内視鏡による新たな胃がん検診システム構築に必要な検診方法の開発とその有効性評価に関する研究

文献情報

文献番号
201313016A
報告書区分
総括
研究課題名
内視鏡による新たな胃がん検診システム構築に必要な検診方法の開発とその有効性評価に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-022
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
濱島 ちさと(独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 検診研究部 検診評価研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎 米厚(鳥取大学医学部環境予防医学分野)
  • 後藤 励(京都大学白眉センター経済学研究科)
  • 小越 和栄(新潟県立がんセンター新潟病院)
  • 成澤 林太郎(新潟県立がんセンター新潟病院)
  • 月岡 恵(新潟市保健所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
15,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成18年度の胃がん検診ガイドラインでは、死亡率減少効果が証明された胃X線検査が推奨され、胃内視鏡検査、ヘリコバクタ・ピロリ抗体及びペプシノゲン法は証拠が不十分とされた。国内や韓国において内視鏡検診の評価研究は進みつつあるが、胃がん死亡率減少効果については確定的な根拠は得られていない。さらに、ペプシノゲン法及びヘリコバクタ・ピロリ抗体検査によるハイリスク集約への期待があるが、胃がん死亡率減少効果も不明であり、集約の可能性やその後の検診方法などの検証は不十分である。こうした現状を踏まえた上で、新たな胃がん検診導入のための内視鏡検診の有効性を検証し、実施の可能性について医療経済学的観点から検討した。
研究方法
1)鳥取県4市(鳥取、米子、倉吉、境港)と新潟市において、症例対照研究を行った。
2)内視鏡検診の有効性を評価するための無作為割付なしの比較対照試験を進行中である。
3)鳥取県4市(鳥取、米子、倉吉、境港)を対象として、内視鏡検診及びX線検診による検診発見がんと外来発見がんの生存率解析を行った。
4)X線検診を比較対照として、内視鏡検診の費用効果分析を行った。
結果と考察
1)鳥取県4市(鳥取、米子、倉吉、境港)と新潟市において、症例対照研究を行った。胃がん死亡者を症例群とし、症例群の胃がん診断日に生存している健常者の生年月日、性別、居住地をマッチさせて、対照群を1:6で抽出した。症例群は、男性288人、女性122人であり、対照群は2,292人であった。3年以内の少なくとも1度の内視鏡検診受診で30%の胃がん死亡率減少効果を認めた(オッズ比0.695, 95%CI: 0.489-0.986)。一方、X線検診については、有意な胃がん死亡率減少効果は認められなかった(オッズ比0.865, 95%CI: 0.631-1.185)。

2)新潟市において、内視鏡検診の有効性を検証するため無作為割り付けなしの比較対照試験を計画し、平成24年度より研究を開始した。平成24-25年度では、研究検診群1,449人、対照群31,772人のリクルートが完了した。

3)内視鏡検診発見がんの生存率は、X線検診発見がん、外来発見がんに比べ、有意に高かった。5年生存率は、内視鏡検診群91.2 ± 1.5% (95% CI: 87.6-93.8)、X線検診群 84.3 ± 2.9% (77.7-89.1)、外来群 66.0 ± 1.6% (62.8-68.9) であった。
10年生存率は、内視鏡検診群88.5 ± 2.0% (83.9-91.9) 、X線検診群 80.1 ± 3.6% (71.9-86.2) 、外来群64.6 ± 1.6% (61.3-67.6) であった。

4)新潟市の内視鏡検診は胃がん対策型検診として、2003年以降実施しており、実施医療機関は2003年度では83機関であったが、2012年度は141機関となっている。これらの実施医療機関に対しての内視鏡検診の偶発症に関してのアンケートを2回実施した。内視鏡検診での偶発症で多く見られたのは、経鼻内視鏡による鼻出血で重症化症例も含まれている。重大な偶発症としては咽頭部粘膜損傷による皮下気腫が一例見られた。その他マロリーワイス裂傷が比較的高頻度に認められている。

