文献情報
文献番号
201307007A
報告書区分
総括
研究課題名
特異体質性薬物性肝障害における免疫学的因子の作用機序解明と予測試験系の開発研究
課題番号
H23-バイオ-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
横井 毅(国立大学法人 名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
- 中島 美紀(国立大学法人 金沢大学 医薬保健研究域薬学系)
- 深見 達基(国立大学法人 金沢大学 医薬保健研究域薬学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
医薬品の開発において、安全な薬の開発と使用を妨げる主な課題は、ヒト特異的に発現する予測困難な毒性・副作用にあると言っても過言ではない。医薬品による重篤な副作用の中で薬物性肝障害の例は多く、候補化合物の開発試験が途中で断念することや、上市後に間もなく販売停止に至ることは、製薬会社のみならず患者や社会にとって大きな損失である。特に最近FDAが、解決すべき最重要課題としている「ヒト特異的薬物性肝障害の発現の早期解決」が切望されている。近年、肝障害の原因となる反応性代謝物の生成量をin vitroで精査する手法が急速に一般化したものの、薬物性肝障害の予測性は向上していないことが認識されるようになってきた。その主な原因は、danger signalと言われる肝障害発症における様々なリスク因子の中で、免疫学的因子の関与が全く考慮・評価されていないことに起因しているが、こうした視点からの研究はこれまで殆ど行われていない。我々はこの問題を解決し、我が国の創薬に資することを目的として研究を進めた。本研究成果により、臨床試験段階または市販後に肝障害で開発が断念されることを防ぐことが高い確率で期待でき、我が国の医薬品開発に資すること大であると考えられるとともに、患者の利益を向上させるなど、極めて社会性が高い研究であると考えられる。
研究方法
ヒトにおいて肝障害性が知られている臨床薬であるフェニトイン、カルバマゼピン、アザチオプリン(AZA)、フルクロキサシリンについて、薬の吸収と血中濃度を十分に考慮した投与方法を発案した。ハロタンに対してイソフルラン、ジクロフェナクにはイブプロフェン、フルタミドにはビカルタミド、ジクロキサシリンにはアンピシリンを用いて、正常マウスに肝障害を惹起させる遺伝子の発現変動を、薬理学的効果に由来する変動と区別できる系として、対照群として検討し、免疫・炎症因子関連のバイオマーカーを選択した。さらに、このバイオマーカーをin vitroのcell-basedの試験系への適用の検討を行った。すなわち、ヒト肝ミクロゾームで反応性代謝物を生成させ、マクロファージ由来細胞を標的細胞として、遺伝子の発現変動の検討を行った。
結果と考察
フルクロキサシリン誘導性肝障害モデルマウスにおいて免疫学的因子が発症および増悪に関与していることを明らかにした。その中でもhigh mobility group box 1 (HMGB1)とToll like receptor (TLR)4が関係するシグナル伝達が発症に関与している可能性、さらにIL-17が増悪因子である可能性を示すことができた。フェトイン誘導性肝障害を確立することに成功し、複数の自然免疫因子の有意な発現上昇が見られ、血漿中high-mobility group box (HMGB) 1タンパク質の上昇が認められた。獲得免疫系でも有意な発現上昇及び、血漿中IL-17タンパク質の上昇が認められた事から、Th17細胞の関与も示唆された。ABTの投与によりALT値の有意な低下が認められ、代謝的活性化の関与を明らかにした。また、AZA誘導性肝障害においては、キサンチンオキシダーゼにより触媒される反応によって産生されるROSが、酸化ストレスの要因となりAZAの肝毒性を惹起する可能性が示された。自然免疫の活性化が認められた。また、HMGB1の血漿中タンパク質濃度は、AZA投与により経日的な上昇が認められた。AZA投与後の肝臓において、抗ミエロペルオキシダーゼ抗体陽性細胞が認められころ等から、AZA誘導性肝障害に好中球の肝臓への浸潤を伴った炎症反応が関与することが示唆された。このように個々の薬によって肝障害の発症機序が異なるものの、Th2、Th17または自然免疫系が主に関与する3種類に分類することができると考察出来た。In vitroのcell-basedの検討の結果としてS100A8、S100A9、RAGE、IL-1βおよびNALP3が複数の薬物性肝障害に共通して発現量の増加が認められ、これらの因子が免疫を介した肝障害を予測する毒性マーカーとして有用である可能性が示唆された。
結論
当初の計画とおり、予定していた複数の肝障害薬について動物モデルを確立することができた。さらにその発症機序を解析し、個々の薬物で異なるものの、3種類に大別出来ることが明らかになった。4種類の肝障害薬の動物モデルとその対照群の肝障害に伴う肝遺伝子発現の比較から、mRNAで測定できるバイオマーカーを5種類選択することができ、これをヒトin vitro cell-based の系に応用し、リスク評価試験系として報告した。さらなる検討によって特異体質性肝障害薬の明確なリスク評価が可能になるものと考える。
公開日・更新日
公開日
2015-03-03
更新日
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