文献情報
文献番号
201313023A
報告書区分
総括
研究課題名
癌医療におけるグレリンの包括的QOL改善療法の開発研究
課題番号
H22-3次がん-一般-034
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中里 雅光(宮崎大学 医学部 内科学講座 神経呼吸内分泌代謝学分野)
研究分担者(所属機関)
- 寒川 賢治(国立循環器病研究センター研究所)
- 土岐 祐一郎(大阪大学大学院医学系研究科 消化器外科)
- 片岡 寛章(宮崎大学医学部病理学講座 腫瘍 再生・病態学分野)
- 清水 英治(鳥取大学医学部統合内科医学講座 分子制御内科学分野)
- 迎 寛(産業医科大学医学部 呼吸器内科学)
- 七島 篤志(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 腫瘍外科)
- 光永 修一(国立がん研究センター東病院 肝胆膵内科)
- 松元 信弘(宮崎大学医学部内科学講座 神経呼吸内分泌代謝学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
23,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
進行癌患者の約半数は体重減少をきたすほどの食思不振があり、カヘキシアや食思不振は患者QOLを著しく低下させる。グレリンは強力な成長ホルモン分泌促進活性をもつペプチドであり、さらに成長ホルモン非依存性に摂食亢進、エネルギー蓄積、抗炎症、交感神経抑制、心血管保護など多彩な生体調節機能を有している。本研究では、癌医療を強力に底上げすることを目的に、化学療法を実施する進行癌、根治術を実施する早期癌患者を対象に、グレリン投与の臨床試験を実施する。また、基礎研究として、癌モデル動物におけるグレリンの効果を分子レベルで解析する。
研究方法
1.進行肺癌患者のQOL改善に対するグレリンの臨床効果
2.消化器癌集学的治療におけるグレリンによる包括的支持療法の検討
3.膵癌患者におけるグレリンによるQOL改善療法の開発研究
4.高発癌環境におけるグレリンの作用と微小転移巣に対するグレリンの影響
5.進行肺癌に対するグレリンの臨床応用と抗カヘキシア作用の解明
6.肝胆道膵手術におけるグレリン研究
について臨床研究、基礎研究を実施した。
2.消化器癌集学的治療におけるグレリンによる包括的支持療法の検討
3.膵癌患者におけるグレリンによるQOL改善療法の開発研究
4.高発癌環境におけるグレリンの作用と微小転移巣に対するグレリンの影響
5.進行肺癌に対するグレリンの臨床応用と抗カヘキシア作用の解明
6.肝胆道膵手術におけるグレリン研究
について臨床研究、基礎研究を実施した。
結果と考察
1.進行肺癌患者のQOL改善に対するグレリンの臨床効果
抗癌剤治療により14日間に平均で-2.2kgの減少を来した。血漿中アシルグレリン濃度はday 4で最低値となった。抗癌剤治療を受ける進行肺癌患者へのグレリン投与(二重盲検プラセボコントロール試験)では、7日間にグレリン群で1458 ± 332 kcal/day、プラセボ群で1363 ± 425 kcal/dayとグレリン群で摂食量が多い傾向であった。
2.消化器癌集学的治療におけるグレリンによる包括的支持療法の検討
胃切除患者では、グレリン投与(二重盲検プラセボコントロール試験)により食事摂取カロリーが有意に増加し、食欲と体重の改善を認めた。食道癌化学療法患者では、化学療法後に血漿グレリン値が低下し、食欲不振やQOLスコアとの相関を認めた。このような患者にグレリンを投与(二重盲検プラセボコントロール試験)することで抗癌剤治療に伴う食思不振や嘔気が有意に改善し、食事摂取量も有意に増加した。食道亜全摘胃管再建術を実施した患者に対するグレリン投与(二重盲検プラセボコントロール試験)では、術後のCRP、IL-6上昇が有意に抑制され、全身性炎症反応症候群期間も有意に短縮した。
3.膵癌患者におけるグレリンによるQOL改善療法の開発研究
フルオロウラシル系経口抗癌剤では、高度な消化器毒性は抗癌剤の用量強度低下と予後不良に関連していた。活性グレリン/総グレリン比低値は、消化器症状および全身化学療法中の消化器毒性と関連していた。また、膵癌肝転移組織ではグレリン受容体mRNAの発現は極めて低かった。以上より、活性グレリン/総グレリン比低値で、フルオロウラシル系抗癌剤を含むレジメンを施行する進行膵癌患者では、グレリン補充療法は有効である可能性があると考えられた。
4.高発癌環境におけるグレリンの作用と微小転移巣に対するグレリンの影響
