新戦略に基づく抗がん剤の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201313018A
報告書区分
総括
研究課題名
新戦略に基づく抗がん剤の開発に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-028
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
安永 正浩(独立行政法人 国立がん研究センター 東病院 臨床開発センター 新薬開発分野)
研究分担者(所属機関)
  • 西山伸宏(東京工業大学 資源化学研究所 高分子材料部門)
  • 丸山一雄(帝京大学 薬学部)
  • 眞鍋史乃(独立行政法人 理化学研究所 基幹研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
23,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
低分子抗がん剤はがんと同等に正常組織へ分布し有害事象をもたらす。この不都合を解消するためにDDSの概念が導入された。しかしながら、選択的腫瘍部集積性のみで効果が期待でるわけではない。固形腫瘍、特に難治性がんには豊富な間質が存在して、DDS製剤の腫瘍組織内部での浸透性を妨げている。この問題を克服すべく、本研究ではがん組織の生理学、病理学に立脚し、工学系マテリアルサイエンスと生物学マテリアル抗体などとの融合による次世代DDSの創生を目標にして、より有効・有用ながん治療法の開発を行った。
研究方法
1)抗不溶性フィブリン抗体と抗TF抗体の特性解析とDDS応用の非臨床POC(Proof of concept)研究、 2)環状RGDペプチド導入ダハプラチン(DACHPt)内包ミセルのサイズコントロールと薬効評価、3)バブルリポソーム(BL)と超音波による温熱療法の開発、4) ADC(Antibody drug conjugate)作製のためのリンカーテクノロジーについて研究を行った。
結果と考察
【結果】 1)抗不溶性フィブリン抗体の解析から、フィブリンノゲンがフィブリンに変換した際に生じるBβ鎖とγ鎖から構成されたポケット状開裂部を発見した。グリオーマにおいて、不溶性フィブリン析出の多寡が悪性度の指標になることが判明した。抗TF抗体ADCのがん細胞とがん間質へのバブルターゲッティング作用を明らかにした。DDSイメージングにおける低分子化抗体の有用性を示した。 2)RGD付加DACHpt内包ミセルを30-100nmの範囲でサイズをコントロールして作製したところ、50nm以下のペプチド搭載ミセルが、能動的な腫瘍への集積後に内部浸透性の向上から優れた薬効を示すことが明らかになった。3)BLを利用した超音波がん温熱療法と樹状細胞免疫療法を併用することで、細胞性免疫を中心とした抗腫瘍免疫が誘導され、抗腫瘍効果の増強が認められた。4)カテプシンが認識するVal-Citリンカーを設計合成した。さらに、PEG 鎖長を短くした化合物を合成した。in vitro において、良好な放出能を持つことが明らかになった。
【考察】抗フィブリン抗体の認識部位として、フィブリンノゲンがフィブリンに変換した際に生じるBβ鎖とγ鎖から構成されるポケット状開裂部の証明は、フィブリンを標的にしたがん診断治療法の有力なPOCとなった。抗フィブリン抗体に加えて、抗TF抗体のドラッグデリバリーツールとしての有用性も明らかになった。がん間質を標的にしたCAST(Cancer stromal targeting)治療・診断への応用が期待できる。抗TF抗体は、がん細胞とがん間質のダブルターゲッティングも可能である。 DDS製剤は抗体などのパイロット分子を搭載することにより有効なナノキャリアになることが示された。
結論
抗体テクノロジーを活用した次世代DDS製剤の有用性が確かなものになった。早期臨床応用に向けた技術基盤やregulationの整備がますます重要となる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201313018B
報告書区分
総合
研究課題名
新戦略に基づく抗がん剤の開発に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-028
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
安永 正浩(独立行政法人 国立がん研究センター 東病院 臨床開発センター 新薬開発分野)
研究分担者(所属機関)
  • 西山 伸宏(東京工業大学 資源化学研究所 高分子材料部門)
  • 丸山 一雄(帝京大学 薬学部)
  • 眞鍋 史乃(独立行政法人 理化学研究所 基幹研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんでは周囲血管の破壊、出血、凝固によるフィブリン形成、そしてコラーゲンによる置換が繰り返され、間質が形成される。難治性がんでは、EPR効果により腫瘍へ選択的に運ばれたDDS製剤も豊富な間質により腫瘍内部での浸透性が妨げられ、がん細胞まで送達できない。そこで、新たなDDSの概念である間質を標的にしたCAST(Cancer stromal targeting)療法を考案し、その有効性を検証した。脳腫瘍の場合には間質以外にも血液-脳腫瘍関門(BBTB)の存在がドラッグデリバリーの効率に大きく影響を与えている。そこで、環状RGDペプチドを導入した抗がん剤内包高分子ミセルを作製して、デリバリー効果の改善と抗腫瘍効果の増強を試みた。リポソームに関しては、バブルリポソーム(BL)を用いた超音波がん温熱療法と樹状細胞免疫療法を併用することで、抗腫瘍効果の増強を試みた。さらに、次世代DDS製剤としてのAntibody drug conjugate (ADC)の中心技術であるリンカーの開発を行った。
