文献情報
文献番号
201308019A
報告書区分
総括
研究課題名
磁性抗がん剤を用いた医療機器の開発
課題番号
H25-医療機器-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石川 義弘(横浜市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 江口 晴樹(株式会社 IHI 基盤技術研究所)
- 藤内 祝(横浜市立大学 医学部)
- 中山 智宏(日本大学 生物資源科学部 )
- 平田 邦生(独立行政法人 理化学研究所)
- 浦野 勉(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)
- 棗田 豊(横浜市立大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
46,371,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究はコンビネーションプロダクト、すなわち 磁性抗がん剤と温熱治療機器の開発研究であり、これによって新規がん治療の開発をめざす。医療機器としては温熱治療に使用される交流磁場発生装置の開発である。いわゆるすい臓がんや神経膠芽腫などの難治性がんと呼ばれるものは化学療法や放射線治療のいずれにも抵抗性を示す。このため免疫療法や温熱療法など併用療法が工夫され、治療は複雑化するが、治療成績は不良である。近年の高齢化とともに、難治がんの症例数が増えていることが大きな問題となっている。いわゆる温熱療法は、本邦では全身的な温熱が主流であり、副作用が少ないため、難治性がん患者に対する補助療法あるいは症状緩和に有効である。ところが近年の欧州及び米国では、磁性鉄粒子をがん組織局所に注入し、交流磁場発生装置で局所的な温熱を引き起こす治療法が主流となっている。いわゆる磁性体が交流磁場にさらされると、特徴的な発熱現象を示す。これは一般の家庭に普及しているIH調理器具の原理、つまり交流磁場印加で、鉄などの磁性物質が発熱することがよく知られている。この簡便な発熱性質を医学に利用して、鉄粒子をがん組織に注入し、温熱を起こす技術が、欧州で画期的な局所温熱療法として実用化された。現在は対象疾患として神経膠芽腫が2011年に承認されており、すい臓がんおよび前立腺がんに対して臨床試験が欧米で進行中である。画期的な新規温熱療法として神経膠芽腫に対して治療効果を上げている。すでに欧米では多数の臨床試験の結果を踏まえ、独立した治療法として広まってきた。本研究では独自開発の磁性抗がん剤を用いて、それを凌駕する独自技術の治療方法の開発を目指した。
研究方法
本申請では、この磁性抗がん剤を交流磁場印加における発熱体として利用し、交流磁場印加装置の開発とともに、温熱抗がん治療法の開発を行った。そこで、我々の開発した新規磁性抗がん剤化合物を用いて、新規がん治療薬として開発するとともに、がん組織を標的とした局所温熱の治療装置の開発を物理理論に基づいて遂行した。
結果と考察
温熱抗がん療法が最も高い有効性を示すと考えられたのが、脳腫瘍、とりわけ神経膠芽腫である。この腫瘍に対しては、鉄粒子と交流磁場印加装置を用いた温熱がん治療および治療装置が、EUにおいて認可を受け、多数のがん患者が治療を受けている。我々の開発する温熱抗がん治療は、鉄粒子の代わりに抗がん作用をもつ磁性抗がん剤を用いる点では異なるが、その他の部分においては類似性を持つ。さらに我々の開発する磁性抗がん剤化合物はシスプラチン類似薬であり、磁性体でありながら強い抗がん作用を有する。また磁性特性を利用して強い発熱効果を持つ。このため抗がん治療と温熱療法の同時療法が可能であり、磁性鉄粒子を用いるだけの欧米の温熱療法を上回ると推測された。今回の研究では、我々の開発した新規磁性抗がん剤化合物を用いて、新規がん治療薬として開発するとともに、がん組織を標的とした局所温熱の治療装置の開発を行った。平成25年度の研究成果から、我々の磁性抗がん剤では、交流磁場印加装置との組み合わせで、様々な癌種に極めて強い抗がん作用の増強が得られることがわかった。とりわけ神経膠芽腫に対しても強い効果を示すことがわかった。欧米の温熱療法は50度程度の高熱を用いるが、中枢組織は高熱による神経ダメージが強いことも知られている。そのため本邦のいわゆる高齢者やハイリスクの脳膠芽腫の患者には、欧米流の高熱療法が最適とは考えられない。そこで我々の磁性抗がん剤では、42度程度の、いわゆる温熱療法に最適化された発熱量による抗がん治療を検討することができた。ヒト由来の様々な神経膠芽腫の培養細胞において、このような適度な高温曝露下において、温熱療法との相乗効果を示すことが明らかとなった。
結論
がん治療における温熱療法は、数十年にわたって、化学療法や手術の補助療法としての活用が中心であった。然るに2011年に、EUにおいて鉄粒子を発熱体として活用した高度な発熱療法が認可を受けてから、温熱療法の流れが変わろうとしている。本年度の研究成果から、欧米の技術を上回るような抗がん治療における医療機器と磁性抗がん剤の有効性が強く示唆された。このような治療方法は世界でも初めてであるため、今後の実用化に向けた検討課題は大きいと思われる。今後の研究開発においては、動物モデルによる有効性検討、ヒト用機械の基本設計などを踏まえて、臨床試験への潤滑な移行をめざしていくことが重要と考えられた。本申請を通じて、難治性がんに対する切り札となるべく磁性抗がん剤化合物による温熱治療法を、我が国から世界に先駆けた画期的技術として開発し、本邦の産業競争力の増強を目的とする。
公開日・更新日
公開日
2017-06-30
更新日
-