ヒトATL及びHBZトランスジェニックATL発症マウスを用いた比較ゲノム解析によるATL発症機構の解析

文献情報

文献番号
201313038A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトATL及びHBZトランスジェニックATL発症マウスを用いた比較ゲノム解析によるATL発症機構の解析
課題番号
H23-3次がん-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
森下 和広(宮崎大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 安永 純一朗(京都大学 ウイルス研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
7,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人T細胞白血病(ATL)はHTLV-1感染より数十年を経て白血病化する難治性白血病であるが、ゲノム異常の蓄積が著しく、固形癌に近い複雑核型を示す。このためATLにおける白血病発症にはHTLV-1感染後に多くのゲノム異常、エピゲノム異常が蓄積し多因子による発症が考えられる。さらにHTLV-1ウイルスのHTLV-1 bZIP factor (HBZ) は全てのATL 細胞で発現し、ATL細胞におけるHBZのノックダウンは細胞増殖を抑制する。さらにはHBZトランスジェニックマウスがT細胞リンパ腫を発症することからHBZはATLの発がんに必須であると考えられる。本研究ではそこで我々はATL細胞およびHBZトランスジェニックマウスを用いて全ゲノム、エピゲノム解析を行い、発症の分子メカニズムを明らかにすることを目的としている。
研究方法
1. ATLにおけるゲノム異常の探索と発症関連遺伝子群の機能解析
1)網羅的メチル化解析
前年度に引き続き、Illuminaメチル化アレイ解析を詳細に検討し、ATL発症に関わる遺伝子群を単離する。またパイロット研究として、急性型ATL検体をHTLV-1+/1分画し、それぞれ2検体をエクソームシークエンス、RNAシークエンスを行い、点突然変異の検索並びにスプライス異常・融合遺伝子等の検討を行う。
2)白血病関連遺伝子群のin vitro、in vivo実験
これまで単離した遺伝子群の機能を明らかにするため複合的な実験を行う。NDRG2・PTENに関しては質量分析計による網羅的結合タンパク質群の単離を行い、PTENキナーゼの同定並びにPTENリン酸化機構の解明を進める。CADM1に関してはプロモーターアッセイを中心にATL細胞における遺伝子発現機構の解明を目指す。BCL11Bにおいては発現様式の検討と、TGマウスの作製、過剰発現細胞株の樹立と遺伝子発現解析等を進める。またNDRG2のATLにおける低発現機構の解明と、HTLV-1感染防御機構としての働きの検討を行う。
2. HBZ-Tgに発症するTリンパ腫におけるゲノム異常の探索
1) HBZ-Tg由来Tリンパ腫細胞における遺伝子変異の網羅的探索
HBZ-TgのTリンパ腫から樹立した細胞株を用いて、エクソーム解析を行った。
3) HBZによる発現プロファイル変化の解析
HBZによる宿主細胞での発現プロファイルの変化を、Affymetrix社のマイクロアレイを用いて包括的に比較解析した。HBZ-TG由来CD4+Tリンパ球 vs 野生型マウスCD4+Tリンパ球とHBZ-TG由来制御性Tリンパ球 vs 野生型マウス制御性Tリンパ球を比較した。
結果と考察
1. ATLにおけるゲノム異常の探索と発症関連遺伝子群の機能解析
今回NDRG2の機能解析を行い、NDRG2をPTEN結合タンパク質として同定した。NDRG2はPP2A phosphataseをリクルートし、PTEN脱リン酸化状態に保ちPTENの有するphosphatase活性を活性化状態にする働きを同定した。ATLにおいてNDRG2は発現低下状態にあり、そのためPTENは恒常的にリン酸化状態を保ちPI3K/AKT情報伝達系が活性化状態となった。そのNDRG2低下の原因としてメチル化はHTLV-1Taxに依存しており、HTLV-1感染初期からのメチル化が示唆された。
2. HBZ-TGに発症するTリンパ腫におけるゲノム異常の探索
網羅的発現解析により、HBZ-Tg由来T細胞ではシトシン脱アミノ化酵素Activation-induced cytidine deaminase (AID)をコードする遺伝子Aicdaの発現が亢進していることを見出した。HBZはTGF-β/Smad経路を介してAicdaのプロモーターを活性化した。また、HBZ-Tgに発生したTリンパ腫由来の細胞株Ht48のエクソーム解析では、G-to-AおよびC-to-T変異が他の変異に比較し高頻度に認められ、AID発現亢進の関与が疑われる。
