ヒト化抗CD20抗体を細胞外ドメインとした新規キメラ抗原レセプター (CAR) 遺伝子導入T細胞の作成と評価

文献情報

文献番号
201313064A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト化抗CD20抗体を細胞外ドメインとした新規キメラ抗原レセプター (CAR) 遺伝子導入T細胞の作成と評価
課題番号
H24-3次がん-若手-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
寺倉 精太郎(名古屋大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 村田 誠(名古屋大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究ではヒト化CD20抗体を細胞外ドメインとして用いたCARを作成・評価し前臨床試験までを行うことを目的とした。CD20低発現細胞株や臨床分離細胞を用いてCD20低発現の標的に対するCD20-CARの作用について検討する。さらにAffinity/avidityを変化させたときにCD28/CD27/4-1BBの細胞内ドメインの違いが及ぼす影響について、とくに抗原刺激後のT細胞の増殖・メモリー化に及ぼす影響についてin vivoで検討する。
 CD20刺激後のサイトカイン分泌や細胞分裂能から最適なCARの構造を決定し、これを用いた臨床試験の準備を行う。分担研究者において既に稼働しているCell processing centerを用いて実際の患者から分離したT細胞を用いた細胞調整の試験を数例程度行い、GMP基準に則った細胞調整が可能であることを確認する。
研究方法
これまで用いてきたCD28細胞内ドメインに替えて4-1BB/CD27の細胞内ドメインを組み込んだプラスミド・ベクターを作成した。これまでと同様にレトロウイルス・ベクターを作成した。CARがCD20に結合した後、伝達されるシグナルを比較検討するため、Jurkat細胞株にreporter vectorを組み込んだものを作成した。これにより、より定量的にシグナル伝達を評価できるものと考えた。
 CARの細胞外ドメインとなる抗体のaffinityとCARの有効性との関連は詳細には検討されていない。5種類のaffinityの異なるCD20抗体を用いてCARを作成した。これをT細胞に遺伝子導入し、CAR-Tの細胞傷害活性などのT細胞活性に及ぼす影響を検討する。また、細胞内ドメインのaffinityの組み合わせの違いによってT細胞機能にどのような影響が出るのか検討する。
結果と考察
結果
新規にヒト化抗CD20抗体を細胞外ドメインとして用いたCARを作成し、細胞表面上に発現するCD20の抗原量とCD20-CAR+ T細胞の反応しうる限界について検討した。新たに作成したCD20-CARを遺伝子導入したCD20-CAR+ T細胞はCD20特異的に標的細胞を認識・傷害した。この細胞を用いて様々な程度のCD20を発現するCEM細胞株群に対する細胞傷害活性を検討した。今回作成したCD20CAR-T細胞は標的細胞あたり約200分子のCD20を認識して傷害することが分かった。同様にしてCD20CAR-T細胞を活性化するために必要なCD20分子密度を検討した。CD20CAR-Tを活性化するために必要なCD20抗原は標的細胞あたり約2000分子程度であることが分かった。さらに、CD20低発現となり臨床的に抗CD20抗体療法に対して不応となった慢性リンパ性白血病患者から樹立された細胞株・臨床分離検体に対しても十分高い認識・細胞傷害活性を示した。
 CD27細胞内ドメインを用いたCARをCD28 あるいは4-1BBの細胞内ドメインを用いたCARと比較して有用性を検討することを目的として、これまで用いてきたCD28細胞内ドメインに替えて、4-1BB/CD27細胞内ドメインに入れ替えたものを作成した。これらのプラスミド・ベクターを用いてレトロウイルス・ベクターを作成した。細胞内シグナルを詳細に検討するため、Reporter vectorを遺伝子導入したJurkat細胞にこれらのCD20-CARを遺伝子導入し、CD20刺激後に比較検討する系を樹立した。しかしながら、刺激後に蛍光は定量的に検討できなかった。ATCCから購入したSUPT1細胞を用いてみたが同様の結果であった。

