文献情報
文献番号
201315060A
報告書区分
総括
研究課題名
入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究
課題番号
H24-循環器等(生習)-指定-022
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
堀 進悟(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 鈴木 昌(慶應義塾大学 医学部 )
- 福永 龍繁 (東京都観察医務院 )
- 新保 卓郎(国立国際医療研究センター医療情報解析研究部)
- 川平 和美(鹿児島大学大学院リハビリテーション医学分野)
- 猪熊 茂子(日本赤十字社医療センター アレルギー・リウマチ科)
- 宮田 昌明(鹿児島大学大学院循環器・呼吸器・代謝内科学分野)
- 佐藤 文子(東海大学法医学教室・東京都監察医務院(非常勤監察医))
- 山崎 健太郎(山形大学法医学講座)
- 神田 芳郎(久留米大学法医学・人類遺伝学講座研)
- 伊香賀 俊治 (慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高齢者の入浴中急死が増加している。このため、関連3学会が調査を行い、その結果について共同討議し、原因究明と予防対策を立案する。
研究方法
日本法医学会は学会アンケートの解析、日本温泉気候物理医学会は学会アンケートの解析、温泉地における入浴関連事故、通所リハビリ患者の温泉入浴前後の血圧と体温変化、日本救急医学会は入浴関連事故アンケート(救急隊、病院)の解析と入浴時の体温シミュレーションを行った
結果と考察
原因究明について: 日本法医学会の調査結果は以下であった。対象となった死亡例の半数には疾病の関与を疑い、その疾病は動脈硬化が多く、その中に冠動脈狭窄が含まれ、脳血管障害はごく一部(6%程度)であった。残る半数は疾病の関与しない溺死で、その一部(13%)にアルコールや眠剤の関与が推測されたが、残りは原因不明であった。日本温泉気候物理医学会の調査結果は以下であった。学会アンケートは質的情報が多く、死亡が高齢者に多く、場所は浴槽内が多いなど、従来から知られた情報で、死因検索に有用な情報はなかった。温泉地の入浴事故調査では、入浴中死亡と死亡以外の事故との発生比率が日本救急医学会の示したデータよりも著しく低いことから、温泉地の集団入浴(事故の早期発見)が死亡を減少させる可能性が示された。通所リハビリ患者の入浴観察から、入浴中あるいは出浴時の血圧低下(起立性低血圧)が入浴事故に関与する可能性が示された。日本救急医学会の調査結果は、入浴中に意識障害となり出浴できなくなる傷病者(救助群)が浴槽内で心肺停止となる傷病者に匹敵する規模で存在する(1200:900)ことを示した。これらの傷病者における器質的疾患の関与は、一部(7%)に脳出血を認めるのみで、大多数に脳や心臓の器質的疾患は診断されなかった。そして救助群の半数は病院搬送後に帰宅を許可されていた。体温シミュレーションは、長時間入浴により体温が上昇し、熱中症をおこす危険な体温まで上昇することを示した。
以上をまとめると、①日本法医学会の調査は半数近くに心疾患の関与、一部に脳血管障害の関与、一部にアルコールや眠剤の関与、半数は原因不明の溺死、②日本温泉気候物理医学会の調査(集団入浴が死亡事故を減少させる、血圧低下の関与)は器質的疾患以外に死亡を誘発する因子の関与を示唆、③日本救急医学会の調査は熱中症が浴槽内死亡の原因である可能性を示し、一部(7%)に脳血管障害の関与を示した。
