アジア人種型2型糖尿病の治療法及び治療薬の開発を可能にするマウス及びヒト膵β細胞由来のモデル細胞系の構築

文献情報

文献番号
201307049A
報告書区分
総括
研究課題名
アジア人種型2型糖尿病の治療法及び治療薬の開発を可能にするマウス及びヒト膵β細胞由来のモデル細胞系の構築
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-創薬総合-若手-012
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
魏 范研(国立大学法人 熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アジア型2型糖尿病は、非肥満及び低インスリン分泌という特徴を持ち、欧米型2型糖尿病と異なる病態を示す。また、既存の糖尿病治療薬は特にアジア人種において高頻度の副作用が報告されている。しかし、アジア型2型糖尿病の発症原因が不明であったため、アジア人種に適した新規治療薬及び治療法の開発及び評価が不可能であった。Cdkal1遺伝子の一塩基多型変異(SNPs)は、アジア人種において約四人に一人という高い頻度で保有されており、アジア型2型糖尿病の原因遺伝子の一つである。我々は世界に先駆けてCdkal1の分子機能を明らかにし、アジア2型糖尿病発症の分子機構の一端を明らかにした。そこで、我々独自の研究成果に基づき、本研究においてアジア型2型糖尿病に対する治療法及び治療薬の開発を可能にするマウス及びヒト膵β細胞由来のモデル細胞系の構築を目的とし、研究を行った。
研究方法
1.作製したモデル細胞に既存の糖尿治療薬或は低分子化合物ライブラリーを加えた後、治療薬あるいは低分子化合物の誤翻訳改善効果を評価する。抗糖尿病薬は、スルフォニル尿素系薬(グリベンクラミド)、GLP-1に対する治療薬(Exendin-4やDPP4阻害剤)、ビグアナイド系薬(メトホルミン)を予定している。低分子化合物ライブラリーはすでに現有するものを用いる。
2. 次に、翻訳改善効果を示した一次陽性化合物を上記細胞に加え、グルコース依存性のカルシウム変動あるいはインスリン分泌を測定し、インスリン分泌量またはカルシウム濃度が2倍以上に上昇した化合物を二次陽性化合物とする。
3. 二次陽性化合物のin vivoにおける効果を検討するために、陽性化合物を1mg/kgの用量でCdkal1欠損マウスに経腹投与し、耐糖能を検討する。また、化合物投与後にCdkal1欠損マウスからランゲルハンス島を精製し、誤翻訳の指標である小胞体ストレス遺伝子の発現量を検討する。
4. 翻訳改善の効果を最大化させるために、陽性化合物群に共通する骨格を見出し、化学構造の最適化を図る。
結果と考察
1. 既存の糖尿病治療薬がCdkal1欠損に由来する誤翻訳に対して効果を有するかを検討するために、糖尿病治療薬を細胞評価系に投与し、誤翻訳率を検討した。しかし、いずれの治療薬もCdkal1欠損による誤翻訳に対して効果を示さなかった。このことは、これまでの治療薬は受容体の活性化を介してインスリン分泌を促進することにより症状を改善するものであり、誤翻訳に対しては効果を示さないことを示唆する。
2. 新たな薬剤の探索を目指して2000種類の低分子化合物ライブラリーを同細胞評価系に投与し、翻訳改善効果を有する化合物の探索を行った。その結果、平均改善効果が溶媒のみを投与した対照群と比較して2倍以上を有する化合物を45種類得ることができた。また、45種類の化合物の内、15種類の化合物についてインスリン分泌促進効果が見られた。さらに、in vivoにおける耐糖能改善効果を検討した結果、2種類の化合物はCdkal1 KOマウスの血糖値を有意に改善することができた。また、化合物投与群及び対照群のマウスから膵β細胞を単離し、誤翻訳の指標である小胞体ストレス遺伝子の発現量をリアルタイムPCRにより検討したところ、小胞体ストレス遺伝子の発現量が対照群と比較して有意に低下した。今回細胞評価系で得られた化合物はin vivoにおいても翻訳精度を改善できたから、本システムの有効性が実証されたと考える。
3. ライブリーのスクリーニングによって得られた45種類の化合物の誤翻訳改善効果をさらに改良するために、これらの化合物に共通する構造をもとに、新規化学修飾を加えた化合物種を60種類合成した。同化合物を細胞評価系に添加し、誤翻訳改善効果を検討した。また、対照として以前のスクリーニングで得られた化合物を用いた。その結果5種類の陽性化合物が得られた。
結論
前年度に構築したスクリーニング系を用いてスクリーニングを行った結果、翻訳精度を向上させながら、インスリン分泌を促進する低分子化合物の発見に至った。さらに、同低分化合物はCdkal1 KOマウスにおいて小胞体ストレスを低下させ、耐糖能を改善した。従って、本研究は、Cdkal1遺伝子変異に起因するアジア型2型糖尿病の特徴を有するモデル細胞を確立し、Cdkal1遺伝子変異を有する2型糖尿病に対する最適な治療薬の候補を同定した。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201307049B
