腫瘍血管内皮細胞への薬物送達システムによる耐性癌の化学療法と臨床応用へ向けた製剤化

文献情報

文献番号
201308027A
報告書区分
総括
研究課題名
腫瘍血管内皮細胞への薬物送達システムによる耐性癌の化学療法と臨床応用へ向けた製剤化
課題番号
H24-医療機器-若手-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 遊(北海道大学  大学院薬学研究院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,250,000円
研究者交替、所属機関変更
研究代表者交代 畠山浩人(平成25年4月6日~25年9月18日)→ 櫻井遊(平成25年9月19日~26年3月31日)

研究報告書(概要版)

研究目的
がんにおいては、自身の成長のために血管の申請を必要としており、成長に必要な栄養や酸素の供給を行っている。そのためがん自身ではなく、腫瘍の血管の成長を抑制することは、遺伝子変異により耐性化し易いがん細胞とは異なり、化学療法に対する耐性が生じ辛く、有効な治療法となり得ると考えられる。また、従来治療効果に乏しいがん種であっても、デリバリー技術の応用により適応拡大することができ、医薬品のライクサイクルマネジメントに寄与することが期待される。また、リポソーム製剤の開発を通して、リポソーム製剤に必要な規格や特性の解析を行うことでレギュラトリーサイエンスへの貢献が可能となると考えられる。本研究では、これまでに開発を行ってきた腫瘍血管内皮細胞標的型ドキソルビシン封入リポソームのがん種の適応拡大と流路を用いた大量調製に取り組んだ。
研究方法
平成25年度の研究では、リポソームのサイズ制御がリポソームの効果に与える影響の仔細な評価を行った。そのために、卵黄フォスファチジルコリン (EPC)、とコレステロール (chol)、ポリエチレングリコール (PEG) 脂質、および任意のリガンド、細胞透過性ペプチド (CPP) をガラス試験官に滴下し、混合後、減圧下有機溶媒を除去した。得られた脂質膜を20 mM リン酸緩衝生理食塩水 (pH7.4) あるいは、アンモニウム硫酸緩衝液 (pH 5.5) を加えた後、攪拌し超音波処理を行うことでリポソームを得た。リポソームのサイズコントロールは任意の大きさの小孔を持つポリカーボネート膜に通すことで整粒した。また、閉鎖流路を用いたリポソームの製造法の構築に着手した。閉鎖流路として、ワイエムシィ社製のマイクロリアクターとシリンジポンプを組み合わせたシステムを作成した。緩衝液と脂質アルコール溶液をそれぞれ10 mLシリンジに添加し、任意の流速で射出されるように操作した。
結果と考察
RGDモチーフを含むインテグリン標的リガンド修飾リポソームは100 nmと400 nmのポアサイズを持つポリカーボネート膜に通すことにより平均粒子径約100 nmの小さいリポソーム (Small) と約300 nmの大きいリポソーム (Large) を得ることができた。HUVEC細胞に対して、リガンド修飾リポソームを添加し、蛍光顕微鏡で観察した結果、Largeを添加した細胞においてのみ強い蛍光が細胞内に観察された。一方、リガンドを修飾しない場合にはこの増大が見られなかったため、この増大はリガンドに依存する現象と考えられた。さらに、これらのSmallとLargeを細胞に粒子数で0.2-10 × 1010で添加し、2時間後の細胞内の蛍光量を測定し、これらの値からシグマプロットを用いてKDを算出したところ、SmallとLargeはそれぞれ6.96と0.62粒子であった。このことから、細胞への結合力は定量的に約10倍亢進していることが明らかとなった。大きな粒子では、粒子上のリガンドと細胞膜上の受容体が多価の結合をすることが可能となっているために、起こっているのではないかと考察した。
 また、連続的な調製によるリポソームの製造を行った。流路によって、リン酸緩衝液を0.3 – 12.0 mL/min、0.1 – 4.0 mL/minで流して混合し、リポソームの製造を行った。その結果、流速に応じたサイズのリポソームを調製することが可能であることが明らかとなり、流速 1.0/3.0 mL/min (脂質アルコール溶液/リン酸緩衝溶液) で作成した場合には、Largeサイズのリポソームを調製可能であった。
結論
粒子サイズを大きくすることで、細胞への取り込みが増大している様子が認められ、また解離定数KD値を計算したところ約10倍の上昇が認められた。これは、細胞上膜の受容体とリポソーム上のリガンドがよりポリバレンドな結合が可能となっていると推察される。また、製剤化に関しては、目的とする粒子サイズへの制御が可能な、連続式調製法の確立に成功した。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

