文献情報
文献番号
201317025A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい人工内耳(EAS)に関する基礎的、臨床的研究
課題番号
H23-感覚-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
山岨 達也(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
- 宇佐美 真一(信州大学 医学部耳鼻咽喉科学教室)
- 熊川 孝三(虎の門病院 耳鼻咽喉科・聴覚センター)
- 高橋 晴雄(長崎大学 大学院 医歯薬学総合研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野)
- 東野 哲也(宮崎大学 医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科)
- 内藤 泰(神戸市立医療センター中央市民病院 耳鼻咽喉科)
- 工 穣(信州大学 医学部耳鼻咽喉科学教室)
- 岩崎 聡(信州大学 医学部附属病院人工聴覚器学講座)
- 土井 勝美(近畿大学 大学院医学系研究科耳鼻咽喉科)
- 坂田 英明(目白大学 保健医療学部耳鼻咽喉科・リハビリテーション科)
- 伊藤 健(帝京大学 医学部耳鼻咽喉科)
- 安達 のどか(埼玉県立小児医療センター 耳鼻咽喉科)
- 柿木 章伸(東京大学 医学部附属病院耳鼻咽喉科)
- 鈴木 光也(東邦大学医療センター佐倉病院 耳鼻咽喉科)
- 近藤 健二(東京大学 医学部附属病院耳鼻咽喉科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
両側高度感音難聴のうち低音域に残聴のある高音急墜型感音難聴症例に対する治療の1つとして、新しい人工内耳(EAS)が海外で臨床応用されている。しかし、子音の周波数成分が英語などに比べ低音域側に存在する日本語を話す日本人において、海外で推奨される手術適応基準をそのまま応用することは問題である。低音域に残聴をもつ高音急墜型感音難聴症例の補聴器装用効果、EASおよび通常の人工内耳の術後成績を比較し、日本における適応基準を設定する事を第一の目的とした。またEASでは残存聴力の温存が必要であるが、本邦では術後の聴力温存に関するデータがない。聴力温存を意図して手術を行い、聴力温存成績を得ること、さらに聴取成績に影響する因子を明らかにすることを第二の目的とした。人工内耳術後聴力は手術時の障害のみでなく、免疫応答などの遅発性障害、基底板振動障害も影響しうる。聴力温存を意図した電極技術・薬剤開発を行う事を第三の目的とした。
研究方法
EAS術後の聴力温存と聴取成績については、信州大学、神戸市立医療センター中央市民病院、宮崎大学、長崎大学で高度医療「残存聴力活用型人工内耳挿入術」を施行した症例のうち術後6ヶ月以上経過した症例を対象に術前後の聴力閾値の変化に関する検討を行った。ばらつきはあるものの全例で術後6カ月までは残存聴力の温存が可能であり、人工内耳電極の挿入による平均的な聴力閾値の上昇は術後6カ月には125Hzで10.5dB、250Hzで15.1dB、500Hzで27.2dB、1000Hzで13.8dBであった。また装用閾値に関しては、全周波数域で、30〜40dBの閾値が得られており、術前と比較して高音部の聴取の改善が著しかった。その後、宮崎大学において、低音部に残聴を有し、聴力温存を意図して電極挿入をした12例で検討したところ、挿入深度を基底回転一周に留めた7例では全例で残存聴力を温存し得たが、それ以上の深さで挿入した5例においては2例が聾となったことが判明し、蝸牛回転の全長に渡る挿入には一定のリスクを伴うことも明らかとなった。
結果と考察
