文献情報
文献番号
201314013A
報告書区分
総括
研究課題名
肝癌発症リスク予測システムに基づいた慢性C型肝炎に対する個別化医療の導入及びゲノム創薬への取り組み
課題番号
H23-がん臨床-一般-015
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
松田 浩一(東京大学 医科学研究所、シークエンス技術開発分野)
研究分担者(所属機関)
- 谷川 千津(東京大学 医科学研究所、シークエンス技術開発分野 )
- 加藤 直也(東京大学 医科学研究所 付属病院)
- 小池 和彦(東京大学 医学部付属病院 消化器内科学)
- 溝上 雅史(国立国際医療センター 肝炎・免疫研究センター)
- 徳永 勝士(東京大学 大学院医学系研究科 人類遺伝学教室 )
- 高橋 篤(理化学研究所 統合生命科学研究センター 統計解析チーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
19,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
肝癌は癌による死亡原因の第4位で、その内約70%がHCVの感染に起因している。HCVに暴露後約70%の症例は慢性肝炎を発症しさらに肝硬変・肝癌となるが、肝障害が軽微で推移する患者も多く個人差が大きいのが特徴である。我々はMICAの遺伝子多型がHCV陽性肝癌の発症リスクを2倍高める事、また高リスク群であるAAタイプではGGタイプより血中MICA濃度が低くなる事を明らかとした。NK細胞はNKG2D受容体を介してMICAを高発現する腫瘍細胞・ウイルス感染細胞を認識し、殺細胞効果を発揮する。我々の研究成果より、血中MICAが肝癌発症リスクのバイオマーカーとなる事、さらにはNKG2D-MICA経路の活性化が発癌予防につながる可能性が示された。
本研究では、これまでの知見を元に、慢性C型肝炎患者における発癌リスク予測システムの構築と検証、及びMICAの活性化による肝癌予防法・治療薬の開発(ゲノム創薬)を目的とする。
本研究では、これまでの知見を元に、慢性C型肝炎患者における発癌リスク予測システムの構築と検証、及びMICAの活性化による肝癌予防法・治療薬の開発(ゲノム創薬)を目的とする。
研究方法
1. 比較対照研究による肝癌、肝硬変発症リスク予測システムの構築
共同研究機関において:慢性C型肝炎、HCV陽性肝硬変、HCV陽性肝癌症例の収集を進める。
また東京大学医科学研究所の症例を中心にゲノムワイドのSNPタイピングを行なう。健常者のデータと比較する事で慢性C型肝炎、HCV陽性肝硬変、HCV陽性肝癌の発症リスクに関する因子を検討する。
2. 慢性肝炎・肝癌患者におけるMICAの制御機構の解析とゲノム創薬に向けた研究
MICAのHCV関連疾患における生理的意義について、分子生物学的な手法により以下の項目を検討する。まずHCV感染によるMICAの発現誘導機構の解明と遺伝子多型の影響を検討する。またMICAの活性化による肝癌治療・予防法の開発に向けて、MICAの発現を誘導可能な化合物をスクリーニングする。
共同研究機関において:慢性C型肝炎、HCV陽性肝硬変、HCV陽性肝癌症例の収集を進める。
また東京大学医科学研究所の症例を中心にゲノムワイドのSNPタイピングを行なう。健常者のデータと比較する事で慢性C型肝炎、HCV陽性肝硬変、HCV陽性肝癌の発症リスクに関する因子を検討する。
2. 慢性肝炎・肝癌患者におけるMICAの制御機構の解析とゲノム創薬に向けた研究
MICAのHCV関連疾患における生理的意義について、分子生物学的な手法により以下の項目を検討する。まずHCV感染によるMICAの発現誘導機構の解明と遺伝子多型の影響を検討する。またMICAの活性化による肝癌治療・予防法の開発に向けて、MICAの発現を誘導可能な化合物をスクリーニングする。
結果と考察
