妊娠を起点とした将来の女性および次世代の糖尿病・メタボリック症候群発症予防のための研究 

文献情報

文献番号
201315037A
報告書区分
総括
研究課題名
妊娠を起点とした将来の女性および次世代の糖尿病・メタボリック症候群発症予防のための研究 
課題番号
H24-循環器等(生習)-一般-017
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
荒田 尚子(国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター母性内科)
研究分担者(所属機関)
  • 安日 一郎(国立病院機構長崎医療センター 産婦人科)
  • 宮越 敬(慶應義塾大学 医学部 産婦人科)
  • 和栗 雅子(大阪府立母子保健総合医療センター 母性内科)
  • 坂本 なほ子(順天堂大学医学部 公衆衛生学教室)
  • 堀川 玲子(国立成育医療研究センター 生体防御系内科部 内分泌・代謝科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
妊娠を起点とした糖尿病発症ハイリスクグループに焦点を当てることによって、女性の糖尿病発症予防のための検診制度を確立する。
研究方法
初年度に行った妊娠糖尿病(GDM)・妊娠高血圧症候群(PIH)の産後フォローに関する全国調査から、プライマリ・ケア医によるフォローが重要と考えられたため、産後フォローアップを推進する研修プログラムを作成し、実施した。次に、日本人妊娠糖尿病既往女性の産褥早期の耐糖能異常の発症と関連する妊娠母体のリスク因子を検討し、産褥早期の耐糖能指標に授乳が与える影響について検討した。また、妊婦の出生時の母子健康手帳のデータを用いて妊娠中の血圧、尿蛋白、尿糖、分娩週数、児の出生体重などの妊娠時の情報と約20~45年後の女性の長期健康予後との関連を明らかにした。さらに、日本人妊婦において、既知の糖尿病関連候補遺伝子(計13遺伝子)について多型情報を取得し、妊娠糖尿病との関連を検討した。最後に、児の生後の発育・代謝に対する妊娠中の母体および児のビタミンDの関与を検討した。
結果と考察
一般内科医のための産後フォローアップを推進する研修プログラムを作成し、第7回日本プライマリ・ケア連合学会・秋季生涯教育セミナー(2013年11月、大阪)で実際に参加型セミナーを実施した。一般医における意識の現状を把握することができ、産科医や妊娠にかかわる内科医から一般医への連携が重要であることが明らかとなった。
また、分担研究者の施設において、169例のGDM既往女性において、産直後(産後1~3か月以内)の糖代謝異常には妊娠中のインスリン治療が強く関連し(オッズ比5.6; 3.1)、GDM診断時のインスリン初期反応低値(insulinogenic index 0.04未満)(オッズ比3.4)も関連することを明らかにし、GDM既往女性のうち、特にインスリン治療を要した女性と診断時のインスリン初期反応低値の女性は特に耐糖能異常発症ハイリスク群としてフォローアップする必要があることを示した。さらに、263例のGDM既往女性において、産後早期の時点での完全母乳は非完全母乳群に比較してインスリン感受性と膵β細胞機能を改善させることを示し、GDM既往女性での授乳の利点を明らかにした。
母子手帳を用いた妊娠中の血圧値やPIH発症、尿蛋白、尿糖、児出生時体重や早産の有無と25~45年後の女性の高血圧や糖尿病、脳血管障害や虚血性心疾患、腎臓病などの健康状態の関連について480女性を対象に解析し、PIHと脳卒中の既往・現病と関連が見られ(オッズ比3.4)、収縮期血圧が高いことは高血圧のリスクを高くし(オッズ比2.1)、尿糖はその後の糖尿病発症と、尿蛋白はその後の腎臓病と関連していることを明らかにすることができた。
日本人妊婦728名(うちGDM:174名)を対象に2型糖尿病関連候補遺伝子(計14 遺伝子)の一塩基多型(SNP)解析を行い、インベーダー法を用いてアレルの塩基配列を同定した。日本人2型糖尿病関連候補遺伝子の全てがGDMと関連しているわけではないこと、解析遺伝子の一つであるHematopoietically expressed homeobox はGDMと正常耐糖能でアレル頻度差を示すことを明らかにすることができた。
さらに、生後1歳の児の発育・代謝に対する妊娠中母体および児のビタミンDの関与を検討し、児の臍帯血の血中ビタミンDは、妊娠時の母体と生後1歳時の血中ビタミンD濃度と正相関を示すが、1歳時の血中ビタミンD濃度は児の成長・代謝因子に対する有意な影響は認めなかった。
結論
妊娠糖尿病の既往者の産褥早期の耐糖能異常発症と関連するリスク因子として、妊娠中のインスリン分泌低下や妊娠中のインスリン治療が独立した関連因子であることが明らかになり、同時に授乳を行うことが、日本人においてもインスリン感受性や膵β細胞機能を改善させ、糖代謝異常発症の予防効果も期待できる結果であった。また、母子手帳調査により、妊娠中の尿糖陽性、蛋白尿、血圧高値が、産後25~45年後の糖尿病、高血圧発症、さらには、腎臓病や脳卒中と関連することが明らかにしたこと等から、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などの既往女性をハイリスク群としてフォローアップすることは有効な生活習慣病の第一次予防の方法として有用である可能性を示唆することができた。また、そのフォローアップの方法として、プライマリ・ケア医への啓蒙が有効な手段の一つとして期待された。最終年度は、産後3年から15年の糖尿病既往女性の糖尿病発症の現状を中心に解析を行い、最終的な糖尿病既往女性のフォローアップ指針を作成する予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-09-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-07
更新日
-

収支報告書

文献番号
201315037Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,000,000円
(2)補助金確定額
10,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,697,805円
人件費・謝金 2,013,399円
旅費 1,271,498円
その他 1,711,214円
間接経費 2,307,000円
合計 10,000,916円

備考

備考
研究遂行のため英文校正、消耗品を発注した際、配分額に対し916円不足したため自己資金で充当した。

公開日・更新日

公開日
2015-10-13
更新日
-