5)男性では、X線検診の費用5,344,734円に対して、内視鏡検診の費用は5,850,377円であった。得られた期待QALYはX線検診が、30.8463QALY、内視鏡検診が31.1800QALYであった。これらからICERは1,476,367円/QALY となる。1QALYの改善に対するWTPをShiroiwa et al.(2009)の基準により500万円/QALYとすれば、内視鏡検診はX線検診に比べて費用効果的と判断される。女性については、X線検診の費用2,353,676円に対して、内視鏡検診の費用は2,554,668円であった。得られた期待QALYはX線検診が32.9834QALY、内視鏡検診が33.1665QALYであった。これらからICERは1,036,334円/QALY となり、内視鏡検診はX線検診に比べて費用効果的と判断される。
結論
鳥取県・新潟市の症例対照研究により、3年以内の内視鏡検診受診により30%の死亡率減少効果を認めた。韓国の大規模コホート内症例対照研究では60%の死亡率減少効果を認めている。これまでも国内で評価研究が行われてきたが、サンプル数、追跡方法、追跡期間などの問題があり、確固たる結果が得らえなかった。しかし、国内外からの新たな報告により、内視鏡検診の有効性は固まりつつある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201313016B
報告書区分
総合
研究課題名
内視鏡による新たな胃がん検診システム構築に必要な検診方法の開発とその有効性評価に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-022
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
濱島 ちさと(独立行政法人 国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 検診研究部 検診評価研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎 米厚(鳥取大学医学部環境予防医学分野)
  • 後藤 励(京都大学白眉センター経済学研究科)
  • 小越 和栄(新潟県立がんセンター新潟病院)
  • 成澤 林太郎(新潟県立がんセンター新潟病院)
  • 月岡 恵(新潟市保健所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成18年度の胃がん検診ガイドラインでは、死亡率減少効果が証明された胃X線検査が推奨され、胃内視鏡検査、ヘリコバクタ・ピロリ抗体及びペプシノゲン法は証拠が不十分とされた。内視鏡検診の有効性を検証し、実施可能性について医療経済学的観点から検討した。
研究方法
1)鳥取県4市(鳥取、米子、倉吉、境港)と新潟市において、症例対照研究を行った。
2)鳥取県米子市の内視鏡検診とX線検診の感度を算出した。
3)鳥取県4市(鳥取市、米子市、倉吉市、境港市)を対象とし、検診による検診発見がんと外来発見がんの生存率解析を行った。
4)新潟市において、内視鏡検診の有効性を検証するため無作為割り付けなしの比較対照試験を計画し、平成24年度より研究を開始した。
5)新潟市・米子市において、内視鏡検診に従事する医師に対して、アンケート調査を行い、内視鏡検診の処理能拡大の可能性を検討した。
6)新潟市の内視鏡がん検診について、稼働分析を行った。
7)X線検診を比較対照として、内視鏡検診の費用効果分析を行った。
8)2000年から2013年までの胃がん検診に関わる文献をPubMed、医学中央雑誌を用いて検索し、系統的総括を行った。
結果と考察
1)鳥取県4市(鳥取、米子、倉吉、境港)と新潟市において、症例対照研究を行い、内視鏡検診により30%の胃がん死亡率減少効果を認めた。

2)鳥取県米子市の内視鏡検診とX線検診の感度を算出した。初回受診の内視鏡検診の感度は、診断法0.955 (95%CI:0.875-0.991)、発生率法0.886 (95%CI:0.698-0.976)であった。継続受診の内視鏡検診の感度は、診断法0.977 (95%CI:0.919-0.997)、発生率法0.954 (95%CI:0.842-0.994)であった。X線検診では、初回検診の感度は、診断法0.893 (95%CI:0.718-0.977)、発生率法0.831 (95%CI:0.586-0.964)であった。継続受診における内視鏡検診の感度は、診断法0.885 (95%CI:0.664-0.972)、発生率法0.855 (95%CI:0.637-0.970)であった。

3)鳥取県4市(鳥取、米子、倉吉、境港)を対象とし、検診による検診発見がんと外来発見がんの生存率解析を行った。検診発見がんは両者とも外来群の生存率を上回っていたが、内視鏡検診発見がんではX線検診発見がんをさらに上回っていた。5年生存率は、内視鏡検診群91.2 ± 1.5% (95% CI: 87.6-93.8)、X線検診群 84.3 ± 2.9% (77.7-89.1)、外来群 66.0 ± 1.6% (62.8-68.9) であった。