考察
 本研究の結果から、CARは標的抗原が細胞あたり200分子程度発現していれば、傷害活性を示すことが出来、また2000分子程度発現していれば抗原刺激によって分裂・増殖などの活性化を示すことが分かった。すなわち、抗体の認識しうる範囲よりも低発現の標的でも十分認識しうることが示され、腫瘍抗原の探索範囲をこれまでよりも低発現の範囲に広げることによって新たな腫瘍抗原が得られる可能性が考えられた。そのような新しい戦略によって比較的発現の低い腫瘍抗原をCARの標的抗原として同定出来れば、CARの臨床応用の可能性も高まることが期待される。 
結論
新規CD20-CARを作成し、T細胞に遺伝子導入を行った。これらのCD20-CAR+ T細胞はCD20を特異的に認識・傷害した。これらの細胞を用いてCD20低発現細胞株・臨床分離検体に対する反応を検討した。極めて低発現の細胞株や臨床分離検体でも認識・傷害しうることがわかった。CARのこういった特性を生かして、低発現であるが腫瘍特異性の極めて高い標的抗原の探索という新しい戦略が考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201313064B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト化抗CD20抗体を細胞外ドメインとした新規キメラ抗原レセプター (CAR) 遺伝子導入T細胞の作成と評価
課題番号
H24-3次がん-若手-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
寺倉 精太郎(名古屋大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 直江 知樹(名古屋大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)
  • 村田 誠(名古屋大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
研究分担者1は国立病院機構名古屋医療センターに所属変更となった。そのため、新たな研究分担者として研究分担者2を迎えた。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究ではヒト化CD20抗体を細胞外ドメインとして用いたCARを作成・評価し前臨床試験までを行うことを目的とした。既に抗体のAffinityが報告されているヒト化CD20抗体の遺伝子情報を用いて開発に着手し、作成したCD20CARを用いてCD20低発現細胞株や臨床分離細胞などのCD20低発現の標的に対する作用について検討する。さらに抗体部分のAffinity/avidityを変化させたときにCD28/CD27/4-1BBの細胞内ドメインの違いが及ぼす影響について、とくに抗原刺激後のT細胞の増殖・メモリー化に及ぼす影響についてin vitroで検討する。
 CD20刺激後のサイトカイン分泌や細胞分裂能から最適なCARの構造を決定し、これを用いた臨床試験の準備を行う。
研究方法
新規ヒト化抗CD20抗体の可変領域を細胞外ドメインとするCARを作成し、レトロウイルス・ベクターを用いてドナー末梢血T細胞にCD20-CARを遺伝子導入し、CD20-CAR+ T細胞を作成した。種々のレベルのCD20を発現するCD20-CEM細胞を標的としてクロム放出試験を行い、CD20CAR-T細胞の認識・傷害できるCD20抗原密度を決定した。また、CD20低発現細胞株およびCD20低発現臨床分離細胞を標的としてクロム放出試験や細胞内インターフェロンγ染色にて、CD20-CAR+ T細胞が標的をCD20特異的に認識・傷害するかどうかについて検討した。細胞上清に含まれるインターフェロンγやIL-2はELISAを用いて測定した。
 これまで用いてきたCD28細胞内ドメインに替えて4-1BB/CD27の細胞内ドメインを組み込んだプラスミド・ベクターを作成した。上記同様にレトロウイルス・ベクターを作成した。CARがCD20に結合した後、伝達されるシグナルを比較検討するため、JurkatおよびSUPT1細胞株にreporter vectorを組み込んだものを作成した。
結果と考察
結果:CD20-CARを遺伝子導入したCD20-CAR+ T細胞はCD20特異的に標的細胞を認識・傷害した。CD20CAR-T細胞の認識できる標的細胞上のCD20抗原密度の閾値を決定した。CD20-CAR+ T細胞は極めて低いCD20発現を示すCD20+ CEM細胞に対しても高い細胞傷害活性を示した。さらに、CD20低発現となり臨床的に抗CD20抗体療法に対して不応となった患者から樹立された細胞株・臨床分離検体に対しても比較的高い認識・細胞傷害活性を示した。これまで用いてきたCD28細胞内ドメインに替えて、4-1BB/CD27細胞内ドメインに入れ替えたものを作成した。作成したAffinityの異なる5種類のCARを比較するため、ドナー由来T細胞に遺伝子導入し、比較検討した。Affinityが高まるにつれて、一定以上のAffinityがあればCD20特異的にCARを介した細胞の活性化は見られた。しかしながら、一定以上にAffinityを高めても、同程度のシグナルが伝わっていることが分かった。CARとして有効性が出るための抗体のAfftinityの閾値が存在するものと考えられた。
