臨床心不全エピゲノム診断における組織可塑性指標となる新規サロゲートマーカーの開発と治療への応用に関する研究

文献情報

文献番号
201307010A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床心不全エピゲノム診断における組織可塑性指標となる新規サロゲートマーカーの開発と治療への応用に関する研究
課題番号
H23-バイオ-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小室 一成(国立大学法人 東京大学大学院 医学系研究科 循環器内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 朝野 仁裕(国立大学法人 大阪大学大学院 医学系研究科 循環器内科学 )
  • 北風 政史(国立循環器病研究センター 臨床研究部)
  • 堤 修一(国立大学法人 東京大学 先端科学技術研究センター)
  • 植田 初江(国立循環器病研究センター 病理部)
  • 南野 哲男(国立大学法人 大阪大学大学院 医学系研究科 循環器内科学 )
  • 山崎  悟(国立循環器病研究センター 細胞生物学部)
  • 坂田 泰史(国立大学法人 大阪大学大学院 医学系研究科 循環器内科学 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 国内数十万人が罹患する心不全の心保護治療に加え、今後需要拡大が予想される補助人工心臓や移植医療の適応判断に際しては、病態進展と治療抵抗性を決める心筋可塑性を表す新規サロゲートマーカーが必要である。病理クロマチン指標の開発、心不全感受性遺伝子発現エンハンサーの同定、心不全新規特異的遺伝子同定、はいずれも生理機能と関連しており循環器病においても病態に関わる指標として重要であることが示唆される。これらの同定および臨床応用研究開発を目指した検討を実施し、ヒトのゲノムワイドなエピゲノム解析を行い未だ実用化されていない、心不全可塑性の分子指標を開発することを目的とする。
研究方法
 核蛋白ヒストンやDNAメチル化に代表されるエピゲノム分子修飾は個体発生と機能維持に必要であるが、環境変化にも柔軟に対応できる機序として注目されている。生理機能と関連した検討が多くの生命機能分野で報告されるとともに、循環器病態においても重要な機序に関わると類推され、ゲノムワイドな解析が待たれる。そこで、DNAメチル化、超高速DNAシーケンスによるヒストン修飾とRNA発現、細胞核超微細構造の各解析と臨床指標との比較を検討するとともに、各分子修飾の動物病態モデルにおける評価を行う。さらに心不全のエピゲノム・遺伝子発現プロファイルを作成し、病態と関連する核内蛋白の新規スクリーニングを行い、同定した心不全可塑性サロゲートマーカーの臨床心不全への有用性を検討する。
結果と考察
 最終年度は病理学的検索から、一般心不全はもとより、重症心不全症例の病態重症度を診断する際に、将来、心不全病態予後予測解析を実施することができる新規指標として、Chromatin Score計測法を開発した。中等症、軽症例のクロマチンスコア解析も実施し、本指標の有用性を広く一般心不全において検証し、新しい心不全可塑性判断に基づく新たな病期Stage分類法の開発を行うことが必要であると考えられる。心機能改善の可塑性を表す指標の開発は心不全診療の技術水準の向上に寄与すると考えられる。クロマチンスコア計測法の開発は、以下に述べる2つの新しい技術を組み合わせることにより新しい付加価値を生みだすことが可能である。1点目は、基礎研究への応用である。クロマチンスコア計測は、ヒト臨床検体はもとより動物モデル、培養細胞実験系でも同様に再現性高く見ることができる。別途開発された生体下イメージングによる心不全モニタリングマウスは心不全可塑性を見極めるクロマチンスコアの検討を動物モデルながら、BNP値ガイド下に心不全治療を行いながらクロマチンスコア自体の可変性を検証することが可能となった。心不全病期ステージにおける特異的非侵襲診断マーカーの探索も実施することが可能である。2点目は、ゲノム解析による心不全原因検索の臨床利用である。上記新分類で可塑性を示す心筋症をゲノム解析することから、心不全重症度の遺伝的バックグラウンドを検索することが可能であると考えられた。
 次に、心不全病態可塑性エピゲノム分子探索法の開発においては、同定したエンハンサー領域を用いた創薬開発に利用可能な研究システムに発展し、将来の臨床診断薬、臨床治療薬の開発につながる研究となった。次世代質量分析解析技術の応用とエピゲノム研究へ応用による分子同定研究モデルの構築においては、心不全病態におけるエピゲノムの重要性を遺伝子解析のみに留まらせず、独自の蛋白分離精製技術を用いて生化学的機序の解明を行うことにより、今後の同分野における新しい分子探索法を提唱することができると考えられた。
結論
 最終年度の研究として、臨床心不全エピゲノム診断における組織可塑性指標となる新規サロゲートマーカーの開発と治療への応用に関する研究について、一定の成果を得ることができた。①クロマチンスコア計測法の開発、②心不全病態モニタリング動物モデルの開発、③遺伝子発現・エピゲノムデータベースの構築、④解析プログラムの開発など、多くの成果を得ることができた。それらを創薬に活かすことが最終的な目標であり、実際に幾つかの分子標的が産学連携研究へと進めることができた。知的財産として特許申請も実施し今後の心不全感受性分子標的、心不全可塑性因子の探索研究に資する基盤を構築できたものと考える