グレリン遺伝子欠損はマウスの大腸炎発がんモデルにおいてその発がん頻度と腫瘍組織型には明らかな影響を認めず、グレリン欠損マウスにおいて、より大きい腫瘍が形成された。このモデルにグレリンを投与した場合は形成腫瘍数が顕著に減少し、これはグレリンによる抗炎症効果によるものである可能性が示唆された。
5.進行肺癌に対するグレリンの臨床応用と抗カヘキシア作用の解明
肺癌悪液質モデル動物において、グレリン投与は、摂餌量、体重、筋重量、筋横断面積の減少を抑制し、IL-6などの血中炎症性サイトカイン濃度やAtrogin-1などの筋特異的ユビキチンリガーゼの発現上昇を抑制した。これらの効果は、グレリンの持つ抗炎症作用や、筋組織中のIGF1濃度を上昇させることが関与している可能性が考えられた。
6.肝胆道膵手術におけるグレリン研究
グレリンは膵切除後の膵液漏を助長させず、膵酵素リパーゼを減少させる傾向があった。担癌状態で癌増殖に影響に関する検討では、癌増殖を抑制する効果が得られた。
抗癌剤治療により14日間に平均で-2.2kgの減少を来した。血漿中アシルグレリン濃度はday 4で最低値となった。抗癌剤治療を受ける進行肺癌患者へのグレリン投与(二重盲検プラセボコントロール試験)では、7日間にグレリン群で1458 ± 332 kcal/day、プラセボ群で1363 ± 425 kcal/dayとグレリン群で摂食量が多い傾向であった。
2.消化器癌集学的治療におけるグレリンによる包括的支持療法の検討
胃切除患者では、グレリン投与(二重盲検プラセボコントロール試験)により食事摂取カロリーが有意に増加し、食欲と体重の改善を認めた。食道癌化学療法患者では、化学療法後に血漿グレリン値が低下し、食欲不振やQOLスコアとの相関を認めた。このような患者にグレリンを投与(二重盲検プラセボコントロール試験)することで抗癌剤治療に伴う食思不振や嘔気が有意に改善し、食事摂取量も有意に増加した。食道亜全摘胃管再建術を実施した患者に対するグレリン投与(二重盲検プラセボコントロール試験)では、術後のCRP、IL-6上昇が有意に抑制され、全身性炎症反応症候群期間も有意に短縮した。
3.膵癌患者におけるグレリンによるQOL改善療法の開発研究
フルオロウラシル系経口抗癌剤では、高度な消化器毒性は抗癌剤の用量強度低下と予後不良に関連していた。活性グレリン/総グレリン比低値は、消化器症状および全身化学療法中の消化器毒性と関連していた。また、膵癌肝転移組織ではグレリン受容体mRNAの発現は極めて低かった。以上より、活性グレリン/総グレリン比低値で、フルオロウラシル系抗癌剤を含むレジメンを施行する進行膵癌患者では、グレリン補充療法は有効である可能性があると考えられた。
4.高発癌環境におけるグレリンの作用と微小転移巣に対するグレリンの影響
グレリン遺伝子欠損はマウスの大腸炎発がんモデルにおいてその発がん頻度と腫瘍組織型には明らかな影響を認めず、グレリン欠損マウスにおいて、より大きい腫瘍が形成された。このモデルにグレリンを投与した場合は形成腫瘍数が顕著に減少し、これはグレリンによる抗炎症効果によるものである可能性が示唆された。
5.進行肺癌に対するグレリンの臨床応用と抗カヘキシア作用の解明
肺癌悪液質モデル動物において、グレリン投与は、摂餌量、体重、筋重量、筋横断面積の減少を抑制し、IL-6などの血中炎症性サイトカイン濃度やAtrogin-1などの筋特異的ユビキチンリガーゼの発現上昇を抑制した。これらの効果は、グレリンの持つ抗炎症作用や、筋組織中のIGF1濃度を上昇させることが関与している可能性が考えられた。
6.肝胆道膵手術におけるグレリン研究
グレリンは膵切除後の膵液漏を助長させず、膵酵素リパーゼを減少させる傾向があった。担癌状態で癌増殖に影響に関する検討では、癌増殖を抑制する効果が得られた。
結論
抗癌剤投与に伴い血中グレリン濃度は減少し、グレリン濃度と消化器症状との間には関連が示唆された。さらに抗癌剤治療を受けた患者へのグレリン投与は消化器毒性を軽減し、摂食を増やす可能性が示唆された。抗癌剤治療に伴う消化器毒性の軽減は抗癌剤の用量強度を増やすことが期待できる。また、大侵襲手術に伴う全身性炎症反応症候群は術後経過に悪影響を及ぼす。グレリンの抗炎症作用は手術成績の向上や予後改善につながり、大侵襲手術の支持療法として期待できることが示唆された。また、発癌モデルを用いた基礎研究では、グレリンの抗炎症作用やIGF-1を介した作用がカヘキシアに対して有効で、抗腫瘍効果に寄与する可能性が示された。
公開日・更新日
公開日
2015-06-02
更新日
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