代謝変化と栄養による修飾の研究

文献情報

文献番号
199800207A
報告書区分
総括
研究課題名
代謝変化と栄養による修飾の研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
板倉 弘重(国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 菅野道廣(熊本県立大学生活科学部)
  • 山本徳雄(東北大学遺伝子実験施設)
  • 堀内公正(熊本大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老化過程では代謝変化が認められ,栄養が代謝変化を修飾して老化制御あるいは老化促進に働くこともあることが知られている。生体は加齢と共に諸臓器機能が低下してくるが健康を維持していくためには,代謝機能が良好な状態に保たれ,様々な侵襲に対応して適切な調節機能が発揮されなければならない。これまでの研究で,加齢と共に代謝が変化し,その結果様々な病態が発生し,高齢者では多臓器障害が多くにみとめられており,その予防と治療をはかることが求められている。なかでも脂質代謝障害は,高齢者の主要な死亡原因である動脈硬化をひきおこしており,その発症進展機序を解明することが重要である。そこで栄養による脂質代謝,糖代謝修飾機構を明らかにすると共に,老化制御にかかわりを持つ,抗酸化物質を介するフリーラジカル消去機構を解明し,加齢に伴う病態の予防と治療に必要な基礎的知見を得ることを目的に研究を行う。加齢に伴う疾病の予防に,食事,運動などの生活習慣が大切であることが認識される様になって来た。予防方針を立てるための科学的データが必要であり,そのための知見を得ることを目的とする。
研究方法
脂質代謝調節機構として重要な役割をはたしているものにリポ蛋白受容体がある。LDL受容体は1970年代にすでに見出されているが酸化LDL受容体, HDL受容体,アポE受容体,カイロミクロンレムナント受容体など不明なところが多く,これらの受容体の調節機構の解明は大きな課題として残されている。そこでこれらの受容体の構造を明らかにし,機能の解析をすすめた。HDL受容体はSDラットの肝臓と肺から調整したRNAを用いて,HB2cDNA断片とクローニングし,さらにラット肺cDNAライブラリーを作成し,スクリーニングを行った。得られたHDL受容体について,細胞内コレステロールの代謝,脂溶性ビタミンの影響について解析した。
アポEに特異的な受容体のクローニングを試み,VLDL受容体,アポE受容体2のクローニングに成功した。受容体活性はLDL受容体欠損細胞にcDNAを発現し,ラジオアイソトープあるいは蛍光ラベルしたリポ蛋白を用いて解析した。
スカベンジャー受容体の機能と泡沫細胞増殖との関係について解析した。マウス腹腔マクロファージに酸化LDLを添加し,細胞数測定,放射性チミジンの取り込みを増殖の指標として検討した。同時に各種サイトカインの中和抗体を添加し,酸化LDLによるマクロファージ増殖に対する作用を検討した。GM-CSFの発現はRP-PCRおよびELISA法を用いてmRNAおよび蛋白レベルで検討した。加齢に伴う免疫応答の変動は高齢者にとって重要な課題であり,脂質過酸化反応の免疫調節機構の発現に及ぼす影響について解明することとした。コレステロールの過酸化物,多価不飽和脂肪酸について検討した。食事脂肪酸のプロスグラジンE1に及ぼす影響について観察した。
結果と考察
HepG2細胞を用いてHDL受容体発現量に関する検討を行った結果,胆汁酸の種類により影響に違いのあることが判明した。
デオキシコール酸あるいはタウロコール酸の添加ではコントロールと差が見られなかったがケノデオキシコール酸,ウルソデオキシコール酸はHDL受容体発現量を増加させた。胆汁酸の作用が肝細胞に特異的かどうかみるためにTHP-1由来マクロファージについて同様の実験を行ったところ,ケノデオキシコール酸によりHDL受容体発現量が増加した。
HMG-CoA還元酵素阻害薬によってもHDL受容体発現量が増加した。ビタミンの影響は,レチノール,α-トコフェロールなどHDL受容体を低下させるものと,1α,25-ビタミンD3のように発現量を増加させるものがあることが判明した。新しいHDL受容体(HB2)はLDL受容体と共に細胞内コレステロールの恒常性維持に関与していると考えられる。
野生型C57BL/6マウス,VLDL受容体欠損マウス,LDL受容体欠損マウス,VLDL受容体とLDL受容体を共に欠損するマウスから調整した胎児由来繊維芽細胞を用い,脂肪細胞分化させた結果,4種のマウス由来の細胞にに分化率の違いは認められなかった。これらの細胞でβ-VLDLの結合,細胞内への取り込みを解析したところ,VLDL受容体とLDL受容体を共に欠損するとほとんど取り込みが見られなくなることが明らかとなった。アポE欠損マウスの脂肪組織重量も有意に減少することが示された。アポEとアポE受容体が脂肪組織への脂肪の転送に関与していることを示しており,これまでリポ蛋白リパーゼを介すると考えられていたことに対し,新しい知見が得られたと考えられる。酸化LDLによるマクロファージの増殖はGM-CSF抗体で有意に抑制された。酸化LDLはGM-CSFのmRNAおよび蛋白量を増加させることが示され,この現象はRKC阻害剤(カルフォスチンC)で抑制されることが明らかにされた。これらの結果から,酸化LDLによって活性化されたPKCがGM-CSFの産生を促進し,マクロファージ増殖を誘導している可能性が考えられた。
ルシフェラ-ゼアッセイの結果,GM-CSF遺伝子の5'端上流-224bpから-120bpの領域に酸化LDL刺激によってGM-CSFの転写を正に調節する部位を固定した。ゲルシフトアッセイの結果,GM-CSF遺伝子5'端上流の-173bpから-147bpの領域にAP-2結合領域が存在し,酸化LDL刺激により,本領域に核蛋白質の結合が増加することが明らかとなった。
摂取脂肪酸の体重および臓器重量に及ぼす影響は脂肪量が10%の場合,リノール酸,γ-リノレン酸,EPAおよびDHAに富む魚油の間で大きな差は認められなかった。
不飽和脂肪酸の酸化によりラットリンパ球のIgE産生が促進されるなど食餌脂肪が免疫調節機能を有することが示されてた。食餌脂肪の違いが血清コレステロール,トリグリセリド濃度に影響を及ぼしているが魚油は第4シリーズのロイコトリエン産生抑制を通じて抗アレルギー作用が認められた。このことは若齢および加齢ラットに共通に作用が認められた。抗アレルギー作用は組織中の脂肪酸構成の変化以外の要因によっても影響を受けることが示され今後の検討課題である。
結論
1.新しく発見したHDL受容体(HB2)はケノデオキシコール酸により発現量の増加が認められ,細胞コレステロール合成量によっても発現量が変動することから,LDL受容体と共にコレステロールの代謝調節に関与していることが明らかとなった。
2.アポEとその受容体が脂肪細胞への脂質の転送に関与していることが明らかとなった。脂肪組織の機能と肥満症における意義についての研究に新しい手掛りが得られた。
3.酸化LDLによりマクロファージの増殖がひきおこされアテローム形成が進行するが,その機序として,細胞内カルシウム上昇とそれに続くPKCの活性化が細胞内シグナルとして重要であり,GM-CSFの産生を介してマクロファージ増殖が誘導されることが明らかになった。
4.魚油は加齢にかかわらず,脂肪代謝改善機能および抗アレルギー作用を有することが示された。PGE1産生能は基準レベル以外の要因で抑制されていることが明らかにされた。

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