前庭水管拡大症の臨床所見と遺伝子変異解析に基づく新診断基準作成

文献情報

文献番号
201317028A
報告書区分
総括
研究課題名
前庭水管拡大症の臨床所見と遺伝子変異解析に基づく新診断基準作成
課題番号
H23-感覚-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
喜多村 健(東京医科歯科大学 大学院 医歯学総合研究科 耳鼻咽喉科学)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 郁(慶應義塾大学 耳鼻咽喉科)
  • 中島 務(名古屋大学 耳鼻咽喉科)
  • 宇佐美 真一(信州大学 耳鼻咽喉科)
  • 岡本 牧人(北里大学 耳鼻咽喉科)
  • 暁 清文(愛媛大学 耳鼻咽喉科)
  • 福田 諭(北海道大学 耳鼻咽喉科)
  • 佐藤 宏昭(岩手医科大学 耳鼻咽喉科)
  • 山岨 達也(東京大学 耳鼻咽喉科)
  • 福島 邦博(岡山大学 耳鼻咽喉科)
  • 原 晃(筑波大学 耳鼻咽喉科)
  • 横山 徹爾(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,907,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では、前庭水管拡大症の多様な臨床所見と原因遺伝子に基づき、亜分類を含む新しい診断基準作成を目標とする。この新分類により、それぞれの症例に応じた聴平衡覚障害進行の予後に関するカウンセリングを可能とした。
研究方法
 本研究の目的を達成するために、前庭水管拡大症に関する調査研究と遺伝学的検査を行った。調査研究は、分担研究者を含む全国調査であり、疾患、遺伝学的検査、臨床所見に関する3項目により構成した。調査対象は、大学附属病院、耳鼻咽喉科研修認定施設とした。
 遺伝学的検査に関しては、検査に対して書面による同意が得られた症例を対象に行った。末梢血液10mlからDNAを抽出し、ターゲットとする遺伝子の翻訳領域とエキソン・イントロン境界をPCR法により増幅した。得られたPCR産物を直接シークエンス法により解析した。ターゲットとする遺伝子は、SLC26A4(DFNB4/Pendred症候群の原因遺伝子)、EYA1、SIX1(BOR/BO症候群の原因遺伝子)、ATP6V1B1、ATP6V0A4(遠位尿細管性アシドーシスの原因遺伝子)とした。これらの調査研究から、前庭水管拡大症に占める各原因遺伝子別の疾患の頻度、各疾患の臨床所見の特徴を明らかとし、亜分類を含めた前庭水管拡大症の新しい診断基準の作成を目標とした。
 トランスジェニックマウスにSLC26A4ノックアウトマウスをかけ合わせることで、SLC26A4のinsufficient モデルを作成し、内耳形態と聴覚を解析した。
結果と考察
前庭水管拡大症について、新しい診断基準を作成し、聴平衡覚障害の予後に関して、この診断基準に基づくカウンセリング作成を最終目標とし、平成23年度に疫学1次調査、次年度から2次調査を施行し、377例(男性157例、女性215例、不明5例)を集積し臨床データを解析した。その結果、女性にやや多く、10歳未満で87%が発症し、90%が難聴を主訴とし、難聴の悪化・変動は58%であった。一方、改善が15例、不変が131例、合わせて146例(39%)の症例では、難聴の増悪はみられなかった。めまいは、回転性ならびに浮動性めまいが198例(65%)に見られたが、160例(55%)では、めまいの自覚はなかった。遺伝子解析では、SLC26A4変異は非症候群性前庭水管拡大症の約80%、Pendred症候群の約90%に同定され、多くの前庭水管拡大症の原因遺伝子はSLC26A4であった。
聴覚ならびに平衡障害と前庭水管拡大の程度の相関は乏しく、前庭水管拡大が必ずしも、難聴発症の必要条件ではなかった。遺伝子解析では、SLC26A4変異が最多であった。SLC26A4のinsufficient モデルの解析から、難聴の発現は、前庭水管拡大の有無でなく、内耳の発生段階でのSLC26A4発現時期に由来すると判明した。
 以上から、前庭水管拡大症の聴平衡障害の重症度は、前庭水管の拡大の解剖学的特徴でなく、原因遺伝子の機能障害由来と推測され、原因遺伝子に基づいた診療が重要であると判明した。
結論
1)全国の651対象施設に一次調査用紙を送付し、502施設(77.1%)から回収し、二次調査では、377例(男性157例、女性215例、不明5例)が集積され、臨床データを解析した。
2)女性にやや多く、10歳未満で87%が発症し、90%が難聴を主訴とし、難聴の予後は58%で悪化・変動する。しかし、BOR/BO症候群では5例中1例のみで難聴の進行が見られた。
3)SLC26A4変異は非症候群性前庭水管拡大症の約80%、Pendred症候群の約90%に同定され、多くの前庭水管拡大症はSLC26A4が関与していた。今回の調査ではPendred症候群以外の症候群性前庭水管拡大症は少数であった。