解剖所見の動脈硬化や冠動脈高度狭窄の意義付けについて、偶発所見か、死因かが熱心に討議された。しかし、最終的に解釈の一致をみなかった。意見の一致に至らなかった理由には、学会間の専門性の差(思考過程、日常業務で接する病態の差)も関与すると考えられた。日本法医学会は、半数近くが器質的疾患による死亡とする立場、日本温泉物理機構医学会は器質的疾患の関与を否定できないとする立場、日本救急医学会は死因のほとんどが熱中症とする立場であった。以上から、本研究班では、入浴中の浴槽内死亡に器質的疾患(心疾患、脳血管障害)と環境障害(熱中症)の両者が関与するとのコンセンサスを決定した。コンセンサス(意見調整)の性格上、両者の割合を厳密に決めることは出来ないが、器質的疾患の関与は半数以下の可能性が高い。
予防対策に関しては、学会間に意見の差はなく、長時間、高水温の入浴を避けること、日本気候物理医学会の推奨してきた安全な入浴(40度以下10分)の採用、声掛け入浴など事故の早期発見を促す方法の採用、などが討議された。また出浴の際の転倒予防、起立性低血圧の発生予防に注意を促す配慮も三学会の賛同を得た。これらの意見をもととして、安全な入浴のためのパンフレットが作成され、作成過程で三学会の委員の意見が反映する措置が取られた。
以上をまとめると、①日本法医学会の調査は半数近くに心疾患の関与、一部に脳血管障害の関与、一部にアルコールや眠剤の関与、半数は原因不明の溺死、②日本温泉気候物理医学会の調査(集団入浴が死亡事故を減少させる、血圧低下の関与)は器質的疾患以外に死亡を誘発する因子の関与を示唆、③日本救急医学会の調査は熱中症が浴槽内死亡の原因である可能性を示し、一部(7%)に脳血管障害の関与を示した。
解剖所見の動脈硬化や冠動脈高度狭窄の意義付けについて、偶発所見か、死因かが熱心に討議された。しかし、最終的に解釈の一致をみなかった。意見の一致に至らなかった理由には、学会間の専門性の差(思考過程、日常業務で接する病態の差)も関与すると考えられた。日本法医学会は、半数近くが器質的疾患による死亡とする立場、日本温泉物理機構医学会は器質的疾患の関与を否定できないとする立場、日本救急医学会は死因のほとんどが熱中症とする立場であった。以上から、本研究班では、入浴中の浴槽内死亡に器質的疾患(心疾患、脳血管障害)と環境障害(熱中症)の両者が関与するとのコンセンサスを決定した。コンセンサス(意見調整)の性格上、両者の割合を厳密に決めることは出来ないが、器質的疾患の関与は半数以下の可能性が高い。
予防対策に関しては、学会間に意見の差はなく、長時間、高水温の入浴を避けること、日本気候物理医学会の推奨してきた安全な入浴(40度以下10分)の採用、声掛け入浴など事故の早期発見を促す方法の採用、などが討議された。また出浴の際の転倒予防、起立性低血圧の発生予防に注意を促す配慮も三学会の賛同を得た。これらの意見をもととして、安全な入浴のためのパンフレットが作成され、作成過程で三学会の委員の意見が反映する措置が取られた。
結論
入浴中急死の原因。入浴中急死の多くは浴槽内で発生し、高齢者に多く、冬季に多い。急死の原因には、器質的疾患によるものと、熱中症によるものとの二つの病態が存在する。前者は、冠動脈硬化など心臓病や脳血管障害(一部)が死因であり、入浴中に心臓発作から心肺停止に至り、あるいは脳血管障害のために出浴不能となって死亡する。後者では器質的疾患は関与せず、アルコールや眠剤による長時間入浴が体温上昇をもたらし、あるいはアルコールなどの関与がなくとも長時間入浴による体温上昇が意識障害(熱中症の症状)をもたらして出浴が不能となり、その結果、入浴がさらに遷延して体温上昇がさらに高度となり、ショック(熱中症の症状)のために死に至る。
予防対策として、安全な入浴(40度以下、10分以内)を励行して高温入浴、長時間入浴を避けること、見守り入浴や声掛け入浴による早期発見、さらにメデイアを通じた社会への啓蒙が有用である。
予防対策として、安全な入浴(40度以下、10分以内)を励行して高温入浴、長時間入浴を避けること、見守り入浴や声掛け入浴による早期発見、さらにメデイアを通じた社会への啓蒙が有用である。
公開日・更新日
公開日
2015-09-07
更新日
-