ヒト生体由来多能性幹細胞(Muse細胞)の再生医療への応用に向けた安全性・有効性の検証

文献情報

文献番号
201309011A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト生体由来多能性幹細胞(Muse細胞)の再生医療への応用に向けた安全性・有効性の検証
課題番号
H24-臨研推-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
出沢 真理(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 浅田 隆太(京都大学医学部附属病院・探索医療センター)
  • 清水 忍(名古屋大学医学部付属病院・先端医療・臨床研究支援センター)
  • 藤澤 浩一(山口大学医学部 修復医学教育研究センター)
  • 吉田 正順((株)Clio)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究事業(臨床研究・治験推進研究事業)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
29,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
間葉系幹細胞は3胚葉性にまたがる多様な細胞に分化するためES細胞のような多能性幹細胞が内在すると推察されていた。今回その説明となるMuse細胞が発見された。Muse細胞は多能性幹細胞としての特性を備えているが腫瘍性が無いことが最大の利点である。誘導せず、そのまま生体内に投与すると損傷部位に生着、機能的細胞に分化して組織再生をもたらす(PNAS, 2010)。また特定の誘導を行うと神経、肝細胞、骨細胞などに高率で誘導可能である。その為様々な利用方法が想定できるが、迅速に臨床試験を実現する為にはそのままのMuse細胞懸濁液を投与する「医薬品」としての開発が最も現実的であると考えられる。Muse細胞は既にヒトに移植されている骨髄などに含まれているが、精製した細胞を投与する際の安全性・有効性評価は必須である。本研究ではPMDA審査官として薬事承認審査経験を有する浅田と民間企業(株)Clioが研究分担者として参画し実用化を目指した検証を行う。
ターゲット臓器として肝臓を選択する。血中アルブミンなど機能改善や有効性を計る為の客観的指標があり、Muse細胞が含有されている骨髄細胞を用いた治療が研究分担者藤澤の所属する山口大学で肝硬変患者に実施されており、有効性・安全性を計る為の指標が明確である為である。
本プロジェクトでは、(1)有効性検証の指標設定(2)非臨床有効性試験(3)細胞調製の最適化(4)Muse細胞製剤の規格設定(5)非臨床安全性評価を実施する。(1)(3)(5)の一部はほぼ終了しており、今年度は(2)(3)(4)を実施し、その後(5)を行う。また薬事戦略相談を利用し、安全性が高く再生効果を有するMuse細胞を出来る限り早く臨床試験に移行できるよう進める。
研究方法
(2)実施の為、ヒトMuse細胞は骨髄および皮膚からFACSによりSSEA-3陽性細胞として採取し、これらのMuse細胞を除去した間葉系細胞群を非Muse細胞とする。尾静脈投与する細胞数は2万とし、急性・慢性モデルに投与し、速度投与の最適化を検討する。また血液生化学検査の他、全身状態、組織学的検討などにより有効性評価を行う。
(3)(4)実施の為、急性・慢性モデルに凍結保存したMuse細胞の移植を行うことで新鮮な細胞との比較検討を行う。
(5)実施の為、Clio社がMuse細胞製剤の製造工程の目途を立てる。また非臨床有効性試験が終了した段階で、非臨床安全性試験の計画について薬事戦略相談を行う。
結果と考察
投与速度の最適化をヌードマウスとヒト線維芽細胞を用いて行った。呼吸不全・肺塞栓などの有害事象を検討したところ全てのマウスにおいて、2万細胞を30秒で尾静脈から投与しても死亡例は見られなかったのでこの速度投与を採用した。
SCIDマウスを用いた急性・慢性モデルにおけるヒト骨髄由来Muse細胞の有効性を検討した。急性モデルではMuse、非Muse細胞それぞれ2万細胞をCCl4投与2日後に尻静脈より投与した。いずれの群も総ビリルビンの上昇がマイルドに抑えられた他、GOT、GPT、総蛋白、アルブミンは一過性に増悪し、14日前後で正常に戻るため有意差は見られなかった。しかし組織学的検討では顕著な差があり、移植30日後では非Muse細胞はほとんど組織内で検出されなかったが、Muse細胞は組織内に生着し、アルブミンなど肝細胞の機能的なマーカー陽性を示していた。また慢性モデルも同様にヒトMuse細胞の生着、分化が認められ、線維化抑制では非Muse細胞と優位差をもって有効性が認められている。
安全面の検証は、骨髄由来のMuse細胞の核型検査を食品薬品安全センター秦野研究所で実施、染色体数の異常が見られないことが確認された。臨床応用を目指したMuse細胞の分離方法確立ではトリプシンと物理的ストレスを組合せた方法で約30%、MACSでは70~80%の精製率で得られることが確認できた。これら結果を持ってH25年10月24日にPMDAと薬事戦略相談事前面談を行った。
Clio社はこれらの成果をもとに、Muse細胞製剤作製のため製造工程を検討しており、進捗状況はほぼ予定通りである。
結論
急性、慢性肝障害モデルを用いて、静脈から投与されたMuse細胞が傷害組織に遊走、生着し、機能的な肝細胞に自発的に分化することが示唆された。一方、非Muse細胞にはこのような効果が無いことが分かった。Muse細胞は間葉系幹細胞の中から精製投与することにより有効な再生医療が期待されるが、Muse細胞製剤を作るにあたりFACSで精製するのではなく、既に欧米でも承認を受けたMACSやストレスを用いた方法で進めるのが妥当ではないかとの結論を得た。これらデータや現状を踏まえ、さらにPMDAとの面談を進めて行く。

公開日・更新日

公開日
2015-06-18
更新日
-

収支報告書

文献番号
201309011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
37,700,000円
(2)補助金確定額
37,700,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 26,309,586円
人件費・謝金 2,289,319円
旅費 398,680円
その他 2,415円
間接経費 8,700,000円
合計 37,700,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
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