4)新潟市において、内視鏡検診の有効性を検証するため無作為割り付けなしの比較対照試験を計画し、平成24年度より研究を開始した。平成24-25年度では、研究検診群1,449人、対照群31,772人のリクルートが完了した。

5)内視鏡検診の処理能アンケート調査では、件数増加には物的資源への投資の有効性が示唆された。

6)新潟市において、内視鏡検診を行っている医療機関4件を対象として稼働分析を行った結果をもとに、内視鏡検診に係る労働時間から、労働費用を算出した。検査前1,305±867秒(21.8分)、検査642.8±193秒(10.7分)、検査後2,482±1,728秒(41.4分)で合計4,415±2,261秒(73.6分)であった。対応する労働費用は、検査前792.6±537円、検査679.3±679.3円、検査後1,508±1,050円で合計2,991±1,424円であった。

7)X線検診を比較対照として、内視鏡検診の費用効果分析を行った。内視鏡検診はX線検診に比べて費用効果的と判断される。

8)2000年から2013年までの胃がん検診に関わる系統的総括を行い、3件の症例対照研究を認めた。これらの研究はいずれも内視鏡検診の死亡減少効果を支持する結果であった。

9)ペプシノゲン法とヘリコバクタ・ピロリ抗体の併用法について、発症予測を検討した3文献にメタ・アナリシスを行った。また、無症状者を対象とするRCT及びコホート研究のメタ・アナリシスを行った結果、30%の胃がん発症抑制効果が認められたが、有意差はなかった。
結論
鳥取県・新潟市の症例対照研究により、3年以内の内視鏡検診受診により30%の死亡率減少効果を認めた。韓国の大規模コホート内症例対照研究では60%の死亡率減少効果を認めている。これまでも国内で評価研究が行われてきたが、サンプル数、追跡方法、追跡期間などの問題があり、確固たる結果が得らえなかった。しかし、国内外からの新たな報告により、内視鏡検診の有効性は固まりつつある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)鳥取県4市と新潟市で症例対照研究を行い、内視鏡検診により30%の胃がん死亡率減少を認めた。2)米子市の内視鏡検診とX線検診の感度を算出した。内視鏡検診の感度はX線検診を上回った。3)鳥取県4市で生存率解析を行った結果、内視鏡検診発見がんは、X線検診発見がんも外来発見がんの生存率を上回っていた。4) 平成24年度より、新潟市において、内視鏡検診の有効性検証の無作為割り付けなしの比較対照試験を開始した。5)新潟市の検診発見癌のStage分布、生存率を検討し、2年以上の検診間隔を検討した。
臨床的観点からの成果
1)鳥取県・新潟市の症例対照研究により、3年以内の内視鏡検診受診により30%の死亡率減少を認めた。2)新潟市の内視鏡検診の実施医療機関に対し、内視鏡検診の偶発症に関するアンケートを2回実施した。内視鏡検診での偶発症で多く見られたのは、経鼻内視鏡による鼻出血で重症化症例も含まれている。重大な偶発症としては咽頭部粘膜損傷による皮下気腫が一例見られた。その他マロリーワイス裂傷が比較的高頻度に認められた。3)新潟市の内視鏡発見胃がん成績から、現状の2年間隔の妥当性が示された。
ガイドライン等の開発
鳥取県米子市の精度研究及び鳥取県・新潟県症例対照研究は、国立がん研究センターの「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年度版」に胃内視鏡検診の科学的根拠として採用された。これらの成果に基づき、胃内視鏡検診が対策型検診として推奨された。
第11回厚生労働省がん検診の在り方検討会(2015.2.5)においても、ガイドラインにおける科学的根拠として上記研究が提示された。厚労省がん検診検討会の審議を経て、2016年2月厚労省指針改訂により、市町村において胃内視鏡検診の実施が推奨されるに至った。
その他行政的観点からの成果
胃内視鏡検診の処理能について、第12回厚生労働省がん検診の在り方検討会(2015.3.18)で報告した。胃内視鏡検診の処理能については、2016年に公表した(Hamashima C, Cancer Sci :2016)。
さらに、ガイドライン採用以降の新たな研究(Hamashima C, Cancer Sci :2015)については、第18回(20160613)厚生労働省がん検診の在り方検討会(20160613)にて報告した。その内容は、日本がん検診診断学会誌に報告した(濱島ちさと、2017)。
その他のインパクト
鳥取県・新潟県症例対照研究は、韓国国立がん研究センターの胃がん検診ガイドラインにも採用された。また、2017年韓国釜山で開催された韓国国際胃がん学会のシンポジウムに招聘され、胃内視鏡検診の科学的根拠について講演した(2017.3)。
国内では、第43回日本消化器がん検診学会近畿地方会(2014.7.5)、日本消化器内視鏡学会附置研究会(2015.5.31)、平成27年度埼玉県胃がん検診セミナー(2016.1.16)、第22回 大阪がん検診治療研究会(2016.2.20)で講演した。

