切除可能悪性胸膜中皮腫に対する集学的治療法の確立に関する研究 

文献情報

文献番号
201314008A
報告書区分
総括
研究課題名
切除可能悪性胸膜中皮腫に対する集学的治療法の確立に関する研究 
課題番号
H23-がん臨床-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中野 孝司(兵庫医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 田端 千春(兵庫医科大学 医学部)
  • 長谷川 誠紀(兵庫医科大学 医学部)
  • 田中 文啓(産業医科大学 医学部)
  • 横井 香平(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 岡田 守人(広島大学 原爆放射線医科学研究所)
  • 上紺屋 憲彦(兵庫医科大学 医学部)
  • 福岡 順也(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 澁谷 景子(山口大学 大学院医学系研究科情報解析医学系)
  • 副島 俊典(兵庫県立がんセンター 放射線治療科)
  • 竹之山 光広(国立病院機構九州がんセンター 呼吸器腫瘍科・呼吸器外科)
  • 寺田 貴普(兵庫医科大学 医学部)
  • 下川 元継(国立病院機構九州がんセンター 臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
極めて予後不良の悪性胸膜中皮腫(MPM)に対する化学療法・肉眼的完全切除・放射線治療を組み合わせた集学的治療法は、切除可能MPMの予後を向上させ、早期例に治癒の可能性を与える唯一の方法である。肉眼的完全切除(MCR) を得る方法には、胸膜・肺・横隔膜・心膜を一塊として切除する胸膜肺全摘術(EPP) と患側肺を温存させる胸膜切除・肺剥皮術(P/D) がある。EPPは拡大術式であり、MCR率が高く、術後に放射線治療(RT)を実施しやすい利点がある反面、極めて侵襲的で、術後合併症が多い。一方、縮小術式のP/Dは、術後合併症、治療関連死が少ない反面、MCR率はEPPに劣り、術後RTの実施は不可能である。本研究では、切除可能MPMに対する集学的治療法の確立を目指し、EPPを含む集学的治療法を対照としたP/Dを含む治療法を試験アームとするランダム化比較第Ⅱ相試験を実施することである。このランダム化試験には、その前段階として、両術式を含む治療法の遂行可能性確認試験が必須であり、第一に両治療法の遂行可能性を確認し、続いてランダム化試験に着手することを目的とした。
研究方法
MPMに対するP/D術式は、欧米では比較的よく実施されてきたが、我が国では、中皮腫の急増時期が欧米よりも遅かったことが影響し、呼吸器外科医の手術経験が少なく、とくにP/D術式に関しては殆ど実施されていない状況にある。従って、P/Dを含む治療法の遂行可能性確認試験に際しては、第一に、我が国のP/D術式の標準化が必須である。そこで研修会や学会などにおいてP/D術式の標準化を推進することにした。術前化学療法に引き続きP/Dを行う治療法(P/D試験)の対象症例は、未治療切除可能MPM(組織亜型は問わない)、臨床病期I-III期(T1-3, N0-2, M0)、75歳未満で、PS(ECOG)0-1である。治療方法は、シスプラチン(CDDP 75mg/m2)+ペメトレキセド(PEM、500mg/m2)による導入化学療法を3コース施行後、病勢増悪のない症例に対して、P/Dを企図してMCRを行うものである。主要エンドポイントをMCR達成率とし、副次エンドポイントをP/D実施率、P/DによるMCR達成率、全生存率、術後3ヶ月の肺機能、有害事象発生率、治療関連死亡率、奏効率とし、予定登録症例数は24例とした。P/Dを企図してMCRを行うとしたのは、P/D術式では不可能であっても、EPPに術式を変更するとMCRを達成することが可能な場合があるからである。また、MCRの評価には臓側および壁側胸膜切除面の分かるビデオの提出を義務付けた。一方、EPPを含む集学的治療法(EPP試験)は、本研究開始前から着手していた多施設遂行可能性確認試験であり、主要エンドポイントは、EPPによるMCR率(50%以上)と治療関連死亡率(10%以下)である。適格基準はP/D試験と同じであるが、術前化学療法のPEMは同量であるが、CDDPの投与量はP/D試験よりも少ない設定である(60mg/m2)。また、術後の放射線照射は54Gyである。
結果と考察
P/D試験は全国21施設の倫理委員会で承認され、平成24年9月から登録が開始された。平成25年度は、24年度に引き続き登録を推進し、平成25年10月に目標登録数に達している。平成26年3月末の時点での治療関連死はなく、MCR達成率は79.2%であった。本療法ではMCR達成のために、3例がEPPへの術式変更が行われ、P/D実施率は67%であった。一方、EPP試験は平成23年度に完遂しているが、42例が登録され、MCR達成率は71.4%、治療関連死亡率は9.5%、プロトコール治療完遂率は40.5%であった。
MCRに関しては、拡大術式のEPPでは71.4%、縮小術式であるP/Dは79.2%の達成率があり、両術式で得られるMCRは同等と考えられる。一方、EPPを含む治療法の治療関連死率9.5%は、遂行可能と判断されるが、一般臨床において無条件に実施するような治療法ではないと考えられる。それに対して、縮小術式のP/Dを含む治療法は、治療関連死は0%であった。本研究で、“P/Dを含む治療法(P/D試験)”と“EPPを含む治療法(EPP試験)”の遂行可能性が確認され、両治療法のランダム化比較第II相試験を実施する環境が整備された。