結論
本年度の解析からHBZはAidcaの転写を誘導することが明らかとなり、TGF-β/Smad経路の活性化に関連していることが示唆された。AIDは様々な悪性腫瘍にて発現上昇することが報告されており、G-to-A変異、C-to-T変異導入の原因となることが知られている。これらの所見はHBZ自身が遺伝子変異を誘導する機能を有していることを示唆しており、多段階発がん機構の一つである可能性がある。今後、HBZ-Tgから得られたゲノム情報とATL患者の情報を比較することにより、発がんにより重要なゲノム異常の特定が期待できる。ATLで見つかった白血病発症関連因子群の異常からウイルス感染防御破綻、ATL発症への道筋がわかってきた。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201313038B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒトATL及びHBZトランスジェニックATL発症マウスを用いた比較ゲノム解析によるATL発症機構の解析
課題番号
H23-3次がん-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
森下 和広(宮崎大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 安永 純一朗(京都大学 ウイルス研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人T細胞白血病(ATL)はHTLV-1感染より数十年を経て白血病化する難治性白血病である。白血病発症にはHTLV-1感染後に多くのゲノム異常、エピゲノム異常が蓄積し多因子による発症が考えられる。そこでHTLV-1 bZIP factor (HBZ) に注目しHBZ TGマウスに発症するT細胞リンパ腫の包括的ゲノム・トランスクリプトーム解析によりATL発がんの分子機構の解析を、また一方でヒトATL細胞に対して統合的ゲノム解析を行い、ATL発症関連遺伝子群を単離し機能異常を明らかにし、HTLV-1感染からATL多段階発がんの解明を行う。
研究方法
1. SNPアレイ解析・網羅的遺伝子発現解析;くすぶり型、慢性型、急性型ATL症例合計74症例を行いATL発症関連因子群を同定した。2. 網羅的メチル化アレイ解析;各種ATL検体31症例、健常人DNA5症例、Tax不死化リンパ球3症例、HTLV-1感染細胞株5株、ATL細胞株6株に行った。3. in vitro機能解析;NDRG2は網羅的な結合タンパク質の同定、CADM1プロモーターアッセイ、BCL11Bは、ATLでの特異的発現異常、転写調節、、各種遺伝子改変マウス作製による白血病発症機構の検討を行った。4. HBZ発現細胞における網羅的遺伝子発現解析: HBZが惹起する遺伝子発現プロファイルの変化を包括的に比較解析した。5. HBZ-Tgに発症するTリンパ腫におけるゲノム異常の探索 :HBZ-Tg由来Tリンパ腫細胞におけるエクソーム解析を試みた。6. HBZが惹起するエピゲノム異常の分子機構;HBZが結合するヒストン修飾酵素と遺伝子発現に及ぼす変化を解析した。
結果と考察
1 高密度SNPアレイ解析・網羅的遺伝子発現解析;TCF8/ZEB1、EPC1/AXSL2融合遺伝子(10p11)、NDRG2(14q11)、 BCL11B(14q32)を同定した。ATL表面抗原CADM1を新規FACS診断系として発表した。CDKN1Aは、Taxにより高発現するがATL細胞ではTax発現低下とプロモーターメチル化により低発現した。またATLにおけるTGFb不応性はTCF8低発現とSMAD7高発現に依存した。
2. 網羅的メチル化アレイ解析;高メチル化低発現遺伝子群には、NDRG2、BCL2L11等が含まれ、低メチル化高発現遺伝子群として、PTHLH等が含まれていた。NDRG2のメチル化をATL病型により検討したところ、くすぶり型においてもメチル化が認められたため、ATL発症初期からのメチル化が示唆された。
3. in vitro機能解析;NDRG2はPTENにPP2AをリクルートしPTEN脱リン酸化状態を保持し活性調節を行っているが、NDRG2低発現によりATLではPTENリン酸化状態と成りAKT活性化に繋がっていた。NDRG2発現低下はHTLV-1Taxによるメチル化異常との関連が示唆され、感染防御機構破綻による発症機構が示唆された。
4. In vivo実験;各種遺伝子改変マウスを作成し、ZEB1はTリンパ腫を、NDRG2は多種類の固形がんを含みTリンパ腫(CD4+)を発症した。CADM1TGマウスは皮膚炎症症状とTリンパ腫が出現した。
