適な治療のあり方に資する方策を薬物療法、行動制限および強制治療の領域で明らかにすることを目的とし、精神科救急医療における薬物療法と行動制限に関する診療ガイドライン等に反映させることを目指す。研究1:精神病性障害急性期薬物療法に関する精神科救急医療現場の多施設共同ランダム化臨床試験(八田研究分担者)では、抗精神病薬早期治療反応不良例に対する方略を検証する。研究2:行動制限最小化のためのモニタリング等を用いた有効手法の検証と普及手段の確立(杉山研究分担者)では、臨床指標を活用して各最小化手法による介入効果を検証し、わが国の臨床現場における有効な手法の確立を目指すことを目的とする。研究3:精神科救急における強制治療に関する研究(奥村研究分担者)では、統合失調症初回入院患者における意思決定共有モデルの治療満足度への有効性を無作為化比較試験により検討する。
研究方法
研究1:精神科救急学会所属の精神科救急入院料病棟14病院を実施機関とし、精神科救急入院する統合失調症 統合失調症様障害、統合失調感情障害の患者(DSM-IV-TR 295.xx)を対象とし、多施設共同評価者盲検ランダム化臨床試験(RCT)を行った。当該施設の倫理委員会で承認を受け、インフォームドコンセントを得て実施した。平成23年度で実施したオランザピン(OLZ)やリスペリドン(RIS)の高用量の有効性の検討から、抗精神病薬の切替と併用の有効性の検討を平成24-25年度において実施している。研究2:平成23年度より実施している行動制限最小化に関する研究 (介入研究) では、日本精神科看護技術協会の協力を得て、同協会が定める行動制限最小化認定看護師らが所属する共同研究機関において、米国で成果を上げている行動制限最小化手法であるコア戦略をわが国の臨床環境にて実施可能な介入手法として提示し、各病棟(以下、介入病棟)で実践したうえ、介入中および介入前後の行動制限施行量、スタッフおよび退棟患者の認識調査を行い、各介入方法の有効性を検証した。研究3:精神科救急入院料病棟に入院した患者の中から、初回入院症例に対し、入院時診断が統合失調症関連疾患(ICD-10のF2)ならびにBPRSで中等度以下と分類されることを適格基準として、介入群と通常診療群に無作為に割り付ける。1週間毎に、①患者の治療への認識調査、②患者と医療従事者の合同ミーティング、③情報共有のための治療計画書の作成を繰り返し実施し、退院時の治療満足度、退院時の薬物療法に対する態度、退院6か月後の治療継続率を調査した。
結果と考察
研究1:RISおよびOLZともに、併用群は切替群よりPANSS総点の40%以上改善例が多かったが有意差には至らなかった (RISに対するENR:切替8%vs.併用29%,P=0.33;OLZに対するENR:切替25%vs.併用50%,P=0.38)。治療中止までの時間も、それぞれ併用群と切替群とで直接的な有意差は検出できなかったものの、OLZに対するENRでは、切替群より併用群が間接的に優った (対早期反応良好群:切替P=0.008,併用P=0.20) 。PANSS総点の推移でも、OLZに対するENRで併用群が切替群より改善に優る傾向を示した。研究2:23施設36病棟において本研究の介入・調査を実施した。コア戦略に基づく介入実施による隔離・身体拘束施行量の変化、認定看護師への電話調査から、15病棟において最終的に介入が有効と評価された。また、介入手法のうち有効率が高かった手法は、施行数の数値目標(83.3%)、タイムアウト(66.7%)、個別の「行動制限最小化計画」(56.3%)、師長会で定期的に見直す(50.0%)、開始直後の振り返り(50.0%)の順であった。SOAS-Rを用いた患者の攻撃的行動の検討においてスタッフが攻撃対象となることが多く、被害状況として脅威をいだいた点は先行研究と共通していた。また、精神科病棟の風土に関する調査から、看護師の安全性への実感の低さが示された。研究3:研究実施と介入の標準化のために、病棟スタッフによるコアチームを形成し、対象患者の査定、参加スタッフのトレーニング、介入スケジュールと質のマネージメントを行った。
結論
本研究は、薬物療法や行動制限の最適化に必要な診療報酬等の施策等の提示が可能となる。とりわけ、精神科救急医療ガイドライン改定版(2014年版)を作成するためのエビデンスおよび現実的かつ良質で合理的な治療について実際の臨床現場へ反映できる他、学術団体が行う普及等により、全国的な医療の質の向上に資することが期待できる。また、国民へ最善の医療を提供し、国民福祉に寄与する財産としての意義を示している。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
-