結論
本年度で、患側肺を温存するP/Dを含む治療法のP/D試験が予定症例数に達し、根治性を高めた拡大術式のEPPを含む治療法とともに遂行可能性が確認された。両術式のMCR率には差がなく、何れの治療法が切除可能例に対して有効であるかを明らかにするランダム化比較第II相試験の環境が整ったと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201314008B
報告書区分
総合
研究課題名
切除可能悪性胸膜中皮腫に対する集学的治療法の確立に関する研究 
課題番号
H23-がん臨床-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中野 孝司(兵庫医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 長谷川 誠紀(兵庫医科大学 医学部)
  • 横井 香平(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 岡田 守人(広島大学 原爆放射線医科学研究所)
  • 田中 文啓(産業医科大学 医学部)
  • 上紺屋 憲彦(兵庫医科大学 医学部)
  • 澁谷 景子(山口大学 大学院医学系研究科情報解析医学系)
  • 福岡 順也(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 副島 俊典(兵庫県立がんセンター 放射線治療科)
  • 下川 元継(国立病院機構九州がんセンター 臨床研究センター)
  • 山中 竹春(国立がん研究センター東病院 早期探索臨床研究センター)
  • 竹之山 光広(国立病院機構九州がんセンター 呼吸器腫瘍科・呼吸器外科)
  • 福岡 和也(兵庫医科大学 医学部)
  • 田端 千春(兵庫医科大学 医学部)
  • 山田 秀哉(兵庫医科大学 医学部)
  • 寺田 貴普(兵庫医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
極めて予後不良の悪性胸膜中皮腫(MPM)に対する化学療法・肉眼的完全切除・放射線治療を組み合わせた集学的治療法は、切除可能MPMの予後を向上させ、早期例に治癒の可能性を与える唯一の方法である。肉眼的完全切除(MCR) を得る方法には、胸膜・肺・横隔膜・心膜を一塊として切除する胸膜肺全摘術(EPP) と患側肺を温存させる胸膜切除・肺剥皮術(P/D) がある。EPPは拡大術式であり、MCR率が高く、術後に放射線治療(RT)を実施しやすい利点がある反面、極めて侵襲的で、術後合併症が多い。一方、縮小術式のP/Dは、術後合併症、治療関連死が少ない反面、MCR率はEPPに劣り、術後RTは不可能である。本研究では、切除可能MPMに対する集学的治療法の確立を目指し、EPPを含む集学的治療法を対照としたP/Dを含む治療法を試験アームとするランダム化比較第Ⅱ相試験を実施することである。このランダム化試験には、その前段階として、両術式を含む治療法の遂行可能性確認試験が必須であり、第一に両治療法の遂行可能性を確認し、続いてランダム化試験に着手することを目的とした。
研究方法
MPMに対するP/D術式は、欧米では比較的よく実施されてきたが、我が国では呼吸器外科医の経験が非常に少なく、遂行可能性確認試験を行うに際しては、我が国におけるP/D術式の標準化が必要であった。そこで研修会や学会などにおいてP/D術式の標準化を推進することにした。化学療法に引き続きP/Dを行う治療法(P/D試験)の対象は、未治療切除可能MPM(組織亜型は問わない)、臨床病期I-III期(T1-3, N0-2, M0)、75歳未満、PS0-1である。治療方法は、シスプラチン(CDDP 75mg/m2)+ペメトレキセド(PEM、500mg/m2)による導入化学療法を3コース施行後、病勢増悪のない症例に対してP/Dを企図してMCRを行うものである。主要エンドポイントをMCR達成率とし、副次エンドポイントをP/D実施率、P/DによるMCR達成率、全生存率、術後3ヶ月の肺機能、有害事象発生率、治療関連死亡率、奏効率とし、予定登録症例数は24例とした。P/Dを企図してMCRを行うとしたのは、P/Dでは不可能であっても、術式をEPPに変更することによりMCRを達成することが可能だからである。MCRの評価のため、臓側および壁側胸膜切除面の分かるビデオの提出を義務付けた。一方、EPPを含む集学的治療法(EPP試験)は、本研究開始前から着手していた多施設遂行可能性確認試験であり、主要エンドポイントは、EPPによるMCR率(50%以上)と治療関連死亡率(10%以下)である。適格基準はP/D試験と同じであるが、術前化学療のPEMは同量であるが、CDDPの投与量は60mg/m2であり、P/D試験よりも少ない設定である。また、術後の放射線照射は54Gyである。
両試験の遂行可能性が確認された後に、EPP試験を対照としたP/D試験の治療法を試験アームとするランダム化比較第Ⅱ相試験に着手することとした。
結果と考察
P/D試験は全国21施設の倫理委員会で承認され、平成24年9月から登録が開始され、平成25年10月に目標数に達し、臨床試験を完遂している。治療関連死はなく、MCR達成率は79.2%であった。本療法ではMCR達成のために、3例がEPPへの術式変更が行われ、P/D実施率は67%であった。一方、拡大術式のEPP試験には42例が登録され、平成23年度に完遂している。本法のMCR達成率は71.4%、治療関連死亡率は9.5%、プロトコール治療完遂率は40.5%であった。
