放射線障害と宿主要因からみた発がんの分子基盤とその臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
201313004A
報告書区分
総括
研究課題名
放射線障害と宿主要因からみた発がんの分子基盤とその臨床応用に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
安井 弥(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 石川 雄一((公財)がん研究会がん研究所 病理部)
  • 宮本 和明(独立行政法人国立病院機構 東広島医療センター 外科)
  • 臺野 和広(独立行政法人放射線医学総合研究所  放射線防護研究センター)
  • 神谷 研二(広島大学 原爆放射線医科学研究所)
  • 宮川 清(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 林 奉権((公財)放射線影響研究所 分子疫学部)
  • 楠 洋一郎((公財)放射線影響研究所 分子疫学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
11,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
放射線発がんの分子基盤を解明し,リスク評価や治療開発等の臨床応用に資することを目的とし,「放射線関連がんにおけるエピジェネティクス」,「放射線障害による発がんモデルにおける検証」,「原爆被爆者コホートを用いた宿主要因と発がん」について解析する。これらの研究成果を活用し,事故,職業あるいは医療被曝による放射線障害に対する具体的な予防策および放射線に起因するがんの診断法・治療法を提示することが最終目標である。
研究方法
原爆被爆者胃がんと乳がん,トロトラスト関連肝がんについてmicroRNAを主とする非翻訳RNAの発現および機能,メチル化異常について解析した。ラットの放射線誘発乳がん,自然発症した乳がん検体および正常乳腺組織について,カスタムCpGアイランドマイクロアレイにて,メチル化パターンを解析した。また,週齢の異なる時期に放射線照射して誘発した乳腺腫瘍について同様に解析した。DNA修復と放射線発がんに関しては,RAD18の放射線照射後のDNA損傷応答,G2/Mチェックポイントの活性化ならびにRad54Bのp53に対する調節機構を解析した。放射線影響研究所の成人健康調査対象者の血液試料を用いて,細胞内ROS,血漿中sIL-6R,mIL-6Rを測定し,IL6Rの遺伝子型別に大腸がん発生リスクと放射線被曝との関係を調べた。CD4 および CD8 T 細胞について,TREC 数とテロメア長を測定し,肥満および炎症関連指標との関連を検討した。
結果と考察
「放射線関連がんにおけるエピジェネティクス」の解析では,原爆被爆者に発生した胃がんにおけるmiR-24の発現解析から,被曝線量が100mGy以上の症例ではmiR-24高発現例が多いことが分かった。fukutinの発現では,被曝線量の高い症例では低い症例に比較して有意にfukutin陽性例が少なかった。これらは,新しい放射線関連がんのマーカーとなることが期待される。α粒子を放射する血管造影剤トロトラスト注入者に発生した肝がんでは,一般のHCV肝がんとは異なるmicroRNA発現パターンを示した。乳がんにおるlong non-coding RNAのメチル化異常を新たに同定した。「放射線障害による発がんモデルにおける検証」においては,放射線誘発乳がんラットモデルの検討で,放射線誘発乳がんに特徴的なメチル化異常を伴うがん関連遺伝子候補を複数同定した。乳がんにみられるDNAメチル化異常は,主に発生や分化を調節する遺伝子に起こっていることが分かった。複製後修復機構と放射線発がんについては,RAD18は,放射線照射後のDNA損傷応答機構,G2/Mチェックポイントの活性化に関与し,細胞死や染色体異常形成に影響を及ぼすことが明らかにされた。さらに,放射線などによるDNA損傷に応答して,p53を負に制御する新たな経路が存在することが明らかとなった。この経路が活性化された場合には,細胞周期の進行において,DNA損傷を感知するチェックポイントの機能が低下し,ゲノム不安定性が高まることが観察された。「原爆被爆者コホートを用いた宿主要因と発がん」の研究では, IL6R-208A/G遺伝子型はsIL-6Rの血漿中レベルの個人差に関与する機能性遺伝子多型の可能性が考えられた。また,IL6R遺伝子型は細胞内ROSレベルの個人差にも関与し,遺伝的要因として原爆被爆者の放射線関連結腸直腸発がんに関与している可能性が示唆された。放射線による遺伝子障害感受性の個体差に基づく発がんメカニズムの研究では,原爆被爆者において,T 細胞免疫老化の特徴であるTREC数の減少とテロメア長短縮は,肥満指標の増加と逆の関係を示し,2型糖尿病や脂肪肝の罹患と関連していた。