研究方法
1)抗不溶性フィブリン抗体102-10の作製と特異性評価及びエピトープの探索。抗TF抗体の作製及び102-10と共に抗体デリバリーの評価、102-10を用いた各種がん組織、正常組織、梗塞性・炎症性疾患などの免疫染色。102-10、抗ヒトTF抗体、抗マウスTF抗体にMMAEを付加したADCの作製。2)環状RGDペプチド導入ダハプラチン(DACHPt)内包ミセルの有効性評価。3)BLを用いた超音波温熱療法と樹状細胞免疫療法の併用効果。4)ADCにおけるリンカーテクノロジーの開発研究。
結果と考察
【結果】1) フィブリンノゲンがフィブリンに変換した際に生じるBβ鎖とγ鎖から構成されたポケット状開裂部を発見した。フィブリンは脳腫瘍、胃がん、膵がんなどほとんどの固形腫瘍で陽性を示した。特にグリオーマでは、悪性度と相関していた。一方、正常組織は全て陰性で、炎症・梗塞性疾患での析出も一過性であった。生体イメージングで抗フィブリン抗体と抗TF抗体のデリバリーツールとしの有用性を確認した。抗ヒトTF抗体と抗マウスTF抗体のADCについて、ヒト膵臓がん細胞Xenograftマウスモデル(がん細胞はヒト型TFを腫瘍間質はマウス型TFを発現)に各々投与して有効性を確認できた。2)RGD付加DACHpt内包ミセルはBBTBを能動的に通過して脳腫瘍に効果を発揮した。サイズでは50nm以下のミセルが優れていた。3)BLを利用した超音波がん温熱療法後に樹状細胞(DC)を腫瘍内投与することで、高い抗腫瘍効果が認められた。4)プラスミン認識用配列、カテプシン認識用Val-Citに加えて、Pro-Glyリンカーの合成に成功した。【考察】1)102-10が不溶性フィブリン特異的なポケット状開裂部を認識することが判明した、臨床病理学的検索と疾患動物モデルでの解析から不溶性フィブリンは梗塞・炎症性疾患では一過性に出現するのみであった。これらの疾患では疼痛などの症状を有するので、無症候性でフィブリンの持続陽性はがんに特徴的な所見といえる。抗フィブリン抗体は、生体イメージングでもがん間質に特異的にデリバリーされていることが示されており、優れたDDSツールであることが明らかになった。抗TF抗体の治療実験で抗ヒトTF抗体ADCと抗マウスTF抗体ADCの両方が有効であったことから、がん細胞と腫瘍血管の両方を標的にするダブルターゲッティングのコンセプト証明がなされた。TFを介した腫瘍と血液凝固系との関連に関しても、さらに解析を進める予定である。2)脳腫瘍の治療抵抗性の原因として間質と共にBBTBあるいは血液脳関門 (Blood-brain barrier, BBB)の存在が上げられている。環状RGDペプチドによるミセルの能動輸送でこの障害を克服できる可能性が示された。さらに、ミセルサイズを50nm以下に小さくすることの重要性も明らかになった。3)細胞性免疫の誘導において抗原提示細胞である DC の成熟化は重要な役割を担っている。DC を活性化できる超音波がん温熱併用療法は有用性の高い新たながん治療戦略になるものと期待された。4)リンカーは薬剤放出速度や部位を制御できるので、DDSの効率化にとって大切な技術要素である。リンカー設計、特にSpecifier、スペーサー選択の重要性が示された。
結論
NK105をはじめとするミセル体製剤の臨床試験は順調に進んでいる。抗フィブリン抗体と抗TF抗体のドラッグデリバリーツールとしての有用性も示され、新しいDDSとしての抗体テクノロジーを利用したDDS製剤の有効性が明らかになった。今後、関連する技術基盤やregulationの整備がますます重要となる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
フィブリン特異的な抗原部位とがんにおける不溶性フィブリンの持続陽性を明らかにした。抗間質(フィブリン・TF)抗体のデリバリーツールとしての有用性を示した。RGD付加ミセル、バブルリポソーム・超音波がん温熱療法、Antibody drug conjugate (ADC)で成果をあげて、次世代DDSの技術開発が一段と進んだ。
臨床的観点からの成果
パクリタキセル内包ミセル体NK105は乳がんで著明な効果を示し、国内第3相治験もまもなく終了する。他のミセル体製剤の臨床試験も順調に進んでいる。CAST療法を考案して、新しいがん診断治療としての有用性を示した。抗体テクノロジーを利用したDDS製剤の臨床応用性が高いことを示した。
ガイドライン等の開発
高分子ミセル型医薬品のリフレクション・ペーパーに成果が反映された。
その他行政的観点からの成果
高分子ミセル型医薬品に関する国際的規制文書の作成などに成果が応用された。
その他のインパクト
フィブリンを標的にしたがん診断治療法が読売新聞に掲載された。質量顕微鏡を用いたがん部でのDDS製剤の可視化が、産経新聞、日刊工業新聞、東奥日報社に掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
A Takahashi1, Y Yamamoto, M Yasunaga et al.