文献情報

文献番号
201308027B
報告書区分
総合
研究課題名
腫瘍血管内皮細胞への薬物送達システムによる耐性癌の化学療法と臨床応用へ向けた製剤化
課題番号
H24-医療機器-若手-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 遊(北海道大学  大学院薬学研究院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんにおいては、自身の成長のために血管の申請を必要としており、成長に必要な栄養や酸素の供給を行っている。そのためがん自身ではなく、腫瘍の血管の成長を抑制することは、遺伝子変異により耐性化し易いがん細胞とは異なり、化学療法に対する耐性が生じ辛く、有効な治療法となり得ると考えられる。また、従来治療効果に乏しいがん種であっても、デリバリー技術の応用により適応拡大することができ、医薬品のライクサイクルマネジメントに寄与することが期待される。また、リポソーム製剤の開発を通して、リポソーム製剤に必要な規格や特性の解析を行うことでレギュラトリーサイエンスへの貢献が可能となると考えられる。本研究では、これまでに開発を行ってきた腫瘍血管内皮細胞標的型ドキソルビシン封入リポソームのがん種の適応拡大と流路を用いた大量調製に取り組んだ。
研究方法
始めに卵黄レシチンとコレステロールのアルコール溶液をガラス試験管に添加し、アルコールを留去することにより脂質薄膜を調製した。このものに緩衝液を添加し、超音波処理を行うことでリポソームを得た。リポソームのサイズはポリカーボネート製の膜により整粒を行っている。Dual-ligandリポソームの作製には、腫瘍血管内皮細胞を認識するリガンドが先端に修飾されたポリエチレングリコール脂質とアルギニン重合体を予め、脂質薄膜に溶解しておくことで調製を行った。ドキソルビシンを封入する際には、pH勾配法によりリポソーム内にドキソルビシンを保持させた。細胞への取り込み量の測定は、リポソームを予め蛍光標識しており、ヒト臍帯血管内皮細胞HUVECに添加し、共焦点レーザー走査型顕微鏡により観察を行った。また、in vivoがんモデルとしては、各がん細胞を大量に培養したのちに、免疫不全マウスの背部皮下に細胞懸濁液を投与したものを用いた。in vivo腫瘍におけるdual-ligand liposomeの観察は、リポソームを投与し、24時間後に腫瘍を摘出し共焦点レーザー走査型顕微鏡により観察を行った。なお血管の造影にはフルオレセイン標識アイソレクチンの静脈内投与する方法を用いた。また、大量調製のための検討としては、ワイエムシィ社のマイクロリアクターにより脂質溶液と緩衝液を混合した。
結果と考察
 これまでにNGRモチーフペプチドによるdual-ligand liposomeは構築済みである。そこで、次にRGDぺプチドによるdual-ligand liposomeの評価を行った。その結果、RGDペプチドを用いた場合でもdual-ligand化による取り込みの促進作用は認められた。また、サイズを300 nmと通常のリポソームより大きくした際にはより強い取り込みが見られた。in vivoがんモデルに対して静脈内投与し、腫瘍血管内皮細胞に対する作用を評価したところ、腫瘍の血管内皮細胞と強く相互作用する様子が認められ、またドキソルビシンを封入した場合ではより強い抗腫瘍効果が見られた。さらに、このdual-ligand liposomeの適応拡大のために、ドキソルビシンに耐性のがん種の探索を計8種類の際お坊を用いて探索したところ、新たに4種のドキソルビシン耐性癌を見出した。
 また、流路による大量調製においては、脂質アルコール溶液を0.1-4.0 mL/minと緩衝液を0.3-12.0 mL/minの流速範囲で混合し、構成されたリポソームの粒子径測定を行ったところ、流速をあげるほどリポソームのサイズが小さくなる様子が見られた。また、特定の流速範囲ではdual-ligand liposomeの効果が大きくなる300 nm程度のサイズに制御することが可能であることを明らかとした。
結論
 dual-ligand liposomeの標的化リガンドとして、RGD、NGR、VEGFR2標的ペプチドが利用できることを明らかとした。また、ドキソルビシン耐性がん種を4種見出すことができた。今後、これらの細胞に対する薬理効果の検証を行っていく予定である。また、製剤化においては目的とする粒子サイズへの制御を可能とする、閉鎖流路を用いた連続式調製法の基盤技術を確立することに成功した。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201308027C

