文献情報
文献番号
201313045A
報告書区分
総括
研究課題名
miRNAを用いたATLがん幹細胞特異的新規治療法の開発
課題番号
H24-3次がん-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 俊樹(東京大学 大学院 新領域創成科学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 津本 浩平(東京大学 大学院)
- 中内 啓光(東京大学 医科学研究所)
- 小川 誠司(京都大学 大学院)
- 内丸 薫(東京大学 医科学研究所)
- 矢持 淑子(昭和大学 医学部)
- 今井 浩三(東京大学 医科学研究所)
- 矢持 忠徳(東京大学 大学院)
- 山岸 誠(東京大学 大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
17,770,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者小川誠司の所属機関変更
平成25年4月1日付けで京都大学へ転入のため
旧)東京大学分子遺伝学(Cancer Board)・届出診療医
新)京都大学・教授
研究報告書(概要版)
研究目的
成人T細胞白血病(ATL)は予後不良の末梢性T細胞腫瘍で、未だに有効な治療法はない。本研究事業は、研究代表者らがこれまでに構築したATL患者のゲノム異常や分子病態の情報ソースを基盤として明らかにした、ATL細胞におけるmiR-31の特異的発現欠損による恒常的NF-kB経路の活性化とATL癌幹細胞の同定を基盤として、単鎖抗体-miRNA複合体による新規治療法開発を目指す。
研究方法
miRNA、癌幹細胞、単鎖抗体という3つの新規な観点を統合して、1) 単鎖抗体を用いたmiR-31導入法の開発、2) ATL癌幹細胞の特性解析、3) 新規治療標的探索のための分子病態解析、に関して研究を進めた。
1) miRNA導入用単鎖抗体の作成:miRNA結合用ペプチドを融合したscFVの精製は細胞由来核酸の非特異的結合により著しく困難であることが判明した。そこで、C-末端にCysteine残基を付加したCysteine-tag-scFVを作成しmiRNA結合用システイン付加カチオン性ペプチドとin vitro conjugationを行うことにした。
2) ATL「がん幹細胞」の細胞特性の解析:連続移植継代細胞の表面マーカーの発現動態の詳細な解析を継続した。移植マウス個体内での腫瘍細胞の臓器分布とCFSE Labeling法を用いて抗がん剤抵抗性細胞集団の局在を病理形態学的に解析した。
3) 新たな分子標的の探索:マルチカラーFACS(HAS)を利用した、各段階の感染細胞集団の遺伝子発現プロファイル解析を継続した。ATL細胞におけるエピジェネティクス異常の解析を進めた。エクソーム解析により、変異解析を行った。
1) miRNA導入用単鎖抗体の作成:miRNA結合用ペプチドを融合したscFVの精製は細胞由来核酸の非特異的結合により著しく困難であることが判明した。そこで、C-末端にCysteine残基を付加したCysteine-tag-scFVを作成しmiRNA結合用システイン付加カチオン性ペプチドとin vitro conjugationを行うことにした。
2) ATL「がん幹細胞」の細胞特性の解析:連続移植継代細胞の表面マーカーの発現動態の詳細な解析を継続した。移植マウス個体内での腫瘍細胞の臓器分布とCFSE Labeling法を用いて抗がん剤抵抗性細胞集団の局在を病理形態学的に解析した。
3) 新たな分子標的の探索:マルチカラーFACS(HAS)を利用した、各段階の感染細胞集団の遺伝子発現プロファイル解析を継続した。ATL細胞におけるエピジェネティクス異常の解析を進めた。エクソーム解析により、変異解析を行った。
結果と考察
1) scFv-WTのC末端にシステインを付加したscFvCを作製した。大腸菌発現システムで、不溶性画分に良好な発現を認め、6Mグアニジン塩酸塩変性下でのNiアフィニティークロマトグラフィー、段階透析法によるrefolding、サイズ排除クロマトグラフィーにより行い、単量体でのAnti OX40 scFvCの最終精製に成功した。scFvCに対するシステイン付加カチオン性ペプチド(C9R、CPRM、CTAT)を準備し、精製anti OX40 scFvCと反応させ、C9R、CTATの二種類の融合カチオン性ペプチド融合単鎖抗体(anti OX40 scFv-C9R、scFv-CTAT)の最終精製に成功した。
2) 連続継代系における「がん幹細胞」の機能を持つ細胞集団の表面抗原の変遷が確認され、ATLの「がん幹細胞」は一部の固形癌と同様に浅いhierarchyを持つ事が示唆された。移植マウスの病理形態学的解析で、腫瘍浸潤臓器の特性が明らかになった。また、CFSE Labeling法を用いた細胞分裂の解析から、抗がん剤耐性の分裂速度の遅い細胞集団が脾臓に局在することが示唆された。
3) ATL細胞のエピジェネティクス異常に関して、EZH2過剰発現の分子機構解析と、ChIP-onChIP法による包括的解析を進めた。EZH2プロモータ上のNF-kB結合配列を同定し、ATL細胞における恒常的活性化NF-kBを介した過剰発現機構の存在が明らかになった。ChIP-onChIP法によるTax不死化T細胞とATL細胞の解析から、ATL細胞のエピゲノム異常の包括的情報が得られた。
4) ATL細胞のエクソーム解析からRHOAの体細胞性変異が複数症例で同定された。
2) 連続継代系における「がん幹細胞」の機能を持つ細胞集団の表面抗原の変遷が確認され、ATLの「がん幹細胞」は一部の固形癌と同様に浅いhierarchyを持つ事が示唆された。移植マウスの病理形態学的解析で、腫瘍浸潤臓器の特性が明らかになった。また、CFSE Labeling法を用いた細胞分裂の解析から、抗がん剤耐性の分裂速度の遅い細胞集団が脾臓に局在することが示唆された。
3) ATL細胞のエピジェネティクス異常に関して、EZH2過剰発現の分子機構解析と、ChIP-onChIP法による包括的解析を進めた。EZH2プロモータ上のNF-kB結合配列を同定し、ATL細胞における恒常的活性化NF-kBを介した過剰発現機構の存在が明らかになった。ChIP-onChIP法によるTax不死化T細胞とATL細胞の解析から、ATL細胞のエピゲノム異常の包括的情報が得られた。
4) ATL細胞のエクソーム解析からRHOAの体細胞性変異が複数症例で同定された。
結論
miRNA導入用単鎖抗体の作成では、miRNA結合領域を持つscFvの調整が困難であることが明らかになり、miRNA結合ペプチドのchemical conjugation法へ変更し、解析が進んでいる。がん幹細胞の解析は、急性白血病等と異なった正確を持つ「がん幹細胞」の存在が示唆されており、一部の固形癌における「がん幹細胞」に関する知見との整合性も認められる事から、本研究で得られた知見が「がん幹細胞」に関する新たな概念の提案につながることが期待される。ATL細胞におけるエピジェネティクス異常に関する包括的情報と中心分子であるEZH2の発現制御に関して重要な知見が蓄積できた。次世代シークエンサーを用いた大規模変異解析のデータベースが構築され、いくつかの候補遺伝子が得られた。新たな抗体療法の基盤となる技術的知見の集積と分子病態解析の知見の進歩は新規治療標的の同定の基盤的知見となるであろう。
公開日・更新日
公開日
2015-09-02
更新日
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