認知症早期解析型マウスモデルの開発研究

文献情報

文献番号
201307026A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症早期解析型マウスモデルの開発研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-創薬総合-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
森 啓(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 富山 貴美(大阪市立大学 大学院医学研究科)
  • 梅田 知宙(大阪市立大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病(AD)の早期の段階であるpreclinicalあるいはprodromal stageを対象とするために、本研究では、初期変化と考えられている、Abetaオリゴマーマウスと後期病態モデルと考えられているタウモデルを交配させたモデルマウスの解析を目的とする。このことにより、早期病態変化としてのAbetaオリゴマーの意義が確立され、早期から晩期までの連続的な病態解明が可能となる。
研究方法
ヒトタウを発現するmini-genomic型タウを新たに作製し、大阪変異を発現するAbetaオリゴマーマウスの交配による新規モデルマウス作製を進める。
(1)ヒトタウを発現するmini-genomic型タウマウスは、CaMKinaseIIαプロモーターの下流に、ヒトタウ遺伝子の最長アイソフォームであるタウ441型cDNAに、イントロン9とイントロン10を導入したコンストラクトを構築した。エクソン10前後のイントロン構造は、>10kbと長いことから、syプライシング供与配列、枝分かれ配列、受容の帰納演繹配列を保持するように工夫した。イントロン10には、FTDP-17変異であるA+16Cを人工的に作製したものも同時に作製した。
ヒトタウモデルマウスは、変異を持つもの、変異を持たないもの(2種類)が樹立することができた。両モデルとも、アミノ酸変異はなく、全アミノ酸は野生型配列であり、孤発性疾患を代表したモデルと考えられる。
結果と考察
結果:今回新規に作製したタウモデルマウスは、正確なスプライシング変化を示し、生後のヒト発達過程と同じく、幼若期で3リピートタウを発現し、生後7,8週齢で3リピートタウ:4リピートタウが1:1になる変化を示した。この正常型ヒトタウモデルでは、学習能力、シナプス機能、脳病変のいずれにおいても24ヶ月齢まで異常を検出することができなかった。
導入遺伝子コンストラクト作製時に、FTDP-17変異の1つであるA+16C変異をイントロン10に人為的に導入させた場合は、成熟後のヒトタウアイソフォームは、3リピートタウから、3リピートタウと4リピートタウの混合型となるが、両アイソフォーム比は、大きく4リピートに偏重し、タウは6ヶ月齢でLTP異常、異常リン酸化されていた。これタウの出現、空間認知機能障害の変化が生じ、12ヶ月齢でミクログリア反応、24ヶ月齢でニューロン死、アストログリア反応、神経原線維変化形成が生じることが観察され、ヒト脳内変化を再現していることが示された。次に、Abetaオリゴマーモデルと新規作製したヒトタウモデルの交配モデルを作製した。使用したヒトタウモデルは正常型タウモデルである。その理由は、正常型タウモデルもFTDP-17変異型タウモデルも、同じヒト野生型アミノ酸配列ではあるが、FTDP-17変異は、その変異自身で、病変を形成することから、Abetaオリゴマーとの病態シグナル効果検証が難しくなると考えたからである。このようにして得られた同ブルトランスジェニックマウス(Abetaオリゴマーx正常ヒトタウ)は、18ヶ月齢で、ニューロン死や神経原線維変化を形成することが見いだされた。ただし、24ヶ月例に至るまで、老人斑は形成されなかったことで、アミロイド老人斑の病態への関与が、いっそう希薄となったと言える。

考察: Abetaオリゴマーは、アルツハイマー病の早期病態変化であり、後期変化である神経原線維変化を誘導する上流に位置する。Abetaオリゴマーは、マウスタウでは神経原線維変化を誘導せず、ヒトタウを必要とすることから、ヒトアミノ酸配列特異的なシグナルパスがあることが示唆された。このことは、治療戦略の時期選定という応用面からも重要な視点を与えている。すなわち、Abetaオリゴマー、Abetaオリゴマーからヒトタウへのシグナル伝搬、タウ病変の各々が、早期、中期、後期の治療薬対象であり、将来的には、患者各位のステージに沿った治療選択の指標となることが考察される。
今回のダブルトランスジェニックマウスの解析では、Abetaオリゴマー自身の出現も単独のモデルでは8ヶ月例からの出現である処、6ヶ月例と明らかな早期出現されることが観察された。このことは、Abetaオリゴマーとタウ病変は、完全な一方方向の病態シグナルであると考えるよりも、部分的な双方向性シグナルの可能性が考えられた。
結論
アルツハイマー病の早期病態変化であり、特異的原因分子種であるAbetaオリゴマーは、正常型ヒトタウを神経原線維変化へと誘導する上流で作用する。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201307026Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,500,000円
(2)補助金確定額
9,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,136,612円
人件費・謝金 2,226,733円
旅費 30,220円
その他 2,606,435円
間接経費 1,500,000円
合計 9,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-