5. HBZ発現細胞における網羅的遺伝子発現解析;HBZ依存的にBimとFasLの発現が低下しHBZはFoxO3aの細胞内局在異常およびDNA結合能阻害により、BimおよびFasLの発現を抑制した。HBZはシトシン脱アミノ化酵素(AID)の発現を更新させTGF-β/Smad経路を介してAicdaのプロモーターを活性化した。
6. HBZ-Tgに発症するTリンパ腫におけるゲノム異常の探索 ;エクソーム解析によりHt48では6361種類の遺伝子変異が検出された。
7. HBZが惹起するエピゲノム異常の分子機構;HBZによるエピゲノム異常と発がん機構に関して、HBZがヒストン修飾関連分子CBP/p300、EPC-1、TIP60、FBXL11等と結合することを見出した。
結論
HBZがエピジェネティックな遺伝子発現制御に関与した。一方、HBZはシトシン脱アミノ化酵素の転写を誘導し、遺伝子変異の誘導に関与した。HBZ自体が細胞側のゲノム異常、エピゲノム異常を誘導する機能を有することを示唆した。ATL発症関連遺伝子群としてZEB1/TCF8、SMAD7、CDKN1A、NDRG2、EPC1/AXSL2、CADM1/TSLC1、BCL11Bを同定した。それぞれの異常はATL細胞の性状を説明できる重要な発症因子であり、HTLV-1ウイルス感染により方向付けられたゲノム異常エピゲノム異常に基づく段階的な白血病発症機構がより明確になった。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313038C

成果

専門的・学術的観点からの成果
成人T細胞白血病の原因遺伝子の一つとしてNDRG2を同定し、白血病発症機構を明らかにした。この分子はPI3K/AKT情報伝達系を負に制御しており、NDRG2遺伝子発現の低下は感染防御破綻によりATL発症に関わることが示唆された。成果かNature Comm.等の雑誌に掲載され、新聞等で大きな反響があった。HBZの新規機能を同定、ATL発症に大きな役割を有することが同定された。
臨床的観点からの成果
PTENの異常はゲノム異常に限られていたがリン酸化修飾による不活化ががん化に関係することから、脱リン酸化による治療法が可能である事が判り、そのリン酸化酵素は一つのターゲットなり得ることが分かった。またHBZの異常はその後のゲノム、エピゲノム異常の引き金となっていることから、こちらも治療のターゲットとして再認識された。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
NDRG2の発見した論文の発表は、各種新聞や、テレビにより取り上げられ、反響がありました。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
53件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
3件
その他成果(特許の取得)
1件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
TSLC1抗体のイムノクロマトキット
詳細情報
分類:
特許番号: 2011-193331
発明者名: 森下和広、 福田健太、小林行治、中武彩子、谷口喬子
権利者名: 宮崎大学、 宮崎県産業支援財団、アドテック
出願年月日: 20110818
国内外の別: 国内
特許の名称
抗TfR抗体
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2012/061676
発明者名: 森下和広、黒澤良和、張黎臨、黒澤仁、見供克之、須藤幸夫、野村富美子、鵜飼由範
権利者名: 宮崎大学、ペルセウスプロテオミクス
出願年月日: 20120507
国内外の別: 国外
特許の名称
PTEN→PI3K/AKT情報伝達系を標的とした癌治療
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2010/055378
発明者名: 森下和広、中畑新吾、濱崎誠
権利者名: 宮崎大学、宮崎県産業支援財団
出願年月日: 20100326
国内外の別: 国外
特許の名称
PTENのリン酸化抑制剤又は脱りん酸化剤
詳細情報
分類:
特許番号: 2011-508324
発明者名: 森下和広 中畑新吾
権利者名: 宮崎大学、宮崎県産業振興機構
取得年月日: 20140411
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takenouchi H, Umeki K, Sasaki D, Yamamoto I, et al
Defective human T-lymphotropic virus type 1 provirus in asymptomatic carriers.