成果

専門的・学術的観点からの成果
腫瘍の血管を標的とするリポソーム製剤の処方最適化を実施した。その結果、リポソーム製剤のサイズと腫瘍の血管内皮細胞の親和性には正の相関があることがわかった。腫瘍標的化リガンドを表面に修飾したリポソームのサイズを100 nmと300 nmに制御した場合、培養細胞との解離定数は約10分の1となることを明らかとした。本成果は、Biomaterials誌に掲載された。
臨床的観点からの成果
平成25年度では、マイクロリアクターと呼ばれる極小流路とポンプを組み合わせることで、リポソームを流路内で構成することが可能となった。またこのとき構築されるリポソームのサイズは、流路に流入させる溶液の速度や脂質濃度により制御可能であることも明らかとしている。これらのことは、大量製造に問題のあったリポソーム製剤の創薬化を推進することに繋がると期待される。
ガイドライン等の開発
本事業とは別で厚生労働省より補助を受けて北海道大学で行っている革新的医薬品・医療機器・再生医療製品実用化促進事業の「ナノテクノロジーを基盤とした革新的医薬品に関する評価方法」において、本事業で得られたリポソームの大量製造法に関わる知見や、製造時に抽出された問題点などの一部が活用されている。本事業ではナノ医薬品のリフレクションペーパー作成を進めており、今回得られた成果はガイドライン等の開発に活用されている。
その他行政的観点からの成果
腫瘍の血管を殺すことで治療効果の出るがん種や全く奏功しないがん種を見出している。現在のところ、行政施策に反映されてはいないが、今後本事業で得られた成果が既存の血管新生阻害剤の適応がん種の決定に影響を与える可能性がある。また、血管の空間的配置から2種のがんに分けられることを見出し、これにより血管新生阻害の効果が異なることを明らかとした。
その他のインパクト
本事業により得られた成果の一部は2014年6月27日に北海道大学医学部フラテホールにて開催された公開シンポジウム「血管を標的とするナノ医療の実用化に向けた拠点形成~がんを始めとする国民病を血管から治療する~」において成果発表を行った。本シンポジウムでは、本学の教員のみならず、学生や一般の方も聴講しており、本事業により得られた成果を周知することができた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
血管を標的とするナノ医療の実用化に向けた拠点形成~がんを始めとする国民病を血管から治療する~ http://www.igm.hokudai.ac.jp/event/pdf/20140627.pdf

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sakurai Y, Hada T, Yamamoto S, Kato A, Mizumura W, Harashima H.
Remodeling of the Extracellular Matrix by Endothelial Cell-Targeting siRNA Improves the EPR-Based Delivery of 100 nm Particles.
Molecular Therapy , 24 (12) , 2090-2099  (2016)
10.1038/mt.2016.178
原著論文2
Sakurai Y, Hada T, Harashima H.
Preparation of a Cyclic RGD: Modified Liposomal SiRNA Formulation for Use in Active Targeting to Tumor and Tumor Endothelial Cells
Methods Molecular Biology , 1364 , 63-69  (2016)
10.1007/978-1-4939-3112-5_6
原著論文3
Hada Tomoya, Sakurai Yu, Harashima Hideyoshi.
Optimization of a siRNA Carrier Modified with a pH-Sensitive Cationic Lipid and a Cyclic RGD Peptide for Efficiently Targeting Tumor Endothelial Cells
Pharmaceutics , 3 (7) , 320-333  (2015)
10.3390/pharmaceutics7030320
原著論文4
Golam Kibria, Hiroto Hatakeyama, Hideyoshi Harashima
Cancer multidrug resistance: mechanisms involved and strategies for circumvention using a drug delivery system
Archives of Pharmaceutical Research , 37 , 4-15  (2014)
10.1007/s12272-013-0276-2
原著論文5
Yu Sakurai, Hiroto Hatakeyama, Yusuke Sato et al.
RNAi-mediated gene knockdown and anti-angiogenic therapy of RCCs using a cyclic RGD-modified liposomal-siRNA system
Journal of Controlled Release , 173 , 110-118  (2014)
10.1016/j.jconrel.2013.10.003
原著論文6
Golam Kibria, Hiroto Hatakeyama, Noritaka Ohga et al.
The effect of liposomal size on the targeted delivery of doxorubicin to Integrin avb3-expressing tumor endothelial cells
Biomaterials , 34 , 5617-5627  (2013)
10.1016/j.biomaterials.2013.03.094.

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2018-05-21

収支報告書

文献番号
201308027Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,525,000円
(2)補助金確定額
5,525,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,728,820円
人件費・謝金 0円
旅費 412,530円
その他 108,650円
間接経費 1,275,000円
合計 5,525,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
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