結論
本研究で得られた個々の成果を統合して活用することにより,職業被曝や医療被曝等による放射線障害に対する具体的な予防策および放射線障害に起因するがんの診断法・治療法が提示できるものと期待される。さらに,本研究で蓄積された知見は,福島原発事故によるヒトへの発がんリスク評価・健康管理の基礎資料となる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-01-23
更新日
-

文献情報

文献番号
201313004B
報告書区分
総合
研究課題名
放射線障害と宿主要因からみた発がんの分子基盤とその臨床応用に関する研究
課題番号
H22-3次がん-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
安井 弥(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 石川 雄一((公財)がん研究会がん研究所  病理部)
  • 宮本 和明(独立行政法人東広島医療センター 外科)
  • 臺野 和広(独立行政法人放射線医学総合研究所  放射線防護研究センター)
  • 神谷 研二(広島大学 原爆放射線医科学研究所)
  • 宮川 清(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 林 奉権((公財)放射線影響研究所 分子疫学部)
  • 楠 洋一郎((公財)放射線影響研究所 分子疫学部)
  • 高畠 貴志(独立行政法人放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
<研究者交替>(人事異動による) 高畠 貴志 (独立行政法人放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター、平成23年3月31日まで) 臺野 和広 (独立行政法人放射線医学総合研究所 放射線防護研究センター、平成23年4月1日から) <所属機関変更> 宮本 和明 (独立行政法人 呉医療センター・中国がんセンター 臨床研究部、平成24年6月30日まで)       (独立行政法人 東広島医療センター 外科、平成24年7月1日から)  

研究報告書(概要版)

研究目的
放射線発がんの分子基盤を解明し,リスク評価や治療開発等の臨床応用に資することを目的とし,「放射線関連がんにおけるエピジェネティクス」,「放射線障害による発がんモデルにおける検証」,「原爆被爆者コホートを用いた宿主要因と発がん」について解析する。これらの研究成果を活用し,事故,職業あるいは医療被曝による放射線障害に対する具体的な予防策および放射線に起因するがんの診断法・治療法を提示することが最終目標である。
研究方法
原爆被爆者胃がんと乳がん,トロトラスト関連肝がんについてmicroRNAを主とする非翻訳RNAの発現および機能,メチル化異常について解析した。放射線二次がんの抽出を行ない、一部の大腸がんについてmicroRNAの発現を検討した。マウス髄芽腫モデルおよびラット乳がんモデルにおいて、放射線誘発腫瘍に特徴的なゲノム異常とDNAメチル化状態の関連を解析した。DNA修復と放射線発がんに関しては,損傷乗り越えDNA合成蛋白REV1の機能および複製後修復機構の制御因子であるRAD18の放射線応答への寄与を細胞生物学的に解析した。さらに、SYCE2、SYCP3、SMC1βの発現と治療感受性の分子機構を検討した。放射線影響研究所の成人健康調査対象者について,NKG2D遺伝子多型とHCV肝細胞がんリスク、CD14遺伝子多型と大腸がんリスク、細胞内ROSおよびIL6R遺伝子多型と大腸がんリスクおよび放射線被曝との関係を調べた。cyclin D1遺伝子と造血幹細胞の BFU-Eを解析し,GPA突然変異頻度の放射線量効果関係を検討した。放射線感受性の個体差に関わる試験管内実験系の開発研究を行った。
結果と考察
