文献情報
文献番号
201315017A
報告書区分
総括
研究課題名
急性期脳卒中への内科複合治療の確立に関する研究
課題番号
H23-循環器等(生習)-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 一則(国立循環器病研究センター 脳血管内科)
研究分担者(所属機関)
- 苅尾 七臣(自治医科大学 循環器内科)
- 上山 憲司(中村記念病院 脳神経外科)
- 古井 英介(広南病院 脳血管内科)
- 塩川 芳昭(杏林大学 脳神経外科)
- 長谷川泰弘(聖マリアンナ医科大学 神経内科)
- 奥田 聡(国立病院機構名古屋医療センター 神経内科)
- 藤堂 謙一(神戸市立医療センター中央市民病院 神経内科)
- 木村 和美(川崎医科大学 脳卒中医学 )
- 岡田 靖(国立病院機構九州医療センター脳血管センター脳血管内科)
- 山上 宏(国立循環器病研究センター 脳神経内科)
- 古賀 政利(国立循環器病研究センター 脳卒中集中治療科)
- 有廣 昇司(国立循環器病研究センター 脳卒中集中治療科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
7,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
血栓止血学治療と危険因子管理は脳卒中内科治療の根幹を成す。両治療とも薬剤や治療手技の選択肢が増えてきたが、急性期脳卒中患者への治療意義は未だ確立していない。本研究では、脳卒中超急性期から急性期における血栓止血学治療法と危険因子積極的管理の相乗作用を確かめ、これらの複合治療法を確立するためのエビデンスを構築することを目的とする。
研究方法
本研究者らが携わった循委BAT研究、厚労科研平成20~22年度SAMURAI研究などの国内多施設共同研究は抗血栓療法や脳卒中急性期治療の日本独自の状況を明らかにし、海外からも一定の評価を得た。とくに平成20~22年度SAMURAI研究で構築した研究組織を活用し、これらの研究を発展させて、地域の偏りなく選ばれた国内多施設共同の観察研究を企画し、国内の疾病構造の特徴を加味した全国に普遍化できる研究を遂行する。平成20~22年度SAMURAI研究から継続した「rt-PA患者登録研究」と「超急性期脳出血への降圧療法に関する研究」に加え、平成23年度より新たに取り組んだ「心房細動を伴う脳梗塞・一過性脳虚血発作患者の抗凝固薬選択と治療成績に関する研究(SAMURAI-NVAF研究)」で、H25年度は多くの成果を得た。この研究方法を、UMIN(000006930)、ClinicalTrials.gov (NCT 01581502)で国内外に公表した。
結果と考察
「rt-PA患者登録研究」と「超急性期脳出血への降圧療法に関する研究」の成果は、H23-25年度総合報告に詳記した。SAMURAI-NVAF研究は非弁膜症性心房細動を有する急性期脳梗塞・一過性脳虚血発作患者における抗凝固療法の選択内容によって、脳梗塞再発や副作用としての出血イベントを含めた急性期転帰と2年間の長期転帰にどのような差異が生じるかを、明らかにする。全国18施設で前向きに患者を登録し、約1200例のデータベースを構築した。患者の背景要因と急性期~慢性期における抗血栓治療内容と、急性期および2年間の追跡期間中の転帰、虚血・出血イベントを調べる。本稿執筆時点の解析では、登録患者の背景要因として、8%が発症前CHADS2スコア0、25%が同スコア1と相対的な低リスク群であったこと、39%で発症前に心房細動が診断されていなかったこと、発症前の経口抗凝固薬服用率は既知NVAF患者の50%、今回同定されたNVAF患者の5%、全体では33%であり、一次予防としての抗凝固が不十分であること等を示した。急性期死亡例を除いて退院時抗凝固薬を調べると、ワルファリンが63%と依然多いが、同薬の頻度は継時的に減少傾向にあった。新規経口抗凝固薬(novel oral anticoagulant: NOAC)服用者はワルファリン服用者と比べて若年で軽症であり、腎機能障害が少なかった。急性期病院在院日数中央値は、初期重症度や退院時自立度で調整した後もNOAC患者が短かった。退院時に抗凝固療法をうけ3ヶ月後追跡調査が有用な624例において、観察期間(中央値95日)における虚血イベントは17例(ワルファリン 14例、NOAC 3例)で、その発生率はワルファリン 6.31%/年、NOAC 2.81%/年であり、出血イベントは17例(ワルファリン 14例、NOAC 3例)で、各々 6.20%/年、2.75%/年であった。今後2年間をかけて、登録全例の追跡を行う。関連研究として行われた「急性期脳出血患者への抗凝固療法再開に関する多施設共同観察研究」では、2010年4月から2011年6月にワルファリン内服中に発症した急性期脳出血53例を登録し、その85%で脳出血発症直後にINR補正が行われたこと、そのうち28%で抗凝固療法が再開されなかったこと、発症後1年間に出血性合併症が10%、血栓・塞栓性合併症が22%に発生したこと等を明らかにした。関連研究として行われた「新規抗凝固薬服用中の重症出血合併症への止血治療に関する研究」では、このような合併症に対するプロトロンビン複合体製剤を用いた止血治療の有効性と安全性を解明するための観察研究を行った。
結論
血栓溶解療法、降圧療法、抗凝固療法という脳卒中の3つの基本的な治療法について、血栓止血学治療法と危険因子管理を融合させる治療法開発の新知見を得た。研究成果をホームページや市民公開講座、医療関係者向けの公開シンポジウムで発表し、また研究成果の英語論文化に努めるなど、情報発信にも注力した。
公開日・更新日
公開日
2015-09-07
更新日
-