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201317028B
報告書区分
総合
研究課題名
前庭水管拡大症の臨床所見と遺伝子変異解析に基づく新診断基準作成
課題番号
H23-感覚-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
喜多村 健(東京医科歯科大学 大学院 医歯学総合研究科 耳鼻咽喉科学)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 郁(慶應義塾大学 耳鼻咽喉科)
  • 中島 務(名古屋大学 耳鼻咽喉科)
  • 宇佐美 真一(信州大学 耳鼻咽喉科)
  • 岡本 牧人(北里大学 耳鼻咽喉科)
  • 暁 清文(愛媛大学 耳鼻咽喉科)
  • 福田 諭(北海道大学 耳鼻咽喉科)
  • 山岨 達也(東京大学 耳鼻咽喉科)
  • 福島 邦博(岡山大学 耳鼻咽喉科)
  • 原 晃(筑波大学 耳鼻咽喉科)
  • 横山 徹爾(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
前庭水管拡大症の多様な臨床所見と原因遺伝子に基づき、亜分類を含む新しい診断基準の作成である。
研究方法
本研究の目的を達成するために、前庭水管拡大症に関する調査研究と遺伝学的検査を行った。調査研究は、分担研究者を含む全国調査であり、疾患、遺伝学的検査、臨床所見に関する3項目により構成した。疾患に関しては、遺伝形式、合併症の有無などを調査し、非症候群性遺伝性難聴(優性、劣性、孤発)、Pendred症候群、BOR/BO症候群、遠位尿細管性アシドーシス、これらに属さない症候群性難聴に分類し、国立保健医療科学院所属の分担研究者が中心になって、本疾患の受療者数ならびに罹患者数の推計を計画した。また、遺伝学的検査が施行されている症例については原因遺伝子を調査し、前記疾患分類の情報として活用した。臨床所見に関しては、(1)臨床症状(難聴の進行や変動の有無、めまいの性質や頻度、症状悪化時の誘因の有無など)、(2)検査所見(経時的なオージオグラムと眼振所見、温度眼振検査所見など)、(3)CTにおける前庭水管中間径、(4)治療内容を調査した。調査対象は、大学附属病院、耳鼻咽喉科研修認定施設とした。
 遺伝学的検査に関しては、検査に対して書面による同意が得られた症例を対象に行った。末梢血液10mlからDNAを抽出し、ターゲットとする遺伝子の翻訳領域とエキソン・イントロン境界をPCR法により増幅した。得られたPCR産物を直接シークエンス法により解析した。ターゲットとする遺伝子は、SLC26A4(DFNB4/Pendred症候群の原因遺伝子)、EYA1、SIX1(BOR/BO症候群の原因遺伝子)、ATP6V1B1、ATP6V0A4(遠位尿細管性アシドーシスの原因遺伝子)とした。これらの調査研究から、前庭水管拡大症に占める各原因遺伝子別の疾患の頻度、各疾患の臨床所見の特徴を明らかとし、亜分類を含めた前庭水管拡大症の新しい診断基準の作成を目標とした。
 トランスジェニックマウスにSLC26A4ノックアウトマウスをかけ合わせることで、SLC26A4のinsufficient モデルを作成し、内耳形態と聴覚を解析した。
結果と考察
1) 全国の651対象施設に一次調査用紙を送付し、502施設(77.1%)から回収し、二次調査では、377例(男性157例、女性215例、不明5例)が集積され、臨床データを解析した。
2) 女性にやや多く、10歳未満で87%が発症し、90%が難聴を主訴とし、難聴の予後は58%で悪化・変動する。しかし、BOR/BO症候群では5例中1例のみで難聴の進行が見られた。回転性めまいを118例(291例中41%)、浮動性めまいを70例(291例中24%)に認めた。めまいなしは286例中160例(55%)であった。375例中、難聴が進行・変動したのは220例(58%)、解析した286例中、めまいありは、121例(45%)で、約半数の症例では、難聴の増悪がなく、めまいも見られなかった。
3) SLC26A4変異は非症候群性前庭水管拡大症の約80%、Pendred症候群の約90%に同定され、多くの前庭水管拡大症にはSLC26A4が関与していた。
4) 聴覚ならびに平衡障害と前庭水管拡大の程度の相関は乏しく、前庭水管拡大が必ずしも、難聴発症の必要条件ではなかった。
5) SLC26A4のinsufficient モデルの解析から、難聴の発現は、前庭水管拡大の有無でなく、内耳の発生段階でのSLC26A4発現時期に由来すると判明した。
結論
前庭水管拡大症の聴平衡障害の重症度は、前庭水管の拡大の解剖学的特徴でなく、原因遺伝子の機能障害由来と推測され、原因遺伝子に基づいた診療が重要であると判明した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201317028C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 多様な臨床所見を呈する前庭水管拡大症は、前庭水管拡大が必ずしも、難聴発症の必要条件ではなく、遺伝子解析では、SLC26A4変異が最多であった。SLC26A4のinsufficient モデルの解析から、難聴の発現は、前庭水管拡大の有無でなく、内耳の発生段階でのSLC26A4発現時期に由来すると判明した。
臨床的観点からの成果
 前庭水管拡大症は、約半数の症例で、難聴の増悪はみられなかった。さらに、約半数の症例では、めまいの自覚はなかった。聴覚ならびに平衡障害と前庭水管拡大の程度の相関は乏しく、前庭水管拡大症の聴平衡障害の重症度は、前庭水管の拡大の解剖学的特徴でなく、原因遺伝子の機能障害由来と推測され、原因遺伝子に基づいた診療が重要であると判明した。
ガイドライン等の開発
 診療ガイドラインは作成準備段階である。
その他行政的観点からの成果
 聴覚障害者のコミュニケーション障害の予後に、前庭水管拡大症は遺伝子解析が重要な役割を果たすことを同定した。
その他のインパクト
 387例の前庭水管拡大症例の臨床データを集積し、我が国での始めての疫学データを示すことが出来た。