「放射線関連がんにおけるエピジェネティクス」の解析では,被爆者に発生した胃がんのmiRNAの発現解析の結果,miR-143およびmiR-145の高発現は被曝関連胃がんの独立したマーカーであり、100mGy以上被曝例ではmiR-24高発現例が有意に多かった。被爆者乳がんで発現が亢進しているmiRNAとして,miR-137,miR-155,miR-1290,miR-1224-5p 等を同定した。トロトラスト関連肝がんにおいて特徴的なmiRNA発現パターンを見いだした。子宮頚がん放射線治療後の大腸がんと一般の大腸がんの検討から,放射線誘発がんに特有のmiRNA発現パターンのあることが示唆された。「放射線障害による発がんモデルにおける検証」においては,マウス髄芽腫モデルでは,放射線誘発腫瘍に特徴的なゲノム異常を持つ腫瘍は低メチル化状態であることがわかった。ラットモデルにおいて,放射線誘発乳がんに特徴的なメチル化異常を伴うがん関連遺伝子候補を複数同定し,主に発生や分化を調節する遺伝子に起こっていることが分かった。複製後修復機構の制御因子RAD18が放射線によるDNA損傷応答反応およびチェックポイントの活性化に関与することを見いだした。SYCE2は、DNA損傷応答経路、染色体不安定性を介して放射線・化学療法抵抗性を惹起し、SMC1βは,Rad51を介した相同組換え修復によるDNA二本鎖切断修復を抑制し、治療感受性を亢進させることを明らかにした。SYCP3は,相同組換え修復機能を低下させ,PARP阻害剤に対して高感受性になることを明らかにした。「原爆被爆者コホートを用いた宿主要因と発がん」の研究では,肝発がんにおいて,NKG2Dハプロタイプとともに放射線被曝が関与することが示めされた。CD14遺伝子多型と放射線によるリスク増加は結腸がんで有意であった。細胞内ROSレベルの個人差にはIL6R遺伝子多型が関与し、放射線関連結腸直腸発がんに関与している可能性が示された。GPA 突然変異頻度とcyclin D1の遺伝子型との有意な関連が認められ,P53BP1依存性DNA修復経路に関わる遺伝子機能の個人差が,放射線誘発遺伝子障害の感受性に影響を及ぼすことが示唆された。末梢血造血幹細胞 BFU-E解析により,放射線被ばくによる線量依存性の造血機能低下が認められた。また,GPA 突然変異頻度とBFU-E に負の関連性が認められ,造血幹細胞の遺伝子損傷と機能低下の関係が示された。

結論
本研究で得られた個々の成果を統合して活用することにより,職業被曝や医療被曝等による放射線障害に対する具体的な予防策および放射線障害に起因するがんの診断法・治療法が提示できるものと期待される。さらに,本研究で蓄積された知見は,福島原発事故によるヒトへの発がんリスク評価・健康管理の基礎資料となる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-01-23
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201313004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
胃がん・乳がん・肝がん・大腸がんのmicroRNA発現解析から、いくつかのmicroRNAが放射線発がんに関わる可能性が示唆された。ラットモデルにおいて、放射線誘発乳がんに特徴的なメチル化異常を伴うがん関連遺伝子候補を複数同定した。複製後修復機構の制御因子RAD18が放射線によるDNA損傷応答反応およびチェックポイントの活性化に関与することを見いだした。GPA 突然変異頻度とBFU-E に負の関連性が認められ,造血幹細胞の遺伝子損傷と機能低下の関係が示された。
臨床的観点からの成果
SYCE2、SMC1β、SYCP3は,DNA損傷応答、相同組換え修復機能に関連し、放射線・抗癌剤感受性を制御することを明らかにした。NKG2D、CD14, IL6Rの遺伝子多型が、放射線被曝による肝発がん、結腸発がん、結腸直腸発がんのリスクに関連することが示された。GPA 突然変異頻度とcyclin D1の遺伝子型との有意な関連が認められ,P53BP1依存性DNA修復経路に関わる遺伝子機能の個人差が,放射線誘発遺伝子障害の感受性に影響を及ぼすことが示唆された。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
43件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
35件
学会発表(国際学会等)
22件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shinagawa K, Kitadai Y, Yasui W、et al.