MCR達成率に関しては、拡大術式のEPPは71.4%、縮小術式であるP/Dは79.2%であり、両術式から得られるMCRは同等と考えられる。一方、治療関連死率に関しては、EPPを含む治療法の遂行可能性は確認されたが、9.5%の治療関連死亡は、MPMに対するEPPを含む治療法が一般臨床において無条件に実施するような治療法ではなく、経験のある施設での臨床試験において実施すべきであると考えられた。それに対して縮小術式のP/Dを含む治療法は、治療関連死は0%であった。本研究で、“P/Dを含む治療法(P/D試験)”と“EPPを含む治療法(EPP試験)”の遂行可能性が確認され、両治療法のランダム化比較第II相試験を実施する環境が整備され、着手が可能になった。
結論
本研究で、患側肺を温存するP/D、根治性を高めたEPPを含む治療法の両者の遂行可能性が確認された。MCR率に差のない両術式の何れを含む治療法が、切除可能例に対して有効であるかを明らかにするランダム化比較第II相試験の環境が整ったと考えられる。本臨床試験により切除可能MPMに対する治療法が確立するものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201314008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の最終結果は平成29年3月に集計され、現在解析が進んでいる。
適格20人にシスプラチンとペメトレキセドの導入化学療法が施行され、化学療法の副作用による1例と呼吸機能の増悪による1例がプロトコールから逸脱し、残りの18人に手術を行った。全例において肉眼的完全切除が可能で、15例にはP/Dを施行し、残りの3例はEPPにコンバートされた。肉眼的完全切除率は90%(18/20)となり、主要エンドポイントは達成された。30日および90日死亡例は認めなかった。1,2年における全生存率と生存期間中央値は、95%,75%と43.3ヶ月であった。術後追跡期間におけるFVCとFEV1の最高値は、術前値と比較するとそれぞれ78%と82.5%であった。
以上の結果は現在までに世界で公表されたあらゆる中皮腫手術の結果を上回るもので、胸膜肺全摘術から胸膜切除/肺剥皮術への術式移行のトレンドを決定づけるものになると予想される。
臨床的観点からの成果
悪性胸膜中皮腫は根治性を最大に高めたEPPを実施しても、局所再発は避けられず、放射線照射を追加する治療が行われる。しかしながら、術後の心肺機能・QOLの悪化が必発であり、また、9.5%の治療関連死は、許容範囲とされても、一般臨床で行う治療法ではない。一方、患側肺を温存するP/Dは、EPPと同等の肉眼的完全切除率があり、治療関連死の発生はない。両者の比較試験で最適な治療法が示されるが、我が国で全く実施されなかったP/Dの安全性が示されたことで、我が国の中皮腫の臨床は大きく前進すると考えられる。
ガイドライン等の開発
EPPの有効性は2010年の欧州のガイドラインでは明らかではないとされ、一方、P/Dは緩和的治療とされていた。2011年にEPPと化学療法の比較試験が英国で実施され、EPPに有益性はないと結論されたが、2014年のNCCNガイドラインでは、これらを踏まえて、早期例にはP/Dが第一選択としている。我が国では今までP/Dが実施されることがなく、本研究で初めてP/D術式の標準化と安全性の確認がなされた。本研究により、今後の我が国のガイドラインに外科治療法を含めることが可能となった。
その他行政的観点からの成果
中皮腫はアスベスト曝露との関連が明らかな職業性腫瘍と考えられてきたが、一般住民が受ける極めて低濃度の曝露でも発生することが知られている。現在、大阪泉南地域、尼崎市、鳥栖市など、全国7地域で環境省が実施している石綿健康リスク調査では、中皮腫の早期発見が重要なポイントとなっている。NCCNガイドラインでは、早期例にはP/Dを含む治療法を第一選択としている。本研究により、第一選択とされるP/D術式の標準化と安全性が確認され、我が国での悪性胸膜中皮腫の早期例に対する診療体制は整ったと言える。
その他のインパクト
日本肺癌学会総会、日本呼吸器外科学会において、悪性胸膜中皮腫の治療法に関するシンポジウムを開催し、世界肺癌会議(IASLC)、米国臨床腫瘍学会(ASCO)でその成果を公表した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
48件
その他論文(和文)
44件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shimokawa M, Hasegawa S, Fukuoka K, et al
A feasibility study of induction pemetrexed plus cisplatin followed by pleurectomy/decortication aimed at macroscopic complete resection for malignant pleural mesothelioma
Jpn J Clin Oncol , 43 , 575-578  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-04-30
更新日
2018-06-06

収支報告書

文献番号
201314008Z