文献情報
文献番号
201313008A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性小児がんに対する組織的・包括的取り組みに基づく臨床的特性に関する分子情報の体系的解析と、その知見を活用した診断・治療法の開発
課題番号
H22-3次がん-一般-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
清河 信敬(独立行政法人 国立成育医療研究センター 研究所 小児血液・腫瘍研究部)
研究分担者(所属機関)
- 中澤温子(中川温子)(独立行政法人 国立成育医療研究センター 病理診断部)
- 森 鉄也 (独立行政法人 国立成育医療研究センター 小児がんセンター)
- 大喜多 肇 (独立行政法人 国立成育医療研究センター 研究所 小児血液・腫瘍研究部 )
- 林 泰秀 (群馬県立小児医療センター)
- 鶴澤 正仁(愛知医科大学 医学部)
- 小川 誠司 (京都大学 医学部)
- 大平 美紀 (千葉県がんセンター 研究所 がんゲノム研究室)
- 福島 敬(筑波大学 医学医療系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
13,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
難治性小児がんの急速な進展や再発を繰り返す予後不良な亜型について、網羅的-体系的な分子プロファイリングを行ない、その特性の新たな側面を明らかにし、得られた知見を有効な予後予測法や治療層別化法として臨床応用することを目標とした。これまでに網羅されていなかった稀少疾患や、臨床的に必要性が高い白血病の難治例などの疾患を優先的に解析した。
研究方法
臨床検体に対してマイクロアレイ、次世代シーケンサー等による網羅的な発現遺伝子、ゲノム構造、エピゲノム解析を行った。得られた分子情報に基づいてゲノム解析、定量PCR、フローサイトメトリー等による治療層別化法の開発や実用化を検討した。関連する倫理指針、法規を遵守し適切な倫理手続きを行ない実施した。
結果と考察
1)MRDは白血病の予後予測に有用である。免疫受容体遺伝子再構成を利用した定量PCRによる検出法はすでに層別化因子として臨床研究に導入されており、今年度は新たに初発ALL75例を解析して疾患別再構成検出率はBCP 95%、T 79%で、定量感度は0.01%以上であった。平行して、10カラーフローサイトメトリー法によりBCP-ALL 161例、T-ALL 33例に対するMRD解析を行い、9割以上の症例で検出感度0.01%以上のモニタリングが可能であった。また、ALL 119例中21例(17.6%)で特定のキメラ遺伝子を検出し、定量PCRによるMRD追跡を実施した。3者は異なる利点を持ったMRD検出法であり、併用によって更に有用な治療層別化法確立が可能と考えられ、相互の相関性について検討を進めている。2)近年欧米においてBCP-ALLの中でBCR-ABL1陰性だが陽性ALLに類似した遺伝子発現や臨床特性を示す症例群が予後不良亜群“Ph-like ALL”として注目されているが、診断基準は統一されていない。そこで、国内のBCP-ALL 235例に対して3つの異なる方法で診断し、結果を比較した。合わせてのべ23例(BCP-ALLの9.8%)がPh-likeと判定され、4年無病生存率66.7%~41.7%(BCP-ALL全体では83.2%)と予後不良な集団を抽出可能であったが、重複して診断された症例は約30-60%、3者に共通の症例は5例のみで、初発時の年齢や白血球数、IKZF1遺伝子の異常の頻度等、診断法により特徴が異なっていた。予後不良症例を層別化する方法として有用だが、診断基準の確立が急務で、さらに検討を進めている。3) 非Down症候群の急性巨核芽球性白血病43例でCBFA2T3-GLIS2を12例(27.9%)、NUP98-JARID1Aを4例(9.3%)、OTT-MALを10例(23.6%)で認め、前2者は予後不良、後者は予後良好であることが示唆された。AML19例で次世代シークエンサーによる全エクソン解析を行い、RAD21やSTAG2などのコーヒシン関連遺伝子やBCOR/BCORL1などの新規の原因遺伝子変異を同定した。4) 小児骨肉腫で治療感受性の異なる3つのグループに相関するゲノム異常プロファイルについて新規追加症例を用いて検証し、高い再現性を得た。次世代シーケンサーで409種の既知がん関連遺伝子の網羅的変異解析を行い、一部症例に新規変異を見いだした。5)神経芽腫の新規予後分類として提唱されたゲノム分類とINPC病理組織分類、組織像との間の相関性を明らかにした。組み合わせる事によって、より有用な予後分類法の確立が期待される。6) 小児の腎腫瘍でRASSF1Aのメチル化に着目し、腎横紋筋肉腫様腫瘍や腎明細胞肉腫ではその高メチル化が、間葉芽腎腫では低メチル化が特徴的パターンであること、THBS1のメチル化解析と併用することで3つの組織型が鑑別可能であることを示した。7) 散発性肺芽腫12例のゲノム解析により、11例でDICER1変異(うち10例がナンセンスもしくはフレームシフト変異とRNaseIIIbドメイン変異のbiallelic変異)、8例にTP53変異が検出され、前者が発症に重要な役割を果たしており、後者はセカンドヒットであることが示された。
結論
本研究の成果の一部は全国統一多施設共同臨床研究においてすでに治療層別化法として応用されており、Ph-like ALLに関する知見は、現在新たな治療戦略を確立する上での基礎情報としてプロトコール作成に活用されている。骨肉腫や腎肉腫などの分子プロファイリング情報に基づいた層別化や診断法は、臨床応用に向けてさらに研究を進めている。肺芽種やリンパ腫の分子プロファイリング情報は今後新たな標的因子探索や治療開発研究へ応用して行く。
公開日・更新日
公開日
2015-06-02
更新日
-