共同研究機関合計で、慢性C型肝炎患者8000名、HCV陽性肝硬変2500名、HCV陽性肝癌患者2200名のサンプルを収集した。これらの症例を用いて、慢性C型肝炎から肝硬変への進展と関連する遺伝因子を探索する目的で、HCV陽性肝硬変患者682名、慢性C型肝炎患者943名を用いて約60万箇所の遺伝子型を決定し、相関解析を行った。強い関連を示した10箇所のSNPについて、肝硬変936症例、慢性C型肝炎3786症例で検討した結果、MHC領域上の5 SNPが強い関連を示した。多変量解析の結果、最終的に3つの遺伝子多型が肝硬変の発症リスクと独立して関連することを明らかとし、これらの遺伝子多型を用いた肝硬変発症リスク予測システムを構築した。また既報の遺伝因子についても日本人症例での検討を行なった。その結果TULP1上のSNPは肝硬変のリスクと相関を示したが、他のSNPは関連を示さなかった。これらの結果より、HCV感染後の予後における人種差が明らかとなった。
2. 慢性肝炎・肝癌患者におけるMICAの制御機構の解析とゲノム創薬に向けた研究
MICAのプロモーターの解析の結果、アレル特異的に転写因子SP-1が結合し、MICAの転写を活性化する事が示された。またHeat shock等のストレス刺激によって、MICAの発現量が上昇することが明らかとなった。SP-1に対して親和性が高いアレルを持つ人では、血清MICA値が高く、肝癌の発症リスクが低くなることから、MICAが肝癌発症に対して予防的に働くことが示されれ、MICAの活性化が肝癌の治療に有用となりうることが示された。
またMICAの発現を誘導する市販薬剤のスクリーニングの結果、MICAの発現を約20倍増加させる薬剤を同定した。発がんリスクを低下させるSNPはMICAの高値となることより、MICAの発現誘導することで、癌化が抑制されうると考えられた。薬剤によるMICA調節のメカニズムや、発現誘導における遺伝子多型の影響についてさらなる解析を進めている。
2. 慢性肝炎・肝癌患者におけるMICAの制御機構の解析とゲノム創薬に向けた研究
MICAのプロモーターの解析の結果、アレル特異的に転写因子SP-1が結合し、MICAの転写を活性化する事が示された。またHeat shock等のストレス刺激によって、MICAの発現量が上昇することが明らかとなった。SP-1に対して親和性が高いアレルを持つ人では、血清MICA値が高く、肝癌の発症リスクが低くなることから、MICAが肝癌発症に対して予防的に働くことが示されれ、MICAの活性化が肝癌の治療に有用となりうることが示された。
またMICAの発現を誘導する市販薬剤のスクリーニングの結果、MICAの発現を約20倍増加させる薬剤を同定した。発がんリスクを低下させるSNPはMICAの高値となることより、MICAの発現誘導することで、癌化が抑制されうると考えられた。薬剤によるMICA調節のメカニズムや、発現誘導における遺伝子多型の影響についてさらなる解析を進めている。
結論
今回の解析によって、MICAを含む複数の遺伝子多型がHCV陽性肝癌・肝硬変の発症と関連することが示された。我々が有する症例は、世界レベルでみても最大規模の患者コホートと考えられる。我々のゲノム解析によって同定された予後予測因子を実際にこれらの患者群で検証することにより、バイオマーカーとしての有用性が確認出来れば、介入試験に向けたモデルの構築が可能となる。
またMICAの発現制御に関わる転写因子やが複数明らかとなっており、また実際に発現を誘導可能な薬剤も同定された。MICAが高くなりやすい方では、肝癌のリスクが高くなることから、MICAの発現を誘導することで、肝癌の予防、治療に役立つと期待される。今後は、遺伝子型を中心とした個人ごとの予後予測だけでなく、薬剤を用いた治療法の開発に向けて研究を進めていく予定である。
またMICAの発現制御に関わる転写因子やが複数明らかとなっており、また実際に発現を誘導可能な薬剤も同定された。MICAが高くなりやすい方では、肝癌のリスクが高くなることから、MICAの発現を誘導することで、肝癌の予防、治療に役立つと期待される。今後は、遺伝子型を中心とした個人ごとの予後予測だけでなく、薬剤を用いた治療法の開発に向けて研究を進めていく予定である。
公開日・更新日
公開日
2015-09-02
更新日
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