文献情報
文献番号
201313060A
報告書区分
総括
研究課題名
マイクロRNAを指標にして癌を標的破壊する純和製抗癌ウイルス製剤の開発とその臨床応用に関する研究
課題番号
H23-3次がん-若手-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中村 貴史(国立大学法人 鳥取大学 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
- 東條 有伸(国立大学法人 東京大学 医科学研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
現在世界中において、生きたウイルスを利用して癌を治療する癌ウイルス療法に関する前臨床研究、及び臨床試験が積極的に行われている。これは、感染した細胞・組織内で増殖伝播しながらそれらを死滅させるというウイルス本来の性質を癌に利用する方法である。本研究の目的は、純国産ワクシニアウイルスワクチン株の安全性に注目し、遺伝子組換え技術により改良を加え、純和製抗癌ウイルス製剤として活用することにある。本研究では、現行の治療法に極めて高い抵抗性を示す難治性悪性腫瘍に対する純和製抗癌ウイルスによる革新的な治療法の確立を目指す。さらに、臨床応用に向けウイルス製剤のGMP製造や品質管理に関する基盤技術を構築することによって、本研究成果をシームレスに臨床応用へと直結させることを目指す。
研究方法
miRNA制御に加え、ウイルスTK遺伝子を欠失させた多因子制御ワクシニアウイルスMDVVの臨床応用を視野に入れ、以下の4項目を実施した。1)同系腫瘍移植マウスモデルにおけるMDVVの全身投与による抗癌効果を評価するため、マウス肺癌細胞TC1より、その内因性let7aをDecoy RNAによって特異的かつ長期的に抑制したTC1-KD細胞を作製した。C57BL/6マウスの右腹側の皮下にTC1、又はTC1-KD細胞を移植し、その腫瘍直径が約0.6cmに到達した時、MDVVを尾静脈より全身投与した。その後、生体内のウイルス分布と抗癌効果を評価した。2)免疫不全SCIDマウスに多発性骨髄腫RPMI8226細胞を皮下移植し、28日後にMDVVを尾静脈より投与した。その後、1)と同様に評価した。3)癌免疫療法との併用によってMDVVの抗癌効果を増強するため、インターロイキン12を発現するように組込んだMDVV-IL12を作製した。マウス大腸癌MC38細胞を同系C57BL/6マウスの両側の皮下に移植したマウス担癌モデルにおいて、Mock(生理食塩水)、MDVV、又はMDVV-IL12を右側の腫瘍内にのみ投与し、抗癌効果を評価した。4)MDVVのGMP製造のための基盤技術を構築するため、痘瘡ワクチン製造のために使われていたウサギ初代腎(PRK)細胞を樹立し、MDVVの作製・増殖が容易かどうかを検討した。
結果と考察
1)let7aの発現が低下しているTC1-KD細胞を用いたマウス腫瘍モデルにおいて、MDVVの腫瘍特異的増殖が確認でき、さらにMock(生理食塩水)群と比べMDVV投与群では著明な腫瘍増殖抑制効果が見られた。それに対し、let7aの発現が高いTC1細胞を用いた腫瘍モデルにおいては、MDVVの腫瘍特異的増殖、及び腫瘍増殖抑制効果は見られなかった。2)let7aの発現が低下しているRPMI8226細胞を用いたマウス腫瘍モデルにおいて、MDVVの腫瘍特異的増殖と抗腫瘍効果が確認された。一方、元来のワクシニアウイルス、TK遺伝子のみ欠損させたウイルスを感染させたところ、抗腫瘍効果は高かったが皮膚を中心に正常組織にも感染が広がりマウスが死亡した。3)MDVV、又はMDVV-IL12を投与した右側の腫瘍増殖抑制効果は、Mock群と比較して有意に見られたが、各ウイルスの間で有意な差はなかったため、ウイルス増殖による腫瘍破壊に因るものと考えられた。それに対し、ウイルスを投与しない左側の腫瘍増殖はMDVV-IL12によって最も有意に抑制されているため、NK細胞を活性化する・Tリンパ球に作用しTh1タイプの免疫反応を誘導して腫瘍に対する細胞性免疫を増強するIL12に因るものと考え、免疫学的解析を進めている。4)PRK細胞においても、RK13細胞と同様に、MDVVの作製・増殖・精製は容易であることが確認された。
結論
以上より、多因子制御ワクシニアウイルスMDVVは、極めて高い腫瘍特異的増殖能を有することが実証され、より安全で効果的な抗癌ウイルスとして期待できる。さらに、MDVVは血中を介して効率よく腫瘍組織に到達することも確認できたことより、副作用なく全身に転移した癌を標的破壊する癌ウイルス療法として期待できる。一方、癌ウイルス療法では、ウイルス増殖による腫瘍溶解のみならず、それに伴う炎症性サイトカイン産生誘導、及び細胞性免疫誘導など、多様な作用機序によって抗癌効果を発揮する。このIL12発現MDVVの結果は、免疫制御遺伝子によって抗腫瘍効果を増強できることを示しており、免疫制御分子の発現によるMDVVの最適化は次に続くシーズとして期待できる。本研究では、現行の治療法に極めて高い抵抗性を示す難治性悪性腫瘍に対する純和製抗癌ウイルスによる革新的な治療法を確立するだけではなく、臨床応用を視野に入れ、MDVVのGMP製造や品質管理のための基盤技術構築を進めることによって、本研究の成果をシームレスに臨床応用へと直結させる。
公開日・更新日
公開日
2015-09-02
更新日
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