報告書区分
総合
研究課題名
アジア人種型2型糖尿病の治療法及び治療薬の開発を可能にするマウス及びヒト膵β細胞由来のモデル細胞系の構築
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-創薬総合-若手-012
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
魏 范研(国立大学法人 熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アジア型2型糖尿病は、非肥満及び低インスリン分泌という特徴を持ち、欧米型2型糖尿病と異なる病態を示す。しかし、アジア型2型糖尿病の発症原因が不明であったため、アジア人種に適した新規治療薬及び治療法の開発及び評価が不可能であった。Cdkal1遺伝子の一塩基多型変異(SNPs)は、最近発見されたアジア型2型糖尿病の原因遺伝子の一つである。我々は世界に先駆けてCdkal1の分子機能を明らかにし、アジア2型糖尿病発症の分子機構の一端を明らかにした。そこで、本研究ではアジア型2型糖尿病に対する治療法及び治療薬の開発を可能にするマウス及びヒト膵β細胞由来のモデル細胞系の構築を目的とし、研究を行った。
研究方法
1. ルシフェラーゼを利用したレポーターを含むレンチウィルスを作製し、同レポーターを含むウィルスをCdkal1 KOβ細胞株に導入する。
2. 健常人FibroblastにおけるCdkal1遺伝子型をPCRにより同定した後、危険型Cdkal1 SNPs並びに非危険型Cdkal1 SNPsを有するFibroblastに、SOX2、Klf4、Oct3/4、c-Mycを導入し、iPS細胞を作製する。iPS細胞からβ細胞への誘導は、特殊なコーティング剤(特願2011-071530)をPDX-1、NeuroD、MafAタンパクをiPS細胞に導入することにより膵β細胞を作製する。
3.作製したモデル細胞に既存の糖尿治療薬或は低分子化合物ライブラリーを加えた後、治療薬あるいは低分子化合物の誤翻訳改善効果を評価する。低分子化合物ライブラリーはすでに現有するものを用いる。
4. 次に、翻訳改善効果を示した一次陽性化合物を上記細胞に加え、グルコース依存性のカルシウム変動あるいはインスリン分泌を測定し、インスリン分泌量またはカルシウム濃度が2倍以上に上昇した化合物を二次陽性化合物とする。
5. 二次陽性化合物のin vivoにおける効果を検討するために、陽性化合物を1mg/kgの用量でCdkal1欠損マウスに経腹投与し、耐糖能を検討する。また、化合物投与後にCdkal1欠損マウスからランゲルハンス島を精製し、誤翻訳の指標である小胞体ストレス遺伝子の発現量を検討する。
6. 翻訳改善の効果を最大化させるために、陽性化合物群に共通する骨格を見出し、化学構造の最適化を図る。
結果と考察
1. 誤翻訳を検出するレポーター有するレンチウィルスを作製し、Cdkal1を欠損した不死化膵β細胞に導入した。
2.危険型Cdkal1 SNPsを有するヒトFibroblastにSOX2、Klf4、Oct3/4、c-Mycを有するセンダイウィルスを導入し、iPS細胞を作製した。内在性pdx1やインスリン遺伝子の発現をするβ細胞を作製した。
3. 既存の糖尿病治療薬を細胞評価系に投与し、誤翻訳率を検討した。しかし、いずれの治療薬もCdkal1欠損による誤翻訳に対して効果を示さなかった。このことは、これまでの治療薬は誤翻訳に対して効果を示さないことを示唆する。
4. 新たな薬剤の探索を目指して低分子化合物ライブラリーを同細胞評価系に投与し、翻訳改善効果を有する化合物の探索を行った。その結果、翻訳改善効果を有する化合物を45種類得ることができた。また、45種類の化合物の内、15種類の化合物についてインスリン分泌促進効果が見られた。さらに、その内2種類の化合物はCdkal1 KOマウスの血糖値を有意に改善し、誤翻訳の指標である小胞体ストレス遺伝子の発現を低下させた。今回細胞評価系で得られた化合物はin vivoにおいても翻訳精度を改善できたから、本システムの有効性が実証された。
5. ライブリーのスクリーニングによって得られた45種類の化合物に共通する構造をもとに、新規化学修飾を加えた化合物種を60種類合成した。その内、5種類の化合物が翻訳改善効果を有した。
結論
アジア型糖尿病の原因遺伝子及びその表現型を持つCdkal1 欠損マウス由来のスクリーニング系を構築した。また2型糖尿病発症リスクが高いCdkal1遺伝子変異を有するヒト繊維芽細胞からβ細胞を作製した。上記モデル細胞系でスクリーニングを行った結果、翻訳精度を向上させながら、インスリン分泌を促進する低分子化合物の発見に至った。さらに、同低分化合物はCdkal1 KOマウスにおいて小胞体ストレスを低下させ、耐糖能を改善した。従って、本研究は、Cdkal1遺伝子変異に起因するアジア型2型糖尿病の特徴を有するモデル細胞を確立し、Cdkal1遺伝子変異を有する2型糖尿病に対する最適な治療薬の候補を同定した。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201307049C