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

文献情報

文献番号
201307010B
報告書区分
総合
研究課題名
臨床心不全エピゲノム診断における組織可塑性指標となる新規サロゲートマーカーの開発と治療への応用に関する研究
課題番号
H23-バイオ-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小室 一成(国立大学法人 東京大学大学院 医学系研究科 循環器内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 朝野 仁裕(国立大学法人 大阪大学大学院 医学系研究科 循環器内科学)
  • 北風 政史(国立循環器病研究センター 臨床研究部)
  • 堤  修一(国立大学法人 東京大学 先端科学技術研究センター)
  • 植田 初江(国立循環器病研究センター 病理部)
  • 南野 哲男(国立大学法人 大阪大学大学院 医学系研究科 循環器内科学)
  • 山崎  悟(国立循環器病研究センター 細胞生物学部)
  • 坂田 泰史(国立大学法人 大阪大学大学院 医学系研究科 循環器内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 国内数十万人が罹患する心不全臨床において心不全の心保護治療に加え、今後需要拡大が予想される心不全臨床の最終診療手段である、補助人工心臓や心臓移植の適用有無判断の為には、病態進展と治療抵抗性を決める組織可塑性を表す新規サロゲートマーカーが必要である。すなわち病態の可逆性(病気が回復する余地があるか否か)を見極める必要がある。
 そこで未だ良い診断指標は無い本領域において、研究代表者および分担者らが世界に先駆け証明した心不全におけるエピゲノム機序の重要性に関する新知見を活用し、臨床観察研究により得られた情報をもとに、最新の基礎研究技術を組み合わせ、基礎臨床の両面から新規組織可塑性指標となる診断指標の開発および創薬探索研究を行った。
研究方法
 核蛋白ヒストンやDNAメチル化に代表されるエピゲノム分子修飾は個体発生と機能維持に必要であるが、環境変化にも柔軟に対応できる機序として注目されている。臨床生体試料を活用し、細胞の遺伝子転写の最上流にあるエピゲノム機序を明らかにすることにより、求める臨床診断指標が得られる可能性がある。事実生理機能と関連した生命機能分野での検討でも多くの報告がなされるとともに、循環器病態においても重要な機序に関わる分子の存在が期待される。そこで、DNAメチル化、超高速DNAシーケンスによるゲノムワイドな解析を実施しヒストン修飾とRNA発現、細胞核超微細構造の各解析と臨床指標との比較を検討することにより、各分子修飾の臨床的意義評価を行った。さらに心不全のエピゲノム・遺伝子発現プロファイルを作成し、病態と関連する核内蛋白の新規スクリーニングを行い、同定した心不全可塑性サロゲートマーカーの臨床心不全への有用性を検討した。
結果と考察
 本研究において、エピゲノムを利用した臨床病理学的診断指標と、創薬標的探索モデルの開発という2点について大きな成果を得ることができた。前者における成果は細胞核クロマチン構造の定量化(クロマチンスコア)の開発であり、最重症心不全の病態変化に相関した診断指標を得ることに成功し臨床循環器病学の中でも高く評価され、最終年度より前向き臨床研究への道筋を与えることができた。後者における成果は心不全において最も鋭敏に心臓負荷を捉えるため実用化されている臨床指標、BNP(ナトリウム利尿ペプチド)の心不全病態発現エンハンサーを同定である。経時的に生体心不全を観察することができるモデル動物の開発につながり(特許出願済)、それを活用した心不全治療薬の産学連携開発研究へと発展した。
結論
 高齢化社会の進行と生活習慣病の進行に伴い増加した心不全患者の治療は保険医療上の重要課題である。21世紀に入り充実したゲノム情報をもとに次世代のエピゲノム基盤研究を行うことにより、テーラーメード医療の発展に貢献できる。心不全領域でも未だ解決できていない分野は多く、本研究におけるように臨床研究、独創的な病態検出動物モデルから発展する創薬開発はいずれも未だ解決できていない難病治療の克服に有用であり、臨床情報と臨床生体試料を利用して、新たな指標・治療薬シーズの開発を目指す研究の有効性が確認できたと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-03-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201307010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
電子顕微鏡組織を用いた細胞核クロマチン構造変化に関する検討において心不全重症度に相関する変化を認め、クロマチン構造を自動計測定量評価できるシステムを開発した。2014年3月の日本循環器学会において発表され、臨床研究部門のYIA最優秀賞を獲得し学術的に高い評価を得た。またエピゲノム異常が強く疑われるLMNA遺伝子変異をもつ心筋症患者において予後が不良であることを明らかにして論文化するとともに、2018年3月の日本循環器学会において臨床研究部門のYIA優秀賞を獲得し学術的に高い評価を得た。
臨床的観点からの成果
心不全病態可塑性エピゲノム分子探索法の開発においては、同定したエンハンサー領域を用いた創薬開発に利用可能な研究システムに発展し、将来の臨床診断薬、臨床治療薬の開発につながる研究となった。また心不全患者の心臓組織検体を用いたゲノム-エピゲノム-トランスクリプトームの連関解析を開始し、ゲノム・オミックス情報を用いた疾患層別化に大きく貢献することが期待される。
ガイドライン等の開発