考察:本研究の結果から、CARは抗体の認識しうる範囲よりも低発現の標的でも十分認識しうることが示され、腫瘍抗原の探索範囲をこれまでよりも低発現の範囲に広げることによって新たな腫瘍抗原が得られる可能性が考えられた。そのような新しい戦略によって比較的発現の低い腫瘍抗原をCARの標的抗原として同定出来れば、CARの臨床応用の可能性も高まることが期待される。 
 今回我々は5種類のAffinityの異なるCD20CARを作成し、比較検討した。Affinityは一定以上の強さが必要であったが、Affinityと活性化の程度との相関は閾値のある反応曲線を描いた。今後さらに何種類かの細胞内ドメインにおいて、細胞内ドメインとAffinityとの組み合わせにおいて、最適なものを検討していく。
結論
新規CD20-CARを作成し、T細胞に遺伝子導入を行った。これらの細胞を用いてCD20低発現細胞株・臨床分離検体に対する反応を検討した。極めて低発現の細胞株や臨床分離検体でも認識・傷害しうることがわかった。CARのこういった特性を生かして、低発現であるが腫瘍特異性の極めて高い標的抗原の探索という新しい戦略が考えられた。新規CD20CARはCD20低発現標的に対して有効であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313064C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新規CD20-CARを作成し、T細胞に遺伝子導入を行った。これらのCD20-CAR+ T細胞はCD20を特異的に認識・傷害した。これらの細胞を用いてCD20低発現細胞株・臨床分離検体に対する反応を検討した。極めて低発現の細胞株や臨床分離検体でも認識・傷害しうることがわかった。CARのこういった特性を生かして、低発現であるが腫瘍特異性の極めて高い標的抗原の探索という新しい戦略が考えられた。また、新規CD20CARはCD20低発現標的に対して有効であることが示唆された。
臨床的観点からの成果
B細胞性悪性腫瘍(白血病・リンパ腫など)に対するCAR遺伝子導入T細胞療法としては、CD19CARが先行しているが、CD19の発現低下によるescape現象も報告されており、今後標的抗原を増やして対応する必要がある。このような観点からCD19/CD20の2つを標的にするCAR-T細胞療法も考慮されるべきであると考えられる。今後臨床試験を行うべく、準備を進めつつある。
ガイドライン等の開発
CAR-T細胞療法は、開発途上の治療であり、ガイドラインで議論されるには至っていない。今後、CAR-T細胞が通常診療として容易に入手可能になる必要がある。
その他行政的観点からの成果
CD19CAR-T細胞療法は日本でも治験が始まろうとしている。今後同様のプラットフォームを用いて、より良い治療に資することが出来るよう開発を進めていく。
その他のインパクト
CAR-T細胞療法は昨年のScience誌のBreakthrough of the yearにも選ばれるなど大変注目を浴びている。我々の成果についても講演会などでも成果を発表し反響を得ている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

特許の名称
ヒト化抗CD20キメラ抗原レセプター
詳細情報
分類:
特許番号: 2013-234784
発明者名: 寺倉精太郎、渡邊慶介
権利者名: 名古屋大学
出願年月日: 20131113
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Watanabe K, Terakura S, Martens AC, van Meerten T, Uchiyama S, et al.
Target antigen density governs the efficacy of anti-CD20-CD28-CD3 ζ chimeric antigen receptor-modified effector CD8+ T cells.
J Immunol. , 194 (3) , 911-920  (2015)
doi: 10.4049/jimmunol.1402346.
原著論文2
Sakemura R, Terakura S, Kiyoi H, et al.
A Tet-On Inducible System for Controlling CD19-Chimeric Antigen Receptor Expression upon Drug Administration
Cancer Immunology Research , 4 (8) , 658-668  (2016)
doi: 10.1158/2326-6066.CIR-16-0043.
原著論文3
Miyao K, Terakura S, Kiyoi H, et al.
Introduction of Genetically Modified CD3ζ Improves Proliferation and Persistence of Antigen-Specific CTLs.
Cancer Immunology Research  (2018)
doi: 10.1158/2326-6066.CIR-17-0538.

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
2018-05-24

収支報告書

文献番号
201313064Z