文献情報
文献番号
201308011A
報告書区分
総括
研究課題名
レーザー消化管内視鏡治療装置の開発
課題番号
H24-医療機器-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
東 健(神戸大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 豊永高史(神戸大学 医学部附属病院)
- 森田圭紀(神戸大学 大学院医学研究科)
- 粟津邦男(大阪大学 工学研究科)
- 間 久直(大阪大学 工学研究科)
- 石井克典(大阪大学 工学研究科)
- 岡上吉秀(株式会社モリタ製作所)
- 本郷晃史(株式会社モリタ製作所)
- 日吉勝海(株式会社モリタ製作所)
- 村上晴彦(株式会社モリタ製作所)
- 川上浩司(京都大学 医学研究科)
- 田中司朗(京都大学 医学研究科)
- 斎藤 豊(独立行政法人国立がん研究センター中央病院)
- 貝瀬 満(虎の門病院)
- 上堂文也(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪成人病センター)
- 井口秀人(兵庫県立がんセンター)
- 横井英人(香川大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
28,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
消化管がんに対する低侵襲治療法として内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が普及されつつあるが、その手技は高度で、約10パーセントに出血、穿孔等の合併症が認められ、死亡例も報告されている。我々は、ESDで用いられる粘膜下層局注材の光吸収特性に注目し、中赤外波長レーザーを用いた、筋層を損傷しない安全なESD手技を提案した。中赤外波長領域では光吸収の強い波長が物質毎に異なり、物質固有の吸収波長と一致した波長のレーザーを用いると特定の物質のみに選択的に光を吸収させることができる。我々はこれまで、中赤外レーザーの一つで医療用に広く用いられている炭酸ガスレーザーの波長でブタの胃、およびESD用の局注材として一般的に用いられている生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウム溶液の光吸収特性を測定した結果、胃に比べて局注材の光吸収が約1.5倍になることを明らかにした。そして、粘膜下層へ局注材を注入して炭酸ガスレーザーを照射すると、粘膜層は切開されるが、粘膜層を貫通した後は局注材でレーザーが吸収され、筋層を傷付けないことが確認でき、より安全なESD手技を実現できると考えられる。本研究では、歯科・耳鼻咽喉科用炭酸ガスレーザー装置を改良し、安全なESDの実用化、および普及させることを目的とする。
研究方法
1)レーザー装置開発:㈱モリタ製作所が歯科用や耳鼻咽喉科用として製造・販売している炭酸ガスレーザー装置をベースとしてESDに適した装置を開発する。特に、レーザー光の取り出し光路の変更、操作性や光学特性において改善する。2)導光ファイバー開発:中赤外波長のレーザーを導光できる光ファイバーは限られており、本研究では中空光ファイバーを使用したファイバー導光路を用いる。導光ファイバーは全て内径530マイクロミリメーター、長さ2.6メーターの細径中空ファイバーを採用した。これを挿入する水冷機構を備えた伝送系外装処置具も中空ファイバー自体にストレスが付与されないような構造に改造した。3)ガイド光反射強度モニタ装置の開発:大阪大学が中心となり、摘出したブタ胃切片の粘膜下層にヒアルロン酸ナトリウム溶液を注入し、切片の表面から深さ2ミリメーターの位置に動脈を設置した。ハロゲンランプから発生した白色光を分光器で単色光にしてブタ胃切片に照射し、反射光をCCDカメラで撮影した。照射光の波長を400-1000ナノメーターの範囲で変化させ、各波長での反射光画像を撮影した。4)ブタの摘出胃によるin vitroでの安全性・有効性の評価:摘出したブタの胃を電動ステージ上に乗せ、毎秒1.0ミリメーターで移動させながらレーザーを照射し、粘膜の切開を行った。内視鏡先端を曲げていない状態でのレーザー出力を1.8、2.9、4.7 ワットとし、粘膜表面へ垂直に照射した。内視鏡先端部の曲げ角度を変化させた際のレーザー出力、および粘膜切開深さの変化を測定した。5)生体ブタによる前臨床試験:生体ブタを用いた前臨床試験を行い、レーザーの生物学的安全性、機械的安全性両方の観点からデータを取得、整備し、臨床試験機器概要書にそれらデータを記載する。その結果を基に装置の改良を進めた。
結果と考察
内径530マイクロメーター、長さ2.6メーターの中空導光ファイバーを用いて、レーザーESD施術におけるガイド光およびCO2レーザー光の出力要求値を達成できる見通しを得た。また処置具の滅菌処理はEOG滅菌が有効であることを確認した。炭酸ガスレーザーと粘膜下層に注入したレーザー吸収材を用いたESDの安全性・有効性を評価するため、in vitroの実験系を構築し、内視鏡先端部の曲げ角度による粘膜切開能力の変化を明らかにした。また、ガイド光を波長530 ナノメーター付近の緑色光として反射強度をモニタリングすることで血管を検出し、出血を避けられる可能性が示された。レーザーのパワーは既存の機器での15ワットと本体の大きな改良は必要無く、射出口の位置を変更することと、中空ファイバーを冷却する装置を付加するに留まり、中空ファイバーも530マイクロメーターの細径のもので治療操作が可能であり、製品のスペックが決定され、臨床試験への準備が出来た。
結論
本研究により開発したレーザー装置および導光ファイバーは、ESD施術に必要なレーザー出力の要求値を達成できると考える。但し製品化を実現するには、導光ファイバーの透過率のさらなるばらつきを低減し、ファイバー発熱の冷却効率最適化や使用時における導光ファイバーの破断確率の見極めの検討が今後必要である。来年度には、PMDA対面相談を受け、臨床試験の実施が出来ると考えている。
公開日・更新日
公開日
2015-03-03
更新日
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