NC-6300, an epirubicin-incorporating micelle, exerts higher antitumor activity and the least cardiotoxicity as compared to conventional epirubicin.
Cancer Sci. , 104 (7) , 920-925  (2013)
10.1111/cas.12153
原著論文2
Y Hisada, M Yasunaga, S Hanaoka et al.
Discovery of an uncovered region in fibrin clots and its clinical significance.
Sci. Rep. , 3 , 2604-  (2013)
10.1038/srep02604
原著論文3
M Yasunaga, M Furuta, K Ogata, et al.
The significance of microscopic mass spectrometry with high resolution in the visualisation of drug distribution.
Sci. Rep. , 3 , 3050-  (2013)
10.1038/srep03050
原著論文4
Y Yamamoto, I Hyodo, M Takigahira et al.
Effect of combined treatment with the epirubicin-incorporating micelles (NC-6300) and 1,2-diaminocyclohexane platinum (II)-incorporating micelles (NC-4016) on a human gastric cancer model.
Int J Cancer , 135 (1) , 214-223  (2013)
10.1002/ijc.28651
原著論文5
S. Deshayes, H. Cabral, T. Ishii et al
Phenylboronic acid-installed polymeric micelles for targeting sialylated epitopes in solid tumors.
J. Am. Chem. Soc. , 135 (41) , 15501-15507  (2013)
10.1021/ja406406h
原著論文6
Y. Miura, T. Takenaka, K. Toh, S et al
Cyclic RGD-linked polymeric micelles for targeted delivery of platinum anticancer drugs to glioblastoma through the blood-brain tumor barrier.
ACS Nano , 7 (10) , 8583-8592  (2013)
10.1021/nn402662d
原著論文7
R Suzuki, Y Oda, D Omata et al
Tumor growth suppression by mild hyperthermia using non-high intensity focused ultrasound in combination with nanobubbles.
Int. Hyperthermia  (2014)
原著論文8
Sato R, Obonai T, Tsumura R et al
Preparation and characterization of anti-tissue factor single-chain variable fragment antibody for cancer diagnosis.
Cancer Sci. , 105 (12) , 1631-1637  (2014)
10.1111/cas.12557
原著論文9
Ahn J, Miura Y, Yamada N et al
Antibody fragment-conjugated polymeric micelles incorporating platinum drugs for targeted therapy of pancreatic cancer.
Biomaterials , 39 , 23-30  (2015)
10.1016/j.biomaterials.2014.10.069
原著論文10
Koga Y, Manabe S, Aihara Y et al
Antitumor effect of antitissue factor antibody-MMAE conjugate in human pancreatic tumor xenografts.
Int J Cancer  (2015)
10.1002/ijc.29492
原著論文11
Yamamoto Y, Hyodo I, Koga Y et al
Enhanced antitumor effect of anti-tissue factor antibody-conjugated epirubicin-incorporating micelles in xenograft models.
Cancer Sci. , 106 (5) , 627-634  (2015)
10.1111/cas.12645

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2018-06-04

収支報告書

文献番号
201313018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
31,100,000円
(2)補助金確定額
31,100,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 14,113,074円
人件費・謝金 9,367,397円
旅費 405,679円
その他 37,850円
間接経費 7,176,000円
合計 31,100,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-09-10
更新日
-