電子顕微鏡組織を用いた細胞核クロマチン構造変化に関する検討を軽症、中等症心不全に解析を広げることで、さらに詳細な心不全病態の解明と診断指標の開発が可能となる。今後の症例数を増やし既に協議の始まっている臨床前向き観察研究を実施することで、臨床実用可能なCutt off値の算出を可能にし、心不全診療ガイドラインへの提言を行うことが将来可能である。
その他行政的観点からの成果
クロマチンスコアの計測法は、最重症心不全の大きな治療判断を行う上で不可欠な診断指標として有効である。これまで同様の指標は無く、補助人工心臓および心臓移植の要否決定にも有用であり、該当症例の社会における活動性や生活の質の改善に役立つと考えられる。さらに的確な診断は保健医療上も効果が期待され、医療経済、社会経済上のメリットも大きい。また心筋生検検体を用いたエピゲノム解析技術が確立すれば、これまでの病理診断では明らかにできなかった詳細かつ的確な診断が可能となる。
その他のインパクト
心不全病態可塑性分子探索法の開発は同定した心不全特異的な遺伝子転写調節領域について特許出願(非公開特許)も完了し、創薬開発の産学連携事業へと発展している。また患者検体を用いたエピゲノム解析は、患者の病態による層別化を可能にする研究であり、臨床的価値が極めて高い。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsuoka K, et al.
Noninvasive and quantitative live imaging reveals a potential stress-responsive enhancer in the failing heart.
FASEB J. , 28 (4) , 1870-1879  (2014)
10.1096/fj.13-245522.
原著論文2
Kioka H, et al.
Evaluation of intramitochondrial ATP levels identifies G0/G1 switch gene 2 as a positive regulator of oxidative phosphorylation.
Proc Natl Acad Sci U S A. , 111 (1) , 273-278  (2014)
10.1073/pnas.1318547111.
原著論文3
Yoshida A, et al.
Derivation of a mathematical expression for predicting the time to cardiac events in patients with heart failure: A retrospective clinical study.
Hypertension Res. , 36 (5) , 450-456  (2013)
10.1038/hr.2012.200.
原著論文4
Yoshida A, et al.
Direct comparison of the diagnostic capability of cardiovascular magnetic resonance and endomyocardial biopsy in patients with heart failure.
European Journal of Heart Failure. , 15 (2) , 166-175  (2013)
10.1093/eurjhf/hfs206.
原著論文5
Hayashi T, et al.
Higd1a is a positive regulator of cytochrome c oxidase.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA. , 112 (5) , 1553-1558  (2015)
10.1073/pnas.1419767112.
原著論文6
Kanzaki M, Asano Y, Ishibashi-Ueda H, Oiki E, Nishida T, Asanuma H, et al.
A Development of Nucleic Chromatin Measurements as a New Prognostic Marker for Severe Chronic Heart Failure.
PLoS One. , 11 (2) , e0148209-  (2016)
10.1371/journal.pone.0148209. eCollection 2016.
原著論文7
Tobita T, et al.
Genetic basis of cardiomyopathy and the genotypes involved in prognosis and left ventricular reverse remodeling.
Sci Rep. , 8 (1) , 1998-  (2018)
10.1038/s41598-018-20114-9.

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2018-05-29

収支報告書

文献番号
201307010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
39,000,000円
(2)補助金確定額
39,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 22,954,150円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 7,046,348円
間接経費 9,000,000円
合計 39,000,498円

備考

備考
498円を自己負担し、他財源で支払ったため。

公開日・更新日

公開日
2018-05-21
更新日
-