成果

専門的・学術的観点からの成果
CDKAL1遺伝子異常を有する2型糖尿病患者は、tRNA修飾異常による翻訳異常が原因となり、最終的に2型糖尿病が発症すると考えられる。これまでは翻訳異常に対する薬剤スクリーニング系が存在せず、CDKAL1遺伝子異常を有する2型糖尿病に対する治療薬の開発が困難であった。本研究が翻訳異常に対するスクリーニング系の開発に成功し、CDKAL1遺伝子異常による2型糖尿病に対する治療法の開発に道筋をつけた。
臨床的観点からの成果
本研究で開発したスクリーニング系を用いて翻訳異常に対する効果的な低分化合物を発見した。同化合物が他の疾患を対象に臨床で使用されている薬剤であるため、2015年から熊本大学付属病院にて2型糖尿病患者を対象にした医師主導臨床試験を開始した。2017年4月までに40名以上の2型糖尿病患者をリクルートし、当該薬剤投与を行った。2017年6月現在、薬剤投与期間中に得られた血糖値やインスリン分泌などの結果について集計を行い、薬剤投与による2型糖尿病改善効果について解析を行なっている。
ガイドライン等の開発
該当しない。
その他行政的観点からの成果
該当しない。
その他のインパクト
第92回及び第93回日本生理学会に同研究結果を報告し、多くの医療関係者に注目された。また、現在計画している医師主導臨床試験について日経バイオテク誌から取材を受けた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
RNA修飾の簡易検出法、及び該検出法を用いた2型糖尿病の検査方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2013- 47278
発明者名: 富澤一仁、魏范研、鈴木健夫、鈴木勉
権利者名: 熊本大学
出願年月日: 20130308
国内外の別: 国内外
特許の名称
2型糖尿病治療剤
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2013- 072391
発明者名: 富澤一仁、魏范研、井上謙吾、大河原正
権利者名: 熊本大学
出願年月日: 20130328
国内外の別: 国内外

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2017-06-19

収支報告書

文献番号
201307049Z