日本語話者における有効性に関して、残存聴力活用型人工内耳装用症例を対象に日本語聴取能の比較を行った結果、術前の補聴器装用下での語音弁別能が平均26.8%(67-S・65dBSPL・静寂下)、音入れ後1ヶ月で平均44.5%、3ヶ月で59.8%、6ヶ月で63.7%と大幅な改善を認めた。電気刺激単独(ES条件)と電気刺激・音響刺激併用時(EAS条件)の比較を行った結果、静寂環境では併用時において日本語弁別能が高く、雑音下でも併用時のほうが高い語音弁別能力を示す事が明らかとなった。
高音急墜型感音難聴の原因検索としてEASの聴力像を満たす139例について、主要な遺伝子を直接シーケンス法で解析した結果、26%に遺伝子異常が見つかった。EAS手術を実施した症例ではCDH23遺伝子変異、Mitochondria 1555A>G変異等を同定した。全蝸牛神経形成不全症における高音障害型感音性難聴の割合は、36例中3例(8.33%)であった。
高音急墜型感音難聴小児例への対応として、ミトコンドリア3243点変異による高度難聴を呈した6歳の小児に対し、既存補聴器を併用した聴力保存型人工内耳埋め込み手術を行った。右耳の既存補聴器と人工内耳併用によって、聴取のみで、CI-2004幼児用3語文で100%、同学童用3~5語文で90%の聴取が可能となり、左補聴器とのbimodal聴取が可能となった。術後17カ月目では125、250、500Hzの3周波数の域値上昇の平均値は6.7dBにとどまり、既存補聴器を用いることでEAS専用スピーチプロセッサの音響刺激機能を補完できることが判明した。
聴力温存を意図した電極は、MPC polymerでcoatingを行った。モルモット蝸牛に埋め込みを行ったが、電極の操作性はcoatingありの方が良く、挿入も容易であった。ABRの術後4カ月の経時的測定ではpolymer塗布の有無はABRの域値に影響せず、polymer電極群ではダミー電極群に対し蝸牛基底回転頂部の外有毛細胞生存率が有意に高く、また蝸牛基底回転底部のラセン神経節細胞密度が有意に高値であり、より侵襲性が低いことが判明した。
高音急墜型感音難聴の原因検索としてEASの聴力像を満たす139例について、主要な遺伝子を直接シーケンス法で解析した結果、26%に遺伝子異常が見つかった。EAS手術を実施した症例ではCDH23遺伝子変異、Mitochondria 1555A>G変異等を同定した。全蝸牛神経形成不全症における高音障害型感音性難聴の割合は、36例中3例(8.33%)であった。
高音急墜型感音難聴小児例への対応として、ミトコンドリア3243点変異による高度難聴を呈した6歳の小児に対し、既存補聴器を併用した聴力保存型人工内耳埋め込み手術を行った。右耳の既存補聴器と人工内耳併用によって、聴取のみで、CI-2004幼児用3語文で100%、同学童用3~5語文で90%の聴取が可能となり、左補聴器とのbimodal聴取が可能となった。術後17カ月目では125、250、500Hzの3周波数の域値上昇の平均値は6.7dBにとどまり、既存補聴器を用いることでEAS専用スピーチプロセッサの音響刺激機能を補完できることが判明した。
聴力温存を意図した電極は、MPC polymerでcoatingを行った。モルモット蝸牛に埋め込みを行ったが、電極の操作性はcoatingありの方が良く、挿入も容易であった。ABRの術後4カ月の経時的測定ではpolymer塗布の有無はABRの域値に影響せず、polymer電極群ではダミー電極群に対し蝸牛基底回転頂部の外有毛細胞生存率が有意に高く、また蝸牛基底回転底部のラセン神経節細胞密度が有意に高値であり、より侵襲性が低いことが判明した。
結論
結論として、EASの術後聴力温存率は高いが、一定の閾値上昇も見られ、特に電極の挿入深度には注意が必要と思われた。ただ裸耳聴力の一定の閾値上昇があっても、EASの術後聴取成績の向上は明らかであり、本邦においてもEASは極めて有用な人工聴覚機器であることが確認された。聴力温存を意図したMPCポリマーコーティング電極は特性などに支障がなく、動物実験でも少なくとも非劣性が明らかとなり、内耳障害を軽減する上で重要な選択肢と考えられる。
公開日・更新日
公開日
2015-05-20
更新日
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