文献情報

文献番号
201317047B
報告書区分
総合
研究課題名
精神科救急医療における適切な治療法とその有効性等の評価に関する研究
課題番号
H23-精神-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 弘人(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健所 社会精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 八田 耕太郎(順天堂大学医学部附属練馬病院)
  • 杉山 直也(公益財団法人復康会 沼津中央病院)
  • 奥村 泰之(一般財団法人医療経済研究・社会保健福祉協会 医療経済研究機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の精神科救急医療における最適な治療のあり方に資する方策を薬物療法、行動制限および強制治療の領域で明らかにすることを目的とする。研究1:精神病性障害急性期薬物療法に関する精神科救急医療現場の多施設共同ランダム化臨床試験(八田研究分担者)では、(臨床疑問1)オランザピン(OLZ)やリスペリドン(RIS)の高用量は有効性および(臨床疑問2)抗精神病薬の切替えと併用の有効性を検証した。研究2:行動制限最小化のためのモニタリング等を用いた有効手法の検証と普及手段の確立(杉山研究分担者)では、臨床指標を活用して各最小化手法による介入効果を検証し、わが国の臨床現場における有効な手法を開発する。3年間を通して、①人的資源投入量に関する研究、②研修パッケージの開発、③行動制限最小化に関する介入研究、④フィンランドで開発されたe-Learningを用いた教育手法であるePsychoNurse.Netの国内紹介、⑤米国の全米州精神保健局長協議会が行う研修プログラムの分析を実施した。研究3:精神科救急における強制治療に関する研究(奥村研究分担者)では、統合失調症初回入院患者における意思決定共有モデルの治療満足度への有効性を無作為化比較試験により検討する。
研究方法
研究1:精神科救急入院料病棟14病院を実施機関とし、精神科救急入院する統合失調症等の患者(DSM-IV-TR 295.xx)を対象とし、多施設共同評価者盲検ランダム化臨床試験を実施した。(臨床疑問1)RISまたはOLZをランダム割付けし、薬剤の上限をそれぞれRIS12mg,OLZ40mgに設定し、8週間観察した。(臨床疑問2)入院時、RISまたはOLZを担当医の判断で投与開始し、2週後に反応良好例はそのまま継続し、反応不良例は切替えあるいは併用のランダム割付けをしてさらに10週間、計12週間観察した。研究2:①11精神科病院の急性期病棟医療チームを対象とし、想定事例を提示し、インタビュー形式でケアの内容や時間の聞き取りを実施した。②「コア戦略」を基本とした研修パッケージを開発し、実際に研修を実施して受講前後での調査により研修効果を確認した。③日本精神科看護技術協会の協力を得て、行動制限最小化認定看護師らが所属する共同研究機関において、米国で成果を上げている行動制限最小化手法をわが国の臨床環境にて実施可能な介入手法を実施し、行動制限施行量、スタッフおよび退棟患者の認識調査を行い、各介入方法の有効性を検証した。④開発者であるフィンランド・トゥルク大学のスタッフから、説明と資料提供を受けた。⑤コア戦略に基づく行動制限最小化に関する研修に参加し意見交換を行った。研究3:精神科救急入院料病棟への入院患者のうち初回入院症例に対し、入院時診断が統合失調症関連疾患ならびにBPRSで中等度以下を適格基準として、介入群と通常診療群に無作為に割付け、1週間毎に、①患者の治療への認識調査、②患者と医療従事者の合同ミーティング、情報共有のための治療計画書の作成を繰り返し実施し、退院時の治療満足度、退院時の薬物療法に対する態度、退院6か月後の治療継続率を調査する。
結果と考察
研究1:(臨床疑問1)高用量可としてもOLZ(n=22)とRIS(n=20)との間で治療中止に至る時間の差は認められなかった。注目すべき点はOLZの通常量への早期反応不良例(ENR)において、高用量投与に移行した5例の20mg投与時点での血清濃度は、既に有効濃度の20ng/mLを超えていたことであり、抗精神病薬への早期治療反応不良が薬物動態の問題でないことを示している。(臨床疑問2)RISに対するENRでも、OLZに対するENRでも、切替えより併用の方がPANSS総点40%以上の改善を示した患者が多い傾向にあった。研究2:①全国11病院で調査を実施した。非都市部の5病院において、人的資源投入量と隔離日数の逆相関がみられた。②研修の前後で受講者の認識が適切な方向へ変化する効果を認めた。③隔離・身体拘束施行量の変化および認定看護師への電話調査から、15病棟において最終的に介入が有効とされ、「施行数の数値目標・タイムアウト・個別の行動制限最小化計画の立案・師長会でデータを定期的に見直す・開始直後のデブリーフィング」の5つの介入手法の有効性が認められた。④ePsychoNurse.Netが、わが国には見られない教育プログラムであることが明らかになった。⑤コア戦略の具体的な実践手法が明らかになった。研究3:研究と介入の標準化のために病棟スタッフによるコアチームを形成し、対象患者の査定、参加スタッフのトレーニング、介入スケジュールと質のマネージメントを行った。
結論
本研究は、精神科救急医療のガイドラインの改定とそのネットワークの維持および医療の質の向上につながると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201317047C