Stroma-directed imatinib therapy impairs the tumor-promoting effect of bone marrow-derived mesenchymal stem cells in an orthotopic transplantation model of colon cancer
Int J Cancer , 132 , 813-823  (2013)
原著論文2
Goto K, Oue N, Yasui W、et al.
Expression of miR-486 is a potential prognostic factor after nephrectomy in advanced renal cell carcinoma
Mol Clin Oncol , 1 , 235-240  (2013)
原著論文3
Hayashi T, Sentani K,Yasui W、et al.
The search for secreted protein in prostate cancer by the Escherichia coli ampicillin secretion trap: Expression of NBL1 is highly restricted in prostate and related in progression
Pathobiology , 80 , 60-69  (2013)
原著論文4
Uraoka N, Oue N,Yasui W、et al.
NRD1, which encodes nardilysin protein, promotes esophageal cancer cell invasion through induction of MMP2 and MMP3 expression
Cancer Sci , 105 , 134-140  (2014)
原著論文5
Naito Y, Sakamoto N, Yasui W、et al.
MicroRNA-143 regulates collagen type III expression in stromal fibroblasts of scirrhous type gastric cancer.
Cancer Sci , 105 , 228-235  (2014)
原著論文6
Sakamoto N, Naito Y, Yasui W、et al.
MiR-148a is down-regulated in gastric cancer, targets MMP7 and indicates tumor invasiveness and poor prognosis
Cancer Sci , 105 , 236-243  (2014)
原著論文7
Sentani K, Matsuda M,Yasui W、et al.
Clinicopathological significance of MMP-7, lamininγ2 and EGFR at the invasive front of gastric carcinoma
Gastric Cancer , In press  (2014)
原著論文8
Oo HZ, Sentani K,Yasui W、et al.
Identification of novel transmembrane proteins in scirrhous type gastric cancer by Escherichia coli ampicillin secretion trap (CAST) method: TM9SF3 participates in tumor invasion and serves as a prognostic factor
Pathobiology , In press  (2014)
原著論文9
Ninomiya H, Kato M, Ishikawa Y,et al.
Allelotypes of lung adenocarcinomas featuring ALK fusion demonstrate fewer onco- and suppressor gene changes
BMC Cancer , 13 , 8-  (2013)
原著論文10
Hamanaka W, Motoi N, Ishikawa Y, et al.
A subset of small cell lung cancer with low neuroendocrine expression and good prognosis: a comparison study of surgical cases to inoperable cases with biopsy
Hum Pathol , In press  (2014)
原著論文11
Asada K, Ando T, Miyamoto K, et al.
FHL1 on chromosome X is a single-hit gastrointestinal tumor-suppressor gene and contributes to the formation of an epigenetic field defect
Oncogene , 32 , 2140-2149  (2013)
原著論文12
Okochi-Takada E, Hattori N, Miyamoto K, et al.
ANGPTL4 is a secreted tumor suppressor that inhibits angiogenesis
Oncogene , In press  (2014)
原著論文13
Ohishi W, Cologne JB,Hayashi T, et al.
Serum Interleukin-6 Associated with Hepatocellular Carcinoma Risk: A Nested Case-Control Study
Int J Cancer , 134 , 154-163  (2013)
原著論文14
Hayashi T, Ito R, Cologne J, et al.
Effects of IL-10 haplotype and atomic-bomb radiation exposure on gastric cancer risk
Radiat Res , 180 , 60-69  (2013)
原著論文15
Yoshida K, Kusunoki Y,Cologne JB, et al.
Radiation-dose response of glycophorin A somatic mutation in erythrocytes associated with gene polymorphisms of p53 binding protein 1
Mutat Res , 755 , 49-54  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201313004Z