発表件数

原著論文(和文)
71件
原著論文(英文等)
213件
その他論文(和文)
112件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
0件
多数
学会発表(国際学会等)
0件
多数
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Noguchi Y, Ito T, Nishio A, etal.
udiovestibular findings in a branchio-oto syndrome patient with a SIX1 mutation.
Acta Otolaryngol , 131 (4) , 413-418  (2011)
原著論文2
Iwata T, Yoshida T, Teranishi M, et al
Influence of dietary iodine deficiency on the thyroid gland in Slc26a4-null mutant mice.
Thyroid Res. , 4 (1) , 10-  (2011)
原著論文3
Tagaya M, Yamazaki M, Teranishi M,
Endolymphatic hydrops and blood-labyrinth barrier in Ménière's disease.
Acta Otolaryngol. , 131 (5) , 474-479  (2011)
原著論文4
Sumi T, Watanabe I, Tsunoda A, et al
Longitudinal study of 29 patients with Meniere’s disease with follow-up of 10 years or more (In commemoration of Professor Emeritus Isamu Watanabe).
Acta Otolaryngol. , 132 , 385-390  (2012)
原著論文5
Takahashi N, Tsunoda A, Shirakura S, et al
Anatomical feature of the middle cranial fossa in fetal periods: possible etiology of superior canal dehiscence syndrome.
Acta Otolaryngol. , 132 , 10-15  (2012)
原著論文6
Kato T, Nishigaki Y, Noguchi Y, et al
Extended screening for major mitochondrial DNA point mutations in patients with hereditary hearing loss.
J Hum Genet  (2012)
10.1038/jhg.2012.109
原著論文7
Kato T, Fuku N, Noguchi Y, et al
Mitochondrial DNA haplogroup associated with hereditary hearing loss in a Japanese population.
Acta Otolaryngol. , 132 , 1178-1182  (2012)
原著論文8
Usami S, Nishio S, Nagano M, et al
Simultaneous screening of Multiple Mutations by Invader _assay Improves Molocular Diagnosis of Hereditary Hearing Loss.
A Multicenter Study , 7 (2) , e31276-  (2012)
原著論文9
野口佳裕,伊藤卓,川島慶之, et al.
前庭水管拡大症を伴うSLC26A4, ATP6V1B1, SIX1変異例の聴平衡覚所見の検討.
Equilibrium Res , 72 (2) , 97-106  (2013)
原著論文10
Okamoto Y, Mutai H, Nakano A, et al
Subgroups of enlarged vestibular aqueduct in relation to SLC26A4 mutations and hearing loss.
Laryngoscope , 18  (2013)
10.1002/lary.24368
原著論文11
Nishio A, Noguchi Y, Sato T, et al
A DFNA5 Mutation Identified in Japanese Families with Autosomal Dominant Hereditary Hearing Loss.
Ann Hum Genet  (2014)
doi: 10.111/ahg.12053
原著論文12
野口佳裕,籾山直子,高橋正時,et al
軽度難聴の急性感音難聴症例の検討.
Audiology Japan , 57 , 63-710  (2014)
原著論文13
Kimura Y, Makino N, Sawabe M, et al
Temporal bone histopathology case of the month. Histopathologic findings of an aberrant internal carotid artery in the temporal bone with fatal complication.
Otol Neurotol , 36 , e150-e152  (2015)
原著論文14
Noguchi Y, Fukuda S, Fukushima K, et al
A Nationwide Study on Enlargement of the Vestibular Aqueduct in Japan
Auris Nasus Larynx , 44 , 33-39  (2017)

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
2018-06-05

収支報告書

文献番号
201317028Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,679,000円
(2)補助金確定額
7,679,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,454,939円
人件費・謝金 309,974円
旅費 491,940円
その他 1,650,357円
間接経費 1,772,000円
合計 7,679,210円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
-