成果

専門的・学術的観点からの成果
八田研究分担者の成果は、理想的な研究デザインによる実施が困難な統合失調症の救急・急性期薬物療法の臨床において、国内唯一かつ国際的に稀有な精神科救急医療の多施設共同RCTによる現場感覚と実証性を並立させる研究となった。また、杉山研究分担者の成果は行動制限モニタリングツールを用い、本領域では困難とされる実証的な手法により有効な質向上を評価する一助となった。奥村研究分担者の成果は国際的に見ても意思決定共有モデルの無作為化比較試験は少なく、統合失調症の初回入院患者を対象とすることは世界初の試みであった。
臨床的観点からの成果
八田研究分担者の成果は急性期治療における早期治療反応不良例に対して必ずしも切替が優れているわけでなく、やむをえない場合の2剤併用も正当化できる可能性を示唆している。杉山研究分担者の成果は行動制限最小化に対するコア戦略を基調とした介入手法の有効性が認められた病棟があり、わが国特有の医療体制の中においても一定の可能性と有用性が期待される。奥村研究分担者の成果は、医療従事者が長期間の訓練を不要としかつ介入を簡易的に行うことが可能であり、治療満足度と治療継続率向上に寄与することが期待される。
ガイドライン等の開発
八田研究分担者の成果は、精神科救急医療ガイドライン改定版(2014年版) を作成するための基盤となった。改定を続ける精神科救急医療ガイドラインとそのネットワークの維持によって国民に最善の医療を提供することが可能となる。
その他行政的観点からの成果
杉山研究分担者の成果は、行動制限最適化等の課題に向けた具体的な手法として有用な臨床活動へ提示できるとともに、学術団体が行う普及等によって、全国的な医療の質向上に寄与できる。奥村研究分担者の研究は、他の施設でも運用可能なモデルを提示することにより、「精神科救急医療体制の充実」「精神医療の質の向上」といった行政上の課題に寄与できる。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ito H, Okumura Y, Higuchi T, et al.
International variation in antipsychotic prescribing for schizophrenia: Pooled results from the research on East Asia psychotropic prescription (reap) studies
Open Journal of Psychiatry , 2 (4A) , 340-346  (2012)
10.4236/ojpsych.2012.224048
原著論文2
Hatta K, Otachi T, Sudo Y, et al.
A comparison between augmentation with olanzapine and increased risperidone dose in acute schizophrenia patients showing early non-response to risperidone
Psychiatry Research , 198 (2) , 194-201  (2012)
10.1016/j.psychres.2012.01.006
原著論文3
Hatta K, Takebayashi H, Sudo Y, et al.
The possibility that requiring high-dose olanzapine cannot be explained by pharmacokinetics in the treatment of acute-phase schizophrenia
Psychiatry Research , 210 (2) , 396-401  (2013)
10.1016/j.psychres.2013.07.005
原著論文4
泉田信行, 野田寿恵, 杉山直也, 他
隔離室入室期間に投入される人的資源に関する研究 - コストおよび行動制限最小化の視点から
精神医学 , 54 (8) , 801-809  (2012)
原著論文5
野田寿恵, 安齋達彦, 杉山直也, 他
精神保健福祉資料 (630調査) を用いた隔離・身体拘束施行者数の分析
精神医学 , 54 (3) , 317-323  (2012)
原著論文6
Noda T, Sugiyama N, Ito H, et al.
Secluded/restrained patients' perception of their treatment: validity and reliability of a questionnaire.
Psychiatry and Clinial Neurosciences , 66 (5) , 397-404  (2012)
10.1111/j.1440-1819.2012.02350.x
原著論文7
Noda T, Nijman H, Sugiyama N, et al.
Factors affecting assessment of severity of aggressive incidents: using the Staff Observation Aggression Scale - Revised (SOAS-R) in Japan
Journal of Psychiatric and Mental Health Nursing , 19 (9) , 770-775  (2012)
10.1111/j.1365-2850.2011.01838.x
原著論文8
Sato M, Noda T, Sugiyama N, et al.
Characteristics of aggression among psychiatric inpatients by ward type in Japan: Using the Staff Observation Aggression Scale-Revised (SOAS-R)
International Journal of Mental Health Nursing  (2016)
10.1111/inm.12228

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
2018-06-05

収支報告書

文献番号
201317047Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,850,000円
(2)補助金確定額
5,850,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 667,444円
人件費・謝金 1,477,559円
旅費 798,600円
その他 1,556,397円
間接経費 1,350,000円
合計 5,850,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
-