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
34件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
36件
学会発表(国際学会等)
46件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
国立がん研究センターの「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」のエビデンスレポートを作成。
その他成果(普及・啓発活動)
44件
http://esgcr.jp/

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hamashima C, Ogoshi K, Okamoto M, et al.
A Community-based, case-control study evaluating mortality reduction from gastric cancer by endoscopic screening in Japan.
PLoS ONE ,  8 (11) , e79088-  (2013)
doi: 10.1371/journal.pone.0079088
原著論文2
Hamashima C, Okamoto M, Shabana M, et al.
Sensitivity of endoscopic screening for gastric cancer by the incidence method.
Int J Cancer , 133 (3) , 653-659  (2013)
原著論文3
後藤励、新井康平、謝花典子他
診療所における内視鏡胃がん検診数の決定要因
日本医療・病院管理学会誌 , 50 (3) , 25-34  (2013)
原著論文4
Goto R, Arai K, Kitada H, et al.
Labor resource use for endoscopic gastric cancer screening in Japanese primary care settings: a work sampling study.
PLoS ONE , 9 (2) , e88113-  (2014)
doi: 10.1371/journal.pone.0088113
原著論文5
岸知輝、濱島ちさと
高濃度バリウムによる胃X線検査偶発症推計方法の検討
日本消化器がん検診学会雑誌 , 52 (4) , 431-440  (2014)
原著論文6
Terasawa T, Nishida H, Kato K, et al.
Prediction of gastric cancer development by serum pepsinogen test and helicobacter pylori seropositivity in Eastern Asians: A systematic review and meta-analysis.
PLoS ONE , 9 (10) , e109783-  (2014)
doi: 10.1371/journal.pone.0109783
原著論文7
Hamashima C
Current issues and future perspectives of gastric cancer screening.
World J Gastroenterol , 20 (38) , 13767-13774  (2014)
原著論文8
新井康平、謝花典子、後藤励 他
内視鏡胃がん検診プログラムへの参加要因
厚生の指標 , 62 (2) , 30-35  (2015)
原著論文9
Hamashima C, Ogoshi K, Narisawa R, et al.
Impact of endoscopic screening on mortality reduction from gastric cancer.
World J Gastroenterol , 21 (8) , 2460-2466  (2015)
原著論文10
Hamashima C, Shabana M, Okamoto M, Osaki Y, Kishimoto T
Survival analysis of patients with interval cancer undergoing gastric cancer screening by endoscopy
PLoS ONE , 10 (5) , e0126796-  (2015)
doi: 10.1371/journal.pone.0126796
原著論文11
Hamashima C, Shabana M, Okada K, Okamoto M, Osaki Y
Mortality reduction from gastric cancer by endoscopic and radiographic screening
Cancer Science , 106 (12) , 1744-1749  (2015)
doi: 10.1111/cas.12829
原著論文12
Hamashima C , Narisawa R, Ogoshi K, Kato T, Fujita K
Optimal interval of endoscopic screening based on stage distributions of detected gastric cancers
BMC Cancer , 17 , 740-  (2017)
doi: 10.1186/s12885-017-3710-x
原著論文13
Hamashima C , Sano H
Association between age factors and strategies for promoting participation in gastric and colorectal cancer screenings
BMC Cancer , 18 , 345-  (2018)
doi: 10.1186/s12885-018-4244-6

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2018-06-08

収支報告書

文献番号
201313016Z