新規血漿因子HRGによる好中球制御を介した敗血症と多臓器不全の治療法開発

文献情報

文献番号
201309033A
報告書区分
総括
研究課題名
新規血漿因子HRGによる好中球制御を介した敗血症と多臓器不全の治療法開発
課題番号
H25-医療技術-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
西堀 正洋(国立大学法人 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科薬理学)
研究分担者(所属機関)
  • 森 秀治(就実大学薬学部薬理学)
  • 西村 多美子(鈴木 多美子)(就実大学薬学部薬理学)
  • 阪口 政清(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科細胞生物学)
  • 森松 博史(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科麻酔・蘇生学)
  • 高橋 英夫(近畿大学医学部薬理学)
  • 劉 克約(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科薬理学)
  • 勅使川原 匡(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科薬理学)
  • 和氣 秀徳(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科薬理学)
  • 平田 泰三(岡山大学病院新医療研究開発センター)
  • 橋本 和彦(岡山大学知的財産本部)
  • 桐田 泰三(岡山大学新医療創造支援本部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、Histidine-rich glycoprotein (HRG) の新規の機能として見出された好中球に対する作用の全貌を明らかにする。特に、単離したヒト好中球に対する作用を1)好中球形態に対する作用、2)血管内皮細胞と人工基質に対する好中球の接着性に対する作用、3)好中球の微小流路通過性に対する作用、4)好中球の活性酸素分子種産生に対する作用、に注目し解析する。明らかにされた好中球に対する作用に基づき、マウスの盲腸結紮穿刺 (CLP) 敗血症モデルで、急性期における血漿HRGの動態と、ヒト精製HRGの治療効果について実証する。治療薬としてのヒト組換えHRGを得るために、哺乳動物細胞を用いた発現系を確立し、その生物活性について明らかにする。マウスの敗血症モデルで得られたHRG の治療効果をヒトに外挿するためには、ICU 内の敗血症患者の血漿HRGの測定を実施する。
研究方法
1.ヒト単離好中球を一定時間HRGとインキュベーションした後、その形態を蛍光ラベル後の蛍光顕微鏡観察あるいは走査電顕で観察し、血管内皮細胞への接着能と微小流路通過性を評価した。
2.単離したヒト好中球の活性酸素分子種産生に対するHRGの効果を測定した。
3.マウスのCLPモデルを用いて、HRG補充療法のPOC確立のための実験を実施した。ヒトHRG の投与効果をIn vivo イメージングで好中球動態の上から評価した。
4.HepG2、HEK293、CHOの3種類の哺乳類細胞と4種類のプラスミドベクターを用いて、ヒト組換えHRGの一過性発現について検討した。培地中に分泌されたHRGをNi-NTAアフィニティクロマトグラフィーで精製した。得られた一部精製タンパクの活性を単離ヒト好中球の正球化活性でNative タンパクと比較した。
5.臨床研究の倫理審査委員会で承認された文書による同意を得た後、岡山大学病院のICU に入院する敗血症患者の血漿HRGを、ウェスタンブロットあるいは独自に開発したELISA で測定した。健常人対照ならびに外科手術後の患者についても、同様の手続きを経た後血漿HRGを測定した。
結果と考察
HRG処理によってヒト単離好中球にもたらされた形態変化は、1)形態の正球化、2)細胞径の短縮、3)細胞表面微絨毛の消失、とまとめることができる。表面円滑で微絨毛のない細胞は、人工基質ならびに血管内皮細胞に対する接着性が低く抑えられていた。正球化し、微絨毛構造のない円滑な細胞表面の好中球は、擬似毛細血管の通過性においても、極めて優れていることが実験的に証明された。HRG処理した好中球は、活性酸素産生が低く抑えられていた。このことから、HRGは好中球の形態のみでなく、細胞接着、微小流路通過性、活性酸素産性能という機能面までを制御する重要な血漿因子であるということができる。マウスの敗血症モデルにおいて明らかにされたのは、敗血症病態では血漿HRGの著明な低下が生じること、それを外因性HRG(精製ヒトHRG)で補うことによってマウスの致死率が顕著に改善することである。敗血症性ARDSにおけるHRG による治療は、好中球の接着・浸潤を抑制し、炎症関連分子の遺伝子発現を顕著に抑制した。さらにin vivo イメージング技術で、敗血症マウスでは確かに静脈系血管床に多数の好中球が接着し、非常に多様な形態で動くことなく留まっていることがわかった。ICU内の敗血症患者の血漿HRGは、健常人のレベルと比較すると約25%にまで低下していることがわかった。外科術後1日目の患者血漿では約40 % であった。3種類の哺乳動物細胞、HEK293、CHO、HepG2細胞の内、HEK293とCHO細胞を用いてヒト組換えHRGの作製に成功した。
結論
ヒト血漿から精製したHRG が、ヒト単離好中球の形態を特徴的な微絨毛のない正球形に保つこと、人工基質や血管内皮細胞に対する接着を抑え微小流路通過性を維持することを証明した。さらにHRGは、好中球の活性酸素分子種の産生を極めて低いレベルに維持することを明らかにした。以上の知見から、血漿タンパクHRGが循環好中球の鎮静的維持に極めて重要な役割を果たしていると推測した。マウスの敗血症モデルを用いて、血漿HRGレベルの顕著な低下と、HRGの補充による致死率の改善作用を証明した。HRG治療は血管内皮細胞への異常な好中球の接着を抑制することがin vivo イメージングで示唆された。動物実験のレベルでは、HRG治療のProof of Conceptが確立されたと考える。ヒト敗血症患者の血漿HRG測定で、マウスで観察された血漿HRG低下がヒトでも生じることを確認した。ヒト組換体HRGの哺乳動物細胞での作製に成功した。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201309033Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
53,500,000円
(2)補助金確定額
53,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 48,270,214円
人件費・謝金 876,774円
旅費 597,345円
その他 255,880円
間接経費 3,500,000円
合計 53,500,213円

備考

備考
利息213円

公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
-