Int J Cancer ,  128 (10) , 1335-1343  (2014)
原著論文2
aito Y, Nakahata S, Yamakawa N, Kaneda K te al
CD52 as a molecular target for immunotherapy to treat acute myeloid leukemia with high EVI1 expression.
Leukemia , 25 , 921-931  (2014)
原著論文3
3. Nishikata I, Nakahata S, Saito Y, Kaneda K et al
Sumoylation of MEL1S at lysine 568 and its interaction with CtBP facilitates its repressor activity and the blockade of G-CSF-induced myeloid differentiation.
Oncogene , 30 , 4194-4207  (2013)
原著論文4
Ichihara E, Kaneda K, Saito Y, Yamakawa N, et al
Angiopoietin1 contributes to the maintenance of cell quiescence in EVI1high leukemia cells.
Biochem Biophys Res Commun , 416 ,  239-245  (2013)
原著論文5
5. Yamakawa N, Kaneda K, Saito Y, Ichihara E, Morishita K
The increased expression of integrin α6 (ITGA6) enhances drug resistance in EVI1high leukemia
Plos one , 7 (1) , e30706-  (2012)
原著論文6
6. Kondo Y, Nagai K, Nakahata S, Saito Y
Overexpression of the DNA sensor proteins, absent in melanoma 2 and interferon-inducible 16, contributes to tumorigenesis of oral squamous cell carcinoma with p53 inactivation.
Cancer Sci. , 103 (4) , 782-790  (2012)
原著論文7
Matsuoka M and Yasunaga J
Human T-cell leukemia virus type 1: replication, proliferation and propagation by Tax and HTLV-1 bZIP factor.
Curr Opin Virol , 3 , 684-691  (2013)
原著論文8
Miura M, Yasunaga J, Tanabe J, et al
Characterization of simian T-cell leukemia virus type 1 in naturally infected Japanese macaques as a model of HTLV-1 infection.
Retrovirology, , 10 , 118-  (2013)
原著論文9
Tanaka-Nakanishi A, Yasunaga J, Takai K, Matsuoka M
HTLV-1 bZIP Factor Suppresses Apoptosis by Attenuating the Function of FoxO3a and Altering Its Localization.
Cancer Res , 74 , 188-200  (2014)
原著論文10
Azuma Y, ner T, Ma G, Yasunaga J, et al
Controlling leucine-zipper partner recognition in cells through modification of a-g interactions.
Chem Commun (Camb) , 50 , 6364-6367  (2014)
原著論文11
Yasunaga J.
Targeting Human T-cell Leukemia Virus Type 1: Pathogenesis and Treatment Strategies.
In: Gupta SP, ed. Cancer-Causing Viruses and Their Inhibitors. Abingdon, UK: CRC Press  (2014)
原著論文12
Yasunaga J and Matsuoka M.
Human T-cell leukemia virus type 1: pathogenesis and host immune response.
Viruses and human cancer, edited by Hudnall, SD, Springer, , 229-262  (2014)
原著論文13
Ma G, Yasunaga J (co-corresponding author), Akari H, Matsuoka M.
TCF1 and LEF1 act as T-cell intrinsic HTLV-1 antagonists by targeting Tax
roc Natl Acad Sci U S A , 112 , 2216-2221  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
2018-06-12

収支報告書

文献番号
201313038Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,900,000円
(2)補助金確定額
9,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,368,361円
人件費・謝金 0円
旅費 161,200円
その他 86,439円
間接経費 2,284,000円
合計 9,900,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-10-14
更新日
-