わが国における熱帯病・寄生虫症の最適な診断治療体制の構築

文献情報

文献番号
201309050A
報告書区分
総括
研究課題名
わが国における熱帯病・寄生虫症の最適な診断治療体制の構築
課題番号
H25-医療技術-指定-012
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
丸山 治彦(宮崎大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 康幸(国立国際医療研究センター 国際感染症センター)
  • 木村 幹男(結核予防会新山手病院 診療技術部)
  • 春木 宏介(獨協医科大学越谷病院 臨床検査部)
  • 大前 比呂思(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 太田 伸生(東京医科歯科大学 国際環境寄生虫病学分野)
  • 坂本 知昭(国立医薬品食品衛生研究所 薬品部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更

研究報告書(概要版)

研究目的
 熱帯病・寄生虫症に対する国内未承認薬を海外から輸入し、研究班に所属する薬剤使用機関で治療に使用し日本人における有効性と安全性を検討する。診断システムの研究開発も行い、得られた知見をもとに「寄生虫症薬物治療の手引き」を発行しホームページや講習会、講演会等でも広く医療従事者に情報提供する。
研究方法
未承認薬による熱帯病・寄生虫症の治療:治療前に患者からインフォームドコンセントを受け、治療後は各薬剤使用責任者は治療報告書を国立国際医療研究センターデータセンターへ送付した。
アーテスネート坐薬の品質検定と簡易測定法の開発:オクタデシルシリル化シリカゲルカラムを用い、移動相はアセトニトリルと0.2Mトリフルオロ酢酸の混合比を変化させるグラジエント条件とした。
アーテスネート坐薬の有効性と安全性の検討:アーテスネート坐薬を使用したマラリア症例について有効性と転帰、副作用を分析した。
マラリア迅速診断キットの有用性の検討:マラリア診断キットBinaxNow Malariaをマラリア疑いの患者に用いた。
寄生虫症の血清疫学とアルベンダゾールの有効性と安全性の検討:血清検査は14種類の寄生蠕虫に対して行った。イヌ回虫症ではウエスタンブロッティングキット(LDBIO社)も用いた。動物由来回虫症に対してフォローアップの抗体検査依頼があった254例について薬剤の有効性と副作用について分析した。
寄生虫症発生動向の把握:中部地方のレセプトデータ(2010~2012年)を対象に寄生原虫症関連の確定病名がついている例の発生動向を分析した。
エキノコックス診断キットの検定:国内で販売されたエキノコックス症診断キットの検定を確定診断が付いた検体を用いて行った。
抗マラリア薬の抗住血吸虫作用:マンソン住血吸虫の幼虫に対する抗マラリア薬N-251の幼虫体内での動態を探るため、蛍光標識薬剤を投与し2時間から16時間の間で追跡した。
結果と考察
 未承認薬による熱帯病・寄生虫症治療で最も多かった疾患はマラリアで熱帯熱マラリアが13例、三日熱マラリア3例、四日熱マラリア1例、卵形マラリア3例であった。皮膚リーシュマニア症はいずれも外国人で海外での感染と考えられた。
 マラリア治療ではアーテメター・ルメファントリン合剤は承認薬との差異化が難しかったが、原虫消失時間が速いので重症マラリアの中で原虫寄生率が比較的低い症例についてキニーネ注射薬の代替としての使用が考えられた。これは「寄生虫症薬物治療の手引き2014改訂第8.0版」に反映された。
 坐薬中のアーテスネートの検定では分析条件を最適化し良好な分離性と分析時間の短縮を達成できた。定量すると表示量の99.7%±0.28%であり信頼できる薬剤であった。
 マラリアに対するアーテスネート坐薬の有効性と安全性を検討したところ、初めの数日間がアーテスネート坐薬の単独使用で、その間の治療効果を評価できる例が6例あり、全例完治であった。このうち2例は重症度の高い症例でありキニーネ注射薬を使用できない症例や、すぐには入手可能でない場合、あるいは比較的重症度が低い場合などに使用価値があると思われた。
 マラリア疑いの60例で迅速診断キットBinax Malariaを使用した。感度・特異度・陽性陰性的中率ともに100%で有用性が証明された。
 血清検査による国内蠕虫疾患では、動物由来回虫類による幼虫移行症と肺吸虫症が多数を占めた。回虫類の幼虫移行症254例について使用薬剤と転帰、副作用について検討したところアルベンダゾール単独使用例での回復率はアルベンダゾール以外の抗線虫薬よりも優れている傾向があった。副作用の記載は217例中44症例にあり、ほとんどが肝機能障害であった。
 レセプト分析による寄生虫症発生動向の把握では日本国内では膣トリコモナス症が多く、赤痢アメーバ症が増加する傾向が見られた。蠕虫ではアニサキスによる食中毒年間報告数と100万人でのレセプトデータでの確定病名数がほぼ同じ程度であったことから、届けられるアニサキス症は実際の発生数の1%程度と判断された。
 包虫症の初期病変と診断されたモンゴル人症例5例にエキノコックス診断キット(rAgB)を適用したが全例陰性で適正な診断キットの研究開発を進めるべきと考えられた。
 抗住血吸虫作用がある抗マラリア薬N-251を非致死量で住血吸虫に作用させると4時間後以降は特定の部位に局在する傾向を示し、酸性小器官を検出するLysotrackerと共局在しておりN-251は酸性細胞内小器官に集積する事が示唆された。
結論
 国内未承認薬による熱帯病・寄生虫症の治療、寄生虫症の発生動向の把握、迅速診断キットの使用、新規治療薬開発のための基礎研究を推進し、わが国における輸入熱帯病・寄生虫症の診断治療体制を整備することができた。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201309050Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
32,500,000円
(2)補助金確定額
32,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 14,991,850円
人件費・謝金 2,632,459円
旅費 4,186,484円
その他 3,189,509円
間接経費 7,500,000円
合計 32,500,